濃いグリーンが特徴的なダイオプテーズという宝石をご存知でしょうか。
発見当初、エメラルドだと思い込まれ、エメラルドとしてロシア皇帝に献上されたこともあるそうですよ。
ダイオプテーズにはエメラルドの他にも似ているとされる宝石があります。
それは、ダイオプサイト。名前もそっくりですね!
両者にはどんな共通点と違いがあるのでしょうか。
今回はあまり知られていないものの、魅力たっぷりの希少石ダイオプテーズについて、特徴や名前の意味、原石の形、価値、買える場所など、色々お話したいと思います。
目次
ダイオプテーズとは
ダイオプテーズは銅鉱脈の酸化帯で生成される、少し青みのある鮮やかなエメラルドグリーンが特徴的な宝石です。
発見当初、エメラルドだと思い込まれたというのが納得できる程、美しい色合いをしています。
しかし実際に市場で見かけることは少ない印象がありますよね。
それは何故なのでしょうか。少しずつ掘り下げてみていきましょう。
鉱物としての基本情報
英名 | Dioptase(ダイオプテーズ) |
和名 | 翠銅鉱(すいどうこう) |
鉱物名 | ダイオプテーズ |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 六方晶系/三方晶系 |
化学組成 | CuSiO2(OH2) |
モース硬度 | 5 |
比重 | 3.05 – 3.50 |
屈折率 | 1.64 - 1.72 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
ダイオプテーズは、半透明のものが多いようですが、稀に透明なものが採れることもあるといいます。
モース硬度は5と低く、三方向に完全な劈開があることから、脆く、取り扱いに注意が必要な宝石です。
ダイオプテーズの結晶を光に透かしてみると、内部に劈開が見えることがあるそうですよ。
硬度が低く割れやすい上に、小さい結晶で見つかるものが多くカッティングや加工が難しいとされます。
これがダイオプテーズのルースやジュエリーをあまり見かけない理由だったのですね!
色
ダイオプテーズの色は深く鮮やかなグリーンや少し青みがかったグリーンが多いとされ、それ以外の色は見つかっていないようです。
エメラルドとよく似た色合いをしていますが、発色要因となる成分は違うのだそうです。
ダイオプテーズは銅、エメラルドはクロムがそれぞれ含有することによりグリーンに発色すると考えられています。
一見似たような色合いをしているのに、発色要因が異なるとは面白いですね!
透明度の高いものには弱い多色性が見えることもあるそうですよ。
産地
ダイオプテーズの産地は、旧ソ連の国々とアフリカに多いといわれています。
例えばロシア、カザフスタン、コンゴ、ナミビアなど。
他に、イラン、アメリカ、チリ、アルゼンチンでも産出されます。
ダイオプテーズの最も大きな鉱床は、ナミビアとアメリカにあるのだとか。
希少石といわれるダイオプテーズですが、標本としてはたまに見かける印象があります。
一説によると、ソビエト連邦が崩壊したときに、数多くの標本が放出され市場に流れたから、ということだそうです。
原石の形
ダイオプテーズの原石は、粒状または柱状です。
その多くは1㎝以内の小さなもので、単独の結晶というよりは集合体や塊状で産出されることが多いのだそうです。
稀に針状で見つかることもあり、それらはブロシャンタイト(ブロシャン銅鉱)とよく似ているため見間違われることもあるといいます。
主に、乾燥した地域の銅鉱床の酸化帯において、二次鉱物として生成されます。
石英に付着していたり、カルサイトやドロマイトの晶洞中、褐鉄鉱の層の隙間などで見つかることも多いようです。
名前の意味
ダイオプテーズという名前は、1797年フランスの著名な鉱物学者ルネ・ジュスト・アユイによって名付けられたといわれています。
アウイナイトの名前の由来となった方としても知られていますね。
発見当初エメラルドだと思い込まれていたダイオプテーズですが、ある時アユイがダイオプテーズがもつある性質からエメラルドではないことに気付き、研究の末別の鉱物であることが判明。
ダイオプテーズとして学術誌に発表したといいます。
その性質とは、透かして見ると内部に明瞭な劈開が見えること。
そこからアユイは、ギリシャ語で通してという意味の「dia」と見えるという意味の「optos」を足して「Dioptase」と名付けたのだそうですよ。
ダイオプテーズはアチライト(アッチール石)と呼ばれることもあるのですが、これは1788年にドイツのヘルマンによって名付けられたといわれています。
ダイオプテーズの歴史
ダイオプテーズは1785年、カザフスタンの銅鉱山で見つかったといわれています。
鉱夫たちはその鮮やかなグリーンからエメラルドと思い込み、1797年、エメラルドとしてロシア皇帝パウル(文献によってはパーヴェル)に献上したそうです。
しかしその後、アウイによってエメラルドではないことが判明し、新しい鉱物としてダイオプテーズと名付けられたということです。
古代遺跡に使われたダイオプテーズ
ダイオプテーズは、その色の濃さ故に顔料として使用されることもあったといいます。
古いもので、ヨルダンのアイン・ガザールという新石器時代の古代遺跡で見つかった彫像の目に、ダイオプテーズが顔料として使われていたのだそうですよ。
ダイオプテーズの深いグリーンは古代の人々の目にも鮮やかに写ったことでしょう。
ダイオプテーズとダイオプサイトの違い
画像:左-ダイオプテーズ 右-ダイオプサイト
ダイオプテーズと、見た目も名前も似ている宝石ダイオプサイト(ダイオプサイド)。和名は透輝石です。
硬度は5 – 6、二方向に完全な劈開があるなど、ダイオプテーズと似ている部分もあるようですが鉱物としては全くの別物で、両者に特に関係性はなさそうです。
ダイオプサイトは和名からも分かるように輝石の一種で、翡翠(ジェダイト)の方が近い関係にあります。
ダイオプサイトという名前はダイオプテーズ同様にギリシャ語です。
名前の由来は諸説ありますが、多いのは複屈折率が高いことに由来して命名されたというもの。
ダブリングする性質から、2つの見え方をするものという意味で名付けられたといわれています。
深いグリーンが印象的なダイオプサイトですが、他にも、ホワイト、ブルー、パープル、ブラウン、カラーレス、グレー、イエロー、ブラックなどがあります。
また、ダイオプサイトにはスターやキャッツアイ効果の出るものがあります。そこもダイオプテーズとは異なりますね。
ダイオプテーズの価値基準と市場価格
どのようなダイオプテーズに高い価値が認められるのでしょうか。
ダイオプテーズの価値基準や市場価格などを知り、実際に購入する時に役立てましょう。
価値基準
ダイオプテーズは、グリーンが鮮やかであればある程、価値が高いとされています。
不透明なものが多いことから、透明度が高いものにも高い価値が付けられます。
前述したように、結晶が小さい上に脆い性質からカットが難しいとされます。
したがって、色鮮やかで透明度が高く、大粒でカットが美しいものが最高品質ということになります。
また、ダイオプテーズの多くは標本として原石のまま流通しています。
標本(原石)の場合は、一つの結晶の大きさや、集合体としての大きさなども評価の対象となるようです。
市場価格と買える場所
ダイオプテーズの市場価格を見てみましょう。
クォリティが低かったり、結晶が小さい標本などは、数千円から見つけることができるでしょう。
多くの結晶が集まってできたものなどは標本としての価値が上がることから、数万円以上で取引されるものも多い印象です。
標本であれば、オンラインショップなどで見かけることもありますが、全般的に多くない印象です。
原石の取り扱い業者が集まるミネラルショーでも、探すことは可能だと思います。
コレクター用にカットされたルースも稀に見かけることがあります。
ダイオプテーズのお手入れ方法
モース硬度5と低い上に三方向に完全な劈開があるダイオプテーズは標本(原石の状態)であっても繊細に取り扱って欲しい宝石です。
結晶が粉砕してしまう恐れがあるため、超音波洗浄は絶対に使用しないでください。
ぶつけたり落としたりすると壊れてしまう可能性もありますので、安定した場所で保管することをオススメします。
また、塩酸に弱いため、塩酸成分の入った洗剤や薬品などに触れないようにも気を付けてくださいね。
最後に
希少石ダイオプテーズについてお話しましたが、いかがでしたか。
もしもっと硬度が高く丈夫な宝石だったら、エメラルドと同じくらい珍重されたかもしれないといわれるダイオプテーズ。
確かにダイオプテーズがもつ濃く鮮やかなグリーンは、思わず目を奪われてしまう美しさがあります。
しかし脆い性質をもつからこそ、儚さゆえの魅力があるとも思います。
自然のままの結晶もとても素敵なので、良かったら今後ぜひ注目してみてくださいね。
ダイオプテーズの魅力がより多くの人に伝わりますように。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社 ほか