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イギリスには博物館や美術館が多数存在し、かつて王侯貴族が所有したジュエリーや、鉱物コレクターが所有した鉱物標本なども展示されています。
展示物の中には世界的に有名な宝石や、歴史的なジュエリーなども多く、ジュエリー史に残るようなジュエリーや宝石の実物を誰でも実際に目にすることができます。
こちらでは、イギリスの首都ロンドンにある4つの博物館と、それぞれに展示されている代表的な宝石とジュエリーについて、ご紹介していきたいと思います!
目次
ヴィクトリア&アルバート博物館(Victoria and Albert Museum)
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ロンドンのサウス・ケンジントン地区にあるヴィクトリア・アルバート博物館では、館内にある「The William and Judith Bollinger Gallery」で3000点以上もの歴史的ジュエリーを展示しています。
古代ギリシャ、ローマ、エジプトから始まり、約800年にわたるヨーロッパのジュエリー史を振り返る展示もあります。
各時代ごとを代表する希少なジュエリーたちが展示されています。
金細工師カステラーニやジュリアーノによる作品や、アール・ヌーヴォーを代表するルネ・ラリックの作品、イースター・エッグで知られるファベルジェによるかぎタバコ入れ、カルティエ、ブシュロン、ショーメ、ティファニーなどによる、歴史的なジュエリーの数々も並んでいます。
ヴィクトリア女王の小冠(Queen Victoria’s sapphire and diamond coronet)
ヴィクトリア女王とアルバート公が結婚した1840年に、アルバート公がデザインした小冠です。
女王は、1942年に描かれた初の公式肖像画で、この小冠を着用しています。
冠はゴールドとシルバーの地金にサファイアとダイヤモンドを配したデザインで、金細工師ジョセフ・キッチングが制作しました。
小冠に配した宝石の殆どは、ウィリアム4世とアデレード王妃夫妻から姪であるヴィクトリア女王に贈られたものです。
ボアルネ・エメラルドのパリューレ(Beauharnais Emeralds Parure)
1806年、ナポレオン・ボナパルトとジョゼフィーヌ皇后夫妻が、2人の養女ステファニー・ド・ボアルネ(Stéphanie de Beauharnais)とバーデン太后の孫カール・ルートヴィヒとの結婚祝いとして贈ったといわれるエメラルドのパリューレです。
ネックレスとイヤリングには大きなエメラルドとダイヤモンドが配され、ブリオレットカットのエメラルドをドロップした華やかなデザインです。
パリューレは、ナポレオンとジョゼフィーヌ皇后の御用達ジュエラー「Nitot & Fils」が制作したものと考えられています。
後側にドロップしたエメラルドは取り外し可能で、イヤリングとして着用することも出来るとのことです。
カルティエのトゥッティ・フルッティ・ヘアバンド(Tutti Frutti Bandeau)
1928年、カルティエがロンドン本店の顧客マウントバッテン公爵夫人のために制作した、豪華なヘアバンドです。
1911年にインドを訪問したジャック・カルティエが、現地で宝石に彫刻を施していることに触発されます。
ルビー、サファイア、エメラルドに果物や葉のような彫刻を施し、植物をイメージしたカラフルなコレクションは「トゥッティ・フルッティ」と名付けられました。
色や形が異なる宝石を組み合わせるため、綿密な設計と高度な技術を必要とします。
公爵夫人が所有したヘアバンドは、同博物館へ長期で貸し出されて展示されています。
ロンドン塔(Tower of London)
ロンドン塔は1066年にウィリアム征服王によって基礎が築かれ、かつては要塞や王宮として使われていた場所です。長い歳月をかけて修復や改造を重ねてきました。
ロンドン塔の中では、英王室が所有する宝飾品コレクション「クラウン・ジュエル」が、ロイヤル・コレクションの一部として厳格に展示・保管されています。
厳重な警備の元、王室が所有する王冠を始めとする世界的に有名な宝石が配された宝飾品が一般公開されています。
大英帝国王冠(The Imperial State Crown)
国王(または女王)の即位式が執り行われる際、君主の頭上に載せられる王冠です。
王冠には2868石のダイヤモンドと17石のサファイア、11石のエメラルド、269石のパールと4石のルビーが配されています。
以下の項目では、王冠の前部に配されたロイヤル・コレクションを代表する3つの宝石をご紹介します。
同じく王冠に配したカリナン・ダイヤモンドは、次の項でまとめてお伝えします。
黒太子のルビー(Black Prince’s Ruby)
正面のクロス・パティに赤い石が配された王冠です。
この宝石は、元々カスティーリャ王のペドロ1世が所有していましたが、1367年、ある戦いで勝利の手助けをしたエドワード王子に捧げられたとされています。
エドワード王子が黒太子として知られていたことから、「黒太子のルビー(Black Prince’s Ruby)」と呼ばれるようになったといわれています。
しかしこの宝石、実はルビーではなくレッドスピネルなのだそうです。
長らくルビーと思われ、その名も付いたとされますが、技術が進んだ後レッドスピネルということが判明し、話題を呼んだ世界的に有名な宝石です。
聖エドワードのサファイア(St Edward’s Sapphire)
王冠上部の十字架にセットされたサファイアです。
このサファイアは、1042年に即位したエドワード懺悔王の即位の指輪に配されたものといわれています。
一度は王の元を離れた指輪でしたが、晩年運命により王の元に戻り、王の死後指に嵌められたまま埋葬されたと伝わります。
後に墓が開けられた際、指輪はそのまま残っており、指輪から外されたサファイアが王冠に配されたのだそうです。
スチュアート・サファイア(Stuart Sapphire)
王冠のバックバンドにセットされた、104ctのブルーサファイアです。
スチュアートサファイアは1688年、イングランド王ジェームズ2世が亡命した際、一緒に国外に持ち出されたと記録されています。
その後ジェームズ2世の子孫によって売却され、1807年にイギリスに戻り、大英帝国王冠にセットされることとなりました。
以前は黒太子のルビーの下に配されていたようですが、1937年に今の場所に移されたといわれています。
カリナン・ダイヤモンド(Cullinan Diamond)
1905年、南アフリカのプレミア鉱山で発見された、3106ctという世界最大のダイヤモンド原石です。
現在でもその記録は塗り替えられていません。
所有者であったトランスバール政府から英国王エドワード7世に誕生日祝いとして贈呈され、後に大きな9石と小さな96石にカットされました。
大きなカリナン9石は、全てロイヤル・ジュエリーに配されたといいます。
503ct以上もあるカリナンⅠは王笏に、317ctのカリナンⅡは前述の大英帝国王冠に配され、他のカリナンも王冠やブローチなどに配されています。
コ・イ・ヌール・ダイヤモンド(Koh-i-noor Diamond)
エリザベス女王の母親であるクイーンマザーの王冠にセットされた、105.6ctのダイヤモンドです。
15世紀のインドで発見されたそのダイヤモンド原石は、所有した男性達に数々の不運が舞い降りたことから、男性に不幸をもたらす石と言われるようになりました。
1849年にヴィクトリア女王に贈呈され、1937年ジョージ6世の戴冠式の際、妻であったクイーンマザーの王冠の前部に配されました。
自然史博物館(Natural History Museum)
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恐竜の化石や動物の剥製など、莫大な数の自然史に関するものを所蔵することで知られている自然史博物館。
鉱物コレクションも大変豊富で、およそ18万5千点の標本を所蔵しています。
有名な鉱物や寄贈された収集家によるコレクションなど、歴史的かつ貴重なものが数々展示されています。
オストロ・ストーン(The Ostro stone)
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1990年代に英探検家マックス・オストロ氏が、ブラジルのミナス・ジェライス州で発見した世界最大級のトパーズのカット石です。
9381ctにカットされたトパーズは重量2kg、長さ15cmで幅10.5cmという巨大サイズです。
ビビッドなブルーの発色をしていますが、この色は原石に人工処理を施したことによるものといわれています。
ブルートパーズの販売会社を経営するオストロ氏から貸し出されたものですが、同博物館で永久展示される予定です。
呪いのアメシスト(The Cursed Amethyst)
3.5cm×2.5cmのオーバルカットのアメシストで、シルバーのアミュレットに配されています。
このアメジストは、1855年にインドで反乱が起きた際に寺院から略奪されたものといわれています。
ベンガル騎兵だったフェリス大佐によって英国に持ち込まれましたが、後に大佐は健康状態が悪化し財産も失ってしまいました。
アメジストは、大佐の死後に息子エドワード・ヘロン=アレン氏から数々の友人の手に渡りますが、彼らも自殺や失職、災害に襲われるなどの不幸に見舞われました。
そのためエドワード・ヘロン=アレン氏は『この石は呪われた歴史をもつため、受け取った人は責任を持って取り扱うように』と手紙に残したと言い伝わります。
