ルビーの情熱的な赤色は古くから多くの人を魅了し、その力強い赤色は炎や血に例えられてきました。
様々な伝承をもち、古くは聖書にも登場します。
筆者のタイ人の友人は自分の庭にルビーをこっそり撒いていると言っていました。そうすることで悪いものが家に入るのを防いでくれるのだそうです。
聞いた時はとても驚きましたが、国や文化によって様々な言い伝えや信仰などがあるのも長い歴史をもつ宝石ならではなのかもしれませんね。
古代より多くの人の心を掴んで離さないルビーですが、実は産地によって特徴や色合いに違いがあることをご存知でしょうか?
また、希少性や価値なども産地によって異なります。
具体的にどう異なるか、主な産地である、モゴック、モンスー、タイ、モザンビークにスポットライトをあててご紹介していきましょう。
ルビーとは?
ルビーはダイヤモンド、サファイア、エメラルドと並んで、4大宝石の一つに数えられており、世界中で広く親しまれています。
古代ローマではその燃えるような神々しい色合いから、内に炎を宿す石という意味で「カルブンクルス(燃える石炭)」と呼ばれていたと伝わります。
「ルビー」という名前は、赤を意味するラテン語の「ルベウス」に由来するといいますが、かつては赤い石は全て「ルビー」と呼ばれていたともいわれています。
実はルビーとサファイアは同じコランダムという鉱物に属し、レッドがルビー、レッド以外をサファイアと呼びます。
コランダムの主成分は酸化アルミニウムで、純粋なコランダムはカラーレスなのですが、そこにクロム(Cr)が入ることで真っ赤なルビーとなります。
クロムの量が多すぎても少なすぎても色合いが異なり、また他の微量元素の含有量によっても違いが出ます。
▼ルビーについてもっと詳しく紹介した記事もあります。そちらもご参照ください。
ルビーの産地
Photo by : Han Myo Htun
ルビーが採れる場所は世界中に分布していますが、主な産地として知られるのはミャンマー、モザンビーク、タイ、ベトナム、スリランカなどです。
産地によって形成された時期が異なると見られ、現在最も古い時代に出来上がったとされるのは、グリーンランドのものです。なんと26〜29.7億年前の始生代の変成岩類から採掘されています。
インド、スリランカ、ケニア、モザンビークなどのアフリカ諸国は4.5~7.5億年前の汎アフリカ造山運動の折に、ミャンマー、ベトナムは500~4500万年前の新生代ヒマラヤ造山運動の折に、母岩となる岩石や鉱物が形成されたと考えられています。
そしてタイやカンボジアは、50~300万年前に噴出したマグマから出来上がったと見られるアルカリ玄武岩を起源にしています。
母岩と生成された環境の違いでルビーの色や特徴が変わります。
はるか昔の地殻変動によって生まれたルビーが現代に生きる私たちの元にやってくるなんて、なんだかとてもロマンを感じますよね。
ルビー原石の形と特徴
ルビーの原石は六方晶系(三方晶系)で、成長した原石は六角形や細長いひし形をしています。
品質の良いものは原石の状態から美しく透明感があります。
色んな宝石と一緒に採掘されることも多く、例えばタイやスリランカの漂砂鉱床の中からはサファイアやスピネルなどと一緒に採掘されるといわれています。
ルビーは同じ鉱物であるサファイアに比べて大きい原石が少ない傾向にあるといいます。
その一つの要因として考えられているのが、着色原因であるクロムがルビーの結晶成長を妨げているため。10ctを超えるルビーはとても貴重です。
ルビーに含まれるインクルージョン(内包物)は結晶インクルージョンや糖蜜状組織、液膜状インクルージョンなど様々あり、産地によって異なります。
鑑別機関はこのインクルージョンの種類や入り方などから産地を特定します。
筆者はこれまでに多くのルビーの顕微鏡検査を行ってきましたが、スタールビーのもとともなる針状ルチル(シルクインクルージョン)が、数あるインクルージョンの中で最も美しいものの一つだと思っています。
産地別特徴と見分け方
それでは、古くからルビーの産地として有名なミャンマーのモゴック産、同じくミャンマーのモンスー産、ルビーの一時代を築いたタイ産、そして21世紀に見つかったモザンビーク産について、それぞれの特徴をご紹介していきましょう。
モゴック産
ルビーの産地として最も有名なのは、やはりミャンマーのモゴックでしょう。歴史ある産地で、6世紀ごろからルビーの採掘が行われていたといわれています。
最高品質のルビーが多く採れる場所としても知られ、「ピジョンブラッド」はかつてモゴック産ルビーの最高品質のものを指す言葉でした。
「ピジョンブラッド」はその名の通り、鳩の血の色という意味で色が濃く鮮やかなレッドをしています。
一度見ると忘れられなくなるようなインパクトのある美しさです。
美しいルビーが生まれてくる秘密は母岩にあります。ミャンマーの母岩は白色の結晶質石灰岩(大理石)で、色調に暗みを与える不純物が少なく鮮やかな色調になるのです。
