ドロップの缶から飛び出したような宝石、ペツォッタイト。
スイートなピンク色の輝きは、まるでジューシーな果実のよう。
「ラズベリル」「ラズベリーベリル」とも呼ばれているのですが、ベリルの仲間なのでしょうか?
2003年に初登場した、比較的新しい宝石とのことですが、こんなに美しい宝石が最近まで発見されなかったなんて、地球の奥深くにはまだまだ見たことのない美しい宝石が眠っているかもしれませんね。
今回は、ペツォッタイトについて、特徴や色、名前の意味、歴史、施される処理、価値など、色々な角度からお話しましょう。
目次
ペツォッタイトとは
2002年にマダガスカルの花崗岩質ペグマタイトで発見され、2003年のツーソンミネラルショーでデビューし、一躍注目を浴びたペツォッタイト。
ピンクやオレンジピンクなどの柔らかい色合いが特徴です。
宝石品質のものの産出が珍しいとされ、市場に多くは出回らないレアストーンの一つです。
鉱物としての基本情報
英名 | ペツォッタイト(Pezzottaite) |
和名 | ペツォッタ石 |
鉱物名 | ペツォッタイト |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 三方晶系 |
化学組成 | Cs(Be2Li)Al2Si6O18 |
モース硬度 | 8 |
比重 | 3.09 – 3.11 |
屈折率 | 1.60 – 1.62 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
ペツォッタイトの化学組成はベリル(緑柱石)と近く、見た目も似ています。
そのため発見当初はベリルの一種と見られていたようです。
しかし鑑定の結果、ベリルとは異なる、新しい鉱物であることが明らかになりました。
ペツォッタイトは、セシウム(Cs)やリチウム(Li)が多く含まれているそうなのですが、セシウムを多く含む鉱物は数少ないのだとか。
モース硬度8とジュエリーとしても十分楽しめる硬さがありますが、内部にキズやインクルージョン(内包物)が入りやすいため、取り扱いには注意が必要です。
色
ペツォッタイトの色は、ラズベリーレッド、ピンク、オレンジレッドなど。
その輝きは、甘酸っぱいベリーのようなフレッシュさを感じます。
生成の過程で含まれるマンガン(Mn)の作用で、ピンク系に発色するのだそう。
ピンク色のベリルである、モルガナイトの色味ともよく似ていますね。
前述したように、ペツォッタイトはキズやインクルージョンが多い宝石です。
そのため少し曇って見えることがあるのですが、そこがまたフルーツドロップに似ておいしそうだなぁ、と個人的には思います。
産地
ペツォッタイトの産地として最も有名なのは、最初に発見されたマダガスカルでしょう。
2002年11月、マダガスカル中央部のAmbatovita近郊の花崗岩質ペグマタイトから、ペツォッタイトが発見されました。
地表から約6mの大きな空洞の中に、ペツォッタイトが眠っていたそうです。
採掘されたペツォッタイト原石は数十㎏のみで、鉱床はもう枯渇しているともいわれています。
アフガニスタンやミャンマーでも産出されたことがあるようですが、宝石品質のペツォッタイトはとても少ないのだとか。
アフガニスタン産のモルガナイトが、実はペツォッタイトだったことが後に判明した、というエピソードもあるようです。
原石の形
ペツォッタイトの結晶は三方晶系で、原石の形は六角柱状です。
先端は平面にならず、少し先がつぶれた水晶のような形状をしています。
なかには、歯車のようなトラピッチェ構造のあるペツォッタイト原石もあるそうで、神秘的で不思議な魅力を放っています。
ペツォッタイトは、あまり大きな結晶は産出されず、宝石品質となると1~2g程度の結晶が殆どなのだそうです。
名前の意味
ペツォッタイトという名前は、イタリアの鉱物学者フェデリコ・ペツォッタ博士が由来です。
それまでベリルの一種だと考えられていたピンク色の結晶が新種の鉱物であることを明らかにしたのがペツォッタ博士だったため。
2003年9月、ペツォッタ博士の功績に敬意を表し、正式に「ペツォッタイト」と命名されたといいます。
ペツォッタイトキャッツアイ
ペツォッタイトには、キャッツアイ効果の見られるものもあります。
インクルージョンの作用によって猫の目のような一筋の光が現れるのですが、その割合は、宝石品質のペツォッタイトの約10%ともいわれています。
ペツォッタイトの最高品質はキャッツアイである、という説もあるとか。
キャッツアイ効果のあるピンクトルマリンと外観がよく似ていますが、ペツォッタイトの方が多色性が顕著なことから見分けることができるそうです。
ペツォッタイトの歴史とラズベリルと呼ばれる理由
2002年に発見され、2003年2月にアメリカで開催された世界最大規模のミネラルショー「ツーソン・ミネラルショー」で、まだ名前のない「新種の宝石」として話題を集めたペツォッタイト。
2003年に新しい鉱物として認定され、「ペツォッタイト」と命名されますが、それ以前は別の宝石名で流通していたという歴史があります。
