皆さんはトラピッチェという言葉を聞いたことがおありでしょうか。
不思議な6本の線を模様にもつトラピッチェ宝石。
有名なのはトラピッチェエメラルドですが、実は他の宝石で発見されることもあるといいます。
そこで今回は、トラピッチェ宝石ができる理由から、エメラルドだけではない、トラピッチェ模様をもつ宝石たちの魅力をご紹介できればと思います!
目次
トラピッチェ宝石とは?
名前の意味
Photo by : Ecuadorpostales / Shutterstock.com
最初にトラピッチェエメラルドが発見されたコロンビアで、この模様がサトウキビを擦る機械の歯車に似ていることから、スペイン語の「トラピッチェ(歯車)」に由来して名付けられたと伝わります。
トラピッチェとは、鉱物に形成される放射線状の模様のことを指します。
結晶の上(C軸に対して垂直な面)から見るとスター効果に似た6本の線を見せます。
トラピッチェのパターン
トラピッチェの模様の形態は大きく分けて以下の3パターンがあると考えられています。
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- 中心に六角形があり、六角のエッジから6本の細い線(不純物による黒色など)を描いたもの。
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- 中心に何もなく、6本の線(不純物による黒色など)だけが描かれたもの。
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- 中心に六角形があるが、主要な結晶(例えばエメラルドの緑色)の太い線が現れるもの。
トラピッチェの形ができる理由
前項でご紹介した3種類の内③の花のようなパターンが出来るものについては生成の仕方などまだ解明されていない謎も多いようです。
①と②のパターンについては分かっていることも多いようですので、生成の仕方について簡単にご説明しますね。
トラピッチェ宝石が6本の線を見せるのは、結晶が六方晶系であることが関係しているそうです。
写真を見ると、中心から六角の6つの角に向かって線が伸びているのが分かると思います。
結晶の生成途中、炭素岩の黒い不純物などが混入し、六方晶系の結晶の六角の結晶結合部に充填され、6つの放射線状模様を描くと考えられています。
具体的にはこんな感じです。
- エメラルドなど六方晶系の結晶が生成途中で、成長がスローダウンまたは停止します。
- この結晶に、別の結晶(アルバイトやクオーツ、ルチルなど)を形成する化学物質を含んだ高熱の地熱水が混ざります。
- この高熱水により、六方晶系結晶の六角の周りで黒い6本の線が成長します。
- この後不純物を含む高熱水がなくなり、結晶が再び成長します。
主なトラピッチェ宝石
冒頭でもお伝えしたとおり、トラピッチェ宝石は色々見つかっています。
エメラルドに次いで流通量が多いのはサファイアやルビーではないかと思います。
宝石によって特徴などは異なるのでしょうか。
歴史なども交え、代表的な3つの宝石について詳しくお話していきましょう!
トラピッチェエメラルド
トラピッチェ宝石の代表トラピッチェエメラルド。
1963年から1970年の間に南米コロンビアのムゾー鉱山で見つかり産出され始めたことから広く流通するようになったようです。
コロンビアはエメラルドの主要な産地としても知られており、トラピッチェの名前の由来にも関係しています。
しかし実はこの土地でトラピッチェが産出されるのはごくわずかなのだそうです。
その他にはブラジルやマダガスカルからも産出されます。
価値としては、通常のエメラルド同様にコロンビア産が高く評価されることが多いようです。
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トラピッチェサファイア
トラピッチェサファイアは1996年のバーゼル展示会でベルリンの宝石商によって市場に初めて紹介されました。
最近のことですね。
同年にGAA(オーストラリア宝石学協会)が発表したレポートでは、オーストラリアのタスマニアでトラピッチェ模様を見せるサファイアが見つかったと報告されています。
GIA(米国宝石学協会)がタスマニアの土地調査を行った際の発見だったそうです。
トラピッチェサファイアは、玄武岩に関連するすべての場所で見つかっているようですが、タスマニアでの産出は大変稀だということです。
トラピッチェサファイアの地色はブルーで6本の線は太い白や細い黒などをしていることが多いようです。
ブルー以外の地色のトラピッチェサファイアが見つかることもあります。
通常トラピッチェの模様は不純物を起因としますが、サファイアは六方晶系の成長線に平行する強い色の帯が起因だと考えられています。
そのため、六方晶系の結晶構造やカラーゾーン、インクルージョンなどがはっきり見えることがあるそうです。
産地は主にオーストラリア、中国、カンボジア、ベトナム、マダガスカル、ケニア、タンザニア、フランス、スコットランド、スリランカ、ネパール、米モンタナ州などです。
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トラピッチェルビー
トラピッチェルビーの存在が世界で初めて紹介されたのは1995年といわれています。
サファイアよりも少しだけ早いようですね。
GIAがミャンマーのモンスー地区で産出したトラピッチェルビーの記述を報告したのが最初なのだそうです。
トラピッチェルビーは6本の線の中心がほとんど見られず、独特の枝模様をしていることが特徴です。
結晶は小さいものがほとんどで、2カラット以上のものは稀です。
地色は暗い茶色か紫味の赤色をしており、トラピッチェ模様を楽しむには薄くカットする必要があるそうです。
6本の線は半透明から不透明で白や黒、黄色などをしています。
トラピッチェルビーの原石は、ミャンマーのモンスー地区にある交代作用によってできた炭酸塩層で産出します。ほかにも、ギニア、カシミール地方、パキスタン、ネパール、シオラレオネ、タジキスタンでも産出しています。
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その他のトラピッチェ宝石
画像は桜石
ICA(International Colored Gemstone Association)は、次のようなトラピッチェ宝石が発見されたことを報告しています。
- トラピッチェトルマリン(ザンビア産)
- トラピッチェガーネット(ビルマのモゴック産)
- トラピッチェクォーツ(ビルマ、コロンビア、インド、モンゴル、ロシア、メキシコ産)
- トラピッチェスピネル(ビルマ産)
- トラピッチェアクアマリン(ナミビア産)
- トラピッチェロードクロサイト(アルゼンチン産)
- トラピッチェペツォタイト(ビルマ産)
- GIAが鑑定したトラピッチェダイヤモンド
意外と多いようですが、ほとんどが大変レアな存在です。
この他にもトラピッチェアメジストや日本で採取されることで有名な桜石もあります。
では、トラピッチェクォーツ、トラピッチェアメジスト、桜石について簡単にご説明しましょう。
トラピッチェクォーツ
トラピッチェ模様を見せるクォーツは、ビルマ、コロンビア、インド、モンゴル、ロシア、メキシコで見つかっています。
ブラジルで見つかるルチルインクォーツは、金色の針状ルチルがトラピッチェに似た6つの枝状に分かれているそうです。
面白そうですね、ちょっと見てみたい気がします☆
トラピッチェアメジスト
トラピッチェアメジストのほとんどが色を誘導する化学成分の配分によって、トラピッチェに似た模様を見せるのだそうです。
GIAは、トラピッチェに似た模様を見せるブラジル産のアメジストの鑑定結果を発表しています。
このアメジストでは、中心に緻密な金属樹枝状のインクルージョンでできた、黒くて大きな六角形があり、そこから延びる6本の枝は小さなインクルージョンが無数の房状になったもので、ブラシのような形状をしています。
このように、はっきりした2色のインクルージョンによって特徴的な模様を引き出す結果となると考えられているそうですよ。
桜石
京都府亀岡市で産出されるトラピッチェ白雲母です。
菫青石(アイオライト)の結晶がほかの鉱物によって形を変えたことから、「菫青石仮像」と呼ばれ、さらに、その横断面が桜の花びらに似ていることから「桜石」と呼ばれるようになったといわれています。
結晶は、泥質岩にマグマが入り込んだ地下の熱水作用により変成作用した際に、いくつかの鉱物が再結晶して生成したもので、六角短柱状をしています。
桜石は、京都を代表する石として有名です。
1922年には「稗田野(ひえだの)の菫青石仮晶」として国の天然記念物に指定、2016年には日本地質学会によって京都府の石に選定されています。
そのため現在、採取は固く禁じられています。
最後に
トラピッチェと言えばエメラルドが有名ですが、トラピッチェサファイアやルビーなど、他にもこんなに多くのトラピッチェ宝石が発見されているのですね。
歯車のような模様が独特なトラピッチェ宝石は、それぞれが少しずつ違った表情をもっており、個性溢れる宝石ではないでしょうか。
宝石によっては、希少性が高くコレクターも注目しているため、希少価値も上がっているようです。
いつか出会えたら、素敵なジュエリーにして身につけてみたいですね。
カラッツ編集部 監修