世界には、歴史的に有名なジュエリーが数多く存在します。
王侯貴族や大富豪のために制作された素晴らしいジュエリーの多くは、オークションで競売に掛けられ、コレクターが所有したり博物館に寄贈されるなどしています。
こちらでは、数多い歴史的な作品中、私自身が選りすぐった世界的に有名なジュエリー8選をご紹介していきます。
目次
- マリー・ルイーズのネックレス(Napoleon Diamond Necklace)
- マリー・アントワネットのイヤリング(Marie Antoinette Diamond Earrings)
- マハラジャのパティヤーラーの首飾り(Maharajah of Patiala Necklace)
- マリー・ルイーズ・ダイアデム(Marie Louise Diadem)
- ラ・ペレグリーナ(La Peregrina’)
- ヘンケル・フォン・ドナースマルクのティアラ(The Henckel Von Donnersmarck Tiara)
- ウォリス・シンプソンのパンテール・ブレスレット(The Duchess of Windsor’s Panther Bracelet)
- グラフのピーコック・ブローチ(Peacock Brooch)
- 最後に
マリー・ルイーズのネックレス(Napoleon Diamond Necklace)
1811年、息子の誕生記念としてナポレオン1世が2番目の妻マリー・ルイーズに贈ったネックレスです。
「Etienne Nitôt and Sons of Paris」がデザインしたネックレスは、ゴールドとシルバーに28石のオールドマインカット・ダイヤモンドを連ね、5石のペアシェイプと4石のオーバルシェイプ、10石のブリオレット・カットの大きなダイヤモンドをドロップしたデザインです。
ドロップしたダイヤモンドのモチーフ部分には、それぞれ小さなダイヤモンドが配されています。
ネックレスにはトータル263ctのダイヤモンドが配されており、最大のダイヤモンドは、約10.4ct程という大きさです。
これらのダイヤモンドは当時の主要産地であったインドかブラジルで産出されたものと考えられています。
マリー・ルイーズの死後、ネックレスは親族が引き継ぎます。
ネックレスを短くするため2石のダイヤモンドを外してイヤリングが制作されたといいますが、現在その所在は不明だそうです。
元のネックレスの方は何人かの親族に引き継がれた後コレクターの手に渡り、1960年、ハリー・ウィンストンへと売却されました。
そして1962年、ウィンストンよりスミソニアン博物館に寄贈され、現在も同博物館が所蔵しています。
マリー・アントワネットのイヤリング(Marie Antoinette Diamond Earrings)
14.25カラットと20.34カラットのペアシェイプ・ダイヤモンドをドロップしたイヤリングです。
フランス王室が所有していたことから、マリー・アントワネットのものであったと考えられています。
マリー・アントワネットは1793年に処刑されました。
1853年にナポレオン3世がウジェニー皇后と結婚した際に、「マリー・アントワネット・イヤリング」だと思われる大きなペアシェイプ・ダイヤモンドのイヤリングを贈ったと記されています。
1870年代にウジェニー皇后がイギリスへ亡命し、所有した宝飾品をすべて売却。それらは、ロシアのタチアナ・ユスーポフ公爵夫人がすべて買取ったと伝わります。
そして1928年、カルティエがこれを購入し、同年10月にはカルティエの顧客でアメリカの大富豪であったマージョリー・メリウェザー・ポストへ売却されます。
このイヤリングは元々、ペアシェイプのダイヤモンドをシルバーとゴールドで囲み、オールドマインカット・ダイヤモンドを配したデザインでした。
しかし後にイヤリングを購入したカルティエが、トップ部分をプラチナとトライアングル・シェイプのダイヤモンドを配したものへと作り変えました。
それを1959年、ハリー・ウィンストンがプラチナを使い、シルバーを使用していた元々のセッティングを再現。
そして1964年、イヤリングを引き継いだマージョリー・メリウェザー・ポストの娘によって、スミソニアン博物館に寄贈されました。
マハラジャのパティヤーラーの首飾り(Maharajah of Patiala Necklace)
パティアラのマハラジャが、カルティエに制作依頼したネックレスです。
1925年夏、マハラジャが所有する宝石とジュエリーのコレクションをカルティエの宝石専門家に見せ、モダンなジュエリーの制作を依頼しました。
箱の中には、カラーレス、イエロー、ブラウンなどのダイヤモンド、色鮮やかなルビーやエメラルドを始めとした最上級の宝石やジュエリーが入っていたといいます。
完成したのは、プラチナに2,930石(トータル1,000ct以上)のダイヤモンドとビルマ産ルビーを配し、センターには234.6ctのデビアス・ダイヤモンドをドロップしたネックレスでした。
※デビアス・ダイヤモンドとは、デビアス社の鉱山で発見されたイエローダイヤモンドで、マハラジャが購入したものです。
パティアラ・ネックレスは、権力と財力の象徴として2世代に渡り引き継がれましたが、1948年にパティアラ皇室から突如姿を消してしまいます。
34年もの間行方不明でしたが、1982年にサザービズの競売で、センターに配されていたデビアス・ダイヤモンドが出品され再び世に出ます。
さらに16年後、ロンドンの小さなアンティークショップで、競売に出されたデビアス・ダイヤモンドと他の大きなダイヤモンドが外された状態のネックレスの一部が発見されます。
それをカルティエが買取った後、紛失したダイヤモンドの部分にはレプリカを配し、オリジナルと同じ姿に復元されました。
現在、もし全て元のダイヤモンドを配した状態にあれば、推定3千万ドル(約31億8千万円)の価値があるといわれています。
マリー・ルイーズ・ダイアデム(Marie Louise Diadem)
ナポレオン1世が2番目の妻マリー・ルイーズとの結婚を祝して贈ったダイアデム(冠)です。
このダイアデムは、シルバーとゴールド、エメラルド、ダイヤモンドを使用したネックレス、イヤリング、櫛とともにパリューレとして制作されました。
1810年の制作当初、ダイアデムには写真で見るターコイズではなく、エメラルドが配されていたそうです。
マリー・ルイーズの死後、彼女の伯母から親族へ引き継がれ、その後1956年にヴァン・クリーフ&アーペルに売却されたと伝わります。
1950年代中期、ダイアデムから外されたエメラルドは、それぞれ別のジュエリーに配して販売されます。
販売元のヴァン・クリーフ&アーペルは、「歴史的なナポレオンのティアラに配されていたエメラルドをあなたに」とのキャッチコピーによる広告を出していたそうです。
後にダイアデムには、エメラルドの代わりにターコイズが配されました。
79石のペルシャ産ターコイズ(トータル540ct)と1,006石のオールドマインカット・ダイヤモンド(トータル700ct)をシルバーとゴールドの台座に配したデザインに生まれ変わったのです。
1962年には、パリのルーブル美術館でダイアデムとネックレス、イヤリング、櫛のパリューレが展示されます。
その後ダイアデムはアメリカの大富豪マージョリー・メリウェザー・ポストがヴァン・クリーフ&アーペルから購入し、1971年にスミソニアン博物館に寄贈されました。
ラ・ペレグリーナ(La Peregrina’)
世界最大級の真珠の一つとして有名な「ラ・ペレグリーナ」を配したネックレスです。
16世紀半ば、パナマ湾のサンタ・マルガリータ島周辺で、17.5㎜×25.5㎜のペアシェイプの真珠が発見され、重量が11g以上もあったその真珠は世界最大級の真珠の一つとして有名になりました。
真珠はスペイン王室に献上され、当時王子であったフェリペ2世に捧げられ、その後フェリペ2世の妻となるイギリスのメアリー1世に贈られます。
メアリー1世は、真珠をペンダントとして装い、その姿は有名な肖像画で見ることが出来るほど、愛用していたそうです。
メアリー1世の死後、真珠はスペイン王室に戻り、250年間、国王の妻に引き継がれていきます。
そして、1808年にナポレオンの兄ジョセフ・ボナパルトがスペイン国王になり、フランスへと移動。
後にナポレオン3世がイギリスに亡命し、1848年にイギリス貴族ジェームズ・ハミルトンへと売却されます。
この頃、「巡礼者」や「放浪者」という意味を持つ「ラ・ペレグリーナ」と命名されたといいます。
1969年、ハミルトン家は「ラ・ペレグリーナ」をサザビーズのオークションに出品、アメリカ人俳優のリチャード・バートンが37,000ドル(約392万円)で落札し、妻のエリザベス・テイラーへ贈られます。
1972年、エリザベス・テイラーはカルティエにデザイン制作を依頼し、「ラ・ペレグリーナ」にルビーとダイヤモンドを配したネックレスが完成しました(上の写真)。
テイラーの死後、「ラ・ペレグリーナ」は「エリザベス・テイラー・エイズ基金」への寄付として2011年にクリスティーズに出品、1,184万2,500ドル(約12億5400万円)で落札されました。
この落札額は、真珠とパールジュエリーの記録を更新する最高落札額となりました。
ヘンケル・フォン・ドナースマルクのティアラ(The Henckel Von Donnersmarck Tiara)
19世紀のドイツ・プロセインの貴族で実業家のヘンケル・フォン・ドナースマルク一族のひとり、グイド・ヘンケル・フォン・ドナースマルクが、2番目の妻カタリーナへ贈ったティアラです。
大きな11石のクッション・カットダイヤモンドと、11石のペアシェイプカットのエメラルド(トータル約500ct)が配された、シルバーとゴールド製で、モチーフ全体にダイヤモンドがびっしりと敷き詰められています。
このティアラは、かつてフランスのウジェニー皇后(ナポレオン3世の妻)が所有したティアラから外したエメラルドを配したものだと伝わります。
ウジェニー皇后のティアラに配された25石のエメラルドが1872年に競売に掛けられ、グイド・ヘンケル・フォン・ドナースマルクが購入してティアラにリメイクさせたという説です。
1979年、ティアラは引き継いだ親族によってサザビーズに出品され、個人の収集家が落札しました。
