鮮やかなグリーンの地色に不規則に模様が入った、個性的な見た目が魅力のマラカイト。
有名ブランドのジュエリーの中にもよく見かける宝石ですね。
マラカイトは紀元前の時代から、宝飾品としてだけではなく化粧品や顔料、お守り、銅の原料など、様々な形で人々の生活に関わってきました。
フランスでは12月の誕生石に定められているそうですよ。
そんなマラカイトにも偽物が存在するといわれています。見分け方はあるのか、気になりますね。
また、濃いブルーの色合いが魅力的なアズライトと深い関係にあるのだそうですよ。どんな関係でしょう。
今回はマラカイトについて、特徴、歴史、施される処理、偽物の存在と見分け方、価値など、じっくりとお話していきたいと思います。
目次
マラカイトとは
銅鉱床の酸化帯で生成されるマラカイトは、昔から銅の主要な資源として用いられてきました。
マラカイトを還元焼成すると、銅を取り出すことができるといい、鉱物を熱して金属を抽出する方法は、マラカイトから始まったともいわれています。
中には、還元剤としてポリエチレンを使い、粉末にしたマラカイトを試験管に入れてガスバーナーで熱し、銅に変化させる、という実験を行う学校もあるようですよ。
鉱物としての基本情報
英名 | Malachite(マラカイト) |
和名 | 孔雀石(くじゃくいし) |
鉱物名 | マラカイト |
分類 | 炭酸塩鉱物 |
結晶系 | 単斜晶系 |
化学組成 | Cu2(CO3)(OH)2 |
モース硬度 | 3.5 – 4 |
比重 | 3.60 – 4.1 |
屈折率 | 1.65 – 1.90 |
光沢 | ガラス光沢~金剛光沢~絹糸光沢 |
特徴
マラカイト最大の特徴は、鮮やかなグリーンの色合いと独特の模様ではないかと思います。
特にその模様は、濃淡のストライプ、等高線状や目玉状、マーブル模様など、不規則でかなり個性的。
原石をカットする方向によっても模様の出方が変わるのだそうです。
モース硬度が3.5 – 4と低いマラカイトは、すり鉢で粉状にすりつぶすことが可能で、古代より絵具や染料として使われてきました。
日本画で使う岩絵の具「岩緑青(いわろくしょう)」もマラカイトから作られているといいます。
またマラカイトは、希塩酸をかけると発泡するという性質をもち、見た目がよく似たブロシャン銅鉱などと見分ける際の一つの基準になるのだそうです。
色
マラカイトは主にグリーンを呈し、他の色は見つかっていないようです。
深いグリーンと明るいグリーンが縞状構造となり、特有の模様を作っています。
濃いグリーンの部分は、黒緑色や黒色になることもあるといいます。
私もタンザニアで買ったマラカイトを持っています。
ディープグリーンとエメラルドグリーンの層が同心状に広がったりストライプになったりと、とても複雑な柄をしており、座った猫の形に彫られています。
掌に乗る位の大きさなのですが、どの角度から見ても全く違う模様で、見飽きることがありませんよ。
産地
マラカイトの産地は世界中に散らばっています。
アフリカ大陸では、ナミビア、タンザニア、ザンビア、コンゴ、モロッコ、ジンバブエ、ザイールなど。
アメリカ大陸は、アメリカ、メキシコ、チリ。
ユーラシア大陸では、ロシア、イギリス、フランス、中国。
オーストラリアや日本でも採れ、かつて秋田県の荒川鉱山などで良質なマラカイトが産出されていたといわれています。
原石の形
マラカイトの原石は、塊状、ブドウ状、腎臓状、鍾乳石状、霜柱状、針状、粒状、土状、繊維状、皮革状など、さまざまな形で産出されます。
マラカイトは、いわゆる「銅のサビ」が層になったもの。銅鉱床の上部が水分に触れることで形成されるといわれています。
つまりは、銅の鉱物が炭酸の豊富な地下水に触れると侵食されて銅イオンが染み出し、空気に触れることで微小な粒状に再結晶します。
それらが集合し、さまざまな厚みの層を形成することで、多種多様なマラカイト原石が出来上がるという訳です。
ザンビアなどの銅鉱山では、地表にグリーンのマラカイトが顔を出している光景が見られるそうですよ。
マラカイトがもつ毒性について
マラカイトには毒性がある、という話を聞いたことがあります。
前述したように、マラカイトは銅の表面にできる「青サビ」と同じようなものです。
