日本でいう「翡翠(ヒスイ)」とは、ジェダイト(硬玉)だけを指すのですがご存知でしたでしょうか。
ジェダイト(硬玉)とよく似た宝石にネフライト(軟玉)と呼ばれるものがあり、かつては同じ鉱物と考えられどちらも翡翠(ヒスイ)と呼ばれていたことから今でも混同されることがあると聞きます。
実際英語でジェード、中国語で玉(ぎょく)と呼ばれるものは、ジェダイトとネフライトの両方を指すようですから、余計に混乱してしまいがちです。
しかし宝石としての価値は全く異なるといっても過言ではありません。
そこで、今回は日本で翡翠(ヒスイ)と呼ばれるジェダイトについて、その特徴や価値、ネフライトとの違いと見分け方などをまとめてみました。
良かったら一緒に勉強してみて下さいね!
目次
翡翠(ジェダイト)とは?
冒頭でも触れたように、日本で言う「翡翠(ヒスイ)」とは、英語名で「ジェダイト(Jadite):硬玉」と呼ばれる宝石のことです。
日本では縄文時代から採掘され、彫刻などに加工されてきました。
実は日本は世界で最も古い翡翠の産地のひとつといわれ、2016年に翡翠は日本の国石に選定されました。
鉱物としての基本情報
英名 | Jadite |
和名 | 翡翠輝石(ヒスイきせき)、硬玉(こうぎょく) |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 単斜晶系 |
化学組成 | NaAl[Si2O6] |
モース硬度 | 6.5‐7 |
比重 | 3.25‐3.36 |
屈折率 | 1.65‐1.66 |
光沢 | ガラス光沢、脂肪光沢 |
特徴
珪酸塩鉱物の一種である輝石グループに属する翡翠(ヒスイ)は、かつては軟玉ネフライトと同じ鉱物だと思われていました。
それが19世紀にフランスの鉱物学者によって、ネフライトは角閃石グループの鉱物、ジェダイトは輝石の一種と全く別の鉱物だと判別されます。
そのため、輝石の一種であるジェダイトだけを翡翠(ヒスイ輝石)と呼ぶようになったといわれています。
最も一般的なのはグリーンですが、実はカラーバリエーションが大変豊富です。
モース硬度は6.5~7ですが、結晶構造上強靭で靭性が高いため、ジュエリーとしても十分楽しめる宝石です。
色
カラーレス、ホワイト、グリーン、イエローグリーン、イエロー、レッド、オレンジ、ブルー、パープル、ピンク、ブラックなど。
純粋な翡翠はカラーレスですが、結晶の集合の仕方や大きさによって、透き通るような透明感をもつものもあれば真っ白になるものもあるなど、色に差が出るといわれています。
グリーンはクロムと鉄、ブルーは鉄とチタン、バイオレットはチタンなど、結晶に微量元素が含まれることで発色すると考えられています。
レッドやイエローのジェダイトは結晶集合の組織中に鉄分が沈着した部分です。
黒色は結晶組織中にカーボンを含有しています。
緑色で透明感の高いものは最高品質の「琅玕(ろうかん)」と呼ばれます。
ヨーロッパで人気の紫色は「ラベンダー翡翠」と呼ばれています。
名前の意味
「翡翠(ヒスイ)」という名前は、ジェダイトの色がカワセミの羽の色に似ていることから付けられました。
鳥のカワセミは漢字で「翡翠」と書くことから、ジェダイトを翡翠と呼ぶようになったとされます。
英語の「Jadeite」はスペイン語で「piedra de ijada(腰の石)」が由来と伝わります。
アメリカ大陸に上陸したスペイン人は、先住民インディオ族が治療用として腰に付けていた石をこのように呼んでいたそうです。
その後、腎臓という意味の「ijada」が「Jade」へと変化し、「Jadeite」になったといわれています。
誕生石と石言葉
翡翠(ジェダイト)は日本では5月の誕生石に選定されています。
石言葉は、健康、繁栄です。
中央アメリカのオルメカ文明では、翡翠は金よりも価値が高いと称えられていたそうで、当時、神像や儀式に使う道具などは翡翠を用いて作られていたと伝わります。
中国では神聖な鳥といわれたカワセミの羽根の色に似ていることもあり、皇族や貴族のみが所有できる高貴な宝石とされていました。
翡翠のほかにエメラルドも5月の誕生石に選定されています。
エメラルドの石言葉は、幸運、幸福、夫婦愛です。
緑色をした鉱物ベリルの一種で、かつてクレオパトラが愛したことでも有名ですね。
翡翠(ジェダイト)の産地
ミャンマー、日本、ロシア、カザフスタン、グアテマラ、アメリカ、トルコ、ニュージーランドなど。
日本で採れる翡翠
日本で翡翠が採れる場所として、恐らく最も有名なのは新潟県糸魚川周辺で、新潟県糸魚川市の小滝川ヒスイ峡と、青海川ヒスイ峡は国の天然記念物に指定されています。
そのため、この場所では翡翠の採取は禁止されています。
この地域にあるフォッサマグナミュージアムや親不知ピアパークの翡翠ふるさと館などでは、この場所で採取された翡翠の原石の展示物を見ることができます。
また、富山県宮崎・境海岸もヒスイ海岸と呼ばれ有名です。
宮崎・境海岸~糸魚川海岸位までの富山県と新潟県の県境周辺の海岸沿いで海岸に打ちあがった翡翠を拾うことが可能なほか、糸魚川、青海川などの河口付近で探すこともできるそうですよ。
ただし、何処であっても鉱物採取にはルールや危険も伴います。決められたルールや注意事項を事前にきちんと確認し、安全の範囲内で探すようにしてくださいね!
この他にも、鳥取県若桜(わかさ)町、兵庫県養父市、静岡県浜松市引佐地域、群馬県下仁田町、岡山県新見市大佐、熊本県八代市、長崎県長崎市、高知県高知市などでも翡翠が見つかることがあるといわれています。
翡翠(ジェダイト)の原石の形
ジェダイトは繊細な短柱状結晶が重なり合って形成したもので、砂糖のような粒状組織でできています。
原石は地殻変動による高熱・高圧の下で蛇紋岩中に生成する「輝石族」の鉱物です。
肉眼では見えないほど微細な結晶の集合体で、綿密に構成された岩塊で発見されます。
原石は高圧の下で生成した変成岩中で発見されますが、漂砂中に大小の礫として発見されることがほとんどです。
翡翠(ジェダイト)の歴史・言い伝え
翡翠(ジェダイト)の歴史は、紀元前1200年頃のアメリカ大陸のオルメカ文明、マヤ文明、アステカ文明の頃から始まったと伝わります。16世紀にスペイン人が上陸するまで、この土地での翡翠装飾品の文化は栄えたといわれていますね。
一方中国では、古来よりネフライトのことを「玉」と呼んで大切に扱っていたそうですが、18世紀頃ミャンマーでジェダイトが発見されシルクロードを通って中国へ渡った後、18世紀後半から19世紀前半にかけては、ジェダイトを用いた素晴らしい装飾品などが制作されるようになったといいます。
日本の翡翠文化の歴史
日本では、縄文時代に翡翠による彫刻が作られていたと伝えられています。
新潟県糸魚川地方の遺跡から装飾品などが出土しており、この場所が日本の宝石のスタート地点と考えられています。
縄文時代中期には翡翠で作ったペンダント(大珠)が日本各地に流通しました。
弥生時代になると、翡翠を用いた勾玉や管玉が制作され、8世紀の古代国家「越」(新潟地方)では、国家を治めていた姫が翡翠の彫刻を身に着けていたと伝わります。
翡翠の勾玉は権力や財力を表すほか、呪術や宗教上での聖なるものとして扱われていたそうです。
しかし奈良時代以降、突如翡翠は日本の歴史の中から姿を消し、千年以上現れることはなかったそうです。
ところが1938年頃、新潟県糸魚川市の姫川上流の小滝川近辺で再度翡翠の原石が発見されます。
そしてその後の調査により、同じく糸魚川市の青海川上流の橋立地区でも発見されました。
その後この2つの場所は小滝川ヒスイ峡と青海川ヒスイ峡と呼ばれるようになり、現在では共に国の天然記念物に指定されています。
ネフライトとの違い
画像:左-ジェダイト 右-ネフライト
先にお伝えしたとおり、ジェダイトは輝石族に属する鉱物ですが、一方のネフライトは角閃石グループの鉱物です。
見た目は似ていても鉱物種としては全く異なるということですね。
モース硬度がジェダイト(6.5‐7)の方がネフライト(6‐6.5)よりも高いことから、ジェダイトを硬玉、ネフライトを軟玉と呼ぶようになったといわれています。
表面への傷の付きにくさではジェダイトの方が優れているのですね。
ただし、ネフライトの結晶構造は交差繊維状という綿密な組織であるため、ジェダイトよりも強靭だとされます。
ジェダイトに比べてネフライトは産出量が多く、結晶に黒いインクルージョンが見られることが多くあります。そのためか、全体的にジェダイトの方が価値高く扱われることが多いです。
翡翠(ジェダイト)とネフライトの見分け方
画像:左-ジェダイト 右-ネフライト
ネフライトは全般的にディープグリーンのものが多く、グリーンのジェダイトはグリーン部分の色調がネフライトより明るいといわれています。
但し、外観だけで見分けるのは見慣れている人でもそれほど簡単ではないといいます。
また一説によると、表面に刃物を当てたとき、ネフライトは石の中まで刃が入り込むのに対し、ジェダイトは石の表面だけが削れるだけという話も聞きます。
但し、こういった方法は確実に見分けが付かない可能性がある上に、石を傷つけるいわば破壊検査になります。
素人が下手にやらずに専門の鑑別機関できちんと検査をしてもらうことをオススメします。
最高品質の翡翠、琅玕(ろうかん)について
琅玕(ろうかん)と呼ばれる品種は、翡翠(ジェダイト)の中でも最高品質として高く評価されています。
濃厚な緑色で透明感が高く、独特のテリをもっています。
さらに、湖の表面のような、とろみのあるツヤと質感をもっており、何ともいえない上品な大人の色気のような美しさをもっているようにも感じます。
英語では「インペリアル・ジェード」と呼ばれ、キズなどの欠点がなく透明感に優れたものほど評価が高くなります。
翡翠(ジェダイト)にはランクがある?
翡翠(ジェダイト)の価値は、A貨、B貨、C貨、D貨の4つのランクに分けて評価されます。
4つの違いを簡単に説明していきましょう。
A貨
Aジェードとも呼ばれます。
天然で、人工処理が施されていない未処理のものか、ワックス加工がされた翡翠のことを指します。
B貨
Bジェードとも呼ばれます。
漂白または含浸処理されている天然翡翠を指します。
C貨
Cジェードとも呼ばれます。
染色や漂白、有色含浸処理を施された天然翡翠を指します。
翡翠の価値基準
翡翠の最高品質である「琅玕(ろうかん)」は、数百万円から1千万円の高額で取引されています。
前項でご紹介した通り、翡翠は4つのランクで価値を評価しています。
人工処理が施されていない天然のA貨には、高い価値が付けられます。
天然翡翠であるとはいえ、漂白や染色処理が施されたB貨とC貨は、天然未処理のA貨と比べると価値が下がります。
お手入れ方法
翡翠は靭性に優れていますが、モース硬度があまり高くありません。
強い衝撃を与えたり他の宝石と接触するとキズやひび割れが生じる恐れがあります。
酸や化学物質に弱い性質をもつため、プールや温泉に入る際には必ず外すようにして下さいね。
日常のお手入れは、柔らかい布で軽くふき取るだけで十分です。
汚れが目立つようでしたら、中性洗剤を溶かしたぬるま湯の中で優しく洗います。泡をしっかりと洗い流し、柔らかい布でしっかりと水分を拭きましょう。
超音波洗浄機の使用は避けるようにしましょう。
保管する際には個別の箱や袋に入れ、直射日光の当たらない場所に置いて保管した方が安心です。
最後に
日本でいう「翡翠」とは、ジェダイト(硬玉)だけを指すということが分かりました。
英語の「ジェード」や中国語の「玉」はジェダイトとネフライト(軟玉)の両方を指しているため、混同してしまうことがあるかも知れません。
日本の宝石の歴史は翡翠から始まったと言われるほど、日本人になじみの深い宝石です。
日本が誇る翡翠の魅力を多くの人に伝えていけたら良いなと思います♪
カラッツ編集部 監修