あのちびまる子ちゃんが宝石の魅力にどっぷりハマっていく物語・・・
そう聞いて、宝石が大好きな私としては、決して見逃すことができないと思った、
「ももこの宝石物語」。
大人になったちびまる子ちゃんが、どのようにして宝石の世界に足を踏み入れ、どんな素晴らしい宝石と出会い、ともに過ごすことになるのか、興味深いエピソードが詰まった素敵な本です。
読み物としてもかなり面白く、思わずゲラゲラと笑ってしまう場面もあって、きっと多くの方が楽しめるのではないかと思います。
この本をきっかけに宝石が好きになったという話も聞いた事がありますよ。
親しみやすい語り口調で宝石の世界へ導いてくれるさくらももこさんのエッセイ本。
発行は2002年と約20年前のものですので、既にお読みになったことがある方も多いかもしれませんが、今一度この本を取り上げ、私がこの本をおススメしたい理由と、重要な登場人物の知られざるエピソードなどをお話したいと思います。
この先一部ネタバレの情報および画像が含まれます。まだお読みでない方はご注意ください。
目次
「ももこの宝石物語」とは
改めまして、今回ご紹介する本は2002年に発行された「ももこの宝石物語」 (さくらももこ著 集英社文庫)です。
そう、テレビアニメでもおなじみのちびまる子ちゃんをこの世に生み出したさくらももこさんによる、宝石の本なのです。
雑誌non-noで連載していたコラムがまとめてあるのですが、ワクワクする宝石の話の中に抱腹絶倒のちびまる子ワールドが散りばめられていて、飽きずに楽しく読めてしまうのですよ。
「ももこの宝石物語」には、さくらももこさんが宝石好きになるきっかけとなったパライバトルマリンのお話をはじめ、全部で22もの宝石エピソードが紹介されています。
宝石や旅先の写真も沢山あって、とても読みやすい一冊です。
ちびまる子ちゃんと一緒に宝石の旅をしているような気分を味わうこともできるでしょう。
さくらももこさんは2018年に天国へ旅立たれてしまいましたが、それを知っている今読むと、思わずホロリとしてしまうようなお話もあったりして・・・。
そんな「ももこの宝石物語」をぜひおススメしたい!そのポイントは次の3つです。
理由1:まるちゃんの世界観そのままの文章が面白い
私はこの本を読むと、ちびまる子ちゃんの世界に自分も入っているかのような錯覚を起こしてしまいます。
この本の語り口がちびまる子ちゃんの台詞そっくりなせいか、読んでいる文字がアニメちびまる子ちゃんの声優TARAKOさんの声に自動変換される現象が、私の脳内で起きるみたいなのです。
そんな印象を持つ人、けっこう多いと思いますよ!
それに加えて、ちびまる子ちゃんの独特な世界観そのままに、お母さんやお父さんのヒロシも登場しますので、ますますアニメを観ているような楽しさを感じてしまいます。
大人になったちびまる子ちゃんですが、目の前の宝石がついつい欲しくなって買わずにはいられなかったり、お母さんにプレゼントした宝石が惜しくなったりと、中身は小学生の頃と変わらないのでは!?なんて思ってしまいました。
しかし一つだけ、アニメのちびまる子ちゃんと大きく違うところがあります。それは、さくらももこさんの息子さんが登場するところです。
息子さんも、お母さんと同じように宝石が大好きなんですよね~。やっぱり親子だなぁ、っていう感じで、とにかくホッコリするのです。
理由2:宝石の豆知識が得られる
「ももこの宝石物語」は宝石入門書にピッタリ、という感想をよく聞きますよ。
楽しく読み進めていくうちに、いつの間にか宝石の豆知識を得ることができる内容になっているのです。
少々複雑な内容でも、ちびまる子ちゃんが説明してくれると不思議とスッと頭に入ります。
私は「ヒスイの巻」で質の良いヒスイについて学びました。琅玕(ろうかん)という存在を、この本で初めて知りましたよ。
宝石や旅の写真もついているので、エピソードの内容と照らし合わせるとより一層イメージが鮮明になって分かりやすいという効果もありますね。
さくらももこさんが実際に買った宝石の写真も掲載されていて、素晴らしい色と大きさだなぁ~とウットリするとともに、次々と手に入れることができることに羨ましいなぁ~とも思いました。
この本の面白いところは、宝石の素晴らしい話をするだけでなく、旅先で偽物の宝石を買ってしまったという失敗エピソードなども紹介しているところでしょう。
ちびまる子ちゃんのトホホ・・・な顔が目に浮かんでちょっと笑ってしまうのですが、宝石を買う時は信頼のおけるお店に行くことの重要性を改めて教えてもらった気がします。
理由3:宝石への愛が分かり共感しやすい
この本には、宝石愛が溢れています。さくらももこさんが宝石の虜になっていく様子が描かれているのです。
素敵な宝石を目にして手に入れずにはいられなくなってしまうさくらももこさんの気持ち、そして宝石を失くしてしまった時の胸の痛みや宝石にすまないと思う気持ちなど、分かる分かる!と共感せずにはいられないエピソードも散りばめられています。
宝石との出会いは一期一会。
長い年月をかけて生成され、多くの人の手を経て国を越えて目の前にやってきた宝石との強い縁。
宝石との出会いも特別だということを「ももこの宝石物語」は教えてくれました。
宝石愛は周りの人にも伝わるのか、さくらももこさんのお母さんや息子さんも宝石が大好きです。宝石好きな友達も集まってきます。
さくらももこさんとお母さんの会話がアニメのちびまる子ちゃんとお母さんを彷彿とさせ、宝石愛ゆえのバトルもあって本当に面白いですよ~。
息子さんとは好きな色が一致していて、パライバトルマリンの色が二人の好きな地球色だというエピソードなど、胸にグッとくるお話もあります。
以上、「ももこの宝石物語」をおススメする3つの理由について述べましたが、いかがでしたでしょうか。
私自身、何年も前にこの本を読んでいたのですが、今回読み返してみても新鮮で面白いという印象はそのままでしたよ~。何度読んでも笑えるし勉強になりました!
故岡本憲将さんについて
「ももこの宝石物語」にはさくらももこさんやそのご家族の他に、とても重要な人物が登場しています。
それは宝石の世界の水先案内人ともいえる岡本憲将さん。銀座の宝石店ベルエトワールの先代の社長さんです。
この本のもう一人の主人公と言っても良いかも知れません。
岡本憲将さんは、残念ながら2017年1月に天国に旅立たれてしまいました・・・。
実は私、岡本憲将さんと1990年代にスリランカでお会いしているのです。そして、素晴らしいサファイアを手に入れることができたんですよ~。
では、岡本憲将さんのスリランカでの知られざるエピソードをご紹介しましょう。
スリランカの社会福祉に貢献した岡本憲将さん
世界の宝石産地を飛び回っていた岡本憲将さんは、ある日、スリランカで仏教の若いお坊さんに出会いました。
「社会福祉活動をしてスリランカに貢献したい」というそのお坊さんの夢に共感した岡本憲将さんは、コロンボ郊外のカダワタという地域の広大な土地をお坊さんにプレゼントしたのです。
お坊さんは岡本憲将さんに買ってもらった土地で「NESEC財団マヒンダ社会福祉センター」を立ち上げ、孤児院や幼稚園、図書館、仏教寺院、教育里親制度などの運営をはじめました。
スリランカの仏教は、日本の大乗仏教とは異なる、上座部仏教というもので、僧侶が何かの生産的な活動をすることはタブーとされていました。
しかしそのお坊さんはタブーを破り、スリランカの貧しい人々のために尽力する決心をしました。
今でこそ、スリランカには社会福祉活動をするお坊さんが大勢いますが、岡本憲将さんが土地を寄付した当時は殆どいなかったと思います。
岡本憲将さんの行いは、スリランカの社会福祉とお坊さんたちの意識に大きな影響を与えたのです。
