宝石は外観を改善したり耐久性を上げたりするために人工処理が施されることがあります。
加熱や放射線照射など幾つか方法がありますが、その中に含浸処理というものもあります。
宝石に施す含浸処理とは一体どのようなものなのでしょうか。
そしてどんな目的で施されるのでしょうか。
そこで今回は、宝石に含浸処理を施す理由から価値や耐久性への影響、無処理の宝石との価値の違いなど、宝石に施される含浸処理についてお話してみたいと思います。
目次
宝石に含浸処理を施す理由
宝石は結晶の成長過程で内包物を含んだりキズやひび割れが生じることもあります。
そしてこれらが発色や透明感などに影響を与える場合もあります。
含浸処理は、キズやひび割れに注入素材を染み込ませることで、美観などを改善するために行われています。
含浸する素材は、宝石によって様々です。
例えばエメラルドには樹脂やオイル、ターコイズや翡翠(ジェダイト)にはワックスなどを含浸するのが一般的です。
含浸処理が施された宝石は価値や耐久性が下がる?
宝石に含浸処理を施した後、価値や耐久性には影響が出るのでしょうか。
宝石によっては、含浸処理で見た目が美しくなる反面、価値や耐久性が下がってしまう場合もあるそうです。
逆に言えば、宝石によっては価値に著しく影響が出ない場合もあります。
含浸処理後の宝石の価値と耐久性について、それぞれ簡単にご説明していきます。
価値について
宝石に施される含浸処理には、価値を下げるものと下げないものがあります。
つまり、処理がされていることで価値が変化しない宝石と価値が変わる宝石とが存在するのです。
例えば、一般的に内包物やひび割れなどが多いとされるエメラルドには多くの場合含浸処理が施されます。
一般的に行われるため、含浸処理が施されていることで価値が著しく下がるということはありません。
鑑別書には「透明剤の含浸が行われています」「通常、透明剤の含浸が行われています」と記述されます。
一方、ルビーやサファイアに多く見られるガラス剤を含浸したものは、宝石としての価値が著しく下がります。
鑑別書には「鉛ガラスの含浸処理が行われています」といった旨が記述されます。
耐久性について
含浸される素材によって耐久性は変わるといわれています。
ガラスは樹脂、オイル、ワックスよりも耐久性があるとされますが、一般的に含浸処理を施した宝石は熱や化学薬品などに対して弱くなるといわれています。
キズやヒビ割れに物質を注入するため、その部分から欠けたり割れたりする可能性もあるといわれます。
エメラルドにオイルなどを含浸したものは歳月の経過とともに物質が蒸発し、色が褪せたりキズが目立つこともあるといいます。
また、ルビーやサファイアに鉛ガラスなどガラス剤を注入して含浸処理したものは、含浸されている部分が耐久性が低く、酸にも弱いといわれています。
一般的に含浸処理が施される宝石とは
一般的に含浸処理が施される宝石はいくつか存在します。
その中から代表的な3つの宝石をご紹介していきます。
これらは一般的に行われているため、前述したように、処理がされていることで価値が著しく下がることはありません。
エメラルド
まずはエメラルドからご紹介しましょう。
エメラルドは、前述したように、ほとんどの結晶が内部にキズやひび割れなどを含み、もろい宝石です。
エメラルドには表面に達するキズに樹脂やオイルなどが注入されるといいます。
液体状の透明剤を染み込ませることで、キズを隠して美観を向上させています。
処理を施さなくても美しい外観をもつエメラルドが産出されることもありますが、それらは希少性の高さから価値高く扱われます。
レッドベリル
エメラルドと同じ鉱物ベリルの一種であるレッドベリル。
レッドベリルもエメラルド同様にキズや内包物が多いという特徴をもち、樹脂やオイルなどで含浸処理をして見た目を向上させます。
レッドベリルも通常的に含浸処理が行われています。
多くの色合いをもつベリルですが、ベリルの中で一般的に含浸処理が行われているのは、エメラルドとレッドベリルだけといわれています。
ペツォッタイト
2002年にマダガスカル南部で発見された、比較的新しい宝石であるペツォッタイト。
