画像:日本宝石協会提供
2021年12月22日、日本郵便株式会社より、宝石・鉱物の画像を用いたグリーティング切手「宝石・鉱石~自然の芸術~」が2022年2月22日に発行されることが発表されました。
カット宝石と原石、それぞれ10種類、計20石の美しい宝石たちの画像が使われた宝石切手。
宝石切手が発行されることとなった経緯や誕生秘話などを監修として携わった一般社団法人日本宝石協会の理事であり、宝石切手委員会委員長でもある松室明雄氏にお話を伺ってきましたので、早速ご紹介していきましょう!
目次
宝石切手が誕生するまで
始まりは、2019年12月。
日本郵便株式会社から一般社団法人日本宝石協会に、宝石切手発行に向けて、監修協力の依頼が入ったことが最初でした。
過去にも宝石や鉱物が図柄の中に入っているものは幾つかあったそうですが、今回のように、日本郵便発行の切手シートとして、宝石や鉱物の単独画像を入れるのは初めての試みとのこと。
その後、日本宝石協会内に宝石切手委員会が立ち上げられ、日本初の宝石切手の誕生に向けたプロジェクトが始まりました。
過去に発行された宝石・鉱物関連の切手
参考までに、過去に発行された宝石や鉱物が入っている切手について、幾つかご紹介しましょう。
●2019年4月発行 ハッピーグリーティング切手 ※63円、84円、96円
宝石(ダイヤモンド)をモチーフとしたデザイン画が用いられました。
※画像は82円切手 |
●2013年11月発行 冬のグリーティング切手 ※80円
サファイア、エメラルド、アクアマリン、ペリドット、ルビーがあしらわれたデザイン画が用いられました。
その他にも、「ふるさと切手」として
●2001年3月発行 「富士山と宝飾の山梨」 ※80円
●1995年5月発行 新潟県「ヒスイの里と相馬御風」 ※80円
などが発行されたこともありますが、いずれも宝石を盛り込んだデザイン画という感じでした。
宝石や鉱物を画像として使用されたものとしては、オリジナル切手作成サービスである「フレーム切手」として
「国石ヒスイ」
※52円×5枚、82円×5枚
「東三河の大地に眠る石の華」
※82円
「奥三河の大地に眠る石の華」
※80円
などが発行されたのみで、日本郵便が発行する切手としては、今回が初めての試みとなったということです。
発行日と購入方法
発行日は、冒頭でお伝えしたとおり、2022年2月22日の予定で、グリーティング切手(10枚1シート、シール式)の一つとして発行される予定です。
発行枚数は、
●63円:70万シート(700万枚)
●84円:150万シート(1500万枚)
で、完売したら販売終了となります。
全国の郵便局および、郵便局ネットショップ、銀座郵便局での郵便振替による通信販売にてお買い求め頂けます。
約1ヶ月前頃から予約が開始される予定で、「郵趣のための押印サービス」なども実施されるそうですので、ご興味がある方は日本郵便ホームページにて詳細をご確認くださいね。
予約で完売してしまう可能性もゼロではないらしいため、ご興味のある方は早めに予約した方が安心かもしれません。
宝石切手への思い
小学生の頃から切手コレクターでもあるという松室氏。
宝石業界に50年以上身をおいてきた松室氏個人の思いとして、他の多くの国のように、日本でも宝石切手が発行されたら、、という思いは昔から少なからずあったといいます。
また、松室氏はかつて師事した近山晶先生が亡くなった際、遺族より、近山先生が生涯集められた海外製の切手コレクションを譲り受け、今でも大切にされています。
そんな中、今回宝石切手委員会の委員長として、宝石切手の発行に携われたことは非常に光栄で、長年の夢が叶った思いでいっぱいとのことです。
宝石切手完成への軌跡
画像:日本宝石協会提供
日本宝石協会の中に宝石切手委員会が立ち上がり、2021年3月より本格的的にプロジェクトが始まりました。
完成までの軌跡については、松室氏のインタビューと2022年1月12日に国際宝飾展(IJT)のセミナーにて語られた内容と併せてご紹介します。
宝石切手誕生のきっかけ
今回、宝石切手のデザインを手掛けたのは、日本郵便株式会社 主任切手デザイナーである星山理佳氏です。
星山氏は、これまでにも多くの題材を元にした切手をデザインしており、代表作としては、星座、海の生き物、伝統色などをテーマにしたものなどがあるそうです。
そんな星山氏が宝石をテーマにした切手を作りたいと思ったきっかけは、過去に手掛けた星座シリーズのように、サイエンス的要素をもち、男女問わず楽しんでもらえるものをまた作りたい、と思ったことからだったといいます。
上司との雑談中に「石」という言葉を思いつき、原石、化石、宝石などを題材とした切手を手掛けたいと思い始めたのだそうです。
コンセプトと画像を使用した理由
星山氏が今回のコンセプトの軸としたのは色。
宝石の鮮やかな色合いでカラフルな切手にしたい、と思ったところからだそうです。
そして、カッコイイ印象が強い原石と万人がイメージしやすく華やかさのあるカット石がそれぞれ10石ずつ入った2つのシートを作ることにしました。
また、今回イラストではなく画像を使用することにした理由は、良い画像が沢山あると伺ったことと、似たような色合いの宝石を描き分けたり、宝石がもつ複雑な色合いを伝えるのは画像の方が適していると思ったからだそうです。
宝石の選定について
まず最初に、星山氏より、テーマとなる色
レッド・ブルー・グリーン・イエロー・ホワイト・ライトブルー・パープル・ピンク・オレンジ・イエローグリーン
の宝石を、カット石、原石ともに、各色2案ずつ、計40石選んで欲しいと依頼を受けます。
カット石と原石で宝石が重複しないようにとの要望があったため、
レッドであれば、ルビー、珊瑚、ガーネット、レッドベリルなど、色別に幾つかずつ候補を出されました。
すると次に、それらの宝石の画像を沢山集めて欲しいといわれ、多くの企業や個人収集家に呼びかけ、画像を集める作業に入りました。
最終的に5000枚程の画像が集まったといいますが、この画像選定がなかなか大変だったようです。
最も難しかったところ
日本宝石協会として外したくない石は色々あったようですが、適した画像が見つからなかったり、画像の解像度が足らなかったり、諸々の事情により泣く泣く諦めたものも多かったようです。
特に、カット石の方はカットの種類が重複しないようにという要望もあり、そことの兼ね合いも大変だったといいます。
例えば、レッドの宝石の候補として上がったルビーと珊瑚。
カット石の方にルビー、原石の方に珊瑚の原木を選んだところ、星山氏の意向により珊瑚ではなくレッドベリルが選ばれたり。
また、五大宝石は入れたかったそうですが、アレキサンドライトが上手く入れられず、代わりにクリソベリルキャッツアイをイエローで提案したところ、カボションカットが重複するという理由で、こちらもNGに。
結局イエローのカット宝石には、インペリアルトパーズが選ばれました。
また、多くは協力者より借りた画像から選んだそうですが、諸事情により、プロのカメラマンに撮影してもらったものもあったそうで、
カット宝石では、
●ファイアオパール
●ダイヤモンド
●翡翠
原石では、
●シトリン
●パール
などが別撮りされたものだそうです。
松室氏は、今回の宝石切手の製作を通して、デザイナーの作りたいという思いや作品への拘りを強く感じたといいます。
そういった信念があってこそデザイナーと呼べるのかもしれない、とおっしゃられていました。
一番思い入れのある画像
松室氏にとって最も思い入れのある画像を伺ったところ
ブルーサファイア
とお答え頂きました。
一番最後に画像が決定したのがブルーサファイアだったのだそう。
良い候補は幾つかあったものの、他とカットが重複していたり、少し気になる点があったりと、ベストといえるものがなかなか見つからないなか、スリランカ政府宝石宝飾品協会に相談し、今回使用した画像を提供頂いたとのこと。
その縁あって、発行日である2022年2月22日にスリランカ大使館にてセレモニーを行う運びとなったそうです。
切手になった宝石たち
では、今回切手となった20石の宝石たちについても実際の画像とともに少しずつご紹介していきましょう。
原石(63円)
レッドベリル
ベリルの変種の一つであるレッドベリル。
その名の通り、赤い色が魅力的な宝石です。
エメラルドやアクアマリンと同じ鉱物種で、色の違いで名前が異なります。
タンザナイト
ブルー~バイオレットのゾイサイトの変種であるタンザナイト。
2021年12月に12月の誕生石に追加された宝石の一つでもありますね。
角度を変えると色が変わって見える多色性が強いことでも知られており、原石としてもコレクターを中心に人気があります。
エメラルド
グリーンの宝石の代表であるエメラルド。5月の誕生石です。
キズやインクルージョンが多く脆い宝石ではありますが、古くから世界中で愛されてきており、クレオパトラが愛した宝石としても知られています。
シトリン
イエロー~オレンジのクォーツであるシトリン。11月の誕生石です。
天然未処理のシトリンは滅多に採れず、現在市場に出回っている殆どがアメジストに加熱処理を施したものだといわれています。
パール
生物から採れる宝石の一つとして有名なパール(真珠)。6月の誕生石です。
1893年に御木本幸吉が半円真珠の養殖に成功した後、アコヤ真珠や南洋真珠などは主に養殖で生産されています。
マンダリンガーネット
スペサルティンガーネットの中で濃く鮮やかなオレンジ色をしたものをマンダリンガーネットと呼びます。
ガーネットは1月の誕生石です。
スペサルティンガーネットの中では価値高く扱われます。
フルオライト(フローライト)
カラーバリエーションが豊富なことで有名なフルオライト(フローライト)は多くの色合いを呈するだけでなく、一石の中に何色も呈するものもあります。
蛍光性をもつものもあり、鉱物が紫外線で蛍光色を発することが発見されたのはフルオライト(フローライト)だったといわれています。
ロードクロサイト(インカローズ)
ギリシャ語の「rhodes(バラ)」と「chros(色)」から名付けられたといわれるロードクロサイト。
切手に使われたような、不透明の地に縞模様をもつものはインカローズと呼ばれています。
アクアマリン
3月の誕生石としても知られるアクアマリン。
ラテン語で「海の水」という意味の言葉から名付けられたといわれ、海にまつわる神話や言い伝えも多くもつ宝石です。
濃くて深みのあるブルーのものはサンタマリアアクアマリンと呼ばれ、価値高く扱われます。
トルマリン
ない色はないといわれる程、カラーバリエーションが豊富なトルマリン。10月の誕生石です。
トルマリンも一石の中に複数色を呈するものが多くあり、パーティカラートルマリンなどと呼ばれます。
中にはスイカのような見た目でウォーターメロントルマリンと呼ばれるものもあります。
カット宝石(84円)
ファイアオパール
オレンジ~レッドの地色をもつファイアオパール。
切手になった宝石のように遊色効果を示すものと、示さないものがあります。
オパールは10月の誕生石です。
ブルーサファイア
ブルーの宝石の代表ともいえる、ブルーサファイア。
9月の誕生石です。
サファイアは、ブルーだけでなく、イエロー、グリーン、パープル、ピンクなど多くの色合いを呈します。
色名が入らず、ただ「サファイア」と呼ばれる場合は、ブルーサファイアを指す場合が多いです。
ダイヤモンド
宝石の王様と称されることもあるダイヤモンド。
婚約指輪などにあしらわれることも一般的で、一つは持ちたいと、憧れる女性も多い宝石の一つではないかと思います。
4月の誕生石です。
ルビー
赤い宝石の代表ともいえる、ルビー。
実はサファイアと同じ鉱物コランダムに属し、レッドを呈するものがルビーと呼ばれます。
7月の誕生石としても知られています。
ヒスイ(翡翠)
日本でも採れることで知られるヒスイ(翡翠)。5月の誕生石です。
透明度が高く、鮮やかなグリーンを呈するものは琅かんと呼ばれ、価値高く扱われます。
ペリドット
若草色が印象的な宝石、ペリドット。8月の誕生石です。
ペリドットは、隕石の中から見つかることもあるといわれ、それらはパラサイティックペリドット(パラサイトペリドット)と呼ばれます。
ピンクスピネル
スピネルもカラーバリエーション豊富な宝石で、レッド、ブルー、オレンジなど多くの色合いを呈します。
2021年12月に8月の誕生石として新たに選定されました。
ルビーやサファイアと同じ鉱床で見つかることも多く、外見も似ていることから昔は混同されやすかったといわれています。
パライバトルマリン
印象的なネオンブルー~ネオングリーンの色合いで人気が高いパライバトルマリン。
最初に発見された、ブラジル産のものに高品質のものが多いといわれ、価値高く扱われます。
アメシスト(アメジスト)
パープルのクォーツであるアメシスト(アメジスト)。2月の誕生石です。
比較的取り扱いやすいことから、特殊カットが施されることも多く、ジュエリーとしても日常的に楽しめます。
インペリアルトパーズ
トパーズの中で水酸基を含むOHタイプのものを全般的にインペリアルトパーズと呼びます。11月の誕生石です。
フッ素を含むFタイプのトパーズに比べ、価値高く扱われます。
宝石切手を通して伝えたいこと
宝石切手を通して伝えたいことを松室氏に伺ったところ、
この宝石切手を通して、より多くの方々に宝石の美しさと鉱物の奥深さが伝わり、結果として業界の活性化に繋がってくれれば一番嬉しいとのことでした。
もし今回のこの宝石切手が早々に完売した場合は、シリーズ切手として継続的に発行される可能性もあるそうで、日本宝石協会の願いとして、シリーズ化を目指したいとのこと。
宝石好きとしてもぜひ叶えて欲しい夢ですね!
そして、今回宝石切手の製作にあたり、ご協力頂いた多くの企業、個人収集家および、団体の方々へ心からの感謝の意を伝えたいとのことでした。
最後に
2022年2月22日に日本郵便株式会社より発行予定の「宝石・鉱石~自然の芸術~」についてご紹介しました。
こういった形で宝石や鉱物の画像を手にできることは、この業界に身を置く者としてもとても喜ばしいことです。
1ヶ月前頃より予約が開始されるとのことですので、気になる方はぜひお近くの郵便局などでぜひ問い合わせしてみて下さいね。
より多くの人の元に宝石切手が届き、その魅力が伝わっていくことを心から願っています。
カラッツ編集部 監修