マジカルな魅力がいっぱいのスタールビー。
光があたると6条のスターが浮き出るなんて、地球が作り出した奇跡そのもののように思えます。
そんな素敵なスタールビーですが偽物もあることをご存知でしょうか。
偽物と知ってて買うのならば何の問題もないですが、騙されていたらとても残念すぎますよね・・・。
そこで、スタールビーの基本情報、特徴、スターができる理由とともに偽物とその見分け方についてなどお話していきたいと思います。
スタールビーの魅力的な世界をご案内していきましょう。
目次
スタールビーとは?
丸くカボションカットしたルビーに光を当てたとき、6条の光が浮き出るものをスタールビーといいます。
この光学効果をアステリズム(スター効果)といいます。
6条の光は、石を傾けたり光源を動かしたりすると動くのが特徴です。
私もスタールビーやスターサファイアを持っていて、スターの動きをよく観察していますよ~。
スターが石の中で動く様は、まるでルビーが生きているかのように感じられ、とても不思議な感動を覚えます。
石の中央で光が交差するようにカッティングされているスタールビーは、職人さんのとても高い技術と経験を感じます。
スタールビーのアステリズムは、個体によって様々な表情があるように思います。
表面に強くまっすぐ光が走るもの、内側から発光しているような感じのもの、光の強弱や太いもの細いもの、途中で光が切れていたり少し曲がっているものなど、実に様々です。
では、スタールビーをもう少し掘り下げて見てみましょう。
鉱物としての基本情報(ルビー)
スタールビーはルビーの一種。
鉱物としてはルビーと同じなので、ここではルビーの基本情報をご覧くださいね。
英名 | Ruby(ルビー) |
和名 | 紅玉(こうぎょく) |
鉱物名 | コランダム |
分類 | 酸化鉱物 |
結晶系 | 三方晶系/六方晶系 |
化学組成 | Al2O3 |
モース硬度 | 9 |
比重 | 3.99 – 4.05 |
屈折率 | 1.76 – 1.77 |
光沢 | ガラス光沢 |
スタールビーの色
スタールビーの色はレッドです。
ルビーはサファイアと同じ鉱物コランダムに属します。
レッドがルビーで、それ以外の色は全てサファイアと呼ばれます。
そのため、スタールビーの色もレッドのみ。
ピンクがかったレッド、パープルがかったレッドなどもありますが、ピンクやパープルが強ければサファイアに分類されることもあるからです。
ルビーもスタールビーも酸化クロムの作用によって、赤く発色すると考えられています。
ピンクサファイアやパープルサファイアなどとルビーの違いは色のみといいます。
鑑別機関によって見解が分かれる場合もあるのだそうですよ。
スタールビーの産地
スタールビーの代表的な産地はミャンマーとスリランカです。
タイ、ベトナム、タンザニア、南アフリカ、マダガスカルなどでも産出されているようです。
私はスリランカで暮らしたことがあるのですが、真っ赤なスタールビーにはなかなかお目にかかれませんでした。
私が出会ったスタールビーはどれもピンクやパープルに近くて、ルビーというよりはサファイアに分類されるものが多かったという記憶があります。
スリランカのルビーはもともとパープルやピンク寄りのものが多く、真っ赤なルビーは珍しいとされていました。
レッドが濃くて良質なルビーが見つかった場合は、スタールビーとして販売するよりルビーとして販売した方が高値になるのだ、という話をスリランカの宝石店員さんから聞いたこともあります。
逆にピンクスターサファイアやバイオレットスターサファイアなどは、とても質の良いものがいくつもありましたよ。
ミャンマーでは鮮やかなレッドのスタールビーが産出されるとか。いつか行ってみたいものです!
スタールビーの原石
スタールビーの原石はルビーと全く同じで、産地によって産出の仕方が異なります。
ミャンマーなどでは、大理石の鉱床でルビーが発見されています。
大理石を母岩とするルビーは、鉄分が少ないために強いレッドを発色するのだそうです。
一方、玄武岩から産出されるルビーは鉄の含有量が多くなるので、暗めのレッドが多いのだとか。
スリランカでは風化した岩石が浸食によって洗い出され、ルビーなどの原石が川底にたまっているのですよ。
ルビーは原石の状態でスターが出るかどうかを確かめることが出来るのだそうです。
スライス状にした原石に水を一滴たらして、その上からペンライトを当ててみると、スタールビーだった場合は一滴の水がドームの役割を果たしてスターが出現するそうですよ。
カットする前にスターの位置を確認する時にもこの手法を使っているとのことです。
スタールビーはどうしてできる?
