シルキーで優しい輝きが魅力的なセレナイト。
実はジプサム(石膏)の一種とご存知でしたでしょうか。
ジプサム(石膏)の中でカラーレス~ホワイトの色合いのもつ単結晶のものがセレナイトと呼ばれているのですよ。
セレナイトは柱状で流通していることも多く、光の柱のようなセレナイトタワーや、透光性を利用したセレナイトランプなどをご覧になったことがある方もいるかもしれませんね。
セレナイトとは一体どんな宝石なのか。
神秘的なセレナイトの世界をご紹介しましょう。
セレナイトとは?
先ほども申し上げた通り、セレナイトは単結晶でカラーレス~ホワイトのジプサム(石膏)のことを指します。
石膏といえば、骨折した時に使うギプスや、デッサンの時の石膏像などが思い浮かぶという方も多いのではないでしょうか。
あの真白な石膏と透明感のある美しいセレナイトが同じ鉱物だなんて、本当に驚いたものです。
鉱物としての基本情報
セレナイトの鉱物としての基本情報は次の通りです。
英名 | Selenite |
和名 | 透石膏 |
分類 | 硫酸塩鉱物 |
結晶系 | 単斜晶系 |
化学組成 | CaSO4・2H2O |
モース硬度 | 2 |
比重 | 2.3 |
屈折率 | 1.52~1.53 |
光 沢 | 亜ガラス光沢、真珠光沢、絹糸光沢 |
セレナイトのモース硬度は2。
爪で強くこすれば傷をつけることが可能なほど、とても柔らかい宝石ということがわかりました。
セレナイトの結晶は、とても小さなものから、12メートルに及ぶような巨大なものまであります。
他にはどのような特徴があるのでしょうか。
特徴
セレナイトの特徴は、和名が「透石膏」であるように、透明または半透明であるところでしょう。
曇りひとつないカラーレスのセレナイトは、とても神秘的で貴重です。
美しいセレナイトをジュエリーとして身につけて、神秘の力を存分に感じたいですよね!
と言いたいところですが、前述したようにセレナイトは硬度があまりに低いためジュエリーにセットすることは難しいのです。
とても柔らかくてジュエリーには適さない、というところはセレナイトの残念な特徴ともいえるでしょう。
色
セレナイトの色は主に透明~半透明のホワイトやカラーレスです。
ジプサムは含まれている微量元素によってブラウンやイエロー、レッド、オレンジ、ピンク、グレー、グリーンなど様々な色を呈します。
書籍によって定義がまちまちで、カラーレス~ホワイトのジプサムだけをセレナイトとするところもあれば、色に関係なく透明度のあるものはセレナイトとするものもあるのですが、一般的にセレナイトとして販売されているものはカラーレスからホワイトのものが多いようです。
産地
セレナイトは、アメリカ・メキシコ・チリ・ロシア・イタリアなど、広範囲で産出されています。
日本でも、秋田県花岡鉱山や山形県吉野鉱山などで採掘されていたそうですよ。
セレナイトといえば、巨大な結晶がメキシコのナイカ鉱山で発見されたことが有名ですね。
最大で12メートルもある半透明の結晶が、洞窟の中に何本も交錯している様子は、とても不思議で幻想的です。
それをテレビで観た時は本当にビックリして、スーパーマンの故郷クリプトン星は実在したのか!?と思ってしまいましたよ~。
出典元:GIA |
この巨大なセレナイトが林立しているナイカ鉱山の洞窟は、湿度が100%、気温は53度もあるのだそう。
命の危険を冒しででも洞窟に入り、巨大なセレナイトに触れたいと思いますよねぇ。
しかし残念ながら、この洞窟は浸水してしまって、今は入ることができないのだそうです。
地球の内部には、他にもこのように神秘的で巨大な鉱物が眠っているのでしょうね。
セレナイトの原石の形
石膏はカルシウムの含水カルシウム硫酸塩鉱物で、とても多様な形態で産出されます。
石膏の一種であるセレナイトの結晶も、実にバラエティ豊かですよ。
通常は、単斜晶系である平行四辺形の板状や 長く薄い短冊のような形状で、ほとんどが双晶(左右対称)の状態で産出しています。
稀に、魚尾状や燕尾状になることもあるのだとか。
セレナイトは一方向に完璧な劈開があり、断口は多片状になっています。
カラーレスのセレナイトは、原石の時から本物のガラスのようです。
単純な扁平結晶体で産出することが多く、まるで既にカッティングされて磨き上げられたようにも見えますね。
完全なカラーレスのセレナイトをかつてのヨーロッパでは「聖母マリアのガラス」とも呼んでいたのだとか。
聖母マリアの名前がつくなんて、よほど神聖なものだと考えられていたのでしょうね。
セレナイトの名前の意味
セレナイトの名前の由来には諸説ありますが、最も有名なのはギリシャ語のSelene(月)という言葉がルーツとなっている説でしょう。
丸く磨かれたセレナイトを見ると、まるで夜空に浮かんでいる月のよう。
月が名前の由来という説は、実にしっくりきますよね。
月の満ち欠けと一緒に、セレナイトの結晶も形を変えると考えられていたそうですよ。
そんな不思議な話も信じてしまうくらい、セレナイトってなんだか神秘的ですよね。
セレナイトの名前の由来は他にも2つあるとのこと。
ひとつは、古代ローマ時代の博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥス(大プリニウス)が著した「博物誌」で、セレニテス(selenites)と呼ばれているものがセレナイトの由来である、という説。
それから、中世フランスのキリスト教司祭マルボドゥスによる「宝石について」という本の中で、イーリス(iris)と呼ばれているものがセレナイトだった、という説もあるそうです。
セレナイトタワー
セレナイトといえば、セレナイトタワーが思い浮かぶ方も多いと思います。
まるで月から降り注ぐ光の柱の様で、神秘のパワーを感じる方も多いのではないでしょうか。
多片状になっている表面を触ると、ダイナミックな自然の造形美が心に残ります。
セレナイトタワーは、手のひらにのるものから、とても大きくて半端ない存在感を醸し出しているものまで、様々なサイズがありますね。
白いもの、少しピンクがかっているもの、内包物によって模様がついているものなどもあって、自分好みのセレナイトタワーを探すのも楽しそうですね。
セレナイトタワーに電球をしのばせて、セレナイトランプが作られることもあります。
暖かくて神秘的な光を見ていると、癒されて救われるような気持ちになりますよね。
セレナイトランプは、透明で透光性のあるセレナイトの性質を活かしたもの。
中に入れる電球の色とセレナイト本来の色による相乗効果で、様々な光の表情を見せてくれます。
ジプサム(石膏)の変種
調べてみると、ジプサム(石膏)は実にバラエティ豊かだということがわかりました。
石膏は見た目の違いから、次のように呼び名が変わるそうです。
●カラーレス~ホワイトの単結晶・・・セレナイト(Selenite)
●繊維状の集合体・・・サティンスパー(Satin spar)
●大理石によく似た微細結晶の集合体・・・アラバスター(Alabaster)
●花弁状結晶の集合体・・・砂漠のバラ(Sand Rose, Desert Rose)
全部同じ鉱物なの!?と驚くほど、石膏って様々な表情があるのですよ。
石膏は世界に幅広く分布しています。
海水が蒸発してできた鉱床や、鉱石鉱床で硫化鉱物の変成生成物として産出されるのだそうです。
火山の噴気口近くで採れることもあるそうですよ。
砂漠のバラ
石膏の一種であるセレナイトの仲間は、前述の通り様々な表情があるのですが、その中に砂漠のバラと呼ばれる結晶があります。
面白い結晶なので、ここで少しご紹介しましょう。
砂漠のバラは、本当にバラの花びらのように薄い結晶が幾重も重なっていているのです。
私はそれをモロッコで買ったのですが、お店ではローズ・ド・サハラと呼ばれていましたよ。
フランス語でサハラ砂漠のバラという意味なのだそう。
大小様々な形があったのですが、私はその中から、手のひらサイズで、バラの花のように結晶体が丸く重なっているものを選びました。
私が買った砂漠のバラは、全体的に砂岩のような色と風合いがあって、サハラ砂漠の砂が結晶の表面にびっしりとついています。
サハラ砂漠は大昔は海だったことでも知られています。
今でも砂の中からサメの歯の化石を探し出すことができるんですよ。
石膏は海水が蒸発してできる鉱床から産出されるので、昔は海だったサハラ砂漠に、石膏の一種である砂漠のバラがあるのもうなずけます。
砂漠のバラはとても脆いので、優しく扱って下さいね。
最後に
セレナイトは世界に広範囲で分布する石膏の一種。
それを知った時は、本当に驚いたものです。
パワーストーンとしても人気のセレナイトですが、とても美しいのに脆すぎてジュエリーなどには向きません。
でもその儚さもまた、セレナイトの魅力のような気もします。
セレナイトタワーやセレナイトランプとして身近に置いておくのも素敵かもしれませんね。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 岩石と鉱物』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『パワーストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社