アナテースという宝石をご存知でしょうか。
日本では馴染みが薄いように思いますが、聞くところによると、スイスより北のヨーロッパ諸国では人気がある宝石だそうですよ。
特に、スイスの鉱物愛好家の中では結構メジャーな宝石なのだとか。
何か理由はあるのでしょうか。
何だか不思議で謎多き宝石、アナテースについてお話しましょう。
目次
アナテースとは?
アナテースはチタンの酸化鉱物です。
チタンは現代の生活には欠かせない貴重な資源ですが、自然界に単体では存在していないといいます。
鉱物の中に化合物として含まれているものを精製して、取り出しているのだそうです。
しかしアナテースは産出量が少ないために、チタンの資源鉱物としてはあまり活用されていないよう。
曹長石などの石基から八面体のアナテースが顔を出して煌めいている様子は、宝石を作り出す地球のパワーや神秘を感じてしまいます。
アナテースとは一体どんな鉱物なのでしょう。掘り下げて見てみましょう。
鉱物としての基本情報
アナテースの鉱物としての基本情報は次の通りです。
英名 | Anatase(アナテース) |
和名 | 鋭錘石(えいすいせき) |
鉱物名 | アナテース |
分類 | 酸化鉱物 |
結晶系 | 正方晶系 |
化学組成 | TiO2 |
モース硬度 | 5.5 – 6 |
比重 | 3.8 – 4.0 |
屈折率 | 2.48 – 2.56 |
光沢 | 金剛光沢~金属光沢 |
特徴
アナテースの特徴は、まず、とても小さな結晶が多いということが挙げられます。
その殆どがミリ単位の大きさで、1㎝を超える結晶はとても希少なのだとか。
次に、アナテースは結晶の形が特徴的であることでも知られています。
両端が尖った八面体であることが多く、錐面に横方向の条線が細かく入っているのだそうですよ。
アナテースの屈折率は、上の表から分かるように、2.48 – 2.56で、これはダイヤモンド(2.417)よりも高く、光の分散率も0.213とダイヤモンド(0.04)のなんと約5倍以上なのだそう。
分散光(ファイア)が強いことで有名なスファレライト(0.156)やスフェーン(0.055)と比べても非常に高いことが分かります。
アナテースを光に照らしたらどんなにギラギラと輝くのでしょうか。
また、加熱するとルチル構造に転移するという珍しい特徴もあります。
色
次に、アナテースの色について見てみましょう。
実は様々な色があるアナテース。
褐色、赤茶、ブラック、グレー、イエロー、グリーン、インディゴブルー、ライラックピンクなど。
透明のクォーツにインディゴブルーのアテナ―ス結晶が内包していたり、突き刺さっているように見えるものもあります。
自然の造形美には驚くばかりですね。
アナテースは全般的に濃くて暗めの色合いのものが多いといいます。
その上小さな結晶が多いことから、一見すると黒色の結晶に見えるものが、実際は濃いブルーや褐色だった、ということもよくあるのだそうです。
産地
アナテースの主な産地はアメリカやヨーロッパに広がっています。
アメリカ、ブラジル、カナダ、イギリス、ノルウェー、スイス、フランス、イタリア、ロシアなどです。
アルプス山脈の広い範囲に、アナテースの良質な鉱脈があるといわれています。
スイスアルプスでは、直径2cmの大きな結晶が見つかったこともあるそうですよ。
アナテースが特にスイスより北のヨーロッパで人気が高いと冒頭で触れましたが、アルプス山脈周辺で産出されるということもあるかもしれないですね。
なんと、山梨県や鹿児島県でも産出されるそうです。
日本産のアナテース、見てみたいですね。
名前の意味
アナテースという名前はギリシャ語で、延長、伸張、伸びるという意味の「anatasis」が語源だといわれています。
結晶の形が長く伸びた八面体であることが名前の由来とされています。
確かにアナテースの結晶は、両端を持って引き延ばしたかのような形ですよね。
アナテースの結晶は正方晶系なのですが、他の正方晶系の宝石と比べて角錐型の面が長いのだそうです。
かつては、八面体の石という意味の「オクトヘドライト」という名前で呼ばれていたこともあったといいます。
聞いた話によると、隕石の中にも同じ「オクトヘドライト」という名前をもつものがあるようなのですが、この二つに鉱物としての関係はないようです。
和名は鋭錘石(えいすいせき)。
原石の形が鋭く尖った四角錐であることが和名の由来とされています。
アナテースの原石の形
アナテースの原石は、どんな形なのでしょうか。
また、どのような条件下で生成されるのでしょう。
アナテースが産出される形と生成について見てみましょう。
アナテースは八面体が多い
先ほども触れた通り、アナテースの原石の多くは両端が鋭く尖った八面体で産出されるといいます。
稀に六角柱状や卓状、板状や粒状でも見られるそうです。
母岩からキラキラした結晶が顔を出していたり、堆積岩や漂砂鉱床に集まっていたりと、産出される形は様々のようです。
アナテースの生成
アナテースは、チタンを含む鉱物の二次鉱物だといわれています。
片岩や片麻岩、ペグマタイト、スカルン鉱床などの裂け目や鉱脈で生成されるそうです。
母岩に含まれているTiO2が熱水によって分泌され、長い時間をかけてアナテースの結晶ができると考えられています。
そして、フローライト(蛍石)やチタン鉄鉱、クォーツ(石英)、ルチル(金紅石)、ブルッカイト(板チタン石)などと一緒に生成することが多いようです。
アナテースの中には、スフェーン(くさび石、チタン石)が風化したものもあるとのこと。
スフェーンといえば、美しいファイアが見られることでコレクター人気の高い宝石の一つです。7月の誕生石に追加されたことでも話題になりました。
風化するとアナテースになるなんて、とても神秘的ですね、驚きました。
アナテースの仲間
画像:ブルッカイト
次にアナテースの仲間についてお話しましょう。
チタンの酸化鉱物はアナテースの他に、ルチル(金紅石)とブルッカイト(板チタン石)があります。
どれも化学組成は同じTiO2なのですが、結晶構造などが違い見た目も異なります。
こういった現象を同質異像と呼んでいます。
では、アナテースと同質異像の関係にあるルチルとブルッカイトについて、少し詳しくご紹介しましょう。
ルチル(金紅石)
画像はクォーツの中に入ったルチル結晶
ルチルは、天然のものが単体で出回ることは少なく、クォーツなど他の鉱物にインクルージョンとして含まれるものが多いです。
単体で結晶するルチルはアナテースと同じ正方晶系をしています。
結晶の形は柱状、針状などが多く、V字型に交差した双晶や特徴的な輪座双晶で産出されることもあるそうです。
ルチルも屈折率が2.62 – 2.90、分散率が0.28と共にダイヤモンドより高いため、カットによっては強い煌めきとファイアを見せます。
また、ルチルはチタンの資源鉱物としても広く活用されています。
ルチルから採取した酸化チタンを粉末にすると、まぶしいほどのチタン白を呈するといいます。
白色の塗料や絵具、陶磁器で使う釉薬、化粧品としても使われているそうですよ。
ルチルの産地
良質なルチルの産地は、スウェーデン、イタリア、フランス、オーストリア、ブラジル、アメリカなどです。
インクルージョンとしてのルチル
先にもお伝えした通り、ルチルは宝石単体としてより、インクルージョンとして別の鉱物に含まれることの方が一般的に知られているのではないかと思います。
ルビーやサファイアに含まれることも多く、カボションカットが施され上から光を照らすとルチルのインクルージョンが6条や12条の光となって現れるものもあります。
この現象をアステリズム(スター効果)と呼び、この光学効果をもつルビーやサファイアはスタールビーやスターサファイアと呼ばれ人気があります。
また、クォーツに入ったルチルも魅力的で、私はルチルクォーツを2種類持っていますよ。
一つは赤銅色の針状ルチルが数多く交差しているもの。もう一つはゴールドのルチルの束が滝のように入っているものです。
インクルージョンとしてのルチルでもこんなに美しいので、ルチル単体だとどんなに綺麗だろう、と夢想してしまいます。
ブルッカイト(板チタン石)
ブルッカイトは、イギリスの結晶学者H.J.ブルックにちなんで1825年に名付けられたといわれています。
ブルッカイトの結晶構造はアナテースやルチルとは異なり斜方晶系です。
ブルッカイトの和名は板チタン石といいます。
その名の通り、板状で産出されることが多いようですが、卓状や角錘状などの結晶も見られるといいます。
結晶の厚さは様々あるようですが、長さは5㎝くらいまでが多いそうです。
色は、ブラウン、レッド、ブラック、黄褐色、赤褐色など。
ブルッカイトもアナテースと同様に、熱が加わるとルチル構造に転移するそうです。
ブルッカイトの産地
品質が高くて美しいブルッカイトは、アナテース同様にアルプス山脈などの高地で見つかることも多いといわれています。
ノルウェーも有名な産地の一つなのだそう。
また、ブルッカイトは漂砂鉱床などに集まることも多く、ブラジルにあるダイヤモンドの砂鉱床などで見つかることもあるようですよ。
ダイヤモンドとブルッカイトが見つかる砂鉱床なんて、夢がありますよね~。
アナテースと同様に、日本で採れることもあるそうです。
アナテースの価値基準と買える場所
希少なアナテースを手に入れたい!ダイヤモンドより強い煌めきをこの目で確かめたい!
そう感じた方も多いのではないでしょうか。私も欲しくなってきました~。
どんなアナテースを選べば良いのか、どこで買うことができるのか、気になりますよね。
そこで、アナテースの価値基準やどこで買えるのかなど、調べてみましたよ。
価値基準
品質の高いアナテースとは、どのようなものなのでしょうか。
まず、色が鮮やかで透明度が高いこと。
アナテースは色が濃く不透明なものが多いといわれますので、透明度が高いものは希少性が高いとされます。
加えて、小さい結晶で産出されることが多いことからカラットが大きいほど価値が上がります。
1㎝を超えるアナテースには高い価値が認められます。
美しいカットが施されたものも評価が上がります。
ダイヤモンドよりも高い分散率をもつことから、美しいカットが施されたアナテースはきっとギラギラと魅力的なファイアを見せてくれるのではないでしょうか。
どこで買える?
アナテースは、どこで買うことができるのでしょうか。
残念ながら日本ではあまり知名度が高くないアナテースは、流通量も少なく、店頭では殆ど見かけないと思います。
最近では、オンラインショップなどで原石やルースなどが売られることはあるようですね。
各地で開催されるミネラルショーでももしかしたら出会えるかもしれません。
カラッツSTOREでも取り扱うことがありますので、良かったら覗いてみて下さい。
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最後に
アナテースについてお話してきました。
アルプス山脈で産出されると聞くと、何だか特別な感じを受けてしまいました。
私はアルプスの最高峰モンブランを貫くトンネルを通ったことがあるのですが、掘削工事の時にアナテースも沢山出てきたのではないかしら・・・と想像してみましたよ。
氷河や雪山を背景にキラキラ煌めくアナテースの姿が目に浮かぶようです。
それにしても、同じ化学組成なのに3種類の鉱物ができてしまうなんて、自然の力って本当に奥深いですよね~。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 岩石と鉱物』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『美しい鉱物と宝石の事典』
著者:キンバリー・テイト 訳:松田和也/発行:創元社 ほか