スタールビーの6条の光はなぜ出現するのでしょうか。
それは、ルビーの内部にある針状のインクルージョンの作用によるもの。
インクルージョンが60度に交差して配列すると光を当てた時に6条の光が見えるということです。
写真を拡大してみると、交差しているインクルージョンを見ることができますよ。
稀に12条の光が出るものもあります。
同じように見えるスター効果でも実は反射光線によって現れるものと透過光線によって現れるものと2種類あるといいます。
スタールビーやスターサファイアは反射光線によってスターが現れると考えられており、透過光線によって現れるものとして有名なのはローズクォーツです。
反射光線によって現れるものはエピアステリズムと呼ばれカボションカットの上から、透過光線によって現れるものはダイアステリズムと呼ばれ、石の裏面から光を当てるとスターが見えやすいといわれています。
針状インクルージョンが多ければ強い光になりますが、そのかわり透明度が低くなります。
透明度の高いルビーにしっかりと6条の光が出現するものはとても珍しく、価値も高くなるのです。
スタールビーに施される処理
スタールビーには何らかの処理が施されているのでしょうか。
施される処理によって価値が下がる場合もあると聞きますが、スタールビーの場合はどうなのでしょうか。
スタールビーに施されている処理についてお話しましょう。
加熱処理
一般的に、スタールビーは非加熱のものが多いとされています。
なぜならば、1300℃を超えて加熱すると、スタールビーが出現するために必要な針状インクルージョンが消えてしまうからです。
ただ、1000℃前後で低温加熱がされて、青みを抜いたものはあるといいます。
パープルがかったスタールビーが低温加熱により青みが消され、レッドに近い色合いに変わることもあるそうですよ。
さらに調べてみると、加熱によって針状インクルージョンが再結晶化され、強いスター効果が出現することもあるのだそうです。
これらの加熱処理には、判別しやすいものとしにくいものがあるらしく、鑑別機関によって見解が異なる場合があるそうです。
加熱処理はずっと昔から多くの宝石に対して行われてきました。宝石の中に眠っているその石本来の美しさを人工的に引き出す行為です。
加熱処理が施されているからと言って、価値が著しく下がることは少ないです。
ガラス含浸処理
スタールビーに施される処理で価値を下げるものもありますので注意しましょう。
最も多いとされるのは鉛ガラス含浸処理です。
この処理が施されたスタールビーは、耐久性が下がり、価値も著しく下がるといわれています。
もちろん、ガラス含浸処理スタールビーだと知ってて購入するのは全く問題ありませんよ!
問題なのは事実を隠して高値で販売している場合です。
鑑別書にはガラス含浸処理が明記されますので、特に高額なスタールビーを購入する場合は信頼のおける鑑別機関の鑑別書付のものかオプションで取ってもらえるお店で購入することをオススメします。
▶ガラス含浸処理が施されたルビーについてはこちらの記事を参考に
スタールビーの偽物とその見分け方
スタールビーにも合成石があるのをご存知でしょうか。
一概に偽物とは言い難いですが、合成石を天然スタールビーとして売っている場合は偽物と言わざるを得ません。
こちらも合成石だと知ってて手に入れるのでしたら問題ありません。天然スタールビーと偽って販売しているケースに注意しましょう。
日本やドイツの企業が、天然石にとてもよく似た合成スタールビーを作っているというニュースも目にしましたよ。
特に日本企業が作ったスタールビーは、顕微鏡で見ても天然そっくりに作られているのだそうです。
すごい技術だなーと感心してしまいます。
私はスリランカで6条のスターがくっきりと現れた、不透明でとても安い石が大量に並んでいるのを見たことがあります。
レッドやブルーの石がカボッションカットされていて、実にくっきりと強いスターが、すべての石に現れていました。
宝石店の人に聞くと、それはインド産の宝石だといわれていましたが、名前は聞いたのですが忘れてしまいました・・・。
その店では、当時ひとつ数百円で売られていたのですが、スタールビーと偽って観光客に高値で売る悪質な商売人もいるという話を聞きましたよ。
このようなケースもあるのでご注意下さいね。
偽物の見分け方
スタールビーの本物と偽物を見分けるポイントは主にスターの見た目、裏面、手触りの3つです。
それぞれ詳しく説明しましょう。
6条のスターがハッキリし過ぎていたら要注意!
スタールビーは、6条のスターを見ると本物か偽物かを見分けることができる場合があります。
一概には言えませんが、偽物のスタールビーは、本物よりもハッキリと6条のスターが現れることが多いといいます。
本物のスタールビーは前述したとおり、光に濃淡や強弱があるのですが、偽物の場合は光の太さが均一で妙にクッキリしているというケースが多いようです。
偽物のスタールビーは、いかにも人工物!という感じを受けるんですよね。
光が揺れるかどうかも、見分けるポイントのひとつでしょう。
本物のスタールビーは、石を傾けたり光源を動かすと6条のスターも動くのですが、私が昔見た偽物はどれも光は動きませんでした。
それどころか、光を当てなくても6条の光が浮いているという、見るからに偽物!というものもありましたよ。
もしかしたら今は技術が進歩して、スターが動くものがあるかも知れませんが・・・そんなところに技術を使ってほしくないなぁ、と個人的には思ってしまいます。
ルース(裸石)の裏面をチェック!
スタールビーの裏面をチェックすると、偽物かどうかを判別することが可能です。
偽物の場合は、裏面が平らに処理されていることが多いそうです。
本物のスタールビーの裏面は、けっこうデコボコしているものです。
ルースの場合は裏面が確認できるので、ぜひご覧になってくださいね!
ジュエリーにセットされていても裏面が確認できる場合もあると思いますので、良かったらチェックしてみて下さい。
これは結構簡単に判別できる方法ですので、覚えておくと良いと思います。
有名なスタールビー
the midnight star ruby |
世界的に有名なスタールビーをいくつご存知でしょうか。
デロングスタールビー(100.3ct)、ロッサーリーブス・スタールビー(138.7ct)、ミッドナイトスター(116.75ct)などが有名で、名前にもロマンティックな響きがありますよね。
どれも大きくて美しく、歴史や物語のあるものです。
これらの有名なスタールビーの中から、今回は特に有名なデロングスタールビーと、ロッサ―リーブス・スタールビーについてご紹介しましょう。
デロングスタールビー
「デロングスタールビー」はビルマ産(ミャンマー産)で100ct以上あり、現在はニューヨークの自然史博物館に所蔵されています。
大きさと共に、美しさでも有名なスタールビーです。
デロング夫人がこのスタールビーを1937年に所有したことから、デロングスタールビーと呼ばれるようになったそうですよ。
こんな素晴らしいスタールビーを独り占めにせず、博物館に寄贈して下さるなんて、なんて素晴らしい方なのでしょうか。
このスタールビーは数奇な運命を辿りました。1964年に博物館から盗まれたのです!
この時盗まれたのは「デロングスタールビー」だけではなく、「スター・オブ・インディア」などその他の有名宝石もあったといいます。
悪名高い強盗犯による犯行だったそうですが、交渉の結果、多額のお金と引き換えに宝石たちが引き渡されたそうです。
犯人から指定された引き渡し場所は、フロリダの電話ボックスの中だったそうですよ。
ただ、その中にデロングスタールビーはなく、別交渉で更に多額の身代金を支払い何とか取り返せたという逸話も残っているそうです。歴史を知るとより実物が気になりますねー。
その後は自然史博物館のセキュリティが強化されたとか。盗まれるなんて、二度とあってはなりませんよね。
ロッサーリーブス・スタールビー
スリランカ産のロッサリーブススタールビーは、世界最大のスタールビーである可能性が高いのだそうです。
1950年代にロッサリーブス夫妻がロンドンの宝石商からこの巨大で美しいスタールビーを購入した時は、140ctもの重さがあったそうです。
その後、スターの中心を石の真ん中に出現させるためにリカットが施され、138.72ctになりました。
やはりスタールビーは、スターが交差する点が石の中心にある方が麗しいですもんね。
ロッサリーブス夫妻は、1965年にこのスタールビーをスミソニアン博物館に寄贈しました。
お陰で、そこに行けば誰もが美しいスタールビーを見ることができるようになりました。
ロッサリーブス夫妻に感謝です!
スタールビーの価値基準と市場価格
スタールビーを購入するときに知っておくべきポイントは何でしょうか。
価値が決まる基準や市場価格、販売されている場所などについてまとめました。
価値基準
スタールビーにも様々なグレードがあります。
色、透明度、カット、カラットの組み合わせによって価値が決まってくるといいます。
スタールビーの色は、鮮やかなレッドで透明度が高くなる程に価値が高まります。
6条のスターは針状インクルージョンが多いほどハッキリと出現しますが、インクルージョンが多いと透明度が下がることも多いです。
つまり、透明度が高い程、スターが出にくくなりやすいのです。
従って、美しく透明度の高いレッドで6条のスターがハッキリ出現するものは希少性が高く、かなりの高値となるでしょう。
また、スターの中心が石の中央にあり、端から端まできちんと出ていることも、スタールビーの価値を高めるポイントです。
スタールビーはあまり大きなものは採れないことから、カラットが大きくなれば価値が上がる傾向もあります。
つまり価値の高いスタールビーとは、鮮やかなレッドで透明度が高く、石の中央から6条の光が強く出現して端まで伸びていて、カラットの大きいもの、ということになるでしょう。
ただそのように完ぺきなスタールビーはなかなか無く、あっても庶民には手が届かない博物館級のクォリティといえます。
市場価格
スタールビーは、クオリティによっては数千円の手ごろなものもありますし、数百万円する高品質もあります。
きっと、予算に応じたものを見つけることができるでしょう。
私はスリランカにいた時、ある程度の予算を決めて、その範囲で最高のスタールビーを何カ月もかけて探した経験があります。
スリランカではミャンマー産のように真っ赤なスタールビーはめったに産出しないので少しピンクがかっても良いとし、6条の光の一本が端まで届いてなくてもリングにセットすれば気にならないと思いました。
また、小さいものよりはなるべく大きく存在感のあるルースを選びました。
予算内で完璧なスタールビーを探すのは無理でしたが、色が濃くて透明度が高いのに光がしっかりと出ていて、とても満足しています。
予算によって様々なスタールビーが選べるので、そのプロセスを楽しんで下さいね!
どこで買える?
スタールビーはとても人気があるため、様々なところで販売されているようです。
オンラインショップでも取り扱っているお店があるようです。
スタールビーはルースでもジュエリーでもよく見かけますよね!
先ほども触れた通り、市販のスタールビーの中には含浸処理が施されたものや、合成スタールビーなどが混ざっている場合も多いそうです。
高価なスタールビーを買う時は、信頼のおける鑑別機関の鑑別書が付いているものが安心だと思いますよ。
別途料金で取ってもらえるお店もありますので、購入前に相談してみるのも良いと思います。
スタールビーのお手入れ方法
スタールビーの硬度は高く、未処理のものであれば超音波洗浄やスチームクリーナーを使うことができます。
しかし施されている処理によっては、超音波洗浄やスチームクリーナーによって割れることもあるので注意が必要です。
スタールビーの一番安全なお手入れ方法は、ぬるめの石鹸水で洗って柔らかい布で拭くことでしょう。
傷つきにくく日常使いも大丈夫といわれているスタールビーですが、あまりゴシゴシこすったりせずに、優しく大事に取り扱いましょう。
最後に
素晴らしいスタールビーの世界をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
様々な光源の下で浮かび上がる6条のスターは、いつまでも見飽きることがありません。
ますますスタールビーの虜になってしまいました。
スタールビーを見た時は、偽物と本物を見分けるポイントである「スターの見た目」「裏面」を思い出して下さいね。
いつかアメリカの博物館に行って、デロングスタールビーやロッサーリーブス・スタールビーを実際に見たいなぁ、と思っています。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『決定版 宝石』
著者:諏訪恭一/発行:世界文化社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版発行
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか