ルチルクォーツは、金糸のようなインクルージョンが煌めく宝石です。
金糸の量や入り方によってイメージが変わるため、色々集めて見比べる楽しさも味わえます。
中の金糸の正体はルチルという鉱物。
どうやって出来上がったのか、とても気になりますよね。
そして、もう一つ気になるのが、ルチルクォーツには偽物があるのか、ということ。
ゴールドが煌めく宝石ルチルクォーツについて、特徴、出来る理由、偽物の存在と見分け方など、お話しましょう。
目次
ルチルクォーツとは
ルチルクォーツとは、クォーツの中にルチルという鉱物が入っている宝石です。
ルチルインクォーツ、ルチルレイテッドクォーツなどとも呼ばれています。
ルチルクォーツの基本情報
英名 | ルチルクォーツ(Rutile quartz) ルチルレイテッドクォーツ(Rutilelated quartz) |
和名 | 金紅石入り水晶(きんこうせきいりすいしょう) 針水晶(はりすいしょう) |
鉱物名 | クォーツ |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 六方晶系/三方晶系 |
化学組成 | SiO2 |
モース硬度 | 7 |
比重 | 2.7 |
屈折率 | 1.54 – 1.55 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
ルチルクォーツの和名は上記の通り「金鉱石入り水晶」「針水晶」なのですが、まるで金が入っているように見えることから「金線水晶」「金入り水晶」などと呼ばれることもあるそうです。
クォーツは他の鉱物をインクルージョンとして含むことが多く、ルチルの他にもデュモルチェライト、レピドクロサイト、トルマリン、針鉄鉱、黄鉄鉱など色々あります。
それぞれに美しさがありますが、ルチルクォーツの場合、ルチル自体の輝きが強く、絹糸のような細い結晶が入りやすいという特徴から、特にゴールドのものは特別な煌めきと華やかさがあるように思います。
外側がクォーツですので、比較的取り扱いしやすく、ジュエリーとして日常的に楽しむこともできます。
色
ルチルはゴールドだけでなく、レッド、ブラウン、シルバーなど他の色合いもあり、それぞれ雰囲気が異なります。
一般的に、プラチナルチルクォーツと呼ばれるものは、ブルッカイトを内包物として取り込んだクォーツが成長する際に起こった温度変化により、途中からルチルに変化しているものを指します。
ブラックのブルッカイトにシルバーのルチルがくっついたような形で内包されているものが多いそうですよ。
ブルッカイトとルチルはいずれもチタンの酸化鉱物で、鉱物としての関係も深いため、このような現象が起こるということです。面白いですね!
また、ブラックルチルクォーツと呼ばれるものもありますが、こちらは実はルチルではなく、トルマリンか角閃石の場合が多いようです。
黒っぽいルチルはあるそうですが、黒いルチルは存在していないのだとか。
ルチルクォーツは、カラーレスのクォーツに入ることが多いようですが、スモーキークォーツなど色合いをもったクォーツに入ることもあります。
産地
ルチルインクォーツの主な産地はブラジルです。
他にも、アメリカ、マダガスカル、タンザニア、モザンビーク、オーストラリア、ロシア、アフガニスタン、中国などで産出されています。
日本で見つかったこともありますよ。
名前の意味
ルチルという名前の由来は、ラテン語の「rutilis(ルチリス)」に由来しているといいます。
「燃えるような」「赤く輝く」という意味で、ルチルが燃えるように赤いことから名付けられたといわれています。
ルチルクォーツ、ルチルインクォーツ、ルチルレイテッドクォーツは、いずれもクォーツにルチルが内包されているという意味をもちます。
ルチルクォーツは、内包されているルチルの形状などによって、異なる名前で呼ばれることもあるといいますよ。
例えば、金髪の巻き毛のように曲線を描くルチルが入っている場合は「ヴィーナス・ヘア・ストーン」、直線のルチルが入っているものは「キューピッド・ダーツ」と呼ぶのだそうです。
ルチルとは
ルチルクォーツについて、少しお分かり頂いたところで、次に、そもそもルチルがどのような鉱物なのかについても、少し掘り下げて見てみましょう!
ルチルは、チタン(TiO2)の酸化鉱物です。
軟マンガン鉱や錫石(キャシテライト)とは類質同像(化学組成は違うが結晶構造が似ている)で、板チタン石(ブルッカイト)や鋭錐石(アナテース)とは同質異像(化学組成は同じだが結晶構造が違う)の鉱物です。
鉱物としての基本情報
英名 | ルチル(Rutile) |
和名 | 金紅石(きんこうせき) |
鉱物名 | ルチル |
分類 | 酸化鉱物 |
結晶系 | 正方晶系 |
化学組成 | TiO2 |
モース硬度 | 6 – 6.5 |
比重 | 4.2 – 4.4 |
屈折率 | 2.61 – 2.90 |
光沢 | 金剛光沢~亜金属光沢 |
特徴
ルチルは二酸化チタンが結晶化したものの一つで、光を当てると強い金属光沢やダイヤモンドのような煌めきを発します。
チタンの資源鉱物としても広く知られ、幅広い分野で活用されています。
屈折率(2.61 – 2.90)も分散率(0.280)もダイヤモンド(2.417、0.044)よりも上回っており、光を当てると強い輝きとファイアが楽しめます。
しかし残念ながら、ルチルは色が濃く不透明なものが多いことから、ファセットカットが施されること自体が少ないといいます。
稀に赤くて透明度の高いルースもあるそうなので、いつかチャンスがあったらその強い煌めきをこの目で見てみたいと思います。
色
クォーツの中に入っているルチルはゴールドやレッドであることが多いのですが、単結晶のルチルは何色が多いのでしょうか。
純粋なルチルはホワイトなのだそう。しかし通常は10%以内の鉄が入っていることが多いことからイエロー、レッド、赤褐色などを呈することが多いといいます。
ルチルがレッドになる要因には、少量のマンガンも関係しているようですよ。
鉄や他元素の含有量によっては黒っぽくなったり、パープル、ブルー、グリーンを帯びる場合もあるのだそうです。
産地
ルチルの主な産地としては、スウェーデン、アメリカ、オーストリア、イタリア、ブラジル、フランス、スイスです。
他にも、ロシア、ルーマニア、ノルウェー、カナダ、アフガニスタン、マダガスカルなどでも産出されています。
日本でも発見されたことがあるようですよ。
原石の形
ルチルの結晶は正方晶系で、通常は柱状や細長い針状になることが多いよう。
ルチルは双晶になりやすい特性もあり、原石の形がV字型になったり折れ曲がったり、双晶がいくつも連結して六角環状になることもあるそうですよ。
双晶の形は他にも、膝折り状、網状、格子状、放射状など。
また針状のルチルは、平行集合体が約60度で交差することがあります。
顕微鏡でしか見えないほどの微細な針状ルチルがコランダムに入り、60度で交わるとスター効果が現れて、スターサファイアやスタールビーになることが知られています。
コランダムに含まれるルチルの微細な針状結晶はシルクインクルージョンとも呼ばれています。
ルチルの結晶は通常、花崗岩、ペグマタイト、片麻岩、結晶片岩などの中に見られるとのこと。
大粒の結晶は少なく、数mm程度の小さな結晶で産出されることが多いそうです。
ルチルクォーツができる理由
鉱物の中に別の鉱物が入り込んでいるルチルクォーツ。
なぜ、クォーツの中にルチルが入り込むのでしょうか。それは以下の通りと考えられています。
1.まず 、クォーツが結晶化する過程で、チタンが取り込まれます。
2.地熱の温度がまだ低温の初期段階にチタンが酸化して二酸化チタンに変わります。
3.その後地熱が高温となり、結晶が柱状に成長した際、2つ以上の結晶が一定の規則性で接合し双晶となりルチルクォーツが出来るのだそうです。
クォーツが生成する時に近くにチタンがあること、地熱が必要な事、双晶になることなど、様々な条件をクリアして初めて魅力的なルチルクォーツが生まれるのですね。
ルチルクォーツの偽物
残念なことに、ルチルクォーツにも偽物が存在しています。
偽物と知って安価に購入して楽しむ分には何の問題もありませんが、本物と偽って売られているのであれば大きな問題ですよね!