後にこのアメシストはアミュレットにセットされ、受け継いだヘロン=アレン氏の娘によって1944年に同博物館に寄贈されたといわれています。
ホープ・クリソベリル(Hope Chrysoberyl )
オーバル・ブリリアントにカットされた、45ctという大きさのクリソベリルです。
イエロー味を帯びたグリーンをしています。
1821年頃にブラジルで発見されたといわれるこのクリソベリルの原石は、銀行家であったヘンリー・フィリップ・ホープ氏に買い取られ、後にカットされたといわれています。
ホープ氏は、呪いのダイヤモンドとして広く知られる「ホープ」も一時的に所有し、その名前の由来となった人物です。
このクリソベリルも同様に「ホープ」と名付けられています。
1866年、クリソベリルを受け継いだホープ氏の息子フランシスが破産したことから売却され、その後購入者が同博物館に売却したといわれています。
イギリスの宝石学者であるハーバート・スミス氏はその著書の中で
『完全なフローレスの宝石。恐らく、現在知られているこのタイプのクリソベリルで、最も素晴らしいカット石だろう』
と称賛しているそうです。
大英博物館(British Museum)
ロンドンの地下鉄ラッセル・スクエア駅近くにある、世界最大級の博物館です。
ロゼッタストーンやパルテノン神殿の彫刻など、世界中の歴史的価値の高い芸術品を15万点以上展示しています。
古代からのアンティーク・ジュエリーのコレクションや、莫大な数の鉱物の標本も展示されています。
シュロップシャー・サン・ペンダント(Shropshire sun pendant)
イギリスのシュロップシャーで2018年5月に発見された、3000年の歴史を持つゴールドペンダントです。
半月型で全体に半円や幾何学模様が繊細に施されています。
保存状態が極めて良好で、驚くほど美しい姿で発見されたといいます。
サン(太陽)・ペンダントと名付けられたこのジュエリーは、紀元前1000年~800年頃、ヨーロッパのブロンズエイジ(青銅器時代)に作られたものと考えられています。
当時のイギリス人は太陽を崇拝していたと伝わっているものの、今までそれを裏付けするものはあまり見つかっていませんでした。
このペンダントの発見により、人々がどれほど太陽を大切にしていたかが改めて証明され、歴史的資料としても重要な役割をもっています。
古代エトラスカン(エトルリア)のスカラベ(Scarab)
紀元前5世紀後期~4世紀初期に古代エトルリアで制作された、スカラベです。
スカラベが発見されたイタリア半島では、ギリシャ文明と同時期にエトルリア人によるエトラスカン文明が発展したと考えられている場所です。
古代エジプト文化の影響を受けていたため、エジプトで崇拝されていたスカラベのモチーフが用いられたと考えられています。
カーネリアンを素材にしており、丸くなった片側にはスカラベの形が施されています。
もう片方の平らな面は、ギリシャ神話に登場するペルセウスがメドゥーサを斬る姿が彫刻されています。
直系の長さに穴が開けられていることから、ワイヤーなどを通してリングやネックレスとして着用していた可能性が窺われます。
ザ・ライト・ジュエル(The Lyte Jewel)
1610年~1611年に制作されたゴールドのロケット・ペンダントです。
内部には、イングランドとアイルランドの国王ジェームズ1世(スコットランド王としてはジェームズ6世)のミニチュア肖像画が嵌められています。
オープンワーク(透けるような彫刻)の蓋には、ジェームズ1世をラテン語で表す「IR(Iacobus Rex)」の王室モノグラムの上にダイヤモンドを配し、エナメルを施した繊細な作品です。
肖像画は、当時の有名なミニチュア画家ニコラス・ヒラードによって描かれました。
このペンダントは、当時ジェームズ1世の家系と先祖を調査したトーマス・ライト氏(Thomas Lyte)への感謝として、国王から捧げられました。
ライト家で引き継がれた後、1882年にファーディナンド・ジェームズ・ド・ロスチャイルド男爵が購入、1898年の男爵の死後、大英博物館の所蔵となりました。
ライト一族が所有したことから「ライト・ジュエリー」と呼ばれています。
最後に
今回ご紹介した博物館は、ロンドン塔を除いて全て無料で入場できます。
館内はとても広いため、全てを見て回るのは1日以上かかります。
私は鉱物やジュエリーが主要な目的として訪れますが、じっくり見ているだけで時間がすぐ経過してしまいます。
宝石以外にも素晴らしい展示物が多いため、他に目を奪われ、気がついたら時間が無くなってしまっていたこともあります。。。
博物館に訪れる際にはまず目的の展示物がある部屋を事前に確認して、まずは目的の場所へと向かうことをオススメします。
カラッツ編集部 監修