最初はベリルの一種と間違われ、見た目からラズベリルと呼ばれていました。
劈開がなく靭性は強いといわれますが、内包物が比較的多いため、ほとんどがオイルなどで含浸処理をして見た目を向上させています。
含浸処理により価値が下がる宝石とは
前述した含浸処理が一般的なエメラルドやレッドベリルは価値が著しく下がることはありませんが、その一方で、処理が施されることで価値が下がってしまう宝石もあります。
代表的な2つの宝石についてご紹介しましょう。
ルビー
画像:鉛ガラス含浸処理を施されたルビー
白く見えるほどのひび割れや内包物が多いルビーには、ガラス剤による含浸処理を施します。
最も多いとされるのが鉛ガラス含浸です。
ガラス含浸処理が施された結果、透明度が上がりキレイな色合いに変わります。
しかし、宝石としての価値はグンと下がってしまいます。
さらに、含浸されている部分はされていない部分よりも耐久性が低く、酸にも弱くなってしまいます。
サファイア
画像:鉛ガラス含浸処理を施されたサファイア
サファイアもルビーと同様に、ヒビや内包物が目立つ低品質のものに鉛ガラスなどのガラス剤が含浸される場合があります。
こちらも宝石としての価値を著しく下げます。
ルビー、サファイアともに、鑑別書には「鉛ガラスによる含浸処理が行われています」(鉛ガラス以外の場合はその名前が記されます)といった旨が記載されます。
ガラス含浸処理が施されたものとして販売され、納得して購入される場合は全く問題ありませんが、事実を隠して販売している悪徳業者もいると聞きます。
高額の商品を購入される場合は特に、信頼のおける鑑別機関の鑑別書が付いたものやオプションで付けられるお店で購入されることをオススメします。
含浸処理が施されないエメラルドやレッドベリルの価値
一般的に含浸処理が施されるエメラルドとレッドベリルですが、含浸処理が施されていないものは「ノンオイル」と呼ばれ貴重に扱われます。
これらには、一体どれほどの価値が付くのでしょうか。
無処理のエメラルドとレッドベリルの価値と価格の一例をご説明していきます。
価値が違う理由
エメラルドやレッドベリルにはその殆どに含浸処理が施されるとお伝えしましたが、その率、なんと全体の約99%といわれています。
そのため、内包物やヒビなどが少なく、オイルや樹脂の含浸を必要としないエメラルドやレッドベリルはノンオイルエメラルドやノンオイルレッドベリルと呼ばれ、希少価値高く扱われます。
クォリティや大きさによっては大変高額で取引されることもあるといいます。
含浸処理を施していないノンオイルエメラルドやノンオイルレッドベリルは、含浸処理による耐久性の低下の心配もないため、美しい姿を保ちやすいという利点もあります。
含浸処理済みと無処理の価格の違い
含浸処理済みと無処理のザンビア産エメラルドの価格差の一例をご紹介します。
あるタイの業者は、1.45カラットのザンビア産ノンオイルエメラルドが、3,335米ドル(約345,000円)相当であると報告しています。
品質は低い方ですが、1カラット当たりおよそ2,300ドル(約238,000円)です。
さらに、2.87カラットのザンビア産で色がビビッドな最高品質は、43,050ドル(約445万円)になるとのことです。
1カラット当たりおよそ15,000ドル(約155万円)です。
次に、含浸処理済みのエメラルドです。
あるインドの業者は、ザンビア産で含浸処理済みのエメラルドは、カラット当たりおよそ40ドル(約4,100円)~600ドル(約62,000円)と報告しています。
こちらはあくまで一例であり、国や業者によって相場に多少の違いが出るかもしれません。
しかし、こちらの最高品質で比較した場合、ノンオイルはカラット当たり155万円、含浸処理済みはカラット当たり62,000円と、約25倍の価格差が出ています。
含浸処理が施された宝石のお手入れ方法で注意すること
含浸処理された宝石は熱や化学薬品などにさらすことで耐久性の低下や外観を損なう恐れがあるので注意しましょう。
含浸処理によって耐久性が落ちると、欠けやヒビなども生じやすくなります。
特にジュエリーとして着用する場合などは、衝撃を与えないように気を付けてください。