強い蛍光性をもつことも特徴の一つで、紫外線を浴びると鮮やかな蛍光色を示します。
太陽の下で輝くルビーはまさに炎を宿したような輝きを放ち、わたしたちを虜にします。
モンスー産(ミャンマー)
同じ国で取れた宝石でも場所が違うと色調や品質が違ってくるのが宝石の面白いところ。
モゴックと同じミャンマーにあるモンスー鉱山はモゴック鉱山とはまた違う色合いをしています。
採掘されるルビー原石の多くは小豆のような褐色の色合いのものが多いようですが、加熱処理を施すことで色鮮やかに変わります。
モンスー産ルビーの多くはバンコクやチャンタブリに送られ、大きな炉で圧力をかけながら加熱されるといいます。
加熱したモンスー産はモゴック産に似た美しさになるものも多いそうですよ。
▼下記記事で、モゴック産とモンスー産、二つのミャンマー産ルビーについてもっと詳しく紹介しています。
タイ産
タイ産ルビーはダークレッドの落ちついた色合いをしているものが多いです。
鉄が多く含まれており、ミャンマー産よりも蛍光性が少ないものが多いのも特徴です。
ルビーの蛍光性はクロムの作用によるものと考えられているのですが、鉄には蛍光性を抑制する作用があり、クロムと鉄の含有量のバランスによって蛍光の強さが変わるといわれています。
実際に紫外線ライトを当ててみると、明らかにミャンマー産のルビーよりも蛍光が弱いものが多いです。
加熱処理を行うことで美しい色になるタイ産は一時期非常に人気が出ました。
私が10年ほど前に視察に行ったチャンタブリの鉱山にはパワーショベルなどの大型重機が並び、まるで工事現場のようで非常に驚いたことを今でも思い出します。
▼タイ産ルビーについては下記記事でより詳しく紹介しています。
モザンビーク産
モザンビークがルビーの産地として有名になったのは実は最近のこと。
2009年に北東部のモンテプエズにて世界最大級となるルビー鉱山が発見され世界中から注目されるようになりました。
それまでモザンビークはあまり美しいものが採れないといわれていましたが、現在はミャンマー産にも劣らない品質のルビーも産出されています。
モザンビーク産が日本で出回り始めた頃に、非加熱のモザンビーク産ルビーの検査を行ったことがあるのですが、その時の第一印象はミャンマー産と同じように美しいというものでした。
インクルージョンの種類は若干違ったものの、入り方や結晶の形などが非常に似ていて、今後モザンビークがルビーの主流になっていくかもしれないとその時のメンバーと話していました。
実際、現在でもモザンビークは注目されている産地の一つですよね。
▼モザンビーク産ルビーについて、もっと詳しく知りたい方は下記記事もご参照ください。
見分け方
鑑別機関でルビーの産地特定を行う場合は、様々な検査を行い、多角的に見た上で判断しています。
そのため、見た目だけで判断されることは基本的にありませんが、見た目でチェックする部分としては、色味と蛍光性です。
モゴック産ルビーは透明度が高く黒味のない鮮やかな赤色が特徴で、紫外線に当たると強い蛍光を示します。そして加熱されたモンスー産はモゴック産に近い美しさを持っています。
タイ産は少し黒っぽさがある落ち着いたダークレッドです。蛍光性はミャンマー産に比べると弱く、そこまで明るくなりません。
モザンビーク産はミャンマー産よりも僅かにオレンジがかったレッドで蛍光色も強いのが特徴です。
ただし、先にもお伝えしたように、プロであっても見た目だけで判断することはありません。あくまでも参考の一つと、覚えていてくださいね。
ルビーの産地による価値の違いとは
ルビーは産地鑑別が可能な宝石で、産地によって価値が異なります。
最も価値が高いといわれているのはモゴック産。次にモンスー産です。
モゴック産ルビーは高品質なものが多いだけでなく、非常に古い鉱山から産出され、歴史的にも価値があるようなアンティークジュエリーの中にも多く見られます。
ルビーの最高品質と名高い、ミャンマーモゴック産のピジョンブラッドルビーに憧れを抱いている方も多いのではないでしょうか。
一方タイ産は、一時期市場で主流になるほど多く出回っていました。ミャンマー産よりも比較的安価ですが、それでも、クオリティの高いものは100万円以上することもあります。
そしてミャンマー産に近い品質と色合いを持つといわれる、モザンビーク産。
こちらもミャンマー産と比べると、まだお手頃のものも多い印象です。しかしクォリティの高さと美しさを考えると、産地にこだわりがなければ狙い目と言っても良いかもしれませんね。
▼ルビーの価値基準と選び方については、下記記事で詳しく紹介しています。
最後に
ルビーは産地によって色々なストーリーがある宝石です。
古くから人々に愛され、特別な思いを持って大切にされてきました。
機会があったらモゴック、モンスー、タイ、モザンビークの4つの産地の違いをぜひその目で確かめて頂きたいです。
産地の違いを知ることで、より親しみを感じて頂けるのではないかと思います。
カラッツ編集部 監修