ダイオプサイド(ダイオプサイト)は、透明感のある深いグリーンが印象的な宝石です。
エメラルドやツァボライトそっくりの鮮やかなグリーンが煌めくものもあり、私たちの目を楽しませてくれます。
ダイオプサイドは、グリーン以外を発色するものやキャッツアイやスターなどの光学効果を現すものもあり、表情豊かな宝石。
どんな宝石なのか、特徴、色、産地、価値、お手入れ方法など、色々な角度からご紹介したいと思います。
目次
ダイオプサイド(ダイオプサイト)とは
ダイオプサイドは輝石の仲間で、様々な火成岩や変成岩に含まれる造岩鉱物です。
ダイオプサイトと呼ばれることもありますね。
輝石には20種類ほどあって、単斜晶系と斜方晶系に分かれています。
ダイオプサイドは単斜輝石のグループに属しており、カルシウムとマグネシウムを含む種類に分類されています。
輝石グループの宝石としては、日本で産出されることでも知られる翡翠輝石(ジェダイト)や9月の誕生石に新しく加わったクンツァイトが属するリシア輝石(スポジュメン)などがあります。
鉱物としての基本情報
英名 | Diopside(ダイオプサイド) |
和名 | 透輝石(とうきせき) |
鉱物名 | ダイオプサイド |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 単斜晶系 |
化学組成 | CaMg(Si2O6) |
モース硬度 | 5.5 – 6.5 |
比重 | 3.22 – 3.43 |
屈折率 | 1.66 – 1.72 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
ダイオプサイド(ダイオプサイト)の特徴として、まず複屈折が大きいためダブリングが見られることが挙げられます。
ダブリングとは、図形や文字などが書いてある紙の上に置き、宝石を通して下を見た時、図形や文字が2重に見える現象です。
ダブリングの有無が、鑑別でダイオプサイドであるかどうかを見分ける一つの指標になるそうですよ。
強い多色性があり、見る角度によって異なる色合いに見えることや「透輝石」という和名のとおり、輝石グループの中では透明度が高い結晶が多いことも特徴の一つです。
色
グリーンの印象が強いダイオプサイドですが、冒頭でも触れた通り、グリーン以外の色合いを呈するものもあります。
カラーレス、ホワイト、ブルー、パープル、ブラウン、イエロー、グレー、ブラックなど、実は色彩豊か。
イエロー掛かったブラウンや、グリーン掛かったブラウンもありますよ。
透明度が低めのグリーンのものは翡翠にそっくりです。
クロムを含むと濃く鮮やかなグリーンに、マンガンを含むとバイオレットからパープルを呈すると考えられています。
また、鉄の含有量が多くなると色が濃くなり、密度が増すのだそうです。
産地
ダイオプサイドの産地は、世界各地に散らばっている印象です。
宝石品質のダイオプサイドは、イタリア、アメリカ、オーストリア、スリランカ、カナダ、ブラジルなどで産出されるといわれています。
クロムを含み鮮やかなグリーンを呈するクロムダイオプサイドは、主にロシア、パキスタン、ミャンマー、南アフリカなどで採れ、インドでは、スター効果をもつスターダイオプサイドが採れるそうです。
他にも、マダガスカル、スイス、フィンランド、スウェーデン、日本でも見つかったことがあります。
原石の形
ダイオプサイドの原石は、主に単柱状、粒状の集合体、葉片状の塊などで産出されるといわれています。
板状や大きな柱状結晶の集合体で見つかることもあるようですね。
通常、スカルンや超塩基性岩の中に生成し、火成岩の中でできるものは鉄やクロムを多く含んでいるといいます。
また、ダイオプサイドはキンバーライトで生成し、ダイヤモンドと一緒に見つかることもあるそうですよ。
ダイオプサイドの結晶の形は角閃石に似ていますが、劈開(へきかい)の交わる角度で、区別できるといいます。