その後2011年にサザビーズに出品された際には、匿名の人物が1,128万2,500スイスフラン(約13億800万円)で落札、ティアラの最高落札額として世界記録を更新しました。
サザビーズによると、エメラルドはコロンビア産で、17世紀から18世紀の間にインドで研磨とドリルが施されたものだそうです。
これらは、マハラジャがジュエリーとして装っていた可能性があるとのことです。
ヘンケル・フォン・ドナースマルク家は、フランスの宝飾店「ショーメ」と「ブシュロン」の顧客であり、1896年にはダイヤモンドとエメラルド、パールを配した王冠の制作をショーメに依頼しています。
このことから、ローレルの葉や花のモチーフを施したこのティアラを制作したのは、ショーメである可能性が高いと鑑定されています。
ウォリス・シンプソンのパンテール・ブレスレット(The Duchess of Windsor’s Panther Bracelet)
「王冠を賭けた恋」として有名になった、ウィンザー公爵エドワードの妻ウォリス・シンプソン(ウィンザー公爵夫人)が所有した、カルティエ製のパンテール(豹)ブレスレットです。
このブレスレットは1952年、カルティエの顧客であったウォリス・シンプソン自身が購入したものといわれています。
立体的なパンサー(豹)のモチーフに、ブリリアントカットとシングルカットのダイヤモンドと、カリブレカットのオニキスをパヴェセッテイングしたものです。
全長195㎜で、パンサーがぐるりと手首に巻き付くデザインです。
このブレスレットは2010年にロンドンのサザビーズに出品され、452万1,250ポンド(約6億2800万円)で落札、ブレスレットの最高落札額として世界記録を更新しました。
これまでに出品されたカルティエのアイテムの中でも世界最高落札額といわれています。
サザビーズはブレスレットの購入者を明らかにしていませんが、オークションでは歌手のマドンナが熱心に入札していたといわれています。
ウォリス・シンプソンは、カルティエによる豹モチーフのジュエリーを数多く所有していました。
ダイヤモンドとサファイアをパヴェセッティングした豹がサファイアのボールに座ったブローチや、ゴールドにダイヤモンドとオニキスを敷き詰め、エメラルドの目を配したブローチなども大変有名です。
グラフのピーコック・ブローチ(Peacock Brooch)
ロンドンの高級宝飾店グラフ(Graff)が制作した、ピーコック(孔雀)モチーフのブローチです。
ブローチが最初に発表されたのは、2013年に開催したオランダのアート展示会「TEFAF」でした。
ピーコック・モチーフには、カラーレス、イエロー、オレンジ、グリーン、ブルーのダイヤモンドが合計1300石以上(トータル120.81ct)も配されています。
さらに、孔雀の胴体部分に配したペアシェイプのファンシー・ディープ・ブルー・ダイヤモンドは、20.02ctという巨大なサイズです。
ブルー・ダイヤモンドの部分は取り外し可能なため、単独で装うこともできるそうです。
ピーコック・ブローチの推定価格は、およそ1億米ドル(約110億円)だといわれています。
これまでに紹介したジュエリーほど長い歴史はありませんが、近年で最も高価なジュエリーの一つに数えられています。
最後に
Photo by : Ahmed.moustafa / Shutterstock.com
世界的に有名なジュエリーは、ただ単に美しいだけではありません。
様々な時代背景やストーリーをもち、それぞれの所有者のもとで異なる歴史を歩んできました。
博物館に寄贈され、一般公開されているものであれば、その美しさや歴史の深さを直接ご覧頂けると思います。
現在行方不明になっているものもいつかどこかで見つかってくれ、公の場で披露されるようになると嬉しいですね。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考サイト>
【マリー・ルイーズのネックレス(ナポレオンのダイヤモンドネックレス)】
◆https://geogallery.si.edu/
【マリー・アントワネットのイヤリング】
◆https://geogallery.si.edu/
【マハラジャのパティヤーラーの首飾り】
◆https://www.tribuneindia.com/
【マリー・ルイーズ・ダイアデム(Marie Louise Diadem)】
◆https://geogallery.si.edu/
【ラ・ペレグリーナ(La Peregrina’)】
◆https://www.winterson.co.uk/
【ヘンケル・フォン・ドナースマルクのティアラ(The Henckel Von Donnersmarck Tiara)】
◆http://www.sothebys.com/
【ウォリス・シンプソンのパンテール・ブレスレット(The Duchess of Windsor’s Panther Bracelet)】
◆http://www.sothebys.com/
【グラフのピーコック・ブローチ(Peacock Brooch)】
◆http://www.thejewelleryeditor.com/ ほか