マヒンダ社会福祉センターは地元の人から「ジャパン・パンサラ(日本寺)」と呼ばれていましたよ。日本人である岡本憲将さんの寄付によって始まったことを皆が知っているのです。
私はそのマヒンダ社会福祉センターで2年余り仕事をしたことがあります。センターには、岡本憲将さんの肖像写真が大きく掲げられていました。
恩人である岡本憲将さんを忘れず、常に身近に感じていたいというお坊さんの願いが込められているのです。
岡本憲将さんの思い
岡本憲将さんは何度か、マヒンダ社会福祉センターにいらっしゃいました。
スリランカの宝石鉱山をいくつか見に来たついでに立ち寄ったそうで、その後はオーストラリアに飛びオパール鉱山に行くというお話を伺いましたよ。
岡本憲将さんに、なぜこんな広大な土地をポンと、出会ったばかりのお坊さんにプレゼントしたのか尋ねると
「僕はね、スリランカにお世話になっているから、恩返しがしたかったんですよ。」
とのことでした。
なんと素晴らしい徳の高い方だろう、と感動したのを覚えています。
その上、大きな土地を寄付したことはあまり公表していませんし、偉そうなところも全くありませんでした。
それどころか
「実はね、土地をあげたばっかりにお坊さんが破門になって苦労させてしまったようで、後悔したこともあったんですよ。」
とも言っていました。
先ほども述べたように、生産的な活動をしてはいけないというタブーを破ったお坊さんは、所属していた宗派から破門されてしまったのです。
岡本憲将さんは、そんなお坊さんを気の毒に思っていたのだそう。
強い信念をもち活動を続けたお坊さんは、やがてスリランカ仏教界からも尊敬されて宗派に戻ることを認められ、今では大僧正という位も得ているようです。岡本憲将さんもホッとしたことでしょう。
コロンボのベルエトワール
岡本憲将さんは、コロンボのコルピティヤというとても賑やかな地区に宝石店ベルエトワールをオープンしました。
私はその店では「ボスの知り合い」と認識されていたので、立ち寄る度に良い宝石を見せてもらったり、欲しい石を探してもらったり、店員さんにとても親しくしてもらっていました。
そこでロイヤルブルーサファイアとカラーチェンジサファイアを買い、ゴージャスなリングを作ってもらいましたよ。
お陰様で、質の良いサファイアをかなりお得に手に入れることができました!私の一番の宝物です。
「ももこの宝石物語」にもスリランカの旅が紹介されています。
さくらももこさんが岡本憲将さんと一緒にスリランカを訪れ、宝石を見まくったり、炎天下で原石を探したりするお話です。
私はそれを読むと、スリランカの熱風とスパイスの香り、そして岡本憲将さんの優しい笑顔を思い出すのです。
最後に
さくらももこさんによる「ももこの宝石物語」のおススメポイントと、番外編として岡本憲将さんのスリランカでのエピソードをご紹介しました。
「ももこの宝石物語」がきっかけで、宝石が大好きになったり、宝石店へ足を運ぶようになったという人もいらっしゃるそうですよ。
確かに宝石店に行くというのはハードルが高い気がするのですが、「ももこの宝石物語」を読むと覗いてみたくなるんですよね~。よく分かります。
さくらももこさんは宝石のバーゲンで真っ赤なルベライトをお得にゲットしたそうで、そのリングの写真も掲載されています。それを見ると私も宝石店が開催するバーゲンに行ってみたくなります。
残念なことに、岡本憲将さんは2017年、さくらももこさんは2018年に天国に旅立ってしまいました。お二人の宝石の旅はまだまだ続くと期待していたのですが・・・。
仲良しの二人は、きっと天国で再会したことでしょう。そして美しい宝石を探し出して楽しんでいらっしゃるのではないでしょうか。
私たちに宝石の楽しみ方を教えてくれたさくらももこさんと岡本憲将さんに感謝です!
自分だけの宝石に出会いたい。そんな気持ちが高まる「ももこの宝石物語」、ぜひ読んでみて下さいね!
カラッツ編集部 監修