ウルフェナイトは、一般的にはあまり知られていない宝石かと思います。
モリブデン鉛鉱と呼ばれることも多く、もしかしたらこちらの方が多少聞き馴染みがあるという方もいるかもしれません。
ジューシーなオレンジカラー、煌めくイエローカラーなど鮮やかな色彩と透明度が特徴。
原石の状態からその姿は美しく、とても目を引く鉱物なのです。
今回は、麗しい鉱物ウルフェナイトについて、名前の意味や硬度、産地、価値、市場価格など、様々な角度からお伝えしたいと思います。
ウルフェナイトとは?
鉛のモリブデン酸塩鉱物であるウルフェナイト。
宝石品質のものは希少で、ファセットカットが施されたルースにお目にかかること自体、とても珍しいと言える宝石です。
鉱物としての基本情報
英名 | Wulfenite(ウルフェナイト) |
和名 | モリブデン鉛鉱、水鉛鉛鉱 |
鉱物名 | ウルフェナイト |
分類 | モリブデン酸塩鉱物 |
結晶系 | 正方晶系 |
化学組成 | PbMoO4 |
モース硬度 | 2.5 – 3 |
比重 | 6.5 – 7.5 |
屈折率 | 2.28 – 2.41 |
光沢 | 亜金剛光沢、油脂(脂肪)光沢 |
特徴
ウルフェナイトは、モリブデン鉱物としては、輝水鉛鉱に次いで産出量が多いとされます。
宝石として出回ることは少ないですが、鉱物としてはそれ程珍しくはないようですね。
実は、モリブデンは人類にとって、とても重要な元素の一つ。
人体の必須元素の一つであり、産業上でも大切な金属で、国家備蓄が定められているほどです。
ただ、モリブデンの資源鉱物としては、ウルフェナイトより輝水鉛鉱の方が重要視されているのだそうです。
ウルフェナイトは原石の状態から鮮やかな色合いとキラキラとした煌めき、高い透明度があり、写真で見てもパッと目を引く美しさがあります。
しかしながら、モース硬度2.5 – 3と低い上に特定方向からの衝撃に弱い劈開が明瞭にあり、脆さをもった宝石といえるでしょう。
色
次に、ウルフェナイトの色を見てみましょう。
元々はカラーレスなのだそうですが、生成の過程で微量の元素が含有することで様々な色を呈すると考えられています。
ウルフェナイトの代表的な色といえば、ジューシーなオレンジ、イエロー、レッドですが、これらの色はクロム酸の影響だそうですよ。
他に、ブラウン、グレー、褐色、灰白色、ブラックなどもあります。
蜂蜜の蝋のようなイエローやブルーの濃淡もあるそうで、意外とカラーバリエーション豊かという印象ですね。
稀にホワイトになったり、微量元素が入らずカラーレスの結晶もあるとか。
これらの色に、透明感とダイヤモンドに似た光沢や油脂のような光沢が加わり、ウルフェナイト特有の美しさを放っているのです。
産地
ウルフェナイトは世界各地に広く分布しています。
美しい結晶が採れる産地として知られているのは、アメリカのアリゾナ州、メキシコ、スロベニア、ザンビア、中国など。
他に、ウズベキスタン、オーストラリア、日本の岐阜県でも見つかったことがあるそうです。
ウルフェナイトは、鉛とモリブデン鉱床の酸化帯に二次鉱物として産出します。
白鉛鉱や褐鉛鉱、緑鉛鉱などと一緒に生成するそうですよ。
それでは、有名な産地の一つ、アリゾナ州のウルフェナイトについて、少し掘り下げて見てみましょう。
アリゾナ産のウルフェナイト
アメリカのアリゾナ州は、銀、鉛、亜鉛などの鉱床があり、そこでウルフェナイトも一緒に産出されるといいます。
銀の採鉱地区としても知られているユマ北部のレッドクラウド鉱山では、鮮やかなレッドに輝くウルフェナイトが、ツーソン南部のグローヴ鉱山では、黄褐色の葉片状結晶が見つかったこともあります。
アリゾナで採れるウルフェナイトは、色も形も輝きも、どれも魅力的なのです。
名前の意味
ウルフェナイトの名前は、人物名が由来となっています。
ウルフェナイトが初めて文献に登場したのは、1785年。ウィーンの鉱物学者フランツ・クサヴァ―・ヴルフェン神父(F.X.Wulfen)がオーストリア産のウルフェナイトについて記録したのが最初だといわれています。
ウルフェナイトはとても美しく目立つ鉱物なので、もっと古くから知られていたと思われますが、最初に記録されたのが1785年だったとは、意外に思いました。
ヴルフェン神父は当時、ウルフェナイトをタングステン酸塩鉱物と間違っていたといいますが、後にドイツの科学者クラプロート(M.H.Klaproth)氏が分析し、モリブデン酸塩鉱物であることが判明。
第一発見者である、ヴルフェン神父に敬意を表して、1845年にウルフェナイトと名付けられたのだそうです。
ヴルフェン神父は1805年に亡くなったとのことですが、鉱物に自分の名前が付くことを知ったらどんなに名誉に思い、喜ばれたでしょうか。
ウルフェナイトの原石の形
ウルフェナイトは、主に薄い板状結晶で生成し、薄い正方形や、葉片状結晶の集合体が多いとされます。
光沢感のある薄い結晶が折り重なった原石は、幻想的ですらあります。
他に、キャラメルのような立方体が集合した結晶、塊状、粒状、角錐状、細長い結晶なども見られます。
結晶の稜が10cmにも達する、見事な結晶が産出したこともあるそうですよ。
ウルフェナイトがレアストーンと呼ばれている理由は、原石の形と深い関係があります。
薄い結晶が多いため、ファセットを刻むことができる大きさの結晶がとても少ないこと、また前述した通りの脆い性質もあって切り出して研磨するのが大変困難なのです。
そのため、ファセットカットが施されたルースが市場に出回ることはなかなかない、ということになってしまうのですね。
ウルフェナイトの価値基準と市場価格
ウルフェナイトは希少石ではありますが、購入できる可能性もありますよ。
ウルフェナイトの価値基準や市場価格などを知っておくと、選びやすくなるかもしれません。
ウルフェナイトに出会った時、より良いものを選ぶことができるよう、予備知識を蓄えておきましょう。
価値基準
どんなウルフェナイトに高い価値が認められるのでしょうか。
まずは、他の色石と同様に、色が濃く鮮やかなものに高い価値がつけられます。
また、サイズの大きさも価値と深く関係します。
ウルフェナイトは前述の通り、主に薄い板状結晶で産出されることから、大きい結晶を切り出すことが難しく、サイズの大きさが重要視されるのです。
加えて、カットが美しければ更に価値が上がります。
結晶の形に加え、硬度が低くて脆い性質があるため、カッティングがとても難しいのです。
美しいカットが施されたウルフェナイトに出会ったら、様々な奇跡が重なってできた賜物だということを思い出して下さいね。
市場価格
ウルフェナイトの市場価格はどのくらいでしょうか。
美しいファセットカットが施されたウルフェナイトは希少性が高いため、市場価格も高い傾向にあります。
例えクォリティが低くサイズが小さいものでも、10万円近くの値段がつきます。
サイズの大きいものでしたら、数十万円以上になることもあるようです。
1ct以上になると、希少価値は更に上がるのだそうですよ。
どこで買える?
ウルフェナイトは、お店などで見かけることはあまりない印象です。
各地で開催されるミネラルショーでは、取り扱っているお店があるかも知れません。
最近では、希少宝石のルースなどを販売しているオンラインショップも見かけますので、チェックしてみると見つかる可能性もあるでしょう。
モース硬度は2.5から3と低いためジュエリー加工には不向きで、観賞用として流通していることが多いようです。
カラッツSTOREでも稀に取り扱うことがありますので、興味がある方はチェックしてみて下さいね!
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ウルフェナイトのお手入れ方法
ウルフェナイトはかなり脆く、取り扱いには細心の注意が必要です。
特に薄い板状結晶はかなりデリケート。あまり触らないほうが良いと思います。
安定した場所に置くようにして、落としたりぶつけたりしないように注意してくださいね。
ウルフェナイトは水には溶けないものの、強い流水をかけると簡単に砕けてしまう恐れがあります。
水洗いは必要ありませんが、どうしても、というときは不純物のある水道水ではなく、蒸留水を使う方が良いでしょう。
ブラシなどでこすらず、柔らかい布でそっと拭くようにしましょう。
最後に
世界各地に広く分布していて、原石の状態からキラキラと美しいウルフェナイト。
透明感があって発色も鮮やか。その上、ダイヤモンドに似た光沢のあるウルフェナイトは、ジュエリーにセットしたらどんなに素晴らしいでしょう。
しかし、薄い結晶が多く、宝石品質の産出はかなり稀なこと。
さらに硬度が低くカットが難しいため、ジュエリーには適さない宝石なのです。残念ですねぇ。
ウルフェナイトを観賞用の鉱物としてコレクションし、儚さゆえの美しさを愛でる方もいらっしゃるようですよ。
様々な色や形のウルフェナイトを揃えてみたいですね!
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社
◆『鉱物・宝石の科学事典』
編集:日本鉱物科学会/編集協力:宝石学会(日本)
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社
◆『美しい鉱物と宝石の事典』
著者:キンバリー・テイト 訳:松田和也/発行:創元社 ほか