クリノヒューマイトという宝石をご存知でしょうか。
とても魅力的な宝石なのですが、流通量が少なく、街で容易に見つけることは難しいレアストーンの一つです。
一体どんな宝石なのかでしょうか、気になります!
今回は、クリノヒューマイトについて、原石の形や名前の意味、価値、お手入れ方法など、お話ししたいと思います。
目次
クリノヒューマイトとは
クリノヒューマイトは、ネソ珪酸塩鉱物の一種である、ヒューマイト族に属する鉱物です。
現在10種類が確認されているヒューマイト族においては、産出頻度が高い方とのことですが、全体的には流通量が少なく、一般的にはあまり知られていない宝石ではないかと思います。
では、鉱物としての基本情報から見ていきましょう。
鉱物としての基本情報
英名 | Clinohumite(クリノヒューマイト) |
和名 | 斜ヒューム石 |
鉱物名 | ヒューマイト |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 単斜晶系 |
化学組成 | (Mg,Fe)9(SiO4)4(F,OH)2 |
モース硬度 | 6 |
比重 | 3.15 – 3.40 |
屈折率 | 1.63 – 1.67 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
クリノヒューマイトは、小粒な結晶が多く、ファセットが刻める大きさのものは稀にしか産出されないといわれています。
1ct以上で産出されることはとても稀なのだそうですよ。
モース硬度は6で、ムーンストーンやアイオライトと同じ位の硬さです。
クリノヒューマイトはインクルージョンが多いという特徴もあります。生成過程でどうしても入りやすいのだそう。
例えば、タンザニアで採れるクリノヒューマイトには針状のインクルージョンが入ることが多いといいます。
特徴的なインクルージョンが見られるものを探してみるのも面白いかもしれませんね。
色
クリノヒューマイトの色は、レッド、イエロー、オレンジなどの暖色系が多いようですが、ホワイトが採れたこともあるそうです。
産地によって色に違いがあることも。例えば、中国産は赤みがかったオレンジ色、タンザニア産にはイエローグリーンのものが見られることもあるそうですよ。
クリノヒューマイトは濃淡、明暗などで印象が変わります。
レッドは、彩度が高く華やかなものから深みがあってシックな印象のものまで、様々な表情があります。
オレンジやイエローは、明るく元気なイメージのものや褐色に近い落ち着いた雰囲気のものも。
クリノヒューマイトは色合い的に年齢問わず身に着けることができる上品さを感じます。
短波紫外線ライトを当てると、わずかにオレンジ色に発光するという特徴もあります。
一番人気はゴールデンイエロー
クリノヒューマイトの中で一番人気なのはゴールデンイエローなのだそう。
黄金に光り輝く、とてもゴージャスな印象です。
ゴールデンイエローのクリノヒューマイトはインクルージョンまでも特別な美しさがあるなぁ~、と個人的に感じています。
照りの良い黄金の輝きは、引き込まれるような魅力があります。人気が高いのも納得ですね。
産地
クリノヒューマイトの産地は世界中に散らばっています。
カナダ、アメリカ、ブラジル、イタリア、スペイン、ロシア、タジキスタン、アフガニスタン、ベトナム、中国、そして日本でも見つかったことがあるようですね。
アフリカ大陸からは現在のところタンザニアのみですが、他にも鉱脈が眠っているかもしれません。
高品質で宝石になるようなものはタジキスタンのパミール山脈に多いのだそうです。過去に大きな結晶が見つかり、36.56ctや84.23ctにファセットカットされたそうですよ。
他にも、アフガニスタンやタンザニア、中国などでも宝石品質のものが採れたことがあります。
日本では、岩手県根市鉱山や岐阜県春日鉱山や、愛媛県富郷などで産出されたことがあります。
原石の形
クリノヒューマイトの結晶系は、単斜晶系です。
クリノヒューマイトは複雑で変わった形で産出されることが多いといいます。主に粒状をしているそうですが、塊状で見つかることも。
地球の造山運動などによって生成されたキンバーライトや貫入炭酸塩岩、橄欖岩、蛇紋岩などの中で生成するとのことです。
通常、苦土スピネル、苦土橄欖石、金雲母、ゲイキ石などを伴って産出されるといいます。
