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ガマ蛙の頭に宝石アリました?!中世に大流行したトード・ストーンが面白過ぎる!

カエルの銅像

ガマ蛙……この手の平でサワサワしたくはないものの、どこか愛らしいキュートな目線にノックアウト!

ジュエリーモチーフとしてのカエルさんは、トカゲや蝶と同じくらいメジャーなものです。

今回はそんなガマ蛙がデザインのジュエリーを……ではあまりに予定調和過ぎるので、中世に大流行を見せたマジカルジュエリー、その名もトード・ストーンについてのお話をしたいと思います。

こんな宝石があるんだ!
まさに目から鱗の面白ジュエリーヒストリー、宝石の小箱をひっくり返したみたいなワクワク感、皆さんに感じていただければ幸いです!

ガマ蛙から抽出される宝石!?トード・ストーン伝説とは?

ガマガエル

宝石の歴史を振り返ってみた時、どこか現代の誕生石、パワーストーンにも通じる「石の力」というものにハッとすることがあります。

今回ご紹介するトード・ストーン、英語で記すとToad Stone=カエル石となりますが、これもまさにそんなすごいパワーをもっていると信じられていた宝石です。

カエルの名前をもつ謎石、トード・ストーンとは、いったいどんな宝石なのか?

ここではそんな興味の扉を、そっとノックしてみたいと思います。

トード・ストーンとは?その宝石の特徴と歴史

トード・ストーンの歴史は、今から約800年ほど前まで遡り、13世紀には既に存在していたと考えられています。

そして18世紀までに多くの人々が、ジュエリーとしてトード・ストーンを愛でてきました。

その茶褐色のキャラメルカラー、そしてカボションカットのごとく半球上のボディーが故、特にリングやアミュレットにジュエリー加工されることが多かったそうです。

そしてその大きさは、直径で約1.5センチほどだったといいます。

では、その名前の由来となるカエルとのリンクは何か。

それはこの不思議な宝石が、ガマ蛙の頭にめり込んでいる宝石として珍重されてきた、という面白いルーツからきています。

つまりは、カエルの頭のどこかから摘出されるから、トード・ストーンと、呼称されるようになったというわけなんですね!

確かに、貝からは様々な色や形の真珠が取れますし、サンゴはそれ自体が美しい宝石ですから、まあカエルがある種の宝石を産出したとしても不思議なことではありません、よね?

実際、14世紀に書かれたと伝わるデザイン画には、暴れるカエルの頭から、無理やりトード・ストーンを取り出そうとしているシーンが描かれているものもあります。。

その画を見ると、特に両生類ラブ!という訳ではない私でも、なんだかシュン……としてしまいますが・・・

トード・ストーンはなぜ流行したのか?その魔術的側面が面白い!

大変古い歴史を持つトード・ストーンですが、この不思議な宝石が流行した理由にもとても興味深いものがあります。

それはズバリ、中世の人々は、トード・ストーンにマジカルジュエリーとしての効能を期待していたからです!

中世版パワーストーンといえばわかりやすいでしょうか?

つまり、ガマ蛙の頭からとれるトード・ストーンがあれば、ありとあらゆる毒から身を守ることができると信じられており、毒殺が当たり前であった当時、大変重宝されていたということです。

では、なぜそのような話が生まれたかというと、カエルは通常、天敵から身を守る手段の一つとして、皮膚の中に強力な毒を持っていますが、どうして自分自身はその毒素で死なないのか

それは自らの毒から身を守るため、頭の中にあるとされる石、トード・ストーンの魔力を使って、自身を無毒化できるから、と考えられていたからといわれています。

そういわれると何となく説得力がありますよね!?

使い方としては、例えばクモやカエルなどに噛まれてピンチに陥った際、トード・ストーンを患部に当ててヒーリング

結核や吐き気、熱、炎症、そして腫瘍にも効果的だったということで、もはや人々の健康管理には欠かせないマテリアル兼ジュエリーだったということです。

またそれ以外にも、妊娠した女性を悪魔から守ったり、乳幼児が妖精にさらわれることを防ぐ、神秘的な効能も信じられており、しばしば妊婦にトード・ストーンが貸し借りされていた記録さえも残っているのです。

グロ注意!トード・ストーンの取り出し方マニュアル大紹介

ではトード・ストーン、果たしてどのような形でカエルから取り出すのか。。

想像力を働かせて考えてみても、なかなか思いつきませんが、一般的に生きているカエルから、その神秘の宝石を取り出さなければならないと伝えられています。

なぜか?と言いますと、つまるところ、トード・ストーンの解毒パワーは、生きているカエルにしか宿らないと考えられていたためで、どうにかこうにかしながら生きたカエルの頭をカチ割っていたのでしょう。(怖)

しかしなかなか見つからないトード・ストーンのために、二人の人物がトード・ストーンの採取方法に関して興味深い実験をしているので、ここでご紹介したいと思います。

まず一人目Edward Topsell氏は、ガマ蛙を真っ赤な布の上に乗せて、カエルがトード・ストーンを吐き出すのを辛抱強く待つという原始的な方法。

カエルがトード・ストーンを吐き出したら、また飲み込んでしまう前に素早く採取しなければなりません。

なお、なぜ赤い布の上にガマ蛙を乗せるのかは謎です。(汗)

そして二人目Thomas Lupton氏は、生きたカエルではなく既に息絶えたカエルを、陶製のポットに放り込み、土と一緒にアリを大量投入

そしてカエルの死骸がアリによって食われ、その結果骨とトード・ストーンだけがキレイに残るという方法です。

トード・ストーン採取のアプローチも異なりますし、そもそも本当にこれらの方法で神秘の宝石が採取できたのかも未知数。。。

しかし当時の人々がどうにかして貴重な魔術石、トード・ストーンを手に入れようと必死にガマ蛙と格闘していたということは十分よく分かりますよね。

イギリスでも大流行のトード・ストーン!あの有名作品にも堂々登場!?

シェイクスピアの本
トード・ストーン、その神秘的な魔力は、イギリスが生んだ偉大な劇作家シェイクスピアにもインスピレーションを与えた宝石として知られています。

シェイクスピア作品「お気に召すまま」(As You Like It)に登場するトード・ストーン

シェイクスピアが1599年に発表した「お気に召すまま」、シェイクスピアファンでなくとも、一度は耳にしたことがある、という方も多いのではないでしょうか?

どこの場面でそれについて言及されているのかというと、第二幕の第一場面でハッキリと、トード・ストーンのことだとわかるセリフが登場します。

全てのセリフは割愛しますが、

Which ,like the toad, ugly and venomous.

Wears yet a precious jewel in his head.

という部分ですね。

このprecious jewel in his headは、言うまでもなくトード・ストーンのことを指しており、当時のイギリスでのその存在感を示す興味深い事例と言えるでしょう。

トード・ストーンの真実……

魚の化石
さて、そろそろトード・ストーンが持つ神秘的な魅力に取りつかれた頃ではないでしょうか?

しかしいくらあなたがトード・ストーンを欲しくとも、間違ってもカエルと対面して真っ赤な布の上で、石を吐かせたり、アリにカエルの死骸を食べさせないでください!

えっ、なぜかって?

それはだって、トード・ストーンは本当はガマ蛙の頭にある宝石ではなくて、魚の化石(!)だったからです。

なぜトード・ストーン伝説が生まれたのか?

さんざん蛙の頭の中に埋め込まれた宝石!だとかシェイクスピアの作品にも登場するなど、煽っておきながら、結局正体は魚の化石だったと暴露することは、なんだか心苦しいのですが。。
時に人は宝石にロマンを求めてしまうということでしょうか。。

トード・ストーンの謎の真相は、三畳紀~白亜紀に生息していたレピドテスと呼ばれる、全長170~200センチほどの硬骨魚の歯の化石だと言われています。

人間並みの全長のレピドテスの歯はまん丸で、まさにそれこそが我らのトード・ストーンそのもの!

この魚の歯の化石を初めて発見した人物は、スイスの博物学者コンラート・ゲスナーという人とか。

その後あまりのフォームの美しさやジュエリーへの加工のしやすさが評価され、ジュエラーがここぞとばかりに神秘的な宝石と祭り上げた結果、いつの間にかカエルさん大迷惑のトード・ストーン伝説へと変貌していったのです。。。

なんだか無理くり過ぎる気もしますが、不思議な出所の石が、人々の悩みや関心の的となり、そして拠り所になっていく……、そのプロセスこそがまさにトード・ストーンの面白みであり、そして人間の滑稽さでもあるのでしょう。

まとめ

カエルのジュエリー
魚の歯の化石だとしても、それが本当にガマ蛙の頭にあった宝石だとしても、いずれにせよトード・ストーンは驚くほど少ない数しか現存していません。

私もアンティークジュエリー市場で数回目にしたことがあるものの、基本的にはそのまん丸のタイガーアイのようなボッテリフォルムは、いくつかの美術館でしか鑑賞できないのが現実です。

現時点でトード・ストーンを展示しているのは、イギリスのロンドンミュージアム大英博物館、そしてオックスフォードのアシュモレアン博物館など……。

特に大英博物館には、大変立派なゴールドベゼルにセットされたトード・ストーンリングが所蔵されているので、ロンドンを訪れる機会があったら、ぜひ足を運んでみてくださいね!

カラッツ編集部 監修

ABOUT US

スペインの地方都市の工房で彫金を学びながら、スペイン宝飾ブランドの翻訳、アンティークジュエリーのコラムなど執筆。古代ローマのインタリオからジャポニズムまで、アンティークジュエリーを研究しながらコレクションしています。スペインのGemフェリアや美術館に遠征しながら、ジュエリーの楽しさを皆さんと共有できればと思っております!