サビの中にはヒ素が含まれるといわれ、それが体内に残ると、赤くかぶれたりすることもあるようですが、粉末にして吸い込んだり、肌に塗りつけたりしない限り、体に悪影響を与えることは少ないそうです。
肌が弱い方などは、念のため気をつけた方が良いかもしれませんが、一般的にはそれ程敏感にならなくても良いとのことです。
名前の意味
マラカイトという名前は、ギリシャ語の「malache(マラキー)」に由来しているといいます。
マラキーとはアオイ科の植物「mallow(マロウ)」のこと。背が高く初夏から夏に赤紫の花が咲く植物で、日本ではゼニアオイと呼ばれています。
マラカイトがこのゼニアオイの葉の色に似ていることからそう名付けられたそうですよ。
和名は「孔雀石」。こちらは、グリーンの縞模様が孔雀の美しい羽根に似ていることから名付けられたといわれています。
確かに、孔雀の羽の特徴的な目玉模様は、マラカイトグリーンが映えていますね。
植物や鳥の名前が由来だなんて、ちょっと素敵だなと思いました。
石言葉
マラカイトの石言葉は、「成就」「成長」です。
「成就」とは、願いが叶うこと。大願成就や恋愛成就などという言葉として耳にすることが多いのではないでしょうか。
マラカイトの縞模様は年輪のようにも見えますから、成長の証のような印象を受け、このような石言葉が生まれたのかもしれません。
子どもの健やかな成長を願って、マラカイトをお守りにするのも素敵だと思います。
実際、古代ギリシャでは子どものお守りとして使われていたこともあったそうですよ。
マラカイトの歴史
画像:エルミタージュ美術館 孔雀の間 Photo by : Karasev Viktor
紀元前4000年頃から採掘されていたと伝わるマラカイト。
紀元前3000年頃の古代エジプトでは、顔料や化粧品としても使われていたといいます。
かのクレオパトラがグリーンのアイシャドーとしてマラカイトを使用していた、というのは有名な話ですね。
ロシアでは19世紀に盛んに採掘され、大小さまざまなものに加工されました。51トンという巨大なマラカイトの塊が見つかったこともあるそうですよ。
サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館にはマラカイトがふんだんに使われた「孔雀石の間」があります。聖イサク大聖堂では、ずらりと並んだマラカイト製の柱も見ることができます。
古代中国では、マラカイトを「シル」と呼び珍重したそうです。「シル」とは、広東省にあるマラカイトの産地の名前だそうです。
そして、グリーンの顔料として、昔から世界各地で壁画や絵画、ガラスや釉薬の着色剤などに使われてきました。
資源鉱物としての役割
マラカイトは、古来から銅の資源鉱物としても重要視されていました。
マラカイトから銅が取れることが最初に発見されたのは、紀元前4000年頃。
マラカイトを火にくべたらオレンジピンクに輝く金属が流れ出し、それをきっかけに鉱物から金属が取れることが発見されたのだとか。
グリーンのマラカイトが赤茶色の銅に変化するなんて、初めて見た方はきっととても驚いたでしょうね!
前述した、秋田県荒川鉱山などで採れた良質のマラカイトも、一部がかんざしの玉や印籠の緒締め玉などに加工された以外は、溶かされて銅を抽出するのに使われていたそうです。
アズライトとマラカイトの関係
画像:アズライト
群青色の色合いが印象的なアズライト(アジューライト)。
和名は「藍銅鉱(らんどうこう)」といいます。
15~17世紀頃の西洋絵画でブルーの顔料の一つとして使用されていたとされ、エレクトリックブルーのアズライトがメキシコなどで見つかり、その鮮やかさが話題になったこともありました。
実はアズライトとマラカイトはとても深い関係にあります。
どちらも銅の二次鉱物であり、生成する場所も殆ど同じ、一緒に産出されることも多いといいます。
更には、化学組成もよく似ており、アズライトが「Cu3(CO3)2(OH)2」、マラカイトは「Cu2(CO3)(OH)2」です。
しかし両者の関係はそれだけではなく、なんとアズライトは水に触れて炭酸が抜けると、マラカイトに変化してしまうのだそうです!
実際に、アズライトとして採掘されたものが気がついたらマラカイトに変わっていた、ということもあるといいますから、鉱物の世界は本当に面白いですね!
▼アズライトについて詳細が知りたい方は下記記事にてご確認くださいね!