大理石の中に見つかることもあるそうです。
名前の意味
クリノヒューマイト(clinohumite)の名前の由来は何でしょうか。
それは、結晶の形が単斜晶系であることと、ヒューム石に属することから名付けられたといわれています。
単斜晶系の英訳は「monoclinic system」や「monoclinic crystal system」です。
「単斜の」という意味の「monoclinic」が元になり、「clino」とヒューム石「humite」が合わさって「clinohumite」になったと考えられますね。
和名の「斜ヒューム石」も同じですね。
クリノヒューマイトに施される処理
多くの宝石には外観を良くするために加熱などの人工処理が施されますが、クリノヒューマイトは今のところ、一般的に施される人工処理はないとのことです。
クリノヒューマイトの美しい色は、天然そのままの色だったのですね。
クリノヒューマイトの歴史
クリノヒューマイトが発見されたのは1876年のこと。
フランスの科学者が、ライムストーンのインクルージョンとして発見したそうです。
発見当初は宝石になるような品質の高いものは見つからず、特に注目されていなかったようですが、それから100年以上経った1980年代の終わりごろに、宝石品質のクリノヒューマイトが見つかり注目を浴びます。
現在のところ、宝石品質のクリノヒューマイトは産出量が少なくレアストーンとして扱われていますが、今後、もしかしたら世界の何処かで大きな鉱脈が見つかり状況が変わることもあるかもしれません。
そんな日が来たら嬉しいですね。
クリノヒューマイトの仲間
画像:コンドロダイト
前述したように、クリノヒューマイトはヒューマイト族の一種です。
ヒューマイト族は「マグネシウムを含む石」「マンガンヒューム石」「リューコフェニス石」の3つのサブグループに分類されています。
クリノヒューマイトが属しているのは「マグネシウムを含む石」で、他にヒューマイト、コンドロダイト、ノルベルジャイトの4つがあります。
「ヒューマイト」は、グループ名としても、一つの鉱物の名前としても使われているのですね。
さて、これら4つの鉱物は見た目で判断できないほど色も形もそっくりで、科学的な違いが判明したのは20世紀に入ってからなのだとか。
どうやら、マグネシウムの量やフッ素(F)と水酸基(OH)の比率、結晶系などに違いがあるようです。マグネシウムの量は化学組成を見ると分かりますね。
ちなみにクリノヒューマイトは、単斜晶系で、フッ素(F)と水酸基(OH)の比率は、1:1、化学組成は(Mg,Fe)9(SiO4)4(F,OH)2です。
では、クリノヒューマイトの兄弟ともいえる、ヒューマイト、コンドロダイト、ノルベルジャイトについても見てみましょう。
ヒューマイト
ヒューマイト(Humite・ヒューム石)は、鉱物と美術の収集家であったアブラハム・ヒューム氏にちなみ、1813年に命名されたといわれています。
結晶は斜方晶系で、フッ素(F)と水酸基(OH)の比率は、1.5:1、化学組成は(Mg,Fe)7(SiO4)3(F,OH)2です。※資料によって若干の違いあり
イエローやオレンジ、赤みがかったオレンジなどの色があるといわれています。
モース硬度は6 – 6.5。
短波紫外線を当てると、わずかに黄色く蛍光することがあります。
主な産地はスウェーデン、スコットランド、イタリア、アメリカなどだそうです。
コンドロダイト
コンドロダイト(Chondrodite・コンドロ石)は「粒状」を意味するギリシャ語が由来です。
宝石品質の結晶が稀に産出され、市場に出回ることもありますが、クリノヒューマイトよりも流通量は少ないです。
結晶系はクリノヒューマイトと同じ単斜晶系で、フッ素(F)と水酸基(OH)の比率は、2:1、化学組成は(Mg,Fe,Ti)5(SiO4)2(F,OH,O)4です。※資料によって若干の違いあり
色はブラウン、イエロー、レッド、緑褐色などもあるとのこと。モース硬度は6 – 6.5です。
短波紫外線を当てるとイエローに、長波紫外線ではわずかなオレンジに蛍光することがあるそう。
ノルベルジャイト
ノルベルジャイト(Norbergite・ノルベルグ石)はスウェーデンのノルベルグで発見されたことからその名が付いたといわれています。
結晶系はヒューマイトと同じく斜方晶系で、フッ素(F)と水酸基(OH)の比率は3:1、化学組成は「Mg3SiO4(F,OH)2」です。※資料によって若干の違いあり