マダガスカルで最初に発見された時は「マダガスカル産トルマリン」と呼ばれていたそうです。
トルマリンではないことが判明すると、今度はベリルの一種だと考えられ「マダガスカル・レッドベリル」や「ホットピンクレッドベリル」として流通しました。
しかし、それもすぐに違い、ベリルとは異なる構造を持つ新しい鉱物であると判明します。
新種の鉱物発見の知らせを受けたマダガスカル政府が一時的に輸出をストップしたという話もあるそうですよ。
ラズベリルと呼ばれる理由
以前は赤いベリルとして流通していたペツォッタイト。
ラズベリーのような色合いとベリルの仲間と考えられていたことから、コマーシャルネームとして「ラズベリル」や「ラズベリーベリル」と呼ばれていたといいます。
現在、ペツォッタイトとベリルは別の鉱物であることが判明していますが、昔の名残で、今でも「ラズベリル」「ラズベリーベリル」と呼ばれることもあるようです。
個人的には、ラズベリルの方がおいしそうな見た目とマッチしているなぁ、とも感じますが、ベリルの一種であるかのような誤解を招くため、「ペツォッタイト」という名前がきちんと普及してくれたら良いなと思います。
ペツォッタイトに施される処理
ペツォッタイトには、一般的に透明剤の含浸処理が施されます。
エメラルドに施される処理と同じですね。
エメラルドと同様に、通常的に行われる処理のため、これによって宝石としての価値が著しく下がることはないといわれています。
気になるのは偽物の存在ですが、今のところペツォッタイトの合成石などは作られていないようです。
しかし今後はどうなるか分からないため、購入する際は、信頼のおけるお店で購入するなど注意は必要だと思います。
ペツォッタイトの価値基準と市場価格
希少石、ペツォッタイト。
取り扱っているお店は多くはないかもしれませんが、全然ない訳ではありません。
いざペツォッタイトを購入しようと思った際、どんな点に注意すると良いでしょうか。
価値基準や市場価格、買える場所などを押さえておきましょう。
価値基準
ペツォッタイトは他の多くの色石と同様に、色が濃くて鮮やかなものほど価値が上がる傾向にあります。
基本的にインクルージョンや内部のキズが多い宝石のため、透明度の高いものも評価が高まります。
また、殆どが小さな結晶でしか産出しないため、カラット数が大きくなると価値も上がるでしょう。
鮮やかな色に加え、キャッツアイ効果がはっきりと出現しているペツォッタイトにも高い価値が認められるようです。
市場価格
次に、ペツォッタイトの市場価格を見てみましょう。
小さくて透明度が低いなど、クォリティによっては、一万円以下で探すことも可能でしょう。
全般的には、数万円程度の価格帯が多いようです。
色が鮮やかで1ct以上の大きさがあり、透明度が高かったり、キャッツアイ効果がハッキリ出ているなど、品質の高いペツォッタイトには数十万円以上の価格がつくこともあります。
どこで買える?
最近は、レアストーンの取り扱いが多いオンラインショップなどで、ペツォッタイトを見かけることが多くなりました。
比較検討することも可能なので、色々見てみましょう。
ジュエリーに加工されたペツォッタイトもあるようです。
各地で開催されるミネラルショーなどのイベントでも、ルースや原石を探すことができると思います。
カラッツSTOREでも取り扱うことがあるので、良かったら覗いてみて下さいね。
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ペツォッタイトのお手入れ方法
先にご紹介したように、ペツォッタイトは硬度や靭性は高いですが、内部に傷が多いため衝撃に弱い宝石です。
ジュエリーとして身につける際は特に、強くぶつけたり、硬い床に落としたりしないよう、取り扱いに注意が必要でしょう。
汚れが気になる場合、石鹸や中性洗剤を溶かしたぬるま湯で洗い、柔らかい布で優しく拭いてください。
超音波洗浄は砕けたり処理液が流れる恐れがあるため、使わないようにしましょう。
保管の際は、他の宝石や金属とぶつからないよう個別に入れるなど気を付けてくださいね。
最後に
ジューシーな果実に似た魅力的な宝石ペツォッタイトについてご紹介しました。
2003年に認知されたとても新しく、珍しい宝石だという事実に驚きましたね。
一説には、ペツォッタイトの総生産量は150kgで、そのうちカボションやファセット・ストーンを産出できる部分は25%以下、といわれています。
これまで見つかった高品質のペツォッタイトで最も大きいのは約11.31ct、キャッツアイのカボションは17.36ctなのだそうです。見てみたいですねぇ。
しかし、もう殆ど掘り尽くされてしまった、という話もあり、今後ますます希少石としての価値が高まりそうな感じですよね。
ペグマタイトにペツォッタイトが眠っている可能性もあるそうで、どこかで新しい鉱床が見つかると良いな、そうすれば手に入りやすくなるのにな、と思いました。
いつかリングにセットして、ペツォッタイト特有のピンクの輝きをいつも眺めたいものですね。
カラッツ編集部 監修