アール・デコのジュエリーの特徴とは|デザイン、スタイル、流行など

アールデコスタイル ジュエリー

アール・デコ』という言葉、皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

建築美術アンティークジュエリーなどで聞くことが多い言葉です。

アール・デコとは、アール・ヌーボーに続く時代に生まれた新しいデザイン様式のことで、ジュエリーとしては大ぶりで現代的なデザインのものが多い印象があります。

こちらでは、アール・デコのジュエリー特徴スタイルデザイン素材などについて、ご紹介していきます。

アンティークジュエリー全般的なお話が知りたい方はこちらの記事で

アンティークジュエリー

アンティークジュエリーの世界!

※画像は全てイメージです。異なる時代のものが含まれている場合もございます。

アール・デコとは

アールデコ スタイル

アール・デコとは、冒頭でも触れたように、アール・ヌーヴォーに続く1910年代半ばから1930年代にかけて流行した芸術や装飾の新しいデザイン様式のことです。

アール・デコ様式と呼ばれ、ジュエリーだけでなく、ファッション建築美術映画自動車電車家電用品に至るまで、様々な分野において影響を及ぼしました

その名前は、1925年にパリで開催された「近代装飾工芸品国際展(International Moderne des ArtsDécoratifset Industriels Modernes)」の略称「装飾美術(ArtsDécoratifs)」からきているそうですが、実は『アール・デコ』という言葉は後世になって生まれたもので、当時はあまり使われていなかったようです。

アール・デコ様式の発展に影響を与えたとされるのは、1910年にデビューしたロシアのバレエ団が使用した大胆な色の衣装と風景1922年ツタンカーメン王のお墓の発見1925年に行われたパリ万国博覧会など。

特に、パリ万国博覧会においては、新しい発想にインスパイアされて生まれた、工業製品家具装飾品ガラス製品宝飾品陶器などが展示され、その独創的なデザインの数々に訪れた人たちは大きな衝撃を受けたといいます。

アール・デコもアール・ヌーボーと同様に、ヨーロッパから始まりアメリカに広がっていきました

当時建てられた、ニューヨークの建造物にもその影響が見て取れます。代表的なものとしては、マンハッタンにあるクライスラービルで、アール・デコ建築の傑作として知られています。

クライスラービル アールデコ建築

Photo by : Edi Chen / Shutterstock.com

その他にもアール・デコに影響を与えたと考えられているものは多くあります。

例えば、ウイーン分離派キュービズムフォービズムドイツのバウハウス古代エジプトイスラム美術東洋美術古代中南米文化アフリカ芸術など。

また、第一次世界大戦を経て、戦地に赴いた男性の代わりに社会に出て働く女性が増えたことにより、女性の自立社会的地位の向上意識改革などが、特にジュエリーデザインにおいては大きな影響を与えたのではないかと考えられています。

アール・デコのジュエリーの特徴とアール・ヌーボーとの違い

アンティークジュエリー

アール・デコのジュエリーは、幾何学的模様エスニックモチーフに、大胆でカラフルな宝石を配しているものが多いです。

アール・ヌーボーのジュエリーが曲線的で左右非対称なデザインに柔らかな色使いが特徴だったのに対し、アール・デコは直線で対称的なデザインに、はっきりとした色使いが用いられました。

アール・デコが最も盛んだったのは「狂騒の20年代」と呼ばれる1920年代のアメリカだといわれています。

アール・デコの特徴ともいえる洗練されたモダンなデザインは、経済成長と次々に新しい文化が生み出された1920年代アメリカの時代背景ジャズの流行女性達の自立などを受けて誕生したといえます。

素材はプラチナやホワイトゴールドなどが主流で、ダイヤモンド鮮やかな色合いカラーストーンなどを大胆に配した組み合わせが人気でした。

アール・デコのジュエリーの素材

アール・デコの時代には、宝石のカット技術が向上し、バゲットカットステップカットプリズムカットなど様々なカットが開発されました。

幾何学的模様のモチーフに似合うカットも多く生み出されました。

宝石素材としては、天然宝石のほか、マザーオブパールプラスチックなどの人工素材が使用されました。

貴金属

アール・デコのジュエリーは、白さを強調したデザインが主流でした。

そのため、プラチナホワイトゴールドシルバーなどが主に使用されました。

中でもプラチナは細く伸ばせる上に硬くて丈夫なため、繊細なディテールのデザインに最適な素材として重宝されました。

特に、1900年代初頭にガーランド様式を生み出したカルティエは、この時代に製作したジュエリーの殆どにプラチナを使用し、数々の素晴らしい作品を世に送り出しました。

宝石

アール・デコのジュエリーには、ダイヤモンド鮮やかな色合いカラーストーンが配され、大胆な配色色のコントラストを楽しむようなデザインが流行しました。

宝石はダイヤモンドルビーサファイアエメラルドシトリントパーズアメジスト翡翠赤珊瑚ターコイズオニキスロッククリスタルマラカイトクリソプレーズ琥珀(アンバー)、養殖真珠のほか、マザーオブパールなども使われました。