また、ヘデンバージャイト(灰鉄輝石)やヨハンセナイト(ヨハンセン輝石)との間に固溶体(※)を作り、一緒に産出されることも多いようですが、見た目がよく似ており、この3つの鉱物を肉眼で見分けることはプロでも難しいそうです。
※固溶体:複数の成分が混ざりあってできた中間体の鉱物のこと
名前の意味
ダイオプサイドはギリシャ語で「二つの見え方をするもの」という意味の言葉が元になっています。
二つやダブルを意味する「di」と、見え方や外観という意味の「optis」を合わせて「diopside」となったのだそう。「ジオプサイド」とも読まれています。
名前の由来となった「二つの見え方」ですが、ダイオプサイドがもつ、ダブリングや多色性の性質を指してのことだそうですよ。
ダイオプサイドには「アラライト」という呼び名もあります。
これは産地のひとつであるイタリアのアラ渓谷が由来となっているもの。
また、「シェッフェル輝石」や「白シェッフェル輝石」「亜鉛シェッフェル輝石」などと呼ばれていたこともあったそうですよ。
ダイオプサイド(ダイオプサイト)の種類
画像:クロムダイオプサイド
ダイオプサイド(ダイオプサイト)には変種が幾つか存在しています。
特徴的な色合いのものや、光学効果をもつものなど。
では、主だったものを幾つかご紹介しましょう。
クロムダイオプサイド
クロムダイオプサイドは、クロムを多く含んだダイオプサイドです。
深く鮮やかなグリーンが特徴的でエメラルドやツァボライトに似た雰囲気をもっています。
「ロシアンエメラルド」と呼ばれることもあるそうですよ。
惚れ惚れするような麗しいグリーンを呈し、ダイオプサイドの中では高い人気を誇ります。
希少性が高い種類なのですが、近年、ロシアで大鉱床が発見され、徐々に流通量が増えてきているという話を聞いたことがあります。
手に入れるチャンスが増えると良いですね!
ダイオプサイドキャッツアイ
ダイオプサイドキャッツアイは、キャッツアイ効果をもつダイオプサイドです。
ダイオプサイドのキャッツアイ効果は、針状のマグネサイトがインクルージョンとして含まれることからと考えられているそうですよ。
繊維状のダイオプサイドをカボッションカットにすると、キャッツアイが出ます。
ダイオプサイドキャッツアイは半透明で、グリーンから深いグリーンの色味が多いようです。
クリソベリルキャッツアイなどに比べ、光が柔らかく感じますね。
スターダイオプサイド
スター効果のある宝石といえば、6条の光が美しいスターサファイアやスタールビーが有名ですが、ダイオプサイドの中にもスター効果をもつものがあります。
ただ、ダイオプサイドのスターは4条であることが多いといいます。十字架のようなイメージですね。
これらを十字スターと呼ぶこともあるそうですが、実はこれ、スターダイオプサイドから生まれた言葉なのだそうですよ。
スターダイオプサイドの地色は、暗めで濃い褐色やブラックなどが多く、カボッションカットを施し光を当てると、シルバー系の幻想的なクロスが浮かび上がります。
ダイオプサイドの中では比較的流通量が多いといわれています。
ビオラン
バイオレット~パープルの発色が美しいダイオプサイドは、「ビオラン(Violane)」や「バイオレーン」と呼ばれています。
18世紀にイタリア北部の鉱山で発見されたといわれています。
ビオランと言う名前は、「すみれ」を意味する「Viola(ヴィオラ)」が由来となっています。
美しいパープル系の色合いは、前述の通りマンガンの作用によるものと考えられています。
ダイオプサイドとダイオプテーズの違い
画像:左-ダイオプサイド 右-ダイオプテーズ
ダイオプサイド(ダイオプサイト)と見た目も名前もよく似ている宝石があります。
その名もダイオプテーズ(Dioptase)。
しかしこの二つ、全くの異なる鉱物です。
ダイオプテーズは和名を「翠銅鉱(すいどうこう)」といい、主に銅鉱脈の酸化帯で銅の二次鉱物として生成されます。
エメラルドと間違えられるほど鮮やかなグリーンなのは、ダイオプサイドと似ていますね。
ダイオプテーズの結晶は六方晶系(三方晶系)で、単斜晶系のダイオプサイドとは結晶の形も異なります。
ダイオプテーズもとても美しい宝石なのですが、脆い性質と粒状で見つかることが多いことから、カットされたルースやジュエリーが市場に出回るものは少ないとされます。
ダイオプサイド(ダイオプサイト)の価値基準と市場価格
画像:クロムダイオプサイド
実際にダイオプサイド(ダイオプサイト)を買おうとする場合、何を基準に選択すれば良いのでしょうか。
ダイオプサイドの価値基準や市場価格が分かると一つの指針にしやすいですよね。
簡単にご紹介しましょう。
価値基準
高い価値が認められるダイオプサイドとは、まず、色が鮮やかなこと。
特に、鮮やかなグリーンの発色が見られるクロムダイオプサイドに高い価値が付けられることが多いようです。
次に、透明度が高いこと。インクルージョンが入って曇ることがあるため、透明度の高さは評価されるようです。
そして、カットが美しいこと、サイズが大きいことも評価の対象になります。
キャッツアイやスターなど、光学効果をもつものは、上記に加え、効果が分かりやすいこと、ルースの中央に真っすぐ入っていることも価値に影響するようです。
市場価格
ダイオプサイドの市場価格はどれくらいなのでしょうか。
品質や大きさによっては、一万円以下で探すこともできるようです。
透明度が高くて鮮やかな発色がみられるなど、品質が高くサイズが大きいものは、数万円以上で流通しているようですね。
クロムダイオプサイドの場合、品質や大きさによっては数千円から数万円以上と、普通のダイオプサイドよりも全般的に高くなる傾向にあります。
ダイオプサイドは、GUCCIなど有名ブランドのジュエリーに用いられることもあります。
ハイブランドの高品質ジュエリーは、数十万円以上であることが多いでしょう。
どこで買える?
比較的多くの店で、ダイオプサイドやクロムダイオプサイドのルースを取り扱っている印象です。
オンラインショップや、ミネラルショーなどのイベントでも探すことができるでしょう。
ダイオプサイドのジュエリーも、数は減りますが時々流通しているのを見かけますよ。
ダイオプサイド(ダイオプサイト)のお手入れ方法
ダイオプサイド(ダイオプサイト)の輝きをいつまでも保つためには、どのようにお手入れをすれば良いでしょうか。
2方向に明瞭な劈開があるダイオプサイドは、欠けやすいため、取り扱いには注意が必要です。
落としたりぶつけたりしないよう、気を付けてくださいね。
超音波洗浄は使わないほうが良いでしょう。内部にキズや割れがある場合には、破損の恐れがあります。
汚れが目立つ場合、柔らかい布でそっと拭くか、石鹸や中性洗剤を溶かしたぬるま湯で優しく洗うようにしてください。
他の宝石や貴金属などと一緒に保管するとぶつかって傷が付く恐れがあるので、仕切りのある箱や小袋に入れるなどして、個別にしておくとより安心でしょう。
最後に
ダイオプサイド(ダイオプサイト)についてお話しましたが、いかがでしたか。
意外とカラーバリエーション豊富で、個性的な光学効果などもあって、楽しみの多い宝石だということが分かりましたね。
私はグリーンの地色に一条の光が現れる、ダイオプサイドキャッツアイに心が惹かれました。黒猫の瞳をのぞき込んでいるような神秘性を感じてしまいます。
また、クロムダイオプサイドの鮮やかなグリーンも魅力的でしたね。
十字に光るスターダイオプサイドはなんだか厳かな雰囲気を感じました。メンズジュエリーによく合うという声もありますよ。
産地は世界中に散らばっていました。今後新たなダイオプサイドの鉱脈が見つかるかもしれませんね。
素敵なダイオプサイドとの出会いがありますように!
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『起源がわかる宝石大全』
著者:諏訪恭一、門馬綱一、西本昌司、宮脇律郎/発行:ナツメ社
◆『鉱物・宝石の科学事典』
編集:日本鉱物科学会/編集協力:宝石学会(日本)
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社 ほか