石膏としても知られるジプサムは、紀元前の時代から人類に使用されてきた長い歴史をもつ鉱物です。
産出される結晶の形がさまざまで、異なる名前で呼ばれるものもあります。
実は同じ鉱物と知って驚くほど、見た目が全く異なるものも!
今回は、ジプサム(石膏)の歴史や鉱石としての使い道、独特の見た目をもつジプサムの種類などについてご紹介していきます。
目次
ジプサムとは?
石膏として知られるジプサムは海水が蒸発したことで生成する鉱物です。
沈殿して固体化したジプサムが風に運ばれ、砂丘のような白い大地を作ることもあります。
鉱物としての基本情報
英名 | Gypsum |
和名 | 石膏(せっこう) |
分類 | 硫酸塩鉱物 |
結晶系 | 単斜晶系 |
化学組成 | Ca(Sa₄)2H₂O |
モース硬度 | 2 |
比重 | 2.3‐2.33 |
屈折率 | 1.52‐1.53 |
光沢 | ガラス光沢、真珠光沢、絹状光沢 |
特徴
ジプサムは古代エジプトやローマ時代から建築や彫刻に用いられ、現在も石膏ボードとしての建築材料やギプスの型材などに幅広く使用されています。
結晶の形状が多様で、見た目や特徴が変わることから別の名前で呼ばれる変種もあります。
ジプサムの和名は「石膏」ですが、「硬石膏」と呼ばれるアンハイドライトとは別の鉱物。
両者は共生することが多く、アンハイドライトとして生成したものが湿潤な鉱床内でジプサムに変質するなど、深い関係にはありますが鉱物種としては異なります。
また、焼いたジプサムの粉は水を加えると固まりますが、アンハンドライトは固まらないという違いもあります。
モース硬度が2と軟らかいため、ジュエリーには向かないとされる宝石です。
色
通常はカラーレスやホワイトをしていますが、微量元素を含むことによりイエロー、ピンク、レッド、ブルー、グレー、淡褐色などを帯びます。
産地
アメリカ、メキシコ、カナダ、オーストラリア、チリ、ロシア、イタリア。
かつて日本でも、秋田県や山形県などで産出されていたそうです。
名前の意味
英語名のジプサム(Gypsum)は、古代ギリシャ語でチョークや石膏という意味の「Gypsos」を由来とします。
和名は「石膏」といいます。
その昔中国ではジプサムを「方解石」と呼んでいたそうですが、現在は中国語でも同じように呼ばれているようです。
日本で方解石というとカルサイトのことを指しますね。
ジプサムの原石の形
ジプサムは堆積岩を構成する主要鉱物の一つです。
原石は硫化鉱物が変質したことによる二次鉱物として、鉱床酸化帯や砂や粘土を含む堆積岩中に生成します。
結晶は放射状や微細結晶が集まった形で産出されることが多いようです。
また、火山の噴気口の周囲に付着する場合もあるといいます。
生成する際には、アンハイドライト(硬石膏)やハライト(岩塩)を伴なっています。
結晶は多様な形で産出されます。結晶は単斜晶系である平行四辺形の板状や長く薄い形状で、ほとんどが双晶をなしています。
稀に魚尾状や燕尾状の双晶になることもあるそうです。
また通常の結晶とは少し異なる形状の集合体で産出されるものもあります。
画像はサティンスパー
主なものは、絹のような光沢をもった、繊維状集合体の「サティン・スパー」、細粒質結晶が塊状の「アラバスター」、花弁状の結晶集合体の「砂漠のバラ」の3つです。
ジプサムの種類
画像はセレナイト
前述したように、ジプサムには結晶の形状や見た目の違いで別の名前で呼ばれている種類が幾つかあります。
一つはセレナイト。ジプサムの中でカラーレス~ホワイトで単結晶のものはセレナイトと呼ばれます。
セレナイトの結晶は、扁平結晶体が多く、稀に短冊状や双晶のものも見られます。月の輝きのような光沢が特徴的です。
また前述した、アラバスター、サティン・スパー、砂漠のバラも結晶の形状や見た目が通常のジプサムとは異なります。
では、この中から特に特徴的な2つ、「アラバスター」と「砂漠のバラ」について、もう少し掘り下げてそれぞれ詳しく説明していきましょう。
