皆さんはカルサイトという鉱物をご存じでしょうか?
理科の実験などに使われることもあると聞きますので、子供の頃に触ったという方もいらっしゃるかもしれませんね。
正直私はあまりよく知らなかったのですが、今回色々調べてみたら、実は大理石として利用されていたり、意外と身近な鉱物だということが分かり、グッと親近感がわきました。
鍾乳洞で天井からつらら状に垂れ下がっているものもカルサイトからできているそうですよ。
かつてバイキング達が羅針盤として使っていたサンストーン(太陽の石)※の正体ではないかという学説もあるというカルサイト。
今回は、そんな奥深いカルサイトについて、特徴、原石の形、性質、価値などいろいろな角度からお話したいと思います!
※注:宝石のサンストーンとは異なります。
目次
カルサイトとは
カルサイトは海水中の炭酸カルシウムが沈殿して結晶化した鉱物です。
特徴的な性質をもつことから、理科の実験などで使われることもあるそうですが、ファセットカットされたり、ジュエリーとして出回るものは比較的少ない印象です。
鉱物としての基本情報
英名 | Calcite(カルサイト) |
和名 | 方解石 |
鉱物名 | カルサイト |
分類 | 炭酸塩鉱物 |
結晶系 | 六方晶系(三方晶系) |
化学組成 | CaCO3 |
モース硬度 | 3 |
比重 | 2.69 – 2.82 |
屈折率 | 1.48 – 1.65 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
炭酸カルシウムが結晶化してできた鉱物であるカルサイトは、塩酸をかけると発泡して溶けてしまうといいます。
冒頭で大理石として利用されることもあるとお伝えしましたが、石灰岩が変成作用を受けてできた岩石である大理石(マーブル)は、粗粒のカルサイトやドロマイトなどでできていることが多いのだそうです。
比較的大きな原石が産出されることから、石材や彫刻の材料として古くから多く利用されてきました。
古代エジプトではカルサイトのことをアラバスターと呼んでいたといわれ、カルサイトでできた建造物などが多く残っています。
現在アラバスターというとジプサムの一種を指す場合が多いようです。
また、カルサイトはダブリングと劈開性という性質が特徴的なことでも知られています。
これらについては、後ほど詳しくご紹介しますね。
色
カラーレスやホワイトのものが多い印象のカルサイトですが、実はカラーバリエーションが豊富で、多くの色合いのものが見つかっています。
カルサイトは化学的に純粋であればカラーレスなのだそうですが、含まれる微量元素によって色が変わると考えられています。
例えば、マンガンを含むとピンク、鉄を含むとイエロー、ストロンチウムならブルー、ニッケルならグリーン、コバルトならパープリッシュピンク、といった具合です。
また、ブラックライトを当てると蛍光するものもあります。
産地
カルサイトは、アイスランドやメキシコ、アメリカ、イギリス、フランス、チェコなど色々な地域で産出されているそうです。
日本も産地の一つらしいですよ!
様々な地域で産出され、建築素材などにも多く利用されているカルサイトは、実は古くから馴染みのある鉱物なのですね!
原石の形
カルサイトは様々な形で産出されることでも知られています。
大理石や石灰岩、トラバーチンなどとして塊状で産出されるものが多いようですが、他にも偏三角面体、板状、六角柱状、繊維状、鍾乳石状、土状など多様な形で見つかるといいます。
端面が菱面体になっているものや偏三角面体と菱面体が組み合わさったものもあるそうで、端面が菱面体になっているものは釘頭状結晶、偏三角面体と菱面体が組み合わさったものは犬牙状結晶と呼ばれています。
また、蝶やハートのような双晶などで見つかることもあり、中にはピンク色のハート型結晶もあるのだとか!
自然に形成されたピンク色のハート型結晶なんて、とてもロマンチックですね!
名前の意味
カルサイトの名前は、ギリシャ語で石灰の石という意味の言葉を語源としているといわれています。※諸説あり
カルシウムの炭酸塩鉱物は様々あるのですが、最も多く産出されるのはカルサイトだそうです。
まさにカルシウムを代表する石なのですね!
和名は方解石です。
また、カルサイトの中で透明度の高いカラーレスのものをアイスランドスパーまたはオプティカルスパーと呼びます。
アイスランドスパーは、アイスランドから良質なカラーレスの結晶が多く産することから、オプティカルスパーは、偏光フィルターに使われることがあることが、それぞれ由来となっているそうです。
アイスランドスパーの和名は氷州石で、こちらはアイスランドを漢字で氷州と書くところからきているといいます。
カルサイトの特徴的な性質
先にお伝えしたように、カルサイトにはダブリングと劈開性という性質があります。
同じ性質をもつ鉱物は他にも沢山あるのですが、カルサイトには特徴的な部分も多く、それらの性質をもつ代表的な鉱物として紹介されることも多いですね。
複屈折
複屈折とは、光が異方性の物質に入った時に2つの光線に分けられる現象のことを指します。
複屈折性の鉱物は数多くあるのですが、その現象が著しく見られる、代表的な鉱物の一つがカルサイトです。
例えば、文字などが書かれたものの上にカルサイトを置き、結晶を通して下を見ると文字がズレて2つに見えます。
これをダブリング(二重像現象)と呼びます。
ダブリングが分かりやすい宝石としては、他にジルコンやスフェーンなどがあり、これらの宝石を写真に撮った時に、ブレて見えやすいのもダブリングが原因です。
1828年にイギリスの物理学者であったウィリアム・ニコルがカルサイトのダブリングを利用して、「偏光プリズム」というものを作り出し、そこから偏光顕微鏡が発明されたといわれています。
偏光顕微鏡の発明によって鉱物学や結晶学が進展したと考えると、カルサイトは科学の進歩に貢献しているといえますね!
劈開性
特定方向からの衝撃に弱いとされる性質、劈開性。
この劈開性がカルサイトには三方向に完全にあるといわれています。
そのため、カルサイトを叩くとつぶれたマッチ箱のような菱形に割れるのだそうです。
どんなに小さくなっても菱形に割れるそうですよ!
想像するだけでなんか可愛い気がしませんか。
ただ逆に言うと、衝撃に弱いため、扱う際は注意してくださいね。
カルサイトの仲間
画像:左-アラゴナイト 中央-ロードクロサイト 右-スミソナイト
カルサイトには、化学組成が似ている多くの仲間が存在します。
大きく分けると、同じ化学組成で異なる結晶構造をもつ同質異像と呼ばれるものと、逆に化学組成は若干異なるが結晶構造が同じ類質同像と呼ばれるものがあります。
同質異像にはアラゴナイト、類質同像にはロードクロサイト、マグネサイト、スミソナイト、シデライト、ガスペイト、ドロマイトなどがあります。
類質同像のものはカルサイトグループとして紹介されることもあり、カルサイト同様に、三方向に完全な劈開性をもち、菱形に割れるそうですよ!面白いですね!
それでは、その中から幾つかご紹介しましょう。
アラゴナイト
カルサイトと同質異像の関係にあるアラゴナイト。
前述したように、化学組成は同じですが結晶構造が異なるため、産出される形もカルサイトとは異なります。
針状や柱状になることが多いそうですが、粒状で産出されることもあり、これが霰に似ていることから、霰石(あられいし)という和名が付けられたのだとか!
透明度が高い宝石品質のものが産出されることが少ない上に、一方向に完全な劈開性をもち、モース硬度も3.5 – 4 と低く脆い性質から、ファセットカットが施されることは珍しいとされます。
産出量はカルサイトの方が多く、また、地表付近ではカルサイトの方が安定していることから、アラゴナイトとして結晶したものがカルサイトに変化することもあるそうです。
ロードクロサイト
カルサイトと類質同像の関係にあるロードクロサイトの化学組成式は、MnCO3。
カルサイトがCaCO3ですから、CaがMnに置き換わっている以外は同じということがお分かり頂けるでしょうか。
Mnとはマンガンのこと。和名は菱マンガン鉱といい、結晶が菱形でマンガンを含むことから名付けられたといわれています。
結晶が菱形というところからもカルサイトの仲間ということがよく分かりますね!
ロードクロサイトのピンク色の発色要因はマンガン。カルサイトもマンガンを含むとピンク色になるためそこも同じですね。
マグネサイト
マグネサイトも、カルサイトと類質同像の関係にあり、化学組成式はMgCO3。
こちらは、Ca(カルシウム)がMg(マグネシウム)に置き換わっており、主成分がマグネシウムということが分かります。
名前はギリシャ語で「マグネシアの石」という意味をもち、マグネサイトの主成分ということからマグネシウムという名前が生まれたという説もあるようですよ。
菱面体や柱状で結晶するといわれていますが、ハッキリとした形で見つかることは少なく、殆どは塊状や粒状、または荒い繊維状などで産出されるといいます。
鉄が含まれ褐色系の色合いを呈する変種は、ブロイネライト(ブロイネル石)と呼ばれています。
通常は菱面体結晶で産出されるそうですが、オーストラリアで産するニッケルを含みイエローグリーンを呈するものは塊状で見つかることが多いそうです。
また、マグネサイトと見た目がよく似た、ハウライトという鉱物があります。
鉱物としての関連性はないとされますが、ハウライトの流通量が減ったことを受け、マグネサイトがハウライトとして販売されていることも多いのだそうです。
カルサイトの価値基準と市場価格
それでは実際、カルサイトを購入したいと思った時、どれくらいを見込んでおけば良いのでしょうか。
価値基準や市場価格などについてもお話しましょう。
価値基準
カルサイトの価値は、色の鮮やかさ、透明度の高さ、カットの美しさ、カラット数などで評価されます。
全般的にカラーレスのものより色が付いているものの方が価値が高く扱われる傾向にあり、色がついているものは、他の色石同様、色の鮮やかさが最も重要視されます。
また、カルサイトは宝石品質のものが少なく、脆い性質をもつことからファセットカットが施されること自体が少ない宝石です。
そのため、美しいカットが施されたものも高い評価を受けます。
画像はデンドリティックカルサイトでできた刀剣
市場価格
カルサイトは色やサイズ、クォリティにもよりますが、ルースであれば一万円以下でも購入することができます。
特にカラーレスやホワイトのものは比較的手頃な価格で売っていることが多い印象です。
色が入っているものはトップクォリティのルースで数万円~見受けられます。
どこで買える?
カルサイトはオンラインショップでも実店舗でも比較的見つけやすいと思います。
特に原石やルースは多く見かけますので、色々なお店を見て比較検討することも可能だと思います。
脆い性質上からか、ジュエリーとしてはあまり見かけない印象です。
カルサイトのお手入れ方法
カルサイトは炭酸カルシウムを多く含み水分に弱い性質があります。
水を使ったお手入れはなるべく避け、使用後は柔らかい布などで拭く程度が良いでしょう。
また、脆い性質から、強い衝撃で割れたり傷が付いたりする恐れも高いため、強くぶつけたり落としたりしないよう注意して下さい。
保管をする際も、他の宝石とぶつからないよう小袋などに分け、念のため直射日光が当たる場所や湿気が多い場所を避けた方が安心です。
カルサイトは薬品にも弱いです。
ジュエリーやアクセサリーなどで使用する場合は、ヘアスプレーや香水が当たらないよう、身支度が全て終わってから身につけることをオススメします。
最後に
いかがでしたでしょうか。
強いダブリングという性質をもつカルサイトは、偏光顕微鏡の発明に寄与し、鉱物学や結晶学の発展に大きく貢献していたことも分かりました。
大理石として利用されることも多く、実用性も兼ね備えた鉱物でしたね。
様々な形状で産出されるという特徴がありますので、原石を集めてみるというのもカルサイトの楽しみ方の1つかもしれません。
カルサイトの魅力が少しでも伝われば嬉しいです。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 岩石と鉱物』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社
◆『パワーストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか