濃いレッドの色合いをもつピジョンブラッドルビー。
最高品質のルビーに与えられる名前でもあります。
ピジョンブラッドルビーとは具体的にはどのような色合いで、希少価値はどれほどなのでしょうか。
ピジョンブラッドルビーが特別である理由、色、産地、価値基準、さらに世界的に有名なジュエリーなどをご紹介していきます。
目次
ルビーとは
ルビーは鉱物コランダムに属する宝石です。
実はサファイアも同じ鉱物で、2つは色が違うだけの兄弟のような関係です。
カラーストーンの中で最も価値が高い宝石の一つとしても知られていますね。
内部に絹状ルチルのインクルージョンを含み60度に交差しているものにカボションカットを施すとスター効果を見せるものもあります。
この他、ジルコンの結晶やカラーゾーニング、六角形の成長線なども見られます。
モース硬度9とダイヤモンドの次に硬く、劈開の性質がないことから靭性にも優れています。
ガラス光沢と強いテリを見せ、ジュエリーとしても美しい魅力を発揮します。
ルビーの色
ルビーの色は、コランダムにクロムの微量元素が加わることで発色すると考えられています。
色のトーンは様々で含有するクロムの量が多いほど色が濃くなるといわれています。
コランダムに含まれるクロムは蛍光性を放つ要因とも考えられています。そのためルビーは一般的に蛍光するということです。
では、ルビーの色の種類についても簡単にご説明しましょう。
ピジョンブラッド
鳩の血という意味で鮮やかな濃いレッドをしており、強いテリを発します。
ルビーの最高品質の色合いともいわれています。
ピジョンブラッドについては後の項で詳しくご説明しますね!
ビーフブラッド
こちらもその名の通り、牛の血という意味で、黒味の強いレッドをしています。
若干パープルがかって見えるのが特徴的で、タイで産出されるものに多く見られる色合いです。
但し、ピジョンブラッドとは異なり、鑑別書にビーフブラッドと記載されることはあまりないようです。
チェリーピンク
ピンク系のライトなレッドで、透明度が高く明るい発色が特徴的です。
スリランカで産出されるものに多く見られる色合いとのことですが、こちらも鑑別書には特に記載されません。
なおルビーはミャンマー産、タイ産、スリランカ産に関わらず、産地鑑別が可能な宝石です。
ピジョンブラッドルビーとは
前述したとおり、ピジョンブラッドとは英語で「鳩の血」という意味です。
その名の通り、鳩の血そのもののような真っ赤な色合いをしていることからこう名付けられたといわれています。
元々ミャンマーのモゴック地方で採れる最高品質のルビーがこの色をしており、かつてピジョンブラッドはモゴック産の最高品質のものを表す名前だったそうです。
しかし現在は産地に関わらず、規定の範囲に入る色をもつものは全てピジョンブラッドと呼ばれます。
内部からの輝きが強く、鮮やかなテリを見せます。
ピジョンブラッドルビーは、クロムの含有量がルビーの中では多く、さらに黒味の起因となる鉄の含有量が少ないことから、大変鮮やかなレッドを発色するといわれています。
また、ピジョンブラッドルビーは紫外線を当てると強い蛍光反応を示す傾向があります。
ピジョンブラッドルビーの産地
Photo by : Mongkolchon Akesin / Shutterstock.com
前述したとおり、かつてピジョンブラッドルビーはミャンマー(旧ビルマ)のモゴック地方で産出されるものだけを指していましたが、現在はピジョンブラッドの色範囲に入るものであれば、産地に関わらずピジョンブラッドと呼ばれます。
同じミャンマーのモンスー地方やタイ、モザンビークなども高品質のルビーが採れる産地として有名です。
ピジョンブラッドルビーに施される処理について
一般的にルビーは加熱処理が施されています。
一般的に行われている処理のため、加熱処理が施されることで価値が著しく下がることはありません。
また、色合いが美しければ、非加熱のものより加熱処理を施されたものの方が高値が付く場合も多いといいます。
処理の有無は鑑別によって確認できるものとできないものがあるといい、加熱処理の痕跡が見られる場合は、その旨が鑑別書に記載されます。
加熱の痕跡が見られないものについては、『加熱の痕跡が見られません』と記載され、それらが非加熱ピジョンブラッドルビーとして流通していることが多いそうです。
ピジョンブラッドルビーの偽物とその見分け方
人気も価値も高いピジョンブラッドルビーには様々な偽物が存在します。
特に多いのは、レッドスピネルやガラスです。
この他、天然ルビーに人工処理を施したものも多く流通しています。
人工的に色を加えた着色ルビーや、低品質のルビーに鉛ガラスを含浸して、色や見た目を美しくした含浸ルビーなどが主なものです。
さらに、ガラスとガーネットの薄片を貼り合わせた「ダブレット」も多いようです。
人工処理石や模造石ということが消費者に分かりやすく明記された上で販売されていれば問題はありませんが、事実を隠したりわざと分かりにくく表記して販売されていることもありますので、ご注意下さい。
見分け方
いずれも基準の一つであり、素人が簡単に判断しにくいものもありますが、良かったら参考にしてみて下さい。
◆レッドスピネル
スピネルは、現在のように鑑別技術が発達していなかった昔ルビーやサファイアと混同されることが多かった宝石です。
実際、世界の王室ジュエリーの中にも実はルビーではなくレッドスピネルだったという逸話をもつものが幾つかあります。
スピネルも大変素敵な宝石ですので偽物というのは心苦しいのですが、ルビーとして販売されては偽物ということになってしまいます。
スピネルはルビーに色合いが似ているだけでなく、どちらも蛍光性をもつなど、特徴的に似ている点も多くあります。
素人が見た目だけで判断するのは少し難しいかも知れません。
専門機関で鑑別機材を使用して、しっかりと判別することが必要となります。
◆着色ルビー
人工的に着色されたルビーには、ブラックライトなどの紫外線を照射することで判別できるものもあります。
天然のルビーは紫外線を当てるとレッドに蛍光しますが、着色されたものはオレンジに蛍光するものが多いそうです。
※実際の鑑別では、蛍光検査後に顕微鏡で色素の残留物の確認なども行いますのでこれだけで判断される訳ではありません。
https://twitter.com/keiichiro_oyama/status/1214462675482079232?s=20
◆含浸ルビー
鉛ガラスを含浸させたルビーの多くは、2つの方法で見分けることが出来ます。
一つは表面に見えるヒビです。
ルビーにライトを当てると、キラリと輝いた瞬間に、表面にある多数のヒビを見ることができます。
そしてもう一つは、鉛ガラスを含浸させた際に取り込んだ、ガラス特有の空気の気泡を探す方法です。
天然ルビーにはこういった気泡は見られないので、含浸処理を疑うことができます。
◆ダブレット(張り合わせ)
ガラスとガーネットの薄片を張り合わせたダブレットは、2つの点を確認することで天然ルビーと見分けられます。
一つはガラス特有の気泡を確認すること。テーブル面から見た時、複数の気泡があればガラスです。
画像はダブレットのアクアマリン
次に、ガラスとガーネットの接着面を確認します。
ルースを横から見ると、クラウンとパビリオンの間にあるガードル部分に、薄い接着面のラインによる層が見られます。
◆ガラス
ガラスはモース硬度が低く、熱伝導率が低いという特徴があります。
まず、ルースのカット面を見ると、硬度の低いガラスのファセット稜線はシャープではありません。
画像はトパーズに模したガラス
さらに熱伝導率が低いため、本物の宝石のようなひやりと冷たい触感を感じられないといいます。
ただ、こちらは慣れも必要で、天然石とガラスを触り比べて感覚を養わないと簡単には分からないかもしれません。
ピジョンブラッドルビーの価値基準と市場価格
ピジョンブラッドルビーは最高品質である上に産出量が少ないことから、通常のルビーより高い価値が付けられています。
ピジョンブラッドルビーの価値基準や一般的な市場価格、購入の際の注意点などについてご説明していきます。
価値基準
カラット
全体的にルビーは大きいものはあまり産出されないといわれています。
そのため2ctを超えると価格が大きく上昇します。
ピジョンブラッドとなると、更に希少なため、1ct以上で価格が大幅に跳ね上がる場合が多いそうです。
透明度
内包物やキズなどが少なく、透明感が高いほど評価は高くなります。
色
ピジョンブラッドルビーは、鳩の血の色に似た濃厚なレッドが特徴的です。更に色が鮮やかで濃いほど、高い価値が付けられます。
カット
カットバランスに優れており、発色やテリが美しく表現されているかを評価します。
産地
ルビーは産地によって価値が異なります。
最も価値が高いとされるのは、ミャンマーモゴック産。
最高品質である上に産出量が少ないことから、大変高い価値が付けられています。
次いでミャンマーモンスー産、タイ産、モザンビーク産と続きます。
加熱処理の有無
前述したとおり、加熱処理の有無で価値が大きく変わることはありません。
但し、色合いが同じであれば、非加熱の方が評価が高くなる場合が多いです。
しかしルビーにおいて最も重要な点は色合いの美しさです。
加熱処理が施されていても色が濃くて美しいものは非加熱のものより高価格になることも多いそうです。
なお、加熱処理以外の人工処理、例えば偽物のところで紹介した着色処理や鉛ガラス含浸処理などが施されているものは価値が大きく下がります。
ご注意下さい。
市場価格
ピジョンブラッドのルースは、大きさやクォリティによっては数万円から手に入れることができそうです。
トップクオリティで1ctを超えるものとなると、一億円以上するものもあるようです。
どこで買える?
ピジョンブラッドルビーは、ルース、ジュエリーともに取り扱っているお店は多い印象です。
オンラインショップなどでも見かけることが多いため、色々なお店を覗いて比較検討することも可能です。
ただ、前述したようにピジョンブラッドルビーは偽物も多く出回っている宝石です。
高額であることも多いため、信頼のおける鑑別機関の鑑別書が付属しているか、オプションで付けられるものを購入されることをオススメします。
世界的に有名なピジョンブラッドルビー
ではここで、世界的に有名なピジョンブラッドルビーのジュエリーを3つご紹介していきましょう。
サンライズ・ルビー (Sunrise Ruby)
落札額:3033万5698ドル(約34億5千万円)
2015年にサザビーズのスイス・ジュネーブ支店で開催されたオークションで落札され、ルビーでの当時の世界最高値を更新しました。
モゴック産の非加熱天然ピジョンブラッドルビーで、25.59カラットという大きさです。
深い赤色で高い透明感とブリリアンスを発する、ピジョンブラッドルビーの中でも最高級品質であると評価されています。
クッションカットのルビーにダイヤモンドを配した、カルティエ製のリングです。
グラフ・ルビー・リング (The Graff Ruby Ring)
落札額:860万410ドル(約9億8千万円)
こちらは2014年に同じくサザビーズのスイス・ジュネーブ支店で開催されたオークションで落札されました。
モゴック産のピジョンブラッドルビーで8.62カラット、クッション・カットが施されています。
元々このルビーは2006年にグラフが入手し、リングを制作したものでした。
それを購入したギリシャの実業家が、2014年のサザビーズに出品、グラフが落札し買い戻す形となり、現在に至るということです。
グラフの手元にあるべき、縁の深いルビーなのかもしれませんね。
10.10カラットのピジョンブラッドルビーを配したブローチ(Ruby and Diamond Brooch by Cartier)
落札額:842万8127ドル(約9億6千万円)
2014年にクリステイーズの香港支店で開催されたオークションで落札されました。
モゴック産のピジョンブラッドルビーで、10.10カラットです。
深みがあり鮮明でピュアな赤色をしており、カットも魅力的と評価されています。モゴック産特有の内包物をわずかに含有しています。
プラチナにダイヤモンドが配された、カルティエ製のブローチです。
最後に
ピジョンブラッドルビーは濃くて鮮やかなレッドが特徴で、強い蛍光性をもつ傾向があります。
産出量や流通量が少ないことから、今後ますます価値が上昇するのではと予測されています。
ルビーの最高級品質であるピジョンブラッドルビーは、宝石好きなら憧れてしまう、スター的な存在であるような気がします。
カラッツ編集部 監修