宝石ルースとしては市場で見かけることが少ない、アラゴナイト。
正直よくご存知ないという方も多いかもしれません。
しかし、このアラゴナイト。実はとてもユニークな特徴をもち、知れば知るほど面白い鉱物なのですよ!
何やら一部の生物とも深い関わりがあるようですよ。
また、アラゴナイトにはカルサイトという親戚のような関係の鉱物があります。
遠いようで実は密接な関係にあるこの2つの鉱物。どんな繋がりがあるのでしょうか。
今回は、古くから人々の身近にあった宝石アラゴナイトについて、特徴や原石の形、価値、カルサイトとの関係などについてお話したいと思います。
目次
アラゴナイトとは
アラゴナイトは、炭酸カルシウムでできた鉱物です。
宝石品質のものが少ないとされますが、品質の高いものはガラスのような光沢と優しいミルキーカラーで魅力を放ちます。
個性的な形をした原石が多いことから、コレクター注目の鉱物でもあるようです。
それでは、基本情報から順を追って見ていきましょう。
鉱物としての基本情報
英名 | Aragonite(アラゴナイト) |
和名 | 霰石(あられいし) |
鉱物名 | アラゴナイト |
分類 | 炭酸塩鉱物 |
結晶系 | 斜方晶系 |
化学組成 | CaCO3 |
モース硬度 | 3.5 – 4 |
比重 | 2.90 – 2.95 |
屈折率 | 1.53 – 1.68 |
光沢 | ガラス光沢~樹脂光沢 |
特徴
アラゴナイトはモース硬度が3.5 – 4と、大体真珠と同じ位の硬さで、表面に傷が付きやすいという性質をもちます。
ジュエリーとして身につけるのには少し不向きな宝石といえます。
しかし、柔らかいため彫刻がしやすいという一面もあり、密度の高い結晶をオーナメントに加工することもあるそうです。
古い記録によると、紀元前4000年頃からメソポタミアのシュメール人がアラゴナイトを円筒形に切って絵模様を彫り、印章を作っていたと伝わります。
実はアラゴナイトは、生体鉱物(バイオ・ミネラル)と言って、生物が作り出すこともあるといいます。真珠、貝殻などの海生軟体動物の殻はアラゴナイトで出来ているのだそうですよ。
ガラス光沢のある鉱物アラゴナイトと貝殻が同じ成分である、という事実には驚かされますね。
色
半透明でイエロー系が多いという印象のアラゴナイトですが、ブルー、グリーン、ホワイト、オレンジなど様々な色合いを呈します。
スミレのような淡いパープルやターコイズブルーなどもあるようですよ。
縞模様になったり、異なる色の層が入り込むこともあり、見た目がユニークなものもあります。
意外にもカラフルなアラゴナイトですが、全般的にミルキーで優しげな印象を受けるものが多いように思います。
産地
アラゴナイトの産地は、広範囲に渡っています。
ヨーロッパでは、スペイン、オーストリア、イタリア、イギリス、フランス、ドイツ、ハンガリー、チェコなど。
アメリカ大陸では、アメリカ、メキシコ、ペルー、チリなどで採れるようです。
アフリカ大陸はモロッコとナミビア、アジアでは、中国、日本など。
ファセットに適した宝石品質のアラゴナイトは、チェコなどで採れるといいます。
今後、地球のどこかで透明度が高くキラキラしたアラゴナイトの鉱脈が見つかると良いな、と思います。
名前の意味
アラゴナイトは、発見された地名に因んで名付けられたといわれています。
アラゴナイトは1797年、スペインのモリーナ・デ・アラゴン(Aragon)で最初に見つかったとされます。
モリーナ・デ・アラゴンでアラゴナイトということですね!
最初に見つかったアラゴナイトは、六角錘状の結晶だったそうですよ。
和名の「霰石(あられいし)」は、江戸時代の本草学者によって名付けられたといいます。
温泉や鍾乳洞から発見された小さな粒状のアラゴナイトが、空から降る霰に似ていたことに由来しているのだとか。
実は私、「霰石」はずっとお菓子のアラレからきていると思い込んでいたのですよ。
アラゴナイトの茶色の結晶がお菓子のようで、ザクザクして美味しそうだなぁ、ピッタリの名前だなぁ、と思っていたのですが・・・空から降る霰のことだったんですね。
アラゴナイトの原石の形
アラゴナイトの原石の形は、実にユニークで、かつバリエーション豊かです。
針状、粒状、腎臓状、サンゴ状、縞状、短柱状、鍾乳石状、放射状、繊維状など。全てを並べて見ると色も形も様々で、とても同じ鉱物とは思えません。
アラゴナイトは玄武岩や蛇紋岩などの隙間や鍾乳洞、温泉などで生成するといわれています。そして海などで生きている軟体動物によっても作られます。
温泉の周辺で採れるアラゴナイトは、縞模様の鍾乳石状や層状に、ベントナイトなど粘土の中で生成された場合は、六角柱状結晶や、栗のイガのような柱状結晶の集合体になることが多いそうです。
それでは、アラゴナイトの結晶の内、個性的なものを幾つかご紹介しましょう。
スプートニク
柱状結晶が放射状に集合したアラゴナイトの結晶を、「スプートニク(Sputnik)」と呼びます。
その由来は、『ロシアの人工衛星スプートニクの形に似ている』『衛星と言う意味のロシア語』『星群と言う意味』など、様々な説があるようです。
いずれにしても、宇宙と関係した言葉に、何だかロマンを感じてしまいますね。
スプートニクの柱状結晶は六角形に見えます。アラゴナイトは斜方晶系なのに、六方晶系に見えるのはなぜでしょう。
その理由は、結晶が3つ集まって双晶になったため。
このような形を「擬六方晶」や「擬六角柱」と言うそうですよ。
フロスフェリ
樹木や珊瑚のような形で産出するアラゴナイトは、「フロスフェリ(Flos ferri)」と呼ばれます。
「山珊瑚」という意味があるそうですよ。
白い結晶が枝分かれしながら伸びて群生している様子は、まさに白い珊瑚のようで幻想的。
とても美しい結晶なので思わず触りたくなりますが、非常に脆く壊れやすいため、取り扱いには細心の注意が必要なようです。
このようなアラゴナイトの結晶は、フロスフェリの他に「ポップコーン」と呼ばれることもあるとか。
フロスフェリは、結晶が細かく、白ければ白いほど価値が上がるそうですよ。
ケーブ・パール
コロコロとした球体のアラゴナイトは、ケーブ・パール(Cave pearl)と呼ばれます。
「洞窟の真珠」という意味で、鍾乳洞の中で発見されるようです。
石灰洞の水中で凝固するケーブ・パールは、層を作りながら形成されるのだとか。
その構造は、貝によって作られる真珠とよく似ているように思います。
アラゴナイトの和名「霰石」もこのケーブ・パールから来ているようですよ。
確かに空からパラパラと落ちる霰のような、小さな氷の粒にそっくりの結晶ですよね。
ケープ・パールよりも粒が大きいものは「豆石(ピソライト)」と呼ばれるそうです。
ブルーアラゴナイト
ラリマーにそっくりの、ブルーに発色するアラゴナイトがあります。
それがブルーアラゴナイト。
明るい海や空を思わせるブルーの地色だけでなく、白い模様があるところまでラリマーにそっくりです。
両者は見間違われることも多いそうですが、ブルーアラゴナイトはラリマーよりも希少。
従って、値段が高いのはブルーアラゴナイトの方なのだそうですよ。
アラゴナイトとカルサイトの関係
画像:左-アラゴナイト 右-カルサイト
アラゴナイトとカルサイトは、同じ成分を持ちながら結晶構造が異なる、同質異像の関係にあります。
アラゴナイトは地表近く、200度以下の低温環境で生成しますが、もっと地表が近い環境下ではカルサイトの方が安定しているといいます。
元々アラゴナイトとして結晶化したものが、後にカルサイトに変化してしまうこともあるようで、それを「転移(インバージョン)」といいます。
そのせいか、アラゴナイトよりカルサイトの方が産出量も多いそうです。
先ほど、貝殻や真珠もアラゴナイトから作られるとご説明しましたが、貝殻は、貝が生きている時はアラゴナイトで、生命を失うとカルサイトに変化するのだそうですよ。
なんと。自然の摂理は面白いですね。
カルサイトには、三方向に完全な劈開があり、強い衝撃を与えると菱形に割れるという大きな特徴がありますが、アラゴナイトの劈開性は一方向に明瞭で、カルサイト程強くはありません。
斜方晶系(アラゴナイト)と三方晶系(カルサイト)という結晶系の違いなども含め、両者に特徴的な共通点は少なさそうです。
アラゴナイトの価値基準と市場価格
アラゴナイトを購入する時、どのような点に注意して選べばよいでしょうか。
アラゴナイトの価値基準や市場価格、買える場所などについて簡単にご紹介しますので、ご自身に合ったアラゴナイトを探せるよう、良かったら参考にしてくださいね。
価値基準
高い価値が認められるアラゴナイトとは、まず色が濃くて鮮やかなこと。特にブルーの発色が美しいものに人気があるようです。
それから、透明度が高いこと。不透明な結晶が圧倒的に多いアラゴナイトですが、稀に透明度の高い結晶が産出されます。
美しさと希少性から、透明度の高いアラゴナイトには高い価値が認められるのですね。
そして、カットが綺麗なことも重要です。硬度が低く脆い性質をもつアラゴナイトは、カッティングするのに技術が必要です。
以上の条件を満たし、サイズが大きければ、さらに価値が上がるでしょう。
市場価格
アラゴナイトの市場価格を見てみましょう。
クォリティや大きさなどによって、価格に開きがあります。
不透明だったりサイズが小さかったりとクォリティが低いものは、1万円以下で探すことが可能なようです。
オレンジ色のアラゴナイトの小さなビーズやタンブルが、実店舗で数百円位で売られているのを見たことがありますよ。
ファセットカットを施した透明度の高いアラゴナイトは希少性の高さから、サイズも大きければ、数万円以上で流通しているものもあるようです。
どこで買える?
アラゴナイトは、どこで買えるのでしょうか。
宝石品質のアラゴナイトはあまり多くは出回っていない印象です。
不透明なものは、天然石やパワーストーンを扱うお店などで見かけることもあるでしょう。
ミネラルショーなどのイベントでも、アラゴナイトを探すことができると思います。
レアストーンの取り扱いが多いオンラインショップも増えていますので、マメにチェックしてみたら出会えるかもしれませんね。
ただし、オンラインショップの場合、実物を見て判断ができません。利用者の口コミを読んだり、複数のお店を比較したり、事前に色々調べた上で購入するようにしましょう。
カラッツSTOREでも取り扱うことがありますので、良かったら、検討の一つとしてチェックしてみて下さいね。
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アラゴナイトのお手入れ方法
アラゴナイトの艶やかな光をずっと保つためにも、適切なお手入れ方法を確認しましょう。
硬度がとても低いアラゴナイトは表面に傷が付きやすい性質があります。
ぶつけたり落としたりしてしまうと、ヒビが入ったり、割れてしまうかもしれません。
決して超音波洗浄などは行わないように。粉々になってしまうこともあるからです。
もし、アクセサリーなどとして身につける場合は、身につけた後、柔らかい布で拭いてからしまうようにしましょう。
汚れが気になるときは、石鹸や中性洗剤を溶かしたぬるま湯の中で優しく洗って下さい。
汚れがひどい時は柔らかいブラシなど使っても良いでしょう。ただし、あまり強くゴシゴシ洗うのは念のため避けるようにして下さいね。
保管の際も、他の宝石やジュエリーの地金などにぶつからないように仕切りのある箱や小袋に入れるなど個別になるようにしておくとより安心です。
最後に
アラゴナイトについてお話しましたが、いかがでしたでしょうか。
アラゴナイトの原石は、とても一つの鉱物とは思えない多様性がありました。特に、白い珊瑚や真珠に似た、幻想的な形の原石が印象的でしたね。
脆く壊れやすい結晶ではありますが、儚さゆえの美しさがあるように感じました。
親戚とも言われているカルサイトとは「同質異像」の関係にあることがわかりましたね。同じ成分なのに結晶構造が違うなんて、鉱物の世界は本当に不思議です。
それにしても、貝殻や真珠がアラゴナイトでできていたなんて、そして、生命が終了した貝殻はカルサイトに変わってしまうなんて、とても驚きました。
今後、海岸に落ちている貝殻を見たら「元々はアラゴナイトだったのに、カルサイトになっちゃったんだねー」と考えてしまいそうです。
不思議がいっぱいのアラゴナイトに、少しでも興味を持っていただけたら幸いです。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『起源がわかる宝石大全』
著者:諏訪恭一、門馬綱一、西本昌司、宮脇律郎/発行:ナツメ社
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『パワーストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社 ほか