10月の誕生石の一つであるトルマリン。
存在しない色はないといわれ、色の宝庫と呼ばれることもある宝石ですね。
一度は目にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
しかしこのトルマリン、実はとっても奥が深い宝石だということはご存知でしたでしょうか。
今回は種類や特徴など、知っていたようで実は知らなかった、トルマリンの魅力を深く掘り下げてご紹介していきたいと思います!!
目次
トルマリンとは?
たくさんの色が存在し、種類も多いトルマリン。
比較的多く市場に出回っていることから目にすることの多い宝石の一つではないでしょうか。
お手頃価格のものから高額のものまで、価格も幅広い印象があります。
独特な特性をもつことから、古くから宝石としてのみならず幅広い活用のされ方をしてきた宝石でもあります。
まずは鉱物としての基本情報から見ていきましょう♪
鉱物としての基本情報
英名 | tourmaline |
和名 | 電気石(でんきいし) |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 六方晶系(三方晶系) |
モース硬度 | 7 – 7.5 |
比重 | 3.03 – 3.31 ※種類により大きく変動 |
屈折率 | 1.61 – 1.64 ※種類により変動 |
※化学組成は種類によって異なるため省略しています。
特徴
トルマリンは存在しない色がないといわれるほど豊富なカラーバリエーションをもつ宝石です。
色によってそれぞれ違った呼び方がされますが、実は成分によっていくつか異なる種類が存在するということはご存知でしたでしょうか。
そう、実はトルマリンというのは一つの宝石に対する呼び名ではなく、 グループ名のようなものなのです。
そして、トルマリンの最大な特徴は、和名で電気石と呼ばれる通り、結晶の両端にプラスとマイナスの電極をもち、熱を加えると静電気を発生することだといわれています。
この特性を利用し、かつてアムステルダムの宝石商人たちはパイプの中に残った刻みたばこの灰を掃除していたといわれています。
それ故、灰を寄せ付ける石 という意味の アッシェントレッカー と呼ばれていたとか。
また、マイナスイオンを発生することから装飾品としてだけでなく、健康器具に使われたり湯船に入れたりと多様な形で親しまれている鉱物でもあります。
産地
主な産地は、ブラジル、アメリカ、タンザニア、マダガスカル、モザンビーク、ナミビア、カナダ、オーストラリア、スリランカ、メキシコなど。
他にも、ケニア、ジンバブエ、オーストリア、ロシア、ミャンマー、中国などで産出されるといわれています。
中でもブラジルのミナス・ジェライス州からが最も産出量が多いといわれ、色んな色のものが採れることでも有名です。
また、希少性が高いとされるカラーレスのトルマリン、アクロアイトは主にアメリカで産出されるそうです。
トルマリンの原石の形
トルマリンの原石の多くは柱状や針状で、主に花崗岩ペグマタイト、高温熱水鉱脈などの中から産出されるといいます。
風化作用に強いことから、砂礫の中に集積するともいわれていますね。
結晶の両端がそれぞれ異なる形状を成す異極像であることも特徴の一つです。
塁帯構造と呼ばれる、異なる色が同心円状に層を作る構造をもつものも多く、一つの石の中で複数の色を楽しむこともできます。
原石の状態でも人気がありますね。
名前の意味
宝石の砂礫という意味のシンハラ語 「turmali」から由来したといわれています。※諸説あります
石言葉
ひらめき、以心伝心、友情、パワーの充実 など。
ピンクトルマリンは、その愛らしい色合いからか愛の石とも呼ばれていますね。
トルマリンの種類
トルマリンは、前述したように、一つの鉱物を指す名前ではなくいわばグループ名のようなものです。
ケイ素、アルミニウム、ホウ素などの主元素から構成され、複雑で幅広い化学組成と共通の結晶構造をもつ硼珪酸塩鉱物の一種で、含まれる元素によって種類が分かれると考えられています。
細かく分けると33種類!にもなるそうですが、大きく分類すると主なものは5種類だといわれています。
ただ、トルマリンの複雑なところは、種類によって名前が分けられるのではなく、色によって名前が分けられる、というところ。
つまり同じ名前でも、種類が異なる場合がある、ということですね。
では順番にご紹介しますね!
エルバイト(リシア電気石)
宝石のトルマリンとして最も多く出回っている種類がこのエルバイトだといわれています。
イタリアのエルバ島で産出されたことからそう名付けられました。
エルバイトトルマリンは、ナトリウムとリチウムが豊富に含まれているトルマリンです。
ネオンブルーが人気のパライバトルマリン、レッド~ピンク系のルベライト、イエローのカナリートルマリンやウォーターメロントルマリンなどにこのエルバイトに属するものが多いそうです。
結晶の成長段階で取り込まれる微妙な元素の種類と量の違いで、様々な色が形成されるといわれています。
例えば鉄とチタンが含まれればブルー、グリーン、ブラックに、マンガンならレッド、ピンク、イエローに、銅ならブルー、ブルーグリーン、バイオレットに変化すると考えられているそうです。
また、チューブ状インクルージョンが入り、キャッツアイ(シャトヤンシー)効果をあらわすものもあります。
リディコータイト
エルバイトの次に多く出回っているのがリディコータイトだといわれています。
ナトリウムの代わりにカルシウムが豊富に含まれている、リチウムトルマリンの一種です。
「現代宝石学の父」とも呼ばれる、GIAの元会長兼社長のリチャード・リディコート博士に敬意を表し、そう名付けられました。
結晶が成長していく過程で色が生まれ、結晶の形を色で表すかのようにグリーン、イエロー、ピンク、パープル、レッドのマルチカラーのカラフルな模様が出来ていきます。
美しいものだと結晶の中にきれいな三角形で数色が見られ、とても自然に出来たものとは思えない、不思議な魅力があります。
前述したとおり、トルマリンは種類によってではなく、主に色によって名前が分けられるため、パライバトルマリンやウォーターメロントルマリンの中にはエルバイトではなく、このリディコータイトに属するものもあるそうです。
ドラバイト(苦土電気石)
マグネシウム元素が豊富で黄色や褐色の色合いが楽しめる、ドラバイトトルマリン。
ナトリウムも多く含みます。
スロベニアのドラーバ川で発見されたことからドラバイトと名付けられたといわれています。
褐色のドラバイトトルマリンを加熱すると色が薄くなり、金色を帯びた美しい色に変わるのだとか。
強い二色性をもつため、見る角度によって色が異なって見えるのも特徴の一つです。
美しい褐緑色のものは希少だといわれています。
ウバイト(灰電気石)
カルシウムとマグネシウム元素が多く含まれるトルマリンです。
スリランカのウバ地方で発見されたことからそう名付けられました。
他のトルマリンに見られる柱状の結晶には成長せず、多くはガーネットの原石のような形で結晶化すると考えられています。
カルシウムに富んだスカルン中から産出され、ドラバイトと混合するものも多いといいます。
褐色系の深い色合いのものが多く、鉄の含有量によって色の濃さが変わり、鉄分が多い程、ブラックにほど近い色に、少ない程グリーン系の色になるそうです。
ショール(鉄電気石)
ブラックトルマリンとも呼ばれるショールは、漆黒色で透明感がなく、鉄分が多く含まれます。
名前の由来は、結晶が脆いため宝石としての価値はないとされ採取されなかったことから不用な鉱物という意味のショール と名付けられたとか、最初に発見されたドイツのツショルラウ村にちなんで名付けられたとか諸説あるようですね。
ペグマタイトなどの中から他のトルマリンと一緒に産出されるといわれています。
色の種類
では、色の宝庫とも呼ばれるトルマリンには、一体どのくらいの色が存在するのか。
代表的なものを幾つか特徴と合わせて紹介したいと思います。
ルベライト
ラテン語で赤い色のという意味の「rubellus」から由来して名付けられたルベライト。
色は濃いピンク~レッド、赤色に近い程市場価値が高くなるとされています。
ピンクトルマリン
明るいピンクのトルマリンをピンクトルマリンと呼びます。
前述したルベライトとの違いはピンクの濃淡だといわれています。
薄いピンクのものがピンクトルマリン、濃いピンク~レッドがルベライトです。
カナリートルマリン
ビビッドなイエローカラーが魅力的なカナリートルマリン。
薄いイエロー~ゴールドまで幅があるものの、少しグリーンを帯びた鮮やかなイエローが最も高く評価されるといわれていますね。
グリーントルマリン
イエローがかったものよりも深いグリーンカラーが高く評価される、グリーントルマリン。
ヴェルデライトと呼ばれることもあるようですね。
産地の一つであるブラジルでは 品質が高く、エメラルドに似た美しいグリーンのものが採れることもあるのだそうです。
エメラルドに似た色を有するグリーントルマリンは、かつてエメラルドと混同されることも多かったといわれています。
アクロアイト
ギリシャ語で無色のという意味の「akhroos」から由来しているといわれる、クリアカラーのトルマリン、アクロアイト。
ホワイトトルマリンとも呼ばれています。
エルバイトに属するものが多いといわれるアクロアイトですが、産出量はあまり多くないといいます。
また市場に出回るものは全くの無色ではなく僅かに色が付いたものが多いともいわれています。
インディゴライト
藍色に近い濃いブルーのトルマリンをインディゴライトトルマリンといいます。
殆どのものが不透明から半透明で、透明度の高いものは少ないといわれています。
そのため宝石品質のものは希少なのだそうです。
パライバトルマリン
ネオンカラーの鮮やかなグリーン~ブルーが美しい希少石、パライバトルマリン。
トルマリンの中で群を抜いて人気と価値と知名度の高さを誇っていますよね。
中でもネオンブルーといわれる色合いは希少で、加熱処理が施されていない非加熱のものは価格も高騰し続けているといわれています。
バイカラートルマリン
一つのトルマリンの結晶の中に2色が存在するものをバイカラートルマリンと呼びます。
グリーン系とピンク系の組み合わせが多い印象ですが、グリーンとブルーやレッドとブルーのものもありますね。
また、加熱処理にて色調節される宝石が多い中、バイカラートルマリンはもともと傷があるものが多いことから、高熱で割れてしまうことを避けるため加熱されず天然のままの色が楽しめるものも多いそうです。
ちなみに3色の場合はトリカラートルマリンと呼ばれます。
ウォーターメロントルマリン
グリーンとレッドの色合いが名前の通りスイカのように見えるトルマリンです。
ウォーターメロントルマリン。名前もユニークですが見た目も愛らしいですよね。
トルマリンの中で人気が高いものの一つです。
周りがグリーン、中央がレッドやピンクでまさにスイカを輪切りにