宝石にはそれぞれ名前が付いていて、同じ鉱物でも色や個性によって違う名称で販売されていることもありますよね。
ルビー、エメラルド、インペリアルトパーズ、マンダリンガーネット・・・。
こういった宝石に付けられた名前たち、実は一見同じにように見えて、実は3種類あるとご存知でしょうか。
これらは何故3種類に分けられ、それぞれどういう意味をもち、どのように分類されるのか。
今回は、単純そうでとーっても奥が深い、何だか混乱してしまいそうな事情も多い、宝石の呼び方の定義について、出来るだけ分かりやすくご説明していきたいと思います!
がんばります!
宝石に付けられた名前の種類
冒頭でもお話したとおり、宝石に付けられている名前は大きく3つに分類されます。
分類としては
- 宝石名
- 別名
- コマーシャルネーム(流通名)
で、学術上、鑑別上、流通上などの様々な事情により、分けられます。
そして、厳密には、これらの3つとは少し異なるものとして
フォルスネームというものもあります。
これら4つに分類される理由と違いについてご紹介したいと思います。
宝石名はどんな基準で決められている?
まず、そもそも宝石名がどのように決められるかからお話しましょう。
宝石の歴史は大変古く、紀元前に発見されたものも多くあります。
これらの中には、色や輝き、原石の形などといった、見た目や性質、特徴を表す古代ラテン語やギリシャ語の言葉から名付けられたものも多いです。
例えばダイヤモンドという名前は、古代ギリシャ語で「adamas(何者によっても征服できない)」という言葉を由来とするといわれています。
この他、発見者や研究者などの人名、産地などから名付けられたものも多くあります。
なお、クオーツ、コランダム、ベリル、クリソベリル、オパール、ガーネット、フェルスパーなど、色や種類、光学効果などの特性によって宝石名が変わるものもあります。
宝石名とは
宝石の鑑別書には必ず「宝石名」が記載されます。
鑑別したその石が何という名前の宝石なのか、という意味合いで載るものですね。
鉱物名の下に記載されることが多いように思います。
この宝石名は、主に宝石学上の名称で、世界的教育機関や学術機関などで定められたものも多いようです。
つまり、学術的に定められた名前ということですね。
ちなみに、鉱物名とは鉱物学上の名称であり、こちらも世界的に定められています。
宝石名と鉱物名が同じものも多いですが、ルビーやサファイアのように色によって名前が変わるものやガーネット、フェルスパー、オパールなど、種類や特徴別に異なる名前が付けられているものもあります。
これらは古くから宝石名として認知されているものの他、流通名として呼ばれていた名前が人気や知名度と共に正式な宝石名として認められるケースもあります。
例えば近年では、鉱物ゾイサイトの一種タンザナイトが宝石名として認められ、AGL(日本の鑑別団体協議会)加盟の鑑別機関では2018年より鑑別書に記載されるようになったといいます。
ただし、世界的教育機関や学術機関などで定められているものの、どこか一つの機関や団体が世界基準を発信している訳ではないそうです。
そのためタンザナイトのように、近年新しく宝石名として認められた宝石について、鑑別機関によって変わるタイミングや記載に多少のズレが生じてもおかしくないようです。
別名とは
「宝石名」とは宝石学上の名称とご説明致しましたが、実は市場に出回る全ての宝石が宝石学上の名前で呼ばれている訳ではありません。
つまり、店頭やインターネット上で当たり前のように使われている名前でも宝石学上は認められていないものもあるのです。
と言うより、恐らく認められていない名前の方が多いです。
宝石の歴史は古いですが、全ての宝石が紀元前から採掘されていた訳ではありません。
人類の長い歴史の中で少しずつ掘り当てられ、昔は一種類だと思われていた鉱物でも色や光学効果、異なる特性をもった変種が発見され、種類が増えていくことも多々あります。
イエロートパーズ、ブルートパーズのように宝石名の前に色名を付けて呼ぶものもあれば、ルベライトやツァボライトのように特別な名前が付けられるものもあります。
きっかけは明確に知られていないものも多いのですが、例えばツァボライトやタンザナイトはティファニー社が販売戦略的に名付けたものが話題と人気を呼び、いつしか一般化したものと考えられています。
宝石名の前に色名が付くものはそのまま宝石名として鑑別書に記載されますが、特別な名前が付いたものは宝石学上認められなければ宝石名の欄には記載できません。
しかしながら、流通名が一般化し正式名称よりも認知度が高いケースも多々あり、その場合は「別名」などとして備考欄に記載されることが多いということです。
表記は鑑別機関によって異なり、例えば日本の鑑別団体協議会であるAGL加盟の鑑別機関では「別名◯◯◯◯と呼ばれています」と表記されるそうです。
コマーシャルネームとは
コマーシャルネーム(流通名)も別名と同じく正式な宝石名として認められていない名前です。
通称と表記される場合もありますね。
では両者の違いは何かというと、鑑別機関や鑑別団体協議会で認められているかどうか。
コマーシャルネームは鑑別書の備考欄にも記載されないことが多いです。
流通業界やコレクターの間では一般化している名前も多くありますが、鑑別業界ではまだ認められていないという訳ですね。
例えば、カナリートルマリンもその一つで、色の鮮やかなイエロートルマリンのことを指しますが、宝石販売業者がカナリー鉱山と提携して採掘し販売に乗り出したことから、「カナリートルマリン」として流通するようになったという説もあるそうですよ。
フォルスネームとは
フォルスネームは先の3つとは大きく異なり、見た目が似ている別の宝石の名前の一部を勝手に付けたものです。
例えば、「インド翡翠」と呼ばれるものがありますが、この正体はクォーツの一種である「アベンチュリンクォーツ」です。
見た目が似ていることから、産地と紐付けてこう呼ばれていますが、翡翠とは全く関係がありません。
この他にもネフライトを「台湾翡翠」、ガーネットを「アデレードルビー」、フローライトを「アフリカンエメラルド」などと呼ぶなど、多数のフォールスネームが存在します。
「○○サファイア」「○○ルビー」など、土地の名前などを頭に付けて呼ぶものが多い傾向にあるようです。
知識が無いと間違えて購入してしまうかも知れませんが、こちらについては注意が必要です。
▶宝石のフォルスネームについて詳しくはコチラの記事も参考に
具体的にはどんなものがある?
宝石名と別名、コマーシャルネーム、フォルスネームについてご説明してきましたが、違いがお分かり頂けたでしょうか?
別名、コマーシャルネーム(流通名)は、一般的に出回っていることも多く、宝石としての価値や人気が高いものもありますし、今後宝石名として認められるものもあるかもしれません。
具体的にどんなものがあるのか、宝石名、別名、コマーシャル名に分けて少しご紹介しましょう。
※下記でご紹介する分類は、日本の鑑別団体協議会であるAGLの基準を元にしております。鑑別機関によって認識に若干のズレがある分野となりますため、こちらが全てではないこと予めご了承ください。
宝石名
まずは、正式な宝石名として一般的に表記される代表的な宝石をご紹介しましょう。
サファイア、ルビー
サファイア、ルビーは同じ鉱物コランダムの一種で、レッドがルビー、それ以外の色がサファイアです。
一般的にサファイアといえば、ブルーサファイアを指しますが、他にも色々な色合いがあり、イエローサファイアなどのように、サファイアの前に色名を付けて呼ばれます。
サファイアもルビーも古くから採掘されており、どちらも世界四代宝石の一つとして広く知れ渡っています。
いずれも語源はラテン語で、サファイアは青い色という意味のサッピールス(sapphirus)、ルビーは赤い色という意味のルバー(rubber)から名付けられたといわれています。
アレキサンドライト
鉱物としては、クリソベリルに分類されます。
クリソベリルの中で、光源によって色が変わる変色効果をもつものをアレキサンドライトと呼びます。
ロシアで発見され、当時の皇太子アレクサンドル二世の名前に因んで名付けられたといわれています。
同じクリソベリルの変種の一つで、キャッツアイ効果をもつクリソベリルキャッツアイも人気が高いです。
タンザナイト
タンザナイトは鉱物ゾイサイトの一種で、ブルー~バイオレットをしたものを指します。
見る角度によって色が異なる多色性が強いことでも有名です。
タンザニアで発見されたことから、ティファニー社が「タンザナイト」と名付けて大々的に売り出されました。
美しい群青色が、キリマンジャロの夕焼け空を思わせるともいわれています。
以前は宝石名がブルー・ゾイサイトで、別名タンザナイトと表記されていました。しかし、AGLの書面理事会により、2018年(平成30年)1月1日から、正式な宝石名「タンザナイト」として記載されるように承認されたことが報告されています。
別名
続いて、鑑別書の備考欄などに「別名」などとして名前が記載される宝石です。
インペリアルトパーズ
水酸基を含むOHタイプのトパーズをインペリアルトパーズと呼びます。
フッ素を含むFタイプの一般的なトパーズに比べ、若干耐久性に優れているなどの違いが見られ、より価値高く扱われます。
インペリアルには「皇帝の」や「最上級の」という意味がありますね。
しかしながら、インペリアルトパーズは別名で、鑑別書の宝石名はトパーズです。
備考欄などに、別名「インペリアルトパーズ」と呼ばれていますなどと記載されます。
ルベライト
トルマリングループの中で、濃いピンク~レッドのものをルベライトと呼んでいます。
ラテン語の「rubellus(赤い色)」という言葉がルベライトという呼び名の由来とされます。
こちらも別名扱いとなり、鑑別書の宝石名はトルマリンで、別名として「ルベライト」と記載されます。
ツァボライト
ガーネットグループに属する、緑色のグロッシュラーガーネットです。
グロッシュラーの中で透明感があり、エメラルドのようなグリーンを呈するものがツァボライトになります。
ツァボライトという名前はタンザナイトと同様に当時のティファニー社社長によって名付けられたといわれています。
ケニアとタンザニアの国境にある、ツァボ東国立公園に由来しているそうです。
ツァボライトの正式な宝石名は、グリーングロッシュラーガーネットですので鑑別書にもそう記載されます。
コマーシャルネーム
それでは最後に、コマーシャルネームとして流通している代表的な宝石です。
鑑別書には記載されませんが、流通名としては一般的なものが多いですね!
マンダリンガーネット
スぺサルティンガーネットの中で鮮やかなオレンジ色を呈するものに付けられるコマーシャルネームです。
スペサルティンガーネットの中で価値も人気も高い種類ですね。
マンダリンとはフルーツの一種で、くすみが無く鮮やかなオレンジ色がマンダリンの色合いに似ていることから、このように呼ばれるようになったそうです。
赤味のある深いオレンジ色をしたものは「タンジェリンガーネット」と呼ばれることもあるようですが、マンダリンガーネットのほうが流通量としては多い印象です。
マラヤガーネット
こちらもガーネットの一種です。
主にピンク系ですが、ブラウンやゴールドなど様々な色を呈するガーネットのひとつです。
マラヤガーネットは、パイロープとスぺサルティン、またはパイロープとスぺサルティン、アルマンディンが溶け合ってできた固溶体として生成したものです。
マラヤとは、スワヒリ語で「よそ者」などの意味をもつ言葉で、他のガーネットとは違う固溶体であることから、こう呼ばれたとも伝わっているそうです。
オレゴンサンストーン
オレゴンサンストーンはフェルスパーグループのラブラドライトの一種で、アメリカオレゴン州で発見されたことからそう名付けられたと考えられています。
一つ一つが個性豊かなことから近年コレクターを中心に人気の高い宝石です。
本来、サンストーンとはフェルスパー(長石)グループに属する鉱物の中で地色がオレンジ~レッドのアベンチュレッセンスというキラキラとした輝きを見せるものに付けられる宝石名です。
オレゴンサンストーンの中にもメタリックなアベンチュレッセンスが見られるものもあります。
地色は様々で、オレンジ、レッド、グリーン、イエロー、赤褐色、カラーレスなどです。
オレゴンサンストーンも地色がオレンジ~レッドで、アベンチュレッセンスを見せるものはサンストーンになるはずですが、人気の高さからかオレゴンサンストーンとして出回っているものの方が多い印象です。
そのため、オレゴンサンストーンの鑑別書では
鉱物名 天然フェルスパー 宝石名 ラブラドライト |
などと表記されます。
最後に
現在宝石は本当に様々な名称で流通しています。
名付けのルールが特にないようで、独自の流通名を付けて売り出すことも可能とのことですので、フォルスネームと呼ばれる鉱物上関係がない有名宝石の名前を勝手に付けて売っている場合も少なくありません。
これらを本物と間違って購入してしまわないように、気を付けてください。
名前だけで判断するのが難しい場合は、インターネットなどで色々情報を集めてから購入した方が良いかもしれませんね。
日々情報が変わる世の中ですが、正しい知識を身につけて、賢く買い物できるようになったら良いなと私も思います♪
カラッツ編集部 監修