異国文化が流行した際には、ラピスラズリカーネリアンカルセドニーなども人気でした。

また、アール・ヌーヴォーで流行したエナメルに代わり、アクセサリーにはラッカーが用いられるようになり、プラスチック、フェノール樹脂であるベイクライトなどの人工素材も使用されました。

アール・デコのジュエリーのスタイル

アールデコ ジュエリー スタイル

左右対照のライン幾何学的な模様が多く用いられたアール・デコのジュエリーは、流れるような曲線や自然をモチーフにした有機的なアールヌーボーとは相反する、工業的で無機質な印象です。

第一次世界大戦の勃発と共に女性が社会に進出するなど、生活様式に大きな変化が現れたことが、ジュエリーのスタイルにも大きな影響を与えました。

テクノロジーの発達により、モダンで新しい時代の始まりを感じさせる、洗練されたスタイルが好まれました。

アール・デコのジュエリーのデザイン

アールデコスタイル ジュエリー リング

対称的ではっきりとした色のコントラストを見せるデザインが主流だったアール・デコのジュエリー。

機械や工業製品あるいは、異国文化などにインスパイアされたデザインが多く生み出されました。

幾何学的模様

幾何学的模様は機械や工業の更なる発達とキュービズムフォービズムといった芸術運動などからインスパイアされて生まれました。

幾何学的模様とは三角形や四角形、円形などを繰り返し用いたデザインで、当時の建築にも使用されています。

異国文化からの影響

1922年にエジプトでツタンカーメン王の墓が発見され、エジプトを象徴するデザインが流行します。

このほか、インドの宝飾技術とデザインイスラム美術幾何学的な形鮮やかな原色使い、コロンブス以前の古代の中南米文化における、同心円状の正方形ピラミッド階段、さらには、中国や日本といった東洋美術などからも影響を受けています。

アール・デコのジュエリーのモチーフ

アール・デコのジュエリーに用いられたモチーフも、幾何学模様のフォルムや異国文化からの影響を受けています。

異国文化からの影響については、下記のようなものが取り入れられました。

●エジプトーピラミッドスカラベ蓮の花など

●アジアーペルシャ絨毯植物唐草模様漢字

●中南米(マヤ文明ほか)ーピラミッド階段長方形など

また、アフリカのマスクをモチーフとして作られた、木製金属製大ぶりネックレスブレスレットなども流行しました。

アール・デコを代表するジュエリーブランド

ヴァンクリーフ アンド アーペル

Photo by : andersphoto

現在世界五大ジュエラーとして有名なヴァン・クリーフ&アーペルカルティエは、アール・デコに革新的な作品を世に送り出し、ジュエリー界に新風を吹き込みました。

パリを代表する2つのブランドが製作した、ジュエリー史に残る作品と技術をご紹介します。

ヴァン・クリーフ&アーペル

ヴァン・クリーフ&アーペルは、アールデコ期に古代エジプトをモチーフにした素晴らしいジュエリーを多数製作しています。

これらは、ダイヤモンドにオニキス、エメラルド、ルビー、サファイアなどを配したブレスレットブローチなどです。

また、当時流行した袖なしで膝丈の「フラッパードレス」に合わせるロングネックレス「サトワール」を発案し、女性達の間で大流行しました。

さらに、宝石を金属の小さなレールにセッティングした、爪の見えない「ミステリーセッティング」を考案、1933年に特許取得しました。

カルティエ

当時ロンドン支店の指揮を執っていたジャック・カルティエインドを訪問した際、現地の宝飾技術から大きな影響を受けます。

その結果、ルビーやサファイア、エメラルドに彫刻を施し、花、植物、果物のモチーフに見立てたカラフルなジュエリー「トゥッティ・フルッティ」コレクションが誕生しました。

そんな中、1936年に億万長者のデイジー・フェローズから「ヒンドゥー・ネックレス」の製作依頼を受けます。

このネックレスはダイヤモンドと植物や果物の様に彫刻したルビー、サファイア、エメラルドをたっぷりと配した豪華な作品で、「トゥッティ・フルッティ」の代表作として有名です。

最後に

アールデコスタイル ジュエリー ティアラ

モダンで洗練された印象のアール・デコ様式のジュエリーは、まさに1920年代の社会変化を象徴しています。

自由と楽しさを表現する華やかなデザインは時代を超えて称賛され、後にリバイバルとして人気が復活しました。

アール・デコは比較的新しく、ヴィンテージとして扱われることもあります。入手しやすいアクセサリーも出回っているので、気軽に装うことも可能ですよ。

各時代別の特徴やスタイルをまとめた記事も良かったらご参照ください。

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【時代別】アンティークジュエリーの特徴とデザイン傾向

※画像は全てイメージです。異なる時代のものが含まれている場合もございます。

カラッツ編集部 監修