レッドやローズピンクに輝く希少石、ロードクロサイトをご存知ですか?
透明度の高い結晶はとても美しく、その輝きはジューシーな木苺を思わせるものもあります。
ロドクロという愛称でも親しまれており、コレクターにとても人気が高いそうです。
その特徴やお手入れ方法、そして偽物はあるのか、値段はどのくらいなのかなど、ロードクロサイトのことが知りたくなってきました。
ロードクロサイトと関係が深いという、インカローズという宝石もあるとのこと。
早速お話ししていきましょう。
目次
ロードクロサイトとは?
ロードクロサイトは、バラの花のような瑞々しさを感じる宝石です。
マンガンが採れる主要な鉱石としても知られています。
美しいだけでなく、私たちの生活に大きく役立っているのですね!
鉱物としてはどんな特徴をもつのか、早速見ていきましょう。
鉱物としての基本情報
英名 | Rhodochrosite(ロードクロサイト) |
和名 | 菱マンガン鉱(りょうまんがんこう) |
鉱物名 | ロードクロサイト |
分類 | 炭酸塩鉱物 |
結晶系 | 六方晶系/三方晶系 |
化学組成 | MnCO3 |
モース硬度 | 3.5 – 4 |
比重 | 3.30 – 3.72 |
屈折率 | 1.60 – 1.82 |
光沢 | ガラス光沢~真珠光沢 |
特徴
ロードクロサイトはマンガンの炭酸塩鉱物で、カルサイト(方解石)グループの一種なのだそうです。
モース硬度は3.5 – 4。
劈開(へきかい)は三方向に完全とあります。
衝撃で欠けたり割れたりしやすい性質がありますので、ジュエリーとして身につけるよりも飾って楽しむ装飾品に向いているかもしれませんね。
複屈折が大きいために、ダブリングが見られるという特徴もあります。
ダブリングとは下に置いた文字やファセット稜線が二重に見える現象を指します。
複屈折の大きい宝石を撮影すると、ピントが合っていないように見えるのもダブリングが原因だと考えられているそうですよ。
色
レッドやローズピンクが印象的なロードクロサイトですが、他にもイエローや褐色、グレー、オレンジなどのものもあるといいます。
ロードクロサイトは、先程お伝えしたとおり、カルサイトグループに属する鉱物です。
同じグループに属するカルサイトや̪シデライトなどと成分が入れ替わることがあり、それらの成分の含有量によってイエローや褐色になると考えられているそうです。
かつて日本でも産出されたといわれますが、日本で採れるロードクロサイトの中には褐色状態になったものもあり、その見た目から「カツブシ鉱」と呼ばれることもあったそうです。
ロードクロサイトがかつお節に例えられるなんて、ちょっと面白いですね。
産地
ロードクロサイトの鉱脈は銅、銀、鉛などの鉱床に見つかるそうで、世界中に産地があるようです。
赤くて美しい結晶が採れることで有名なのは、アメリカのコロラド州にあるスイートホーム鉱山です。ココも元々は銀鉱山だったそうです。
スイートホーム鉱山では1991年~2005年の間に約1億ドル、日本円にして110億円相当のロードクロサイトが採掘されたのだそうです。
現在は残念ながら閉山しているのだとか。
他に、アルゼンチン、ペルー、南アフリカ、中国などもロードクロサイトの産地として知られています。
世界最古のロードクロサイト鉱山はアルゼンチンにあるのだそうですよ。
日本でも産出していたロードクロサイト
日本でもロードクロサイトが採れることは、先ほども述べた通りです。
青森県や秋田県、北海道などで宝石品質のピンクのロードクロサイトが採れたそうで、今でも時々オールドストックのものを見かけることがあります。
現在では、いずれの鉱山も閉山していることから、新たな結晶が見つかり市場に出回ることはなさそうです。
原石の形
ロードクロサイトは、様々な形で産出されています。
単結晶や多結晶、透明感のあるもの、半透明や不透明など、実にバラエティー豊かです。
最も特徴的な結晶の形は、菱面形。
他にも、犬牙状、塊状、ブドウ状、鍾乳石状、粒状、団塊状、六角の錘状、層状などで見つかることもあるそうです。
中温の熱水鉱脈や接触変成鉱床で生成されることが多いといわれていますが、堆積性のマンガン鉱床で二次鉱物としてできることもあるようです。
良質のロードクロサイトは表面がガラスのように光っていて、原石の状態でも充分に美しく、コレクター人気が高いのも分かる気がします。
名前の意味
ロードクロサイトは、ギリシャ語でバラを意味する「rhodes」と、色を意味する「chros」が由来なのだそう。
バラ色という意味なんですね~。とてもピッタリな名前ではないでしょうか!
ロードクロサイトと名付けられたのは1800年頃の事だそうですよ。
市場に出回り始めたのは1940年頃からなのだそう。比較的新しい宝石と言えるかもしれません。
和名では、菱マンガン鉱(りょうまんがんこう)と呼ばれています。
結晶が菱形であることから、そう名付けられたのだそうですよ。
有名なロードクロサイト
「アルマ・ローズ」 |
世界には、名前が付いている有名なロードクロサイトが幾つかありますので、ご紹介しましょう。
アルマキングとアルマクイーン
アメリカのスイートホーム鉱山からかつて産出された、アルマキングやアルマクイーンと名付けられた鮮やかなチェリーレッドの美しい結晶があります。
アルマ・キングは、アメリカのデンバー自然科学博物館に展示されており、典型的な菱面形の結晶を見ることができます。
大きさは14cm×16.5cmだといわれています。
一方のアルマクイーンの標本は、ヒューストン自然科学博物館に展示されているそう。
チェリーレッドの鮮やかな結晶です。
2009年に発見されたロードクロサイト
2009年に中国で世界最大ともいわれているロードクロサイト結晶が2つ発見され、大きな話題となったことをご存知でしょうか。
それらは「中国の皇帝」「中国の皇后」と呼ばれています。
色も濃くて、品質も申し分ないようです。
「中国の皇帝」と呼ばれている標本は、重さが63.5㎏、大きさは40×60cmなのだそうです。
最大の単結晶は直径22㎝もあるのだそうですよ。
「中国の皇后」の標本は直径が39㎝もあるそうです。
「中国の皇后」 |
母岩の中で大小の赤い結晶がいくつも重なり合っている形状で、両者とも大きくて美しく、とても迫力がありますよ。
これからも、世界のどこかで新しいロードクロサイトの鉱脈が見つかるかもしれませんね。楽しみにしましょう。
インカローズとは
画像:左-ロードクロサイト 右-インカローズ
冒頭でロードクロサイトと深い関係にあるとお伝えした、インカローズについてもお話しましょう。
インカローズとロードクロサイトがどんな関係にあるかというと
実は、両者は同じ鉱物なのです!
ロードクロサイトの中でバラのようなジグザグ模様や波模様のあるものをインカローズというのだそう。
インカローズは、鍾乳石状の集合体で産出されることが多いそうです。
日本では、インカローズの方が知られている感じもありますが、海外ではあまり一般的ではないらしい、という話も聞いた事がありますよ。
インカローズの歴史
インカローズが発見されたのは13世紀ごろといわれています。
13世紀に、当時インカ帝国であったアルゼンチンの鉱山で発見され、カットすると花びらのような模様を現すことから「インカローズ」(インカの薔薇)と呼ばれるようになったという説が有力です。
インカローズだなんて、何だかロマンティックな名前ですよね。
煌びやかで栄華を極めたインカ帝国に咲く、一輪の美しいバラの花・・・そんなイメージが湧く響きではないでしょうか。
インカの人々は、この石のことを「ピンク色のバラ模様を呈した真珠」と呼んでいた、という資料もありましたよ。
とても大切にされてきた宝石だったことがわかりますね。
ロードクロサイトに施される処理について
ロードクロサイトには、何らかの人工的な処理が施されているのでしょうか。
今のところ、人工的な処理がされているロードクロサイトが多く出回っている様子はないようです。
しかし、中には色調を改善させるための染色や、表面を保護する目的で樹脂コーティングが施されているものもあるのだそうです。
他にも何らかの処理をしたロードクロサイトがあるかもしれません。
可能性は排除できないので、一応注意しておきましょう。
もしかしたら将来、ロードクロサイトに適した人工処理方法が発見され、ジュエリーに使用できるほど丈夫なものができるかも知れませんよ!
ロードクロサイトの偽物について
良質のロードクロサイトの産出は珍しく、流通量は多い方ではありません。
希少価値が高く人気のある宝石ということで、残念ながら、偽物が作られ販売されていることがあるのだそうです。
ロードクロサイトの偽物の多くは、クォーツ(水晶)を赤く染色したものなのだとか。
価格が安いのに、濃い色合いのロードクロサイトがあったら、注意が必要でしょう。
それから前述の通り、低品質のロードクロサイトに染色や樹脂コーティングを施し、高品質に見せかけたものもあります。
染色したことを明記し、売っているものは問題ないのですが、高品質と偽って高値で取引されることに問題がありますよね。
また、インカローズにも偽物が出回っていることがあるのだそうです。
明るくて濃いピンク色で、色ムラがない場合などは注意した方が良いかもしれないそうです。
宝石のプロでも専用機材を使わないと見分けることが難しい場合が多いそうです。
専門の鑑別機関で見てもらった方が良い場合もあるでしょう。
ロードクロサイトの価値基準と市場価格
ロードクロサイトを買う際、どのような点に留意する必要があるのでしょうか。
ロードクロサイトの価値基準や市場価格、どこで買えるかなどの情報について見てみましょう。
価値基準
ロードクロサイトは、まずは色によって価値が変わってきます。
レッドの発色が鮮やかで強いほど、価値が高まる傾向にあります。
そして透明度が高いもの、カラットが大きくてカットの美しいものなどに、高い評価が与えられるようです。
ロードクロサイトは前述の通り丈夫ではないので、高いカッティング技術が必要になります。
従って、美しくカッティングされた、透明度が高くて色の濃いルースは、希少価値が高いと言って良いでしょう。
インカローズの場合は、ピンクの地色が濃く、花びらのような縞模様がはっきり現れているものに、高い価値が認められることが多いようです。
産地識別は可能?
画像:左-スイートホーム産 右-南アフリカ産
ロードクロサイトは、産地識別が可能なものと不可能なものがあるとのこと。
産地識別が可能なものの場合、宝石品質のルースはアメリカのスイートホーム産が最も価値が高いと言われています。
その次に、南アフリカ産が続くそうです。
ロードクロサイトの原石の場合は、南アフリカ産の人気が高い傾向にあるようですよ。
産地別にコレクションしている熱心なコレクターもいらっしゃるのでしょうね。
市場価格
クォリティによっては数千円から販売されているものもあるという印象です。
赤くて透明度が高いロードクロサイトは、1ct以下であっても数十万円以上することがあるようです。
アメリカのスイートホーム産で高品質のロードクロサイトになると、百万円以上の価値がつくものもあるそうですよ。
どこで買える?
ロードクロサイトはどこで買えるのでしょう。
インカローズはパワーストーンとしての人気も高いようで、多くのお店で見かけることができると思います。
ビーズなどにカットされ、流通することも多いようです。
一方、宝石品質のロードクロサイトは、希少性が高く、インカローズほど、取り扱っているお店は多くないように思いますが、ルースであれば、オンラインショップを中心に見かけることはあります。
また、各地で開催されるミネラルショーなどでも出会うことができると思います。
脆い性質からジュエリーに加工されたものは少ない印象ですが、全くない訳ではありませんので、ご興味のある方は探してみると良いと思います。
ロードクロサイトのお手入れ方法
ロードクロサイトはとてもデリケート。お手入れには注意が必要です。
紫外線に弱く、長時間太陽光に当たっていると変色してしまう恐れがあります。
それから酸に弱いという性質もあり、酸化してしまうと黒ずんでしまう結晶もあります。
また湿気にも要注意で、水分の多い場所に置くと表面が褐色に曇るものもあるのだそうです。
モース硬度が低くて劈開もあり、衝撃で欠けたり割れたりする脆さもありますのでぶつけないように注意しましょう。
ジュエリーなどに加工したロードクロサイトを身に着けた時は、皮脂や汚れを柔らかい布で優しく拭き取ってからしまうよう、習慣づけると良いと思います。
保管する際は、他の宝石とぶつからないよう小袋に入れるなど個別に保管すると良いでしょう。
最後に
ロードクロサイトについてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
木苺のような色がとても魅力的な高品質の結晶は、産出量がかなり少なく、希少石と言う位置づけであることがわかりました。
パワーストーンとしても人気の高いインカローズは、ロードクロサイトと同じ鉱物で、花びらのような模様のあるものです。
それから、日本でもロードクロサイトが採れることを知って嬉しくなりました。
北海道に旅行した時などに、ロードクロサイトのお土産物を探してみたいなぁ~と思いましたよ。
いつかアメリカの博物館に行き、菱形で赤く美しいロードクロサイトの標本をこの目で見る!という目標もできました。
いつか、素敵なロードクロサイトに出会えますように。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 岩石と鉱物』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社 ほか
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◆https://www.gia.edu/