アルコール消毒液なども掛からないよう注意した方が無難です。
クリーニングは柔らかい布で拭き取るだけで十分ですが、汚れが目立つようでしたら、中性洗剤を溶かしたぬるま湯の中で、柔らかいブラシなどを使って洗うことは問題ありません。
泡をしっかり流したら、柔らかい布でしっかりと乾燥しましょう。
保管する際には、個別の袋や箱に入れて湿気や直射日光を避けた場所に置きます。
超音波洗浄機に入れると注入物質が溶けたり宝石が破損する恐れがあるので、使用は避ける様にしてください。
最近含浸処理石が増えたといわれている宝石
宝石に施される含浸処理は日々増えている印象があります。
以前は出回っていなかった宝石の処理石が少しずつ出回ってくることも珍しくありません。
宝石は天然の産物ですので、どうしても限りがあります。
昔は質が悪いことを理由によけられていた宝石が、鉱山が枯渇してくるのに従い、見直され、含浸処理を施して市場に出されることになっても、仕方のないことなのかもしれません。
人気の宝石であればなおさら、需要と供給のバランスを保つため、利用価値があるものは最大限利用しようとするのも人間の性であるような気もします。
そこでほんの一例ではありますが、最近含浸処理が施されたものが出回り始めていると噂されている宝石について幾つかご紹介したいと思います。
※ご紹介したものは、あくまでも一例です。ご紹介しているものが全てではありませんので予めご了承下さい。
アウイナイト
アウイナイトはドイツのアイフェル地方を中心に産出される宝石です。
コバルトブルーに輝く独特の色合いがコレクターを中心に人気が高い宝石でもあります。
アウイナイトは一般的に内包物やキズが多いといわれています。
多くのものが0.1ct程度と大粒のものが採れにくいことから希少価値高く扱われ、、最近透明剤の含浸処理が施されたものが増えているといいます。
今後、通常行われる処理として鑑別書に記載されることになる可能性もあるようです。
パライバトルマリン
ネオンカラーが美しく人気が高い宝石パライバトルマリン。
パライバトルマリンも産地が限られ希少性が高い上に、一般的に内包物やキズが入りやすい宝石といわれています。
アフリカにも産地が見つかり、多少流通量が上がったものの、人気も高いことから希少価値が上がり続けている宝石です。
最近含浸処理を施されたものが増えているといわれていますので、注意が必要です。
グランディディエライト
グランディディエライトは1900年初頭に見つかった鉱物ですが、昔は宝石品質のものが少なく宝石としてはあまり注目されていませんでした。
それが2014年、新たな鉱床が見つかり美しい宝石品質のものが産出されるようになると、その美しいブルーグリーンの色合いから一気に注目を浴び、コレクターの間で人気が高まりました。
ジュエリーやルースで出回っている品質の高いものにはまだ多く見られないようですが、パワーストーンなどとして扱われるものの中に含浸処理が施されているものが増えていると聞きます。
今後どうなるかはまだ分かりませんが、人気の高い宝石ではありますので、増えていく可能性はあるかもしれません。
タンザナイト
強い多色性をもち、ブルー~バイオレットの色合いが人気の高いタンザナイト。
ティファニー社によって名前が付けられたことでも有名です。
最近カボションカットのタンザナイトに含浸処理が施されたものが多く見られるといわれています。
全てではないようですが、カボションカットのタンザナイトを購入する際は確認した方が良いかもしれません。
最後に
画像:エメラルド
宝石に含浸処理を施して美しさを向上させることは、宝石によっては一般的に行われており、価値を著しく下げることはありません。
逆に言えば、宝石によっては価値を下げてしまうものもあります。
そして、価値を下げてしまう処理が施されているにも関わらず、未処理のものとして高額に販売されることもあると聞きますので、知識と注意が必要です。
特に高額商品を購入の際には、信頼のおける鑑別機関鑑別書やソーティングが付属しているものを選ぶかオプションで付けられるお店で相談しながら購入されることをオススメします。
賢く選んで、素敵な宝石との生活を楽しんで下さいね。
カラッツ編集部 監修