色は黄褐色、黄橙色、バラ色、紫がかったピンク、ホワイトなど。モース硬度は6 – 6.5です。
短波紫外線を当てると、明るいイエローからゴールドに蛍光することがあるそう。
ノルベルジャイトは、4つの鉱物の中では一番稀な鉱物なのだそうですよ。
主な産地はアメリカ、イタリア、ロシア、インド、タジキスタンなどです。
クリノヒューマイトの価値基準と市場価格
実際に買いたいと思った時の参考に、クリノヒューマイトの価値基準や市場価格、買える場所などについても簡単にご紹介しましょう。
価値基準
どのようなクリノヒューマイトに高い価値が認められるのでしょうか。
まずは色が濃く、鮮やかであること。
宝石品質で大きいものが採れにくいため、1ct以上のものは価値が上がります。
また、先程ご紹介したとおり、クリノヒューマイトはインクルージョンが入りやすい宝石です。
透明度が高い方が価値は上がりますが、全般的にインクルージョンが多いため、インクルージョンがあることで価値が著しく下がるということはないそうです。
その他、カッティングの美しさ、キズや欠けの有無なども評価の対象になります。
市場価格
次に、クリノヒューマイトの市場価格を見てみましょう。
他の宝石と同様に、品質によって価格に差が出ます。
ルースの場合、全般的には数万円という感じですが、小さいサイズであれば1万円以下でも探すことはできそうです。
高品質でサイズが大きくなると、数十万円以上の価値が付くこともあるといいます。
ジュエリーの場合は、クリノヒューマイトの品質に加えて、地金の種類や純度、重さ、デザイン、メーカーなどによって価格が変わります。
どこで買える?
クリノヒューマイトは、何処で買うことができるのでしょうか。
各地で開催されるミネラルショーなどのイベントに行ってみましょう。ルースや原石を手に入れることができるかも知れません。
また、レアストーンを専門に取り扱っているお店にもクリノヒューマイトが並んでいる可能性がありますよ。
ネットで検索すれば、クリノヒューマイトを販売しているオンラインショップをいくつか見つけることができます。
ジュエリーの場合、ルースより更に流通量が少なくなりますが、稀にリングやペンダントなどを売っていることがありますよ。
カラッツSTOREでも取り扱うことがありますので、ご興味のある方は良かったらチェックしてみて下さいね。
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クリノヒューマイトのお手入れ方法
クリノヒューマイトの粘靭性は脆性(ぜいせい)とされています。
つまり、外側からの力に弱くて脆いということ。取り扱いには注意が必要なのです。
超音波洗浄などは行わず、汚れたら柔らかい布でそっと拭くようにしましょう。
ひどく汚れた場合には、中性洗剤を溶かしたぬるま湯に浸し、柔らかいブラシでそっと洗ってください。
そしてぬるま湯の中で洗い流すようにしてくださいね。
他の宝石はもちろんのこと、硬い金属などにぶつからないよう、個別に保管することをオススメします。
最後に
クリノヒューマイトについてお話しました。
あまり流通していないレアストーンということもあり、この記事で初めて知った、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
通常は1ct未満のものが多いクリノヒューマイトですが、文中で触れたように、84.23ctの大きな結晶がタジキスタンで採れたこともあるといいます。
どんなに美しいでしょう!見てみたいですよね。
レッド、イエロー、オレンジ色、それぞれ魅力があって全色揃えてみたくなりました。
いつか大きい結晶が産出するクリノヒューマイト鉱脈が見つかり、流通量が増えて手に入れやすい宝石になると良いなぁと願っています。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社
◆『美しい鉱物と宝石の事典』
著者:キンバリー・テイト 訳:松田和也/発行:創元社
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか
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◆https://www.gemsociety.org/