数千年という長い歴史をもつエメラルド。
かのクレオパトラが愛した宝石としても有名です。
エメラルドの産地は世界各地にありますが、産地によって特徴や価値に違いはあるのでしょうか?
今回は、エメラルドの主な産地であるコロンビア、ブラジル、ザンビア、ジンバブエを取り上げ、それぞれの特徴と見分け方、価値の違いなどについてお話していきます。
目次
エメラルドとは?
「エメラルドグリーン」という言葉もあるエメラルドは、グリーン宝石の代表と言っても過言ではないでしょう。
宝石にあまり詳しくなくても、何となくどんな宝石かご存知という方も多いことと思います。
5月の誕生石としても広く知られていますよね。
エメラルドは、モース硬度7.5~8で引っ掻き傷耐性はやや高めです。
しかしながら、内部にキズやインクルージョン(内包物)が入りやすい、という特徴があるため、強い衝撃を与えると欠けたり割れたりする恐れがあり、取り扱いには注意が必要です。
鉱物としてはベリルに属し、アクアマリンやモルガナイトなどとは兄弟のような関係にあります。
エメラルドについて詳しくはこちらの記事をご参照ください。
エメラルドの産地
エメラルドは南極以外の6大陸から産出が確認されており、南米とアフリカを中心に主要な産地があります。
紀元前から採掘されていたといわれますが、産地によって発見された時代は様々で、20世紀に入ってから開発が本格化した地域もあります。
現在の主な産地は、コロンビア、ブラジル、ザンビア、ジンバブエなどが挙げられ、最も重要な産地として知られるのはコロンビアです。
その他、南アフリカ、モザンビーク、マダガスカル、パキスタン、インド、ロシアなどでも産出が報告されています。
エメラルドの形成と原石の形
エメラルドは主に結晶片岩または変成作用を受けた、片麻岩などの岩石中に生成されるといわれています。
同じベリルの鉱物でも、主に花崗岩ペグマタイトに生成されるといわれるアクアマリンなどとはできる環境が異なるため、産地や特徴に違いが見られるということです。
エメラルドの形成
エメラルドの形成には非常に複雑な地質学的環境、例えば、急激な地質環境の変化や大きなストレスが発生するような環境が必要だと考えられています。
と言いますのも、エメラルドのグリーンを作っているクロムやパナジウムといった微量元素は地殻の深部、通常ベリルを形成するのに不可欠なベリリウムを伴わない場所にあるといいます。
しかし異なる火山活動がそれぞれに起き、特殊な環境が生まれた結果、通常交わらないはずの元素たちが奇跡的に出会い、鮮やかで美しいベリル=エメラルドが誕生するのだそうです。
まさに地球が織りなす奇跡の中で生まれた宝石ということですね。
エメラルドの鉱床は大きく二つのタイプに分かれます。
一つは、ペグマタイトには接さず、広域変成作用の影響や堆積岩中に出来上がったもの、一つはペグマタイトマグマに関連して出来上がったものです。
ペグマタイトに関連しない鉱山は、コロンビアなどに、ペグマタイトに接する鉱山は、ブラジルやジンバブエなどに見られるそうです。
エメラルドの原石の形
エメラルドの原石は主に六角柱状の結晶で産出されます。
柱状のものの中に長短があったり透明度に差があったり、個体差があるため見た目は様々です。
産地別特徴と見分け方
画像:コロンビア産トラピッチェエメラルド
次に、それぞれの産地ごとの特徴も詳しく見ていきましょう。
コロンビア産
エメラルドの最も重要な産地であり、最高品質のものが多いとされるコロンビア。
スペイン人が渡来する以前も先住民のインディオによって採掘されていたようですが、1537年にスペイン人が現在のチボール鉱山につながる場所に鉱山を開いたことから、本格的な採掘が始まります。
コロンビア産の原石は、表面に色が溜まっているものが多いという特徴をもちます。
また、クロムが多く鉄が少ないという特徴もあり、それゆえ鮮やかなグリーンを発色するものが多いのだそうです。
コロンビアには300以上の鉱山があり、鉱山によって色合いや特徴に違いがあるのだそうです。
例えば、最も重要な産地として知られるムゾー鉱山。ここから産するエメラルドは、品質が高く濃いグリーンのものが多いといわれています。
ムゾー鉱山産エメラルドは、カシミール産サファイアやモゴック産ルビーなどと同じように、ブランド価値がつけられて販売されることもあるんですよ。
他の産地のものとしては、チボール鉱山産はブルー味がかったグリーンで、比較的インクルージョンが少なく透明度が高いもの、コスケス鉱山のものは淡めのグリーンのものが多い傾向にあるそうです。
コロンビア産エメラルドの中には、油滴のような模様をした、結晶成長の痕跡が見られるものもあります。
「一滴のオイル」を意味する「ゴタ・デ・アセイテ」と呼ばれるそれらは、コロンビア産の最高品質のエメラルドにしか見られない特徴だといわれています。
特徴的なインクルージョン
コロンビア産の特徴的なインクルージョン(内包物)とされるのは、三相インクルージョンと黒色頁岩(こくしょくけつがん)です。
三相インクルージョンは、固体と気体と液体が揃って内包されているもので、固体は岩塩の立方体結晶、液体は塩化ナトリウムの飽和溶液であると考えられています。
一説によると、コロンビアがかつて海の底にあったことから、このような特徴的なインクルージョンが入ったのではないかとのこと。興味深いですね!
一方の黒色頁岩は、有機炭素を多く含む堆積岩の一種です。
これらのインクルージョンは、コロンビア産エメラルドの特徴の一つと見られるほか、天然であることを示す一つの目安にもなるそうですよ。
ただし、全てのコロンビア産エメラルドに見られる訳ではありません。
母岩
雲母やパイライト、方解石などです。
トラピッチェエメラルド
トラピッチェとはスペイン語で、サトウキビを絞る農機具の歯車のこと。
6条の線が見られる、もしくは中心から6つの領域に分かれた模様をもつエメラルドのことをこう呼びます。
トラピッチェエメラルドは主に、中心に六角形の線があり、そこから細い6条の線が伸びているもの、中心の六角形がなく6条の線のみのもの、エメラルドの結晶が花びらのように成長しているものの3種類があります。
スター効果とは異なり、光源の向きによる見え方の変化はありません。
主にコロンビアから産出されるといわれています。
▼コロンビア産エメラルドについてもっと詳しく知りたい方はコチラの記事も参考に。
▼トラピッチェエメラルドについてもっと詳しく知りたい方はコチラの記事も参考に。
ブラジル産
1960年代、ブラジルで相次いでエメラルド鉱山が発見されました。エメラルドラッシュと呼ばれたこの発見以降、ブラジルでは安定してエメラルドが産出されています。
ブラジル産エメラルドにおける重要な鉱区は3つで、地区ごとに特徴が異なるといわれています。
一つはバイーア州カルナイーバ鉱山。カルナイーバ鉱山はエメラルドラッシュの先駆けとなったといわれる場所です。
比較的透明度が低くブルー味がかったエメラルドが大量に発見されたことから開発が始まったのだそうですが、現在では産出量が大幅に減っているといいます。
ゴイアス州にあるサンタ・テレジーニャ・デ・ゴイアス地域でも良質なエメラルドが産出されます。この地域から産するエメラルドは、透明度が高く小粒のものが多いという特徴をもちます。
また、エメラルドキャッツアイや、スターエメラルドが多く産出されることでも知られ、特にスターエメラルドは珍しく、この地域の特産といえます。
ブラジルで最高品質のエメラルドが産出されるのはミナス・ジェイラス州のイタビラ地区とノバエラ地区です。
特にノバエラ地区のモンテベロ鉱山とベルモント鉱山は、ブラジルで最も機械化が進んでいる地域といわれ、優れた品質の大粒エメラルドが採掘されています。近年、ピテイラス鉱山という新しい鉱山も発見され、より注目が集まっています。
一方のイタビラ鉱山は産出量がより安定しており、色は暗めではあるものの上質のものが多いのが特徴とのことです。
特徴的なインクルージョン
ゴイアス州産のものには、カルサイトや滑石などが内包されることが多いようです。
▼ブラジル産エメラルドについての詳細はコチラの記事で
ザンビア産
ザンビアでエメラルドが発見されたのは、1931年頃だそうですが、商業的な生産が開始されたのは1967年頃といわれています。
現在、コロンビアの次に重要とされる産地です。
100カラットを超える透明度の高い原石が見つかったこともあるのだそうですよ。
そんなザンビア産エメラルドには、原石の形が六角柱の形をしていないという特徴があります。
原石が丸みを帯びていることからオーバルシェイプに研磨されることも多いのだとか。
ブルー味を帯びた深いグリーンをしていることも、ザンビア産の特徴のひとつです。
特徴的なインクルージョン
ザンビア産エメラルドで最も多い内包物は黒雲母です。
ザンビア産のみの特徴とは言えませんが、ザンビア産に多いといわれています。
▼ザンビア産エメラルドについての詳細はコチラの記事で
ジンバブエ産
1956年、ジンバブエでサンダワナ鉱山が発見されました。
コロンビアやザンビア、ブラジルに比べると産出量は限られていますが、鉱山名から「サンダワナエメラルド」と呼ばれることも多く、品質によっては高値で取引されることもあります。
ジンバブエ産エメラルドは小粒でイエローがかったグリーンが特徴です。
産地によっては研磨した際、色合いが薄くなるものもあるようですが、そういったことが少ないのもサンダワナエメラルドの特徴の一つといわれています。
なお、大粒のものは透明度が低めになる傾向があるそうです。
特徴的なインクルージョン
ジンバブエ産エメラルドは、トレモライトの繊維状の結晶を内包するという特徴ももっています。
▼ジンバブエ産エメラルドについての詳細はコチラの記事で
見分け方
エメラルドは産地特徴の研究が進んでおり、インクルージョン(内包物)や色味などが産地を特定する手掛かりになることも多い宝石です。
見る人が見れば特徴的なものであればだいたい分かるそうですよ。
特にコロンビア産エメラルドの三相インクルージョンなどは、比較的分かりやすい方なのかもしれません。
ただ、素人が肉眼で判断するのは難しいと思います。
内包物は小さいものが多く、顕微鏡などを使わないと分からないものもありますし、色々なものを沢山見ているからこそ、特徴の違いなどが判別できるということもあると思います。
鑑別機関では、熟練の鑑定士が専用機材なども使って、内包物や特徴を詳しく見て判断をしています。
それでも、個体によっては分からないものもあると言いますから、宝石の産地特定は難しく、奥が深い世界なのかもしれませんね。
エメラルドの産地による価値の違いとは
画像:コロンビア産ノンオイルエメラルド
エメラルドは、サファイアやルビーのように産地によって価値が大きく異なることはないといわれています。コロンビア産に多少のブランド価値がつく程度です。
エメラルドの価値は、色みが濃く透明なものほど高くなります。
エメラルドは、前述したように、内部にキズやインクルージョンが入りやすいため、一般的に透明剤の含侵処理が行われています。
一般的に行われる処理のためこれによって価値が下がることはありませんが、稀に産出される、処理を施さなくてもキズやインクルージョンが少なく美しいノンオイルエメラルドは、希少価値の高さから高額で取引されることが多いです。
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▼エメラルドの価値と選び方についてより詳しくはコチラの記事で
最後に
いかがでしたか?
産地の違いがエメラルドに異なる魅力をもたらしているんですね。
一口に「グリーン」と言っても、ブルー味が強めのものやイエロー味が強めのものなど、色幅があることもわかりました。
鑑別機関による産地鑑別は、顕微鏡や専用の機材を使って慎重に行われるといいます。
頑張って勉強すれば素人でも分かる違いはあるのか、とても気になります。
例えば、各産地のエメラルドを一度に並べて比較してみることが出来たら、分かったりしないのでしょうか。興味は尽きません。
もしも、「利き酒」ならぬ「利きエメラルド」ができたら、いつかやってみたいなぁ、と小さな野望を抱いてしまいました。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『起源がわかる宝石大全』
著者:諏訪恭一、門馬綱一、西本昌司、宮脇律郎/発行:ナツメ社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社
◆『インクルージョンによる宝石の鑑別』
著者:近山晶/発行:全国宝石学協会
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◆https://www.cgl.co.jp/ ほか