アズールマラカイト
アズライトとマラカイトは共出するだけでなく、混じり合うこともあります。
それらは、アズールマラカイトやアズロマラカイトなどと呼ばれ、アズールブルーとマラカイトグリーンが共存する、とても不思議で魅惑的な外観をもちます。
両者の色がハッキリと分かれているものから、混じり合ってブルーが見えにくいものまで、外観は様々で、とても個性的です。
ブルーとグリーンがくっきりと発色しているものは、とても美しく感動的ですよ。
マラカイトに施される処理
マラカイトは硬度が低く、一方向に完璧な劈開(へきかい)もあります。
そのままでは壊れやすく、加工するのが困難なのだそうです。
強度を増すために、樹脂を浸透させる処理が施されることが多いそうですよ。
また、光沢を増すために、ワックスコーティングすることもあるようです。
マラカイトの偽物
マラカイトにも偽物があるので注意が必要です。
私は、プラスチック製の悪質なものを見たことがありますよ。天然石は触った時にひんやりするのですが、それは軽くて冷たくありませんでした。
合成のマラカイトも多く出回っているようです。明記され適正価格で売られているのであれば問題ありませんが、天然と偽り販売されていることもあるそうですので注意して下さい。
マラカイトの模様がハッキリした黒色の場合は合成が多い、という話を聞いたことがありますが、一概にそうとも言えないそうですので、安直に判断しないよう気をつけて下さいね。
合成マラカイトは、1980年代後半、ロシアの科学者によって作られたといわれています。
合成石ですから、外観や構造、組成など、基本的には天然と大きく変わりません。
成分を分析する機械にかければ、違いが分かるといいますが、素人が見た目だけで区別することは難しいことと思います。
マラカイトの価値基準と市場価格
マラカイトを買う時に、どのような点に注意するべきでしょうか。
予算の範囲内で、より良いマラカイトを選びたいですよね。
マラカイトの価値基準や市場価格などを知り、購入の際に役立てましょう。
価値基準
マラカイトの価値は、色と模様で決まることが多いようです。
まず、グリーンの発色が鮮やかであること。
そして、マラカイト特有の模様がバランスよく入っていることも重要です。
天眼石のような目玉模様が出ているマラカイトも人気があります。魔除けとして身に着ける人が多いのだとか。
マラカイトを選ぶ際は、表面の傷やカケ、ヒビなどがないか、注意して確認しましょう。
市場価格
マラカイトの市場価格はどのくらいでしょうか。
ビーズやタンブルなどは数千円で手に入れることもできるでしょう。
サイズの小さいビーズがもっと安価に流通しているのを見たこともありますよ。
カボションカットなどに研磨されたルースも数千円からある印象ですが、クォリティや大きさによっては、数万円以上になることもあるようです。
ブルガリやグッチ、ヴァンクリーフ&アーペルなど、有名ブランドのジュエリーとなると、地金、脇石、ブランド価値などが付いて、数十万円以上となることが多いでしょう。
どこで買える?
マラカイトを取り扱うお店は多く、比較的手に入りやすい宝石だと思います。
実店舗でもオンラインショップでも探すことは可能です。
特にパワーストーンを扱う店でよく見かける印象ですね。
原石を探すなら、ミネラルショーの方が選択肢が多いかも知れません。
前述の通り合成石もあるため、口コミなどの評判が良いお店や、処理などまできちんと明記してあるお店で購入した方が安心だと思います。
マラカイトのお手入れ方法
マラカイトをお手入れする際、いくつかの注意が必要です。
モース硬度が3.5 – 4.5と低く、コインやナイフで傷がついてしまう柔らかさですので、落としたりぶつけたりしないようにしてください。
加えて、熱や酸、アンモニア、熱湯などに弱い性質もあります。
マラカイトのジュエリーやアクセサリーを身に着けたまま、掃除や炊事をしないように気をつけて下さいね。
また、マラカイトは多結晶質で表面に目に見えない無数の孔が空いています。
アルコール消毒液が掛かってそのまま放置すると、中に染み込んで表面の光沢を損なうなど、影響が出かねませんので、指輪などを着用している場合は、使用前に外した方が安心です。
汚れが気になるときは、柔らかい布でそっと拭いてください。水洗いは厳禁です。
傷つきやすいので、他のジュエリーや宝石と一緒に保管することは念のため避けましょう。
最後に
マラカイトは宝石としてだけでなく、我々の生活にも役立ってきた鉱物であることが分かりましたね。
マラカイトをすり潰して粉状にし、火にかけて銅を取り出す実験は、私もやってみたいな~と思いました。
グリーンのマラカイトが熱で溶けてオレンジピンクになる様子、見てみたいですよね。
ゼニアオイの葉の色に似ていることから名付けられたグリーンの宝石マラカイト。
ゼニアオイはもともとヨーロッパの植物でしたが日本に定着し、夏の風物詩ともいえる存在になりました。
私はゼニアオイの花を見て「夏が来た!」と実感していました。これからは葉っぱを見てマラカイトを思い出すことでしょう。
素敵なマラカイトとご縁がありますように!
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『起源がわかる宝石大全』
著者:諏訪恭一、門馬綱一、西本昌司、宮脇律郎/発行:ナツメ社
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか