結晶がクォーツやトパーズなどに似ているといわれるスキャポライト。
かつてはシトリンやアメジストと間違われて流通していたこともあるといいます。
実は、このスキャポライト、単一の鉱物を指す名前ではないそうです。
少し調べたところメイオナイトとマリアライトという名前が出てきました。
何やら奥が深そうな、スキャポライト。
スキャポライトの特徴、色、種類、メイオナイトやマリアライトとの違いなどを探ってみましょう。
目次
スキャポライトとは?
スキャポライトは、冒頭でも触れたとおり、いわゆるグループ名で、一つの鉱物を指す名前ではありません。
発見当初は一つの鉱物と考えられていたそうですが、その後、実は異なることが解明されたといいます。
まずは基本情報から見ていきましょう。
鉱物としての基本情報
英名 | Scapolite(スキャポライト) |
和名 | 柱石(ちゅうせき) |
鉱物名 | スキャポライト |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 正方晶系 |
化学組成 | メイオナイト(灰柱石):Ca4(Al6Si6O24)(CO3,SO4) マリアライト(曹柱石):Na4(Al3Si9O24)Cl |
モース硬度 | 5 - 6 |
比重 | 2.5 ‐ 2.7 |
屈折率 | 1.54 ‐ 1.58 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
日本語の発音の違いから「スカポライト」と呼ばれることもあります。
屈折率がクォーツと近く、イエローやパープルのものは色味も似ていることから、アメジストやシトリンと間違われることも多かったといわれています。
結晶は透明から不透明で主にカラーレスやホワイトのものが多いそうですが、他にもさまざまな色で産出されます。
色によっては、見る角度を変えると色が異なって見える多色性が分かりやすいものもあるそうです。
また、ブラックライトを当てると、淡いピンクやオレンジ、イエローなどに蛍光する性質をもっているものもあります。
モース硬度が5 ‐ 6と高い方ではない上に、2方向に明瞭に割れる劈開の性質をもつため、ジュエリーとして身につける場合は特に注意が必要です。
色
スキャポライトは主にカラーレスやホワイトをしているといいますが、イエロー、パープル、グレー、ピンクのものが産出されることもあります。
このほか、ブラウン、オレンジなどが発見されたこともあるそうです。
産地
主な産地はカナダ、アメリカ、ミャンマー、タンザニア、スリランカ、マダガスカル、ブラジル、フィンランドなどです。
宝石品質のものは、ミャンマー、タンザニア、中国、オーストラリアなどから産出されることが多いといわれています。
他にも、メキシコ、イタリア、チェコ、ドイツ、ノルウエー、ガーナ、チリ、ロシアなど、世界各地から産出されています。
日本で産出されたこともあるそうですよ。
原石の形
スキャポライトの原石は主に変成岩、石灰質片麻岩、緑色片岩などに生成するといわれています。
大理石の中から見つかることもあり、時に非常に大きな結晶が発見されることもあるそうです。
斑レイ岩中の燐灰石脈や花崗岩に貫かれた水成岩中などから産出されることもあります。
結晶は正方晶系に属する横断面が四角い柱状で見つかることが多く、他にも塊状、粒状などが見られます。
結晶は透明から不透明でガラス光沢をもっています。
2方向に明瞭なへき開の性質をもち、不平坦状から貝殻状の断口を見せます。
結晶の長さが25cmにも及ぶ、大きなものに成長することもあるそうですよ。
はっきりした錐状と卓面が伸びており、ベスビアナイト(ベスブ石)とよく似ているものもあるそうです。
名前の意味
スキャポライトはギリシャ語で棒という意味の「Scapos(スカポス)」と石という意味の「Lithos(リトス)」を組み合わせてScapolite(スキャポライト)と名付けられたといわれています。
スキャポライトの結晶が柱状をしていることに由来しているそうです。
和名も同じ理由から「柱石」(ちゅうせき)と名付けられました。
スキャポライト、メイオナイト、マリアライトの違い
前述した通り、スキャポライトとはグループ名です。
スキャポライトは、主にカルシウムを含むメイオナイト(灰柱石)と、主にナトリウムを含むマリアライト(曹柱石)の2つの成分が混ざり合ってできた固溶体です。
メイオナイトにもマリアライトにも純粋なものは見つかっておらず、大抵のものは20%以上もう一方の成分を含んでいるそうです。
カルシウムが多ければメイオナイト、ナトリウムが多ければマリアナイトに分類されます。
ただ、機械を使って詳しく成分分析をしなければ詳しく分からないそうで、スキャポライトとして流通するものも多いようです。
かつては、固溶体の中でも含有する成分の比率によってもっと細かく名前が分けられていたようですが、今は殆ど使われていないそうです。
では、メイオナイト、マリアナイトの特徴とかつて使われていた他の名前についても少しご紹介しましょう。
メイオナイト
カルシウムを多く含むスキャポライトです。
和名は、灰柱石(かいちゅうせき)といいます。
メイオナイト(Meionite)の名前は、1801年にフランスの鉱物学者ルネ・ジュスト・アユイが命名したといわれています。
アウイナイトの名前の由来にもなった著名な鉱物学者ですね!
メイオナイトの結晶は、見た目のよく似たベスビアナイトよりもなだらかな錐面をしています。
このことから、ギリシャ語でより少ないという意味の「meion」にちなみ、Meioniteと名付けられたそうです。
マリアライト
ナトリウムを多く含むスキャポライトです。
和名は、曹柱石(そうちゅうせき)です。
マリアライト(Marialite)の名前は、1866年にドイツの鉱物学者フォン・ラスが命名したといわれています。
ラス氏の妻の名前(マリア)に由来しているそうです。
かつて呼ばれていた名前
ウェルネライト(Wernerite)
最も多いタイプと考えられており、ミッゾナイト(Mizzonite)とも呼ばれていたそうです。
20~60%のマリアライトと40~80%のメイオナイトで構成されたものをこう呼んでいたそうです。
ディパイライト(Dipyrite)
ディパイア(Dipyre)とも呼ばれる、中間型のタイプです。
50~80%のマリアライトと20~50%のメイオナイトで構成されたものをかつてこう呼んでいたそうです。
シルビアライト(Silvialite)
メイオナイトとマリアナイトの中間体であるスキャポライトは、カルシウムとナトリウムの比率が個体によって異なりますが、同じように塩素・炭酸基・硫酸基も入れ替わると考えられています。
硫酸基が多いタイプをかつてはシルビアライトと呼んでいたそうです。
スキャポライトの種類
スキャポライトの中には、見た目が異なったり、特殊な性質をもつものもあります。
幾つかご紹介しますね!
スキャポライトキャッツアイ
スキャポライトの中でチューブ状の内包物を含み、カボションカットにすることでキャッツアイ効果(シャトヤンシー効果)を見せるものをスキャポライトキャッツアイと呼びます。
ピンクやパープル、ホワイト、イエロー、ダークグレー、赤褐色など様々な色で見られます。
レインボースキャポライト
無色の結晶で茶褐色や褐色の縞模様が入ったレインボースキャポライトと呼ばれるものがあります。
レインボースキャポライトは、暗い場所で強い光を当てるとレインボーカラーに光ります。
その姿はとても神秘的ですよ!
テネブレッセンススキャポライト
蛍光性をもつスキャポライトがあることは前述しましたが、中には蓄光性をもつものもあります。
これらは、ブラックライトで暫く照射した後、ブラックライトを切ると色が変わり暫く戻らないという性質をもちます。
この効果をテネブレッセンス効果と呼びます。
テネブレッセンス効果をもつことで有名なのはハックマナイトですね。
スキャポライトの価値基準と市場価格
価値基準
有色のスキャポライトは、他の色石同様、色が濃く透明度が高いもの程価値が上がり、カットの美しさやカラットによっても評価が変わります。
天然のパープルやヴァイオレットは希少性が高いことから価値高く扱われます。
ブルー味が強い程評価が上がります。
スキャポライトの中には照射処理を施されたものもあるといいます。
天然のスキャポライトは淡いパープルのものが多いそうです。
通常、イエローよりパープルの方が価値が高いものが多いそうですが、照射処理が施されたパープルは天然イエローよりも価値が下がるといわれています。
また、レインボースキャポライトやテネブレッセンススキャポライトなどはコレクター人気も高く、通常のスキャポライトよりも全体的に価値高く扱われるものが多い印象です。
市場価格
スキャポライトはサイズが小さいものは一万円以下でも十分探せます。
ブルー味が強いものやレインボースキャポライト、テネブレッセンススキャポライトなどは数万円以上するものも多い印象です。
何処で買える?
ルースであれば、ミネラルショーやオンラインショップを中心に見かけることは多い印象です。
色々なお店を見て比較検討することも可能かと思います。
レインボースキャポライトやテネブレッセンススキャポライトもタイミングが合えば見つけられると思います。
脆い性質からジュエリーとして加工されるものは少ない印象ですが、全くない訳ではありませんので、興味がある方は探してみると良いと思います。
最後に
スキャポライトは、メイオナイトとマリアライトなどが属するグループ名だということが分かりました。
スキャポライトは見た目がアメジストやトパーズ、クォーツなどに似ていることから、これらの宝石と混同されてきた歴史があります。
しかし、キャッツアイ効果や多色性、蛍光性なども見せるスキャポライトは、色々集めたくなる、宝石好きにはたまらない魅力があるのではないかと思います。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『美しい鉱物と宝石の事典』
著者:キンバリー・テイト 訳:松田和也/発行:創元社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社