※画像は全てイメージです。異なる時代のものが含まれている場合もございます。
アンティークジュエリーと聞いて、「イギリスが本場!」と思われる方も多いかもしれません。
アンティークの宝庫とも呼ばれるイギリスでは、美術館や博物館のみならず、各地で行われているフリーマーケットやショップなどでもアンティークジュエリーを目にする機会が多くあります。
私もロンドンに住むようになり色々目にする内に、すっかりアンティークジュエリーの虜になってしまった一人です。
しかしアンティークジュエリーの世界は奥が深く、一言で片付けられるようなものではありません。
作られた時代や製作技術、所有した人達など長い歴史を辿って行くと色々違いが見えてきます。
社会の変化や経済の発展により、ジュエリーに使用される素材や宝石、加工技術、デザインなどにも影響が及んできました。
そこで今回は、知れば知るほど惹かれてしまう、私も大好きなアンティークジュエリーの世界についてお話していきたいと思います!
目次
アンティークジュエリーには種類がある
ジュエリー業界で、アンティークジュエリーというと、一般的に現在から100年以上前に作られたものを指します。
つまり、今から計算すると1920年頃以前に作られたジュエリーは、全てアンティークとして分類されます。
ジュエリーは紀元前の時代から人々に身に着けられてきたという、長い歴史をもちます。
時代や土地によって使用目的も異なり、歴史と共に素材やデザインも変化してきました。
アンティークジュエリーをカテゴライズする際には、大きく分けて、古代(エジプト、ギリシャ、ローマなど)、中世、ルネサンス、ジョージアン、ヴィクトリアン、アール・ヌーヴォー、エドワーディアン、アール・デコなどに分類されます。
アンティークジュエリーは、素材やデザインだけでなく、作られた年代や時代背景も価値に影響します。
時代によって流行があるため、ジュエリーの素材やデザインには当時のスタイルの特徴がはっきりと表れています。
現在市場で出回っているアンティークジュエリーは、18世紀のジョージアン期以降のものが多いとされます。
ジョージアン期のものもかなり希少ですが、これ以上古いジュエリーが流通することは非常に少なく、ほとんどが博物館や美術館に展示されています。
アンティークジュエリーの種類とそれぞれの特徴
アンティークジュエリーは、それぞれの時代によって種類や特徴が変化してきました。
時代によって特有のスタイルが誕生し、ジュエリーのデザインにも大きく影響を及ぼしたのです。
現在流通しているアンティークジュエリーは、主に英国やフランスなどのヨーロッパを中心に流行した18世紀以降のものです。
では現在私達が入手することが可能なアンティークジュエリーの種類と特徴をそれぞれの時代ごとにご説明していきましょう。
ジョージアン (1714年~1837年)
英国のハノーヴァー朝で国王に即位した、ジョージ1世~4世とウィリアム4世の時代です。
この時代に英国で生産された芸術や文化をまとめて、「ジョージアン」と呼んでいます。
ジョージアンジュエリーは英国だけではなく、フランス、ドイツ、イタリアなどの歴史的背景からも影響を受けています。
この時代のジュエリーは、特に職人の綿密な手作業で作られたのが特徴的です。
金塊などの金属を手作業で薄い板片に加工してからジュエリーを制作するという、大変手の込んだ作業を行っていました。
この時代には、古代の金細工の復活を思わせる、カンティーユ、グラニュレーション(粒金)、レポゼなど、非常に繊細で美しい金細工が流行しました。
当時のモチーフは、主にリボン、花、葉、羽根、枝葉などで、エナメルを施したカラフルな作品も人気でした。
ジョージアン初期は全体に対称的で重厚感のあるバロック様式が主流でした。
その後ロココ調が流行し、より軽やかで非対称的なデザインに変化しました。
さらに古代ローマやギリシャ、古代エジプトのモチーフがリバイバルし、カメオやインタリオなども流行しました。
ヴィクトリアン(1837年~1901年)
英国でヴィクトリア女王が即位した時代です。
64年のその治世の間には社会や産業、ファッションなどに大きな変化が現れ、ジュエリーのデザインにも多大なる影響を与えました。
ヴィクトリア時代は、初期のロマンティック時代(Romantic Period)、中期のグランド時代(Grand Period)、後期の耽美主義時代(Aesthetic Period)の3つに分かれます。
初期(1837年~1860年)にはロマンティック主義が全盛を極め、花や果物、枝葉など自然をモチーフにしたジュエリーが流行します。
1847年にはパリでカルティエが創業し、1851年にはロンドンのクリスタル・パレスで万国博覧会が開催されます。
エジプトやギリシャ、エトラスカンから着想を得たデザインも流行しました。
1860年代頃からは宝石のカット技術が進み、ガーネット、ターコイズ、コーラル(珊瑚)などを美しくカットしたものが、ジュエリーに配されました。
中期(1861年~1885年)には1861年にヴィクトリア女王の夫アルバート公が他界し、女王が黒いジェットのジュエリーを着けたことから、モーニングジュエリーが流行します。
※モーニング=喪に服す
このほか、カットスチール、ベルリンアイアンを素材としたジュエリーも人気でした。
後期(1885年~1901年)のジュエリーの多くは機械で大量生産されたものが多く、生産会社の刻印が押されるようになりました。
1885年にはロシア皇帝アレキサンダー3世が、金細工師ファベルジェを皇室御用達ジュエラーに任命、有名なイースターエッグを始めとする、素晴らしい作品を誕生させました。
アールヌーヴォー(1890年~1910年)
19世紀末~20世紀初頭にフランスを中心に流行した、国際的な美術運動です。
次項でご紹介するエドワーディアンの中で最も繁栄しました。
パリで国際展示会が開催された1990年頃が流行のピークで、第一次世界大戦勃発とともに人気が衰えました。
アールヌーヴォーは自然主義の影響を受けたデザインで、女性の姿や植物のモチーフにエナメルを施し、宝石やパールなどを配した繊細なスタイルです。
フランスの金細工師ルネ・ラリックの作品が代表的で、ガラス、角、エナメル素材による絶妙な美しさを表現しているのが特徴的です。
ベルギーで有名な宝飾店の長男でデザイナーのフィリップ・ウォルファースは、自然から着想を得た芸術性の高い作品を制作しました。
エドワーディアン(1901年~1910年)
エドワード7世が治世した時代です。
激動の時代であったことから、ジュエリーにも社会的、芸術的、経済的な影響が及ばされました。
この時代には貴金属加工の技術が向上し、ジュエリーには様々なカラーストーンの他に、アレキサンドライトやオパールなどの光学効果を見せる宝石などが配されました。
ヨーロッパでは、パリが最も繁栄した華やかな「ベル・エポック」の時代としても知られています。
1800年代中期にパリで創業したカルティエが、「ガーランド様式」を考案し大流行します。
以前主流だった金や銀の代わりとして、加工しやすく耐久性に優れたプラチナ素材を使用し、ダイヤモンドやパールを配した革命的なデザインです。
プラチナをレース編みのように繊細に加工し、リボンや花綱のように仕上げたものです。
アールデコ(1920年~1935年)
アールデコは今からちょうど100年前に当たるため、アンティークで扱うものとヴィンテージとして扱うものなど、店やアイテムによって異なる場合があります。
アールデコ様式は、柔らかな曲線のアールヌーヴォーや、繊細なガーランド様式に相対するスタイルとして誕生しました。
幾何学模様にダイヤモンドとオニキス、またはサファイアなどを配し、はっきりとした色のコントラストを見せるなど、大胆なデザインが特徴的です。
地金はプラチナが人気でした。
この時代には女性達の社会的地位も変化してきたため、よりすっきりとした明確なラインのジュエリーが好まれました。
アールデコ調はジュエリーだけではなく、建築やファッション、映画、絵画などすべての芸術に影響を与えました。
1920年代にヨーロッパで流行し、1925年に開催したパリ万国博覧会の後、1930年代にはアメリカで大流行しました。
1922年にはエジプトでツタンカーメン王の墓が発見されたことを記念し、スカラベやターコイズ、珊瑚などを配した、エジプトのリバイバルジュエリーも流行しました。
アンティークジュエリーによく見られる宝石と地金
アンティーク・ジュエリーに配されている宝石や地金は、時代によって様々です。
その時代の流行もありますが、当時はまだ発見されていない宝石や、他の宝石と混同されていたものもあったようです。
時代が移り変わるにつれて、高価な宝石の代用品となる人工宝石も発明されていきます。
それぞれの時代別にジュエリーに主に用いられた宝石と地金の種類をご紹介していきます。
ジョージアン
宝石
1750年にカラーストーンの流行が復活するまでは、ダイヤモンドが主流だったようです。
宝石のようにカットしたペーストと呼ばれるガラス製の模造宝石が出回るようになると、天然宝石に比べ気軽に手に入ることから、中流階級の人達を中心にそれらの需要が高まります。
カラーストーンの流行が復活すると、ダイヤモンドと共にルビー、サファイア、エメラルド、アメジスト、ガーネット、クリソベリル、トパーズ、アゲート、コーラル、シェル、パールなどもジュエリーに配されました。
この時代のカットは、テーブルカット、ローズカット、オールドマインカット、カボションカット、ブリオレットなどが主流です。
地金
ジョージアンの特徴は、貴金属による華やかな装飾です。この時期のジュエリーには、金細工師の綿密な手作業で作られた繊細さが表現されています。
当時は宝石のセッティング部分にはシルバーを使用し、地金には18K以上のイエローゴールド、スチール、鉄、ピンチベック(銅と亜鉛の合金)などを用いていました。
ヴィクトリアン 初期
ヴィクトリアンの宝石は、ダイヤモンドや様々なカラーストーンの他、生物に起因する有機質宝石など、豊富な素材が使用されています。
宝石のカットはローズカット、オールドマインカット、カボションカットなどが主流ですが、後期になるとラウンドブリリアントカットの基本となる、オールドヨーロピアンカットが誕生しました。
地金についても時代によって少しずつ異なり、初期にはゴールドが主流でしたが、後期にはプラチナが用いられるようになりました。
初期、中期、後期に分けて、具体的にご紹介していきましょう。
まずは初期の宝石と地金についてです。
宝石
アンバー、アゲート、アメジスト、カルセドニー、クリソベリル、エメラルド、ガーネット、ダイヤモンド、マラカイト、トパーズ、クォーツ、シードパール、ターコイズ、などです。
他にも、アイボリー、べっ甲、コーラル(珊瑚)、ラーバ(溶岩)といった素材も使用されました。
当時のカットは、ローズカット、オールドマインカット、カボションカットが主流でした。
地金
18K~22Kのゴールド(ホワイトゴールド以外の色)が主流でした。
このほか、ベースメタル表面にゴールドの薄いシートをロウ付けした「ロールドゴールド」、化学的や他の方法による薄いシートの「ゴールド・エレクトロプレート」も使用されました。
当時流行したのは「レポゼ」と呼ばれる金細工です。
金属をレリーフ状に打ち出す鍛金技術で、ゴールドをふんだんに使っています。
この他、ピンチベック、スチールにファセットカットを施してダイヤモンドに似せたカットスチールなどが流行しました。
ヴィクトリアン 中期
宝石
アメジスト、ガーネット、ジェット、オニキス、ルビー、サファイア、パール、オパール、ターコイズ、ダイヤモンドなど。