アラバスター(雪花石膏)
アラバスターは微細結晶が塊状になった集合体で、大理石のような見た目をしています。
そのため、古来から彫刻などの装飾品に多く加工されてきたといいます。
一般的に雪のような白色で半透明ですが、人工的処理により染色やマーブル模様が施されることもあるそうです。
イタリアとドイツは、近代のアラバスター貿易の中心地として栄えた土地としても有名です。
特にイタリアのトスカーナ州ヴォルテッラは、古代エルトリア時代からアラバスターの産地として有名だったといわれています。現在も工芸の伝統は引き継がれアラバスターの工芸品が製作されています。
砂漠のバラ(Desert Rose, Sand Rose)
デザートローズ(Desert Rose)やサンドローズ(Sand Rose)としても知られていますね。
結晶が砂漠中にあるミネラルを含んだ湖や沼の水中で生成したもので、バラの花のような形状をしています。
表面に砂漠の砂粒が付くため、ざらざらした見た目をしています。
別の鉱物である、バライト(重曹石)も砂漠のバラを生成しますが、ジプサムの方が産出量も多いことから一般的なイメージです。
また、バライトより形状がはっきりしており、先端がシャープなものが多い印象もありますね。
通常は白色をしていますが、酸化鉄を含むと錆びたような色合いになります。
結晶は単体や集合体で産出し、約1cm~10cmほどの大きさをしています。高さが99cmという大きい集合体も記録されています。
石膏としての使い道
特徴のところでもご紹介したように、ジプサムは石膏として古来から使用されてきました。
粉末にしたジプサムに水を加えて熱すると固まるという特質をもちますが、これを発見したのは古代ローマ人だったといわれています。
結晶構造中に結晶水を含むジプサムは、70度以上に熱すると結晶水の一部が蒸発して半水石膏となります。
さらに200度以上に熱すると完全脱水したアンハイドライトに、300度以上加熱することで焼石膏という粉末になります。
この焼石膏に水を加えることで発熱し固まることから、これを利用し鉱石として広く使われています。
主なものを幾つか紹介しましょう。
建築素材
古代エジプトでは、石膏をピラミッドの建築に使用したといわれています。
焼石膏が固まることが発見された古代ローマ時代には、石膏を漆喰として建築素材や石造り宮殿の内装に用いていたそうです。
17世紀の米国では、当時主流だった木造住宅の内装に石膏を塗り防火性を高めたといわれており、後に米国で石膏ボードが発明されます。
石膏ボードは、現在も板状のプラスターボードとして建築用内装材料に使用されています。
遮音性、防火性が高く、取り付け工事や経済面でも優れているそうですよ。
彫刻
モース硬度が2と軟らかく美しい色をもつ石膏は、古来から彫刻にも多く用いられてきました。
ミケランジェロやダヴィンチなど、古代ローマの芸術家が石膏による素晴らしい作品を残しています。
その他
陶磁器や食器の型材、医療用ギプスや歯科での歯形、ジュエリーや金属鋳造の型材、土壌肥料など、幅広い分野で使用されています。
ジプサムは何処で買える?
ジプサムはジュエリーやルースとして流通することはあまりない印象です。
しかし原石は鉱物系のミネラルショーなどで見かけることはあります。
ジプサムタワーという、タワーの様に彫刻されたものが販売されていることも多いと聞きます。
また、砂漠のバラは一般のミネラルショーで見かけることも比較的多いようですので、興味をもたれた方は探してみても良いかもしれませんね。
最後に
歴史の長い鉱物ジプサムは、石膏として私たちの身の回りに欠かせない物質です。
ジプサムの中でも、砂漠のバラやセレナイトは独特の美しさがあることからコレクターからも注目されています。
モース硬度が2と軟らかいので、コレクションされる場合には取り扱いに注意するようにしましょう。
カラッツ編集部 監修