バライトの和名は重晶石。
和名のとおり、重さをしっかり感じる鉱物です。
このバライト、色調の幅があることも魅力的ですが、何といっても原石の形状がバリエーション豊富であるため、コレクター的に大変興味をそそられる鉱物なんです!
今回は、時間をかけて様々なタイプの原石を収集したくなるバライトについて、じっくりお話ししていきます!
目次
バライト(重晶石)とは?
重晶石のバライトはバリウムの資源鉱物としても重要な役割を担いますが、個人的にかなりコレクター向きの石と感じます。
というのも、同じ鉱物とは思えないようなさまざまな形態の原石が存在するからです。
一般的な柱状結晶や彫刻のようなユニークな形をしたものもあれば、少しグロテスクなものもあり、写真を見るだけでも楽しいと思えます。
とにかく底知れない不思議な魅力たっぷりの愛すべき鉱物なのです!!
鉱物としての基本情報
英名 | Barite |
和名 | 重晶石 |
分類 | 硫酸塩鉱物 |
化学組成 | BaSO4 |
結晶系 | 斜方晶系 |
モース硬度 | 3 – 3.5 |
比重 | 4.3 – 4.6 |
屈折率 | 1.63 – 1.66 |
光沢 | ガラス光沢、樹脂光沢、真珠光沢 |
特徴
バライトは、先ほどお話ししたように原石の形態が多いことが最大の特徴です。
板状結晶のもの、鶏のトサカのような結晶のもの、柱状の結晶をつくるものなど、他にもさまざまなタイプがあります。
どれもユニークで、同じ鉱物とは思えない面白さがたまらなく魅力的なのですよ。
また、比重がダイヤモンドやルビー、サファイアより大きく、しっかりとした重さを感じられます。
色が美しく透明感があるものもありジュエリーにしたくなりますが、残念ながら硬度が低く劈開(へきかい)性が3方向にあることから、脆く欠けやすいためジュエリーとしては不向きなようです。
それでも時々コレクターのためにファセットカットにされたルースが市場に出回ることはあるようです。
色
無色、灰色、赤、茶色、黄色、淡青、淡緑など実はカラーバリエーションが豊富な鉱物です。
特に黄金色や青色を発色し、透明感のあるものは珍重されているといいます。
青色は鉄の含有による発色と考えられており、中には一見アクアマリンと見間違うような色のものもあるそうです。
また黄金色もリッチな感じでなかなか魅力的です。
黄金色のものはアメリカの一部の地域から産出されるといわれており、特に稀少性が高い種類のようですね。
コレクター用にファセットカットされた写真を見るだけでも素晴らしさが伝わってきます。
もし重晶石がここまで脆い鉱物でなかったら美しい宝石としてもっと愛されていただろう、といわれるのもとても納得できる気がします。
産地
重晶石は世界中でよく産出される鉱物です。
多く産出される国はアメリカ、カナダ、スペイン、ドイツ、フランス、インド、ルーマニアなどが挙げられます。
さらにはイギリス、イタリア、チェコ共和国で産出されることもあるといいます。
日本でも秋田県小坂鉱山、北海道松 倉鉱山 (黒鉱鉱床)、手稲鉱山 (熱水鉱脈)、秋田県河原毛(温泉沈殿物)などから産出されていたことがあったそうです。
現在はどの鉱山も閉山しているそうです。
名前の意味
バライトの名前はギリシャ語の「重い」を意味するbarysに由来します。
鉱物は4.0以上の比重があればヘビージェムといわれますが、バライトは4.5。
コランダムのサファイアやルビーが4.0、ダイヤモンドは3.52ですから、それらの宝石より重いという訳ですね。
ちなみに、比重のある代表的な鉱物として辰砂(シンシャ)があり、8.0もあります。
他に比重が高いものはキャシテライト(錫石)7.0、ヘマタイト(赤鉄鉱)5.3などが挙げられます。資源鉱物として有名なものばかりですね。
また、パイライト、ルチル、ジルコンなども重い石の部類に入ります。
バライト(重晶石)の原石の形
重晶石のバライトは主に鉛と亜鉛の低温熱水鉱脈、石灰岩などから産出されるといわれています。
また、砂中で地下水の蒸発によって形成される場合もあります。
冒頭から何度かお伝えしていますが、原石の形は実に様々です。
多く産出される形は板状、柱状、鶏のとさか状の集合体のものだそうですが、他にも鍾乳石状、石筍状、花弁状の集合体などもあるといわれています。
重晶石の原石は方解石や閃亜鉛鉱などを伴って産出されることもあるといいます。
また、鍾乳石状や石筍の断面を研磨すると木のような年輪構造が現れるそうです、実に面白いと思いませんか。
それぞれの結晶形の主な形態を表にまとめてみましたので、参考にしてください。
結晶の形 | 形態 |
板状結晶 | 四角い板状の結晶が横方向に段々と重なる、又はランダムに組み合わさる形態 |
柱状結晶 | ひずみのある6角形の柱状で、水晶に代表されるような形を形成する |
鶏のとさか状 | とさかのような形で重なりあって塊を形成する |
鍾乳石状 | 鍾乳洞でみられるような天井から滴り落ちてツララのようになった結晶形態 |
石筍 | 鍾乳石状が床に蓄積してタケノコのように育った形態 |
花弁状 | 花びら状の結晶で砂漠のバラといわれる形態 |
砂漠のバラとは