また、当時カボションにカットしたガーネットが人気で、これらは「カーバンクル」と呼ばれていました。
この他、アイボリー、コーラル、べっ甲のほか、ボグオークと呼ばれる木の化石などの有機質の素材も多く使用されました。
ガラスで作られたゴールドストーンも幅広く使われています。
当時のカットは、ローズカット、オールドマインカット、カボションカットなどです。
地金
この時期には、9K、12K、15K、ロールドゴールド、シルバー、スティ―ルなどが使用されました。
ヴィクトリアン 後期
宝石
アクアマリン、アメジスト、クリソベリル、クリソプレーズ、エメラルド、ダイヤモンド、ペリドット、クォーツ、ルビー、サファイア、ターコイズ、オパール、ムーンストーン、黒ガラスなどが多く使われました。
当時のカットは、ローズカット、オールドマインカット、オールドヨーロピアンカット、カボションカットなどです。
地金
この時期の主流は、ゴールド、ロールドゴールド、シルバー、酸化シルバー、プラチナなどでした。
アールヌーヴォー
宝石
クリソベリル、デマントイドガーネット、マラカイト、トルマリン、ムーンストーン、オパール、アンバー、べっ甲、ホーン(動物の角)などがジュエリーに配されました。
この他、プラスティック、ガラスなどの人工石も使用されています。
地金
この時期にはシルバー、ゴールドが主流でしたが、1890年にカルティエがプラチナによるガーランド様式を発表したことから、プラチナが流行します。
プラチナは繊細な加工が可能でありながら耐久性が高く、ダイヤモンドと合う硬質な輝きを放つため、ジュエリーの地金としての人気が一気に高まりました。
エドワーディアン
宝石
この時代に流行したガーランド様式はダイヤモンドが主流で、カラーストーンは脇役として配されることがほとんどでした。
人気があったのは、ルビー、サファイア、エメラルド、アクアマリン、アメジスト、ガーネット、ペリドット、ムーンストーン、オパール、パールなどです。
この時期のカットスタイルは、オールドマインカット、オールドヨーロピアンカット、カボションカットなどでした。
地金
ガーランド様式の大流行と共に、プラチナが一世を風靡した時代です。
紙のように薄く伸ばせるプラチナは、繊細なレース編みのようなモチーフに加工され、ダイヤモンドや宝石を散りばめたリボンや花のように仕上げられました。
この時代にはプラチナの他、シルバー、ゴールドも使用されていました。日本の技術を参考にした、エナメルも数多く使用されています。
アールデコ
宝石
ダイヤモンドやクォーツに、黒いオニキス、ルビー、サファイア、エメラルド、ジェイド、珊瑚、ターコイズなどを合わせた、対称的なデザインが主流でした。
この他、シトリン、トパーズ、アメシスト、ラピスラズリ、マラカイト、養殖真珠なども使用されました。
また、アンバー、樹木や骨といった有機素材の代用品として、ベークライト(合成樹脂)も使用され始めています。
当時はカット技術が向上し、バゲット、カリブレ、トラぺゾイド(台形)、ハーフムーン、トライアングルなど、個性的なカットの開発が進みました。
パリの宝飾店ヴァン・クリーフ&アーペルは、爪や貴金属が見えない「ミステリー・セッティング」を考案しています。
地金
この時期もエドワーディアンに引き続き、プラチナが主流となります。
アールデコ様式のジュエリーではダイヤモンドが主流であったため、白い輝きで統一したプラチナやシルバー素材が地金に使用されました。
最後に
アンティークジュエリーの世界は奥深く、知れば知るほどその魅力に引き込まれていくような気がします。
ジュエリーに使用される素材やデザインには、当時の社会を反映する歴史的背景からも影響を受けています。
ジュエリー史を学びながら世界の歴史を知ることで、ジュエリーに込められた意味をより深く理解することができるかも知れませんね。
※画像は全てイメージです。異なる時代のものが含まれている場合もございます。
カラッツ編集部 監修