カラッツ代表取締役の小山(おやま)です。
今年も世界最大の宝石展、アメリカのツーソンミネラルショーに行ってきました!
ツーソンミネラルショーは世界の宝石トレンドの発祥地で、これまでも「パライバトルマリン」や「ペゾォッタイト」などの”エース”達が鮮烈にデビューしていった由緒正しい展示会です。
そして、「ツーソンを制するものが色石を制す」と呼ばれる程、世界の色石の重要なマーケットです。
それでは、今年のトレンドや最新情報をレポートしていきます。
目次
ツーソンミネラルショーとは

ツーソンミネラルショーは、世界最大の色石の展示会です。
その広さたるや、会場の数だけでもなんと47会場あります。
しかも1つの会場で日本のIJT(国際宝飾展)程のサイズがあるため、1会場をみるだけでもだいぶ苦労します。。
さらに会場は「ブロック」という大きい単位に分かれます。1ブロックに3〜4会場あり、隣のブロックまでは徒歩ではなく、車での移動になります。

ちなみにツーソンは砂漠地帯のため、日中はめちゃめちゃ熱いですが夜はかなり冷える過酷な気候です。
2019年の開催期間は1/24〜2/17の約1ヶ月間ありましたが、全ての会場が同時期に開催するのではありません。
私が見たかった会場の開催期間は2/5からでしたので、それに合わせてツーソンに向かいました。
ツーソンミネラルショーの会場

ツーソンのミネラルショーは大きく2つのカテゴリーに分かれます。
1つは業者向け(wholesale)、もう一つは一般向け(public)です。
業者向けは屋内、一般向けは屋外が多いです。
業者向けの会場に入るには、小売店としての営業証明が必須です。そのためインボイスや登記簿謄本の「英訳版」をわざわざ用意して持っていく必要があります。
たまに日本のブログで「自社のホームページを提示したら入れた!」みたいに書いている方がいますが、それだと入れないこともあります。
ただ、入場ルールが変わることがよくあるので、事前に会場に確認をして下さい。
ちなみに、1度でも参加すれば過去の履歴があるのですぐ入れるようになります。
業者向けの展示会風景

一般向けの展示会風景

業者向けの会場では、数千万〜数億円するようなハイグレードなジュエリー製品・ルースを扱っています。
日本ではなかなか見ることが出来ないような宝石が並んでいます。
セキュリティ上、写真が撮れないところが多いので、限定的に許可をもらえて撮れたものだけをこの記事に載せています。
本当はこの何倍も様々な石があるのです。
ブラジル産バイカラーパライバトルマリン。 pic.twitter.com/qTnTQoSGc1
— 小山慶一郎🌈RECARAT (@keiichiro_oyama) 2019年2月8日
さてようやく本題。世界の色石の中心「ツーソンミネラルショー」から、最新の色石のマーケット動向をレポートしていきます。
2019年の色石のマーケット動向

今年のツーソンのミネラルショーでは、ルビー・サファイア・エメラルド・パライバトルマリン・アレキサンドライトといった「貴石」の需要は大きく変わらず、どちらかというと日本でも販売されるようなコマーシャルグレード(一般消費者向け)のものは全般的に5%程度値下がりしているというのが全体の傾向でした。
トピックとして私が気になったのは下記の石たちです。
エチオピア産エメラルドの値上がり

エチオピア産エメラルドがずいぶんと値上がりしていました。
2016年11月に発見されたエチオピア産エメラルドですが、実は2年前のツーソンミネラルショーでのデビューをきっかけに人気に火がついた石です。
近年では、カルティエやティファニーなどのハイブランドジュエリーでの取扱いも開始され、世界的にエチオピア産エメラルドの認知度が高まってきています。
エチオピア産エメラルドは、コロンビア産のものよりも明度が高いものが多いのが特徴なのですが、最近では最高級のコロンビア産と同じくらい濃い深いグリーンのものも見つかっており人気を集めています。
さらにエチオピア産エメラルドの採掘が一時的に減産方針になったことで、供給が減りました。
以上の様な要因を受け、エチオピア産エメラルドの中でも上質なグレードのものに、コロンビア産エメラルドに匹敵する価格のものが出てきたというのが1つ目のトピックです。
タンザナイトは強気過ぎる値上がりか
タンザナイトが宝石として認められて昨年で50年が経ちました🎊
この50年は、ティファニーが見出す→違法取引で価格が乱高下→タンザニア政府が規制に乗り出し、やっと安定。
徐々に上がってきた知名度と今の価格を鑑みると、次の50年で更に値上がりする可能性が高い宝石といえます。🧐
写真は全てティファニー💎 pic.twitter.com/pkE6B1xNAm— 小山慶一郎🌈RECARAT (@keiichiro_oyama) 2019年1月7日
予想以上の値上がりが見られたのがタンザナイトです。
昨年も10%程値上がりしていたので今年はさすがにもう価格が変わらないと思っていたのですが、タンザナイトを扱うどのバイヤーも昨年の10%程度高い金額を提示してきました。
バイヤーたちは「今後もタンザナイトは絶対に値上がりする!」と口を揃えて言い、値下げ交渉も全く出来ない程だったのですが、実は近年、タンザニア政府が規制に乗り出したこともあり、そろそろ価格が安定するのではと睨んでいます。
日本でもタンザナイトは人気の石なので、引き続きウォッチしていきます。
価格が不安定なモザンビーク産ルビー

モザンビーク産の新しい鉱山が発見されたことで供給過多になり、昨年から値下がり傾向にあります。
値下がりの傾向自体は緩やかになってきたのですが、かなりバイヤー間での価格差が激しい(10%〜20%くらい)のが特徴的でした。各バイヤーの「早く手放したい!」という気持ちの現れでしょう。
一方、2カラット以上のハイクラスのモザンビーク産ルビーは採掘量も限られ、需要も高いままなので、依然として価格は高いです。
価格変動が大きいのは、あくまで一般消費者向けのルビーになります。
日本で購入出来るモザンビーク産ルビーはほとんどが一般消費者向け。ですので今後価格がガラッと下がる可能性があるため、購入の際には今回の記事を思い出していただければな、と思います。
モザンビーク産パライバトルマリンは人気が過当
トルマリンを市場価値で比較、全て5ctでハイクオリティだと
①ブラジル産パライバ:5000万
②モザンビーク産パライバ:1500万
③クロムトルマリン:100万
④インディゴライト:80万
⑤ルベライト:70万
写真は60ctUPのモザンビーク産パライバで4億円相当。ブラジル産なら10億円に。パライバは別格🧐 pic.twitter.com/6YMfqoKps3— 小山慶一郎🌈RECARAT (@keiichiro_oyama) 2018年12月23日
同じモザンビーク産でもパライバトルマリンの方は、過当なほどに人気沸騰中でした。
最も有名なブラジル産のパライバトルマリンが、そのあまりの人気に供給が追いついていないこともあり、ツーソンではモザンビーク産パライバトルマリンが大きな価格上昇を見せていました。
価格が高いだけではなく価格差が大きかったのも今年の特徴で、だいたいバイヤーによって10%〜30%ほど差がありました。
日本でもモザンビーク産のパライバトルマリンの需要は大きいのですが、それでもまだまだ一部であり価格は比較的安定しています。
もし今モザンビーク産パライバトルマリンを購入するなら、価格が乱調している海外よりも国内の方がオススメです。
私も今回のツーソンでモザンビーク産パライバトルマリンを購入するのはやめました。
全ての種類で安定した人気を見せるガーネット
世界的なガーネット需要増で、今年のツーソンはガーネットの価格が1~2割程上昇。特に、ミントガーネットやツァボライトの緑系とロードライトやスペサルティンの赤・オレンジ系は3割程高くなってるものも。今後、日本のミネショや宝飾展でも、積極的に取扱う業者も増えていきそう。 pic.twitter.com/GQzYSr0zny
— 小山慶一郎🌈RECARAT (@keiichiro_oyama) 2019年2月16日
今年、どの会場でも活況だったのはガーネットでした。
赤・緑・紫・オレンジ全ての種類のガーネットが人気で、特に深いロードライトガーネットで上質な色味のものは、昨年までの1カラットの価格が今年は20%近く値上がりしていました。
他の石のようにバイヤー間での価格差も小さくマーケットが安定していました。
また色味だけではなく、カットの良さが値段に直結するようになって来たのも今年の特徴です。
下の写真のような今までのガーネットにはないようなカットの商品の需要が高まり、値上がりを見せていました。
ガーネットの新旧カットの違い

