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産業革命が起こった英国のジョージ王朝時代は、ジュエリーのデザインにも大きな変化が現れた時代でした。
ジョージ王朝時代のジュエリーには、どのような特徴があるのでしょうか。
ジョージ王朝時代の時代背景とジュエリーに及ぼした影響、当時のデザイン傾向や素材、技術などについてお伝えしていきます。
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目次
ジョージ王朝時代とは
ジョージ王朝時代とは、英国のハノーヴァー朝でジョージ1世からジョージ4世が即位した1714年から1830年の間とその後即位したウィリアム4世が崩御する1837年までの時代を指します。
この時代に誕生した芸術や文化を、ジョージアンと呼んでいます。
1770年の産業革命後、工場の開設や蒸気動力や輸送ネットワークなどが発展し、人々の生活は大きく変化しました。
ジョージ王朝時代には洗練されたファッションなどが流行し、古典からの影響を受けた芸術や建築、文学なども注目されました。
ジョージアンジュエリーの特徴
ジョージアンジュエリーはイギリスだけではなく、フランス、イタリア、ドイツを始めとしたヨーロッパ各国で起こった社会背景などもデザインに大きな影響を与えています。
産業革命により機械化が進んだ時代に相反するように、職人による手作業のジュエリーに注目が集まります。
特にこの時代は金細工職人による高度な技術が発展します。
長い時間と手間をかけて、古代の金細工を復元したような繊細で複雑な金細工の作品が作られました。
また、この時代には花やリボンといったロマンチックなモチーフや古代を題材にしたモチーフもリバイバルします。
素材は、ゴールドの地金にダイヤモンドやルビー、サファイアなどのカラーストーンが用いられており、華やかで豪華な印象のジュエリーが特徴的です。
ネックレス、リング、イヤリングのほか、小さな眼鏡やハサミ、時計などの日用品をフックに付け、ひとまとめにしてベルトからぶら下げるシャトレーンも好んで着けられました。
ジョージアンジュエリーの素材
ジョージアンジュエリーには、ゴールドにカラーストーンをセッティングしたものが多く見られます。
この頃イギリスが支配していた植民地からもたらされた宝石も多く用いられたようです。
一方、高価な貴金属や宝石の代用品として、合金やペーストガラスなどで作られたコスチュームジュエリーの流行が始まった頃でもあります。
貴金属
ジョージアンジュエリーには主にゴールドが用いられましたが、需要に見合った量のゴールドが採れない時代でもありました。
そのため職人は、ゴールドを薄くのばして細工を施したり、工夫を凝らし、少ない素材でも豪華に見せる努力をしたと考えられています。
金細工技術が発展した背景にはそんな事情があったのですね。
18金以上のゴールドやシルバー、スチール、鉄のほか、銅と亜鉛による合金ピンチベックも多く使用されました。
ピンチベックとは、ジョージ王朝時代にイギリスで発明された合金で、ゴールドと見た目が似ていることから人気を博しました。
また、ドイツでは1813年、戦争資金を調達するため市民に所有する金を寄付するように求めました。
市民はゴールドと引き換えに鉄のジュエリー、「ベルリン・アイアン」を与えられます。
「ベルリン・アイアン」には“Gold gab ich fur eisen.”(私は鉄のために金を渡した)との刻印が記されました。
現在は希少なため、大変高い価値が付いています。
ピンチベックについて詳しく知りたい方はこちらの記事も参考に
宝石
1750年以前はダイヤモンドが主流でしたが、その後はルビー、サファイア、パール、トパーズ、ガーネット、クリソベリル、珊瑚なども多く使用されました。
ダイヤモンドやカラーストーンの安価な代用品として、ペーストガラスなども流行します。
この時代、ダイヤモンドには、ローズカット、テーブルカット、オールドマインカットなどが、カラーストーンには、ブリオレットカットやカボションカットなどが施されることが多かったようです。
ジョージアンジュエリーのスタイル
ジョージアンジュエリーは、繊細な金細工や大ぶりのカラーストーン、ダイヤモンドを配した豪華なスタイルが特徴的です。
同じ素材とデザインを用いたセットジュエリーであるパリューレも好んで着けられました。
ジョージ王朝時代は、より明るく長く燃えるろうそくが発明されたことなどから、夜の社交場が増えた時代でもあったといわれています。
これにより、昼と夜とでジュエリーを使い分けるスタイルが主流となり、昼間はパールやカラーストーンなど、夜はダイヤモンドで身を飾るのが一般的になっていきます。
光の反射を強め、宝石の輝きを高めるために裏などにホイル(金属を薄く伸ばしたもの)を貼る手法も一般的で、宝石のセッティング方法としては後ろをふさぐクローズドバックスタイルが多く用いられました。
また、ジュエリーで愛する人への思いを表現するようになったのもこの時代からで、様々な形で気持ちを表現したセンチメンタル・ジュエリーが多く作られました。
ジョージ王朝時代に見られるようになった、センチメンタル・ジュエリーは下記の通りです。
リガード(REGARD)
Ruby(ルビー)、Emerald(エメラルド)、Garnet(ガーネット)、Amethyst(アメシスト)、Ruby(ルビー)、Diamond(ダイヤモンド)の6石の宝石を配し、その頭文字で相手への敬意を表す言葉、「REGARD」のメッセージを伝えたものです。
ミニチュア肖像画
大切な人のミニチュア肖像画をブローチなどにはめ込んだものです。
ラヴァーズアイ
愛する人の目の肖像画を、ブローチなどにはめ込んだものです。
ヘアジュエリー
愛する人の髪の毛をロケットの裏側に入れたり、編んだ髪の毛をリングなどに配したものです。
モーニングジュエリー
亡くなった人への追悼の想いを表し、喪に服すジュエリーで、この時代に初めて登場したと見られています。
ジョージアンジュエリーのデザイン
ジョージ王朝時代のネックレスは、チョーカーや、大きなカラーストーンを1石ずつ全体に連ねた、リヴィエール・ネックレスなどが流行しました。
イヤリングは宝石をいくつもドロップしたシャンデリア・タイプが主流で、中でもリボン型のトップからペアシェイプのダイヤモンドを配したペンデロークが人気でした。
繊細な金細工が施されたデザインのジュエリーも好んで作られました。
ジョージアンジュエリーのモチーフ
ジョージアンジュエリーには、花や葉などの植物や、蝶やトンボなどの昆虫、鳥や羽毛、三日月、弓など自然のモチーフが流行しました。
ポンペイ遺跡の発掘が行われたことから、古代ギリシャ・ローマのモチーフやカメオなども流行ります。さらにナポレオンのエジプト遠征を記念して、エジプトのモチーフも流行しました。
センチメンタル・ジュエリーでは、ハートや手を繋いだモチーフが、モーニング・ジュエリーでは、骸骨や墓石、棺桶などのモチーフが用いられていました。
金細工技術
前述したとおり、ジョージ王朝時代は、金細工技術が向上した時期として有名です。
当時は金細工職人の高度な技術による手作業により、長い時間をかけた繊細な金細工作品が完成しています。
当時を代表する2つの金細工技術をご紹介していきます。
レポゼ(Repoussé)
レポゼとは、金属をハンマーで叩いて打ち出す金細工技法です。
金属を打ち出すことにより、繊細で複雑なモチーフが浮き彫りの模様に見えます。
当初は金属をハンマーで叩いて薄いシートにしていましたが、後に圧延機が発明され、機械化しました。
カンティーユ(Cannetille)
カンティーユとは、刺繍からインスパイアされた「フィリグリー」に似た金細工技法です。
細い線にした金を螺旋状に巻いて繋いでいく、線状細工のことです。
繊細なゴールドワイヤーを複雑に巻き上げ、刺繍網のような見た目に仕上がります。
最後に
ジョージ王朝時代には、王侯貴族や富裕層の華やかなドレスに合う豪華なデザインや、愛する人への思いを込めたジュエリーが多く製作されました。
この時代に作られたものが、後の時代に溶かされて別のジュエリーの素材にされたことも多かったようで、現存するものが少ないといわれています。
流通量に限りがあるため、価値も高くなります。
購入される際には、お店の方の説明をしっかり聞くなどして、価値や品質を確かめてから選ばれることをオススメします。
※こちらの記事で使用している画像は全てイメージです。異なる時代のものが含まれている場合もございます。
各時代別の特徴やスタイルをまとめた記事はこちら!
カラッツ編集部 監修