砂漠のバラと呼ばれるものがあることをご存知でしょうか。
花弁状の結晶形を成し、色や形が砂漠に咲くバラのように見える鉱物です。
恐らく一般的に多いのは石膏鉱石のジプサム(Gypsum)の方かと思いますが、バライトでも砂漠のバラを形成するものがあり、ジプサム同様に人気があります。
しかしどうしてバラのような結晶になるのでしょう。
元々砂漠でオアシスがあった場所に砂漠のバラが見つかっているそうです。
砂の中で地下水が蒸発するときに、水中に沈殿していた硫酸カルシウムや硫酸バリウムが花弁状の結晶を生成していくと考えられています。徐々に成長し、花びらが重なり合うような美しい形を作るそうです。
本来は透明な結晶のようですが、砂が付着していたことから表面がザラザラしているといわれます。
砂漠のバラはどれも人為的に作れない面白い形をしていて、まさに自然が創り出したアートといえるでしょう。
ちょっと見た目がコワい気もしますがバラがクラスター状になった両手で抱えるほど大きいものもあるようです・・・。
バライトの仲間
画像:セレスタイト
バライトグループにはバライトの他に、アングレサイト(硫酸鉛鉱)、セレスタイト(天青石)が存在します。
見た目は似ているものもあるようですが、比重がそれぞれ異なり、アングレサイトが6.3-6.4、セレスタイトが3.89-4.19です。アングレサイトは重晶石バライトよりも重いのですね。
しかしこの3つは類質同像の関係にあるといわれ、成分が混じり合って固溶体を構成するものもあるといわれます。個体によっては鑑別が難しいものもあるそうです。
アングレサイトは主成分に鉛(Pb)を、セレスタイトはストロンチウム(Sr)を含みます。
ストロンチウムは赤く炎色反応を起こすことが特徴の一つで、花火の材料として使われることもあるといいます。この特徴がセレスタイトの鑑別に役立つこともあるそうです。
クールな青色が魅力のセレスタイト
セレスタイト(セレスタインと呼ばれることもあります)は和名の天青石からも想像ができるように青色が印象的な鉱物です。
色は無色や白色、グレー、オレンジのものなどもありますが、最も一般的なものはグレーを含んだ薄い青色のものです。
青色~濃青色のものが産出されることもあるようです。
艶のあるガラス光沢や真珠光沢をもちます。
最初の発見は1781年で産出場所はイタリアのシチリア島でした。
名前の由来は諸説あり、一説に1798年にドイツの鉱物学者ウェルナーによって空の色( celestial)から空の色の石(celestite)と名づけられた、というものがあります。
良質な結晶が採れることで有名なのはマダガスカルで、ロッククリスタルやアメジストのような角柱結晶が見つかることもあるといわれています。
名前の由来となった、celestialは「天国のような」「神々しい」などの意味もあり、どこか心にひっかかる素敵なイメージですよね。
バライトと同様に非常脆い性質をもつといわれ、ファセットカットされたルースが市場に出回ることは稀ですが、コレクター人気が非常に高い印象がある宝石です。
資源鉱物としての用途
重晶石のバライトはバリウムの資源として私たちの生活に役立っています。
バリウムはX線を通しにくい性質があるので胃のレントゲン検査に使われています。
経験のある方には分かるでしょうが、ドロドロした粘度の強いあの液体です!
他には工業用として原料の混合剤や、紙や布の充填剤、塗料の粘性調整剤の用途があります。
身近なところでは白色顔料など化粧品、ガラス、インキ、プラスチックと、かなり広範囲に使われる資源鉱物のひとつです。
産地のところで前述したとおり、かつては日本でもバライトが産出されていましたが、今は採れないことからバリウムも殆ど輸入に頼っているようです。
バライトの価値基準とお手入れ方法
重晶石のバライトは結晶形態が多様で面白く、集めてみたくなる鉱物なのではないかと思います。
眺めていると楽しいのでデスク周りのオブジェとして置いてみたくなる、そんな気がします。
脆い性質からカットが施されるものは少ないといわれることから、ルースの状態で出回っているものは少ない印象です。
バライトの価値基準は、他の色石同様
1.色の鮮やかさ
2.内包物の少なさ
3.大きさ
4.カットの良さ
により、評価が変わります。
お手入れで注意すること
重晶石のバライトはモース硬度が低く劈開性が3方向にあるため、簡単に割れてしまいます。
触れる際には欠けないように細心の注意をしましょう。
原石の複雑な形状にホコリや汚れがつくことを防げるため、透明なケースに入れてディスプレイにするのもおすすめです。
落下にも注意してあげて下さいね!
最後に
ユニークな風合いを楽しみたい個性豊かな鉱物重晶石バライト、いかがでしたでしょうか。
コレクター心が揺さぶられる気持ち、少しは伝わったでしょうか。
個人的には、クリアな白やブルーの板状か柱状結晶が母岩に存在するものを見つけたいところです。
次に真っ白い鍾乳石状の原石、黄金色や年輪のルースやも手に入れたいですね。
何役もこなす名役者のようなバライト。これを読んで興味をもった方がいらっしゃったら嬉しいです。
カラッツ編集部 監修