一番の違いはカットの面数です。最も光が輝くようにカッティングされてます。みなさん、どちらが好きですか?
ファンタジーカットが流行りの兆し
45ctのパライバトルマリンをファンタジーカット(裏に凸面を入れたカット)した作品。こんな芸術品作るなんて、職人さん半端ない… pic.twitter.com/6jcGwQU16i
— 小山慶一郎🌈RECARAT (@keiichiro_oyama) 2019年2月10日
皆さんはファンタジーカットはご存知でしょうか。
裸石(ルース)の裏面に凸面を入れ、鏡面効果を発生させているカットのことです。
日本ではまだまだ認知の低いカットですが、世界的には既にかなり注目を集めています。
中でもこの2019年のカッティングアワードに選ばれた2作品は見事です。
オレゴンサンストーン John Dyer作

オレゴンサンストーン Christopher Wolfberg作

会場内でもこのファンタジーカットを使ったルースが、前回に比べてずいぶん増えたなという印象でした。
日本だと「ファンタジーカット」そのものをあまり見る機会はまだないですが、例えばシミズ貴石さんの独自カット「甲州貴石切子」には大きな注目が集まっています。
このように、石そのものではなくカットにも大きな注目が集まって来ているというのが興味深いトピックでした。
甲州貴石切子に沢山のご反応をいただき誠にありがとうございます。
固定ツイートに展示会出展情報を掲載させていただきました。切子も販売いたしますので、皆さまぜひお出かけください。 pic.twitter.com/IxOSWT2E5C
— (株)シミズ貴石 (@shimizu_kiseki) 2018年8月18日
小ネタ:ツーソンで流行っている偽物オパール

最後に小ネタを。
オパールの「偽物」をツーソンで大量に見かけました。
この偽物オパールたちは、宝石品質でないホワイトオパールを加熱・染色などで人工処理したもので、価格は1粒1,000円程度と非常に安価です。エチオピア産のオパールをインド人の宝石商が加工処理しているというのが良くあるパターンのようです。
なおバイヤーとのやり取りでは、天然オパールですか?と聞くとほぼYESと答えられます。
ここで安心して買ってしまったら思う壺で、その後に必ず「トリートメントしてますか?」と質問して下さい。
パッと見だとほとんど見分けがつかないので、この質問がないと加工処理のものを購入する可能性があります。
ご注意ください。

ちなみに見分け方なのですが、地色がピンクやブルーで半透明石のオパールはこの世に存在しないので、ご存知であればこれは染色オパールだとすぐに判断できると思います。
一方、ホワイトオパールの加熱処理石は少し厄介です。
未処理のものは色が均一になってますが、加熱処理のホワイトオパールは黒い色ムラがあることが多いので、そこでチェックというか「疑って見てみる」という感じになるかと思います。
日本にはまだ全く流通してないので、しばらくは安心できそうです。
あくまで販売用ではなく鑑定士の勉強用として一つ購入してみたので、今後カラッツでのセミナーや本ブログで「教材」として使っていきたいと思っています。楽しみにしていてください。
まとめ

さて、例えば2017年に鮮烈なデビューを果たしたエチオピア産エメラルド。実は日本での認知度はまだまだです。
なぜかというと単純で、世界の宝飾市場は約20兆円ですが日本の宝飾市場は約1兆円しかないため、市場が小さいところは後回しにされてしまうからです。
世界を駆け回る宝石商たちにも優先順位というものがあるのですね。悔しい・・・。
なので、本ブログやカラッツSTOREでの販売を通じてカラッツが日本の宝飾市場を盛り上げていきたいと、改めて強く感じました。
「こんな宝石があるんだな」と日本の方に知っていただけるだけでも大きな一歩だと思っています。
これからも引き続き、最新の色石レポートを発信していきます。
twitterも頑張っていますので是非フォローの方、よろしくお願いいたします。
カラッツ編集部 監修