せっかくのルチルクォーツ、後悔したくありません。
ここではルチルクォーツと偽って販売される危険性のある、人工アベンチュリンガラスとダブレットについて説明したいと思います。
見分け方もあるので参考にして下さいね。
人工アベンチュリンガラス
透明のガラスの中にラメや砂のようなものがキラキラと光っている人工アベンチュリンガラス。
もちろん天然石ではありません。
ルチルインクルージョンは主に線状ですが、人工アベンチュリンガラスは点状のものが多いです。
見た目が明らかに違う偽物なのですが、ルチルクォーツとして売られている現状があるのだそう。
天然のルチルクォーツをよく知っている人なら、見分けることも可能だと思いますが、自信がない方は、信頼のおけるお店で購入するなど予防線をはった方が安心だと思います。
ダブレット(張り合わせ)
ダブレットとは、異素材を張り合わせて作ったものです。
天然のルチルクォーツに人工水晶などが張り合わせてあったり、ちょっと見ただけでは偽物と分からないものもあるようです。
ダブレットなのかどうか、見分け方があるのでご紹介しましょう。
1.まず、側面を見てみましょう。張り合わせた跡を確認できるかもしれません。
2.ルーペを使って側面を見ると、ガードル部分に接着剤の層を見ることもできると思います。
3.張り合わせた素材が合成スピネルやガラスの場合は、気泡が内包物として現れています。
一見天然のルチルクォーツに見えますが、横から見ることで張り合わせた部分が分かるものも多いそうですよ。
ルースの場合は確認しやすいですが、ジュエリーにセットされている場合は確認しにくいので、難しいところです。
「張り合わせルチルクォーツ」と明記されており、納得して購入する場合は問題ありませんが、そうではないケースもあるので注意が必要です。
◆◇◆◇
この他にも、トルマリンや角閃石など別の鉱物がクォーツに含まれたものがルチルクォーツとして販売されているケースもあるようです。
ロットで仕入れた際に紛れ込んだりすることもあり、一見似たような色合いや形をもつものが多いことから、誤って販売されていることもあるそうです。念のためご注意くださいね。
ルチルクォーツの価値基準と市場価格
ルチルクォーツは内包しているルチルの状態や位置など実にバラエティ豊かです。
どのようなルチルクォーツを選べば良いか、迷ってしまうこともあると思います。
ルチルクォーツの価値基準や市場価格、買える場所などについて見てみましょう。
価値基準
どのようなルチルクォーツに高い価値が認められているのでしょうか。
まず、透明度が高く、キズや欠けなどがないこと。
そしてルチルインクルージョンが多く、ゴールドに輝いていることも重要です。
加えて、ルチルインクルージョンの位置やバランスが良いことも大切です。
そして、小さな結晶よりは大きな結晶の方が評価が高くなることが多いでしょう。
パワーストーンとして販売されているルチルクォーツの場合、ルチルが細ければ細いほど「金線=金銭」と解釈され、価値が上がるケースもあるそうですよ。
市場価格
ルチルクォーツには様々なサイズやクォリティがあり、それによって価格に幅があるようです。
品質がそれほど高いものでなければ、数千円からルースを買うことができます。
ゴールドに輝くルチルが全面に入っていたり、バランスの良い位置にあるなど高品質なもので、サイズが大きければ数万円位の価格になります。
ジュエリーにセットされている場合は、ルチルクォーツ自体の値段に加え、地金の種類や重さ、デザインなどで価格に違いが生じます。
高品質で高価なルチルクォーツを購入する場合は、信頼のおける鑑別機関の鑑別書が付いているものを選んだ方が安心だと思います。
または、鑑別書を取り寄せる手続きをしてくれるお店で購入しましょう。
どこで買える?
ルチルクォーツは人気の高い宝石の一つです。
実店舗でもオンラインショップでも比較的見つけやすいでしょう。
原石の状態やルース、ジュエリーにセットしたものなども多く流通しているようです。
私はルチルクォーツの念珠をデパートの展示会で見たことがあって、とても心が動きましたよ。
しかし、先ほどご紹介した通り、ルチルクォーツには偽物もあるので注意が必要です。
ルチルクォーツのお手入れ方法
ルチルクォーツは、どのようにお手入れをすると良いのでしょうか。
基本的にはクォーツと同じで、汚れた場合は温かい石鹸水などで水洗いすることができます。
柔らかい布でそっと拭くようにしてくださいね。
ルチルクォーツのモース硬度は7と高めではありますが、強い衝撃を与えればと傷つく可能性はあります。
落としたり、硬いものにぶつけたりしないよう注意しましょう。
最後に
カラーレスのクォーツの中で金糸が煌めく宝石、ルチルクォーツについてお話しました。
様々な偶然が重なってできる、とても神秘的な宝石でしたね。
私はルチルクォーツを2つ持っています。
一つは明るくて細い金髪のようなルチルの束が入っているもの、もうひとつは赤胴色の針状ルチルが全面に散らばっているものです。
沢山あったルチルクォーツの中からこの2つに絞り、どちらにするか相当悩みましたが、「もう二度と同じものには出会えないかも」と思い、両方買ってしまいましたよ。
ルースのままなので、いつかリングにセットして身に着けたいと考えています。
皆さんも、素敵なルチルクォーツに出会えますように!
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『起源がわかる宝石大全』
著者:諏訪恭一、門馬綱一、西本昌司、宮脇律郎/発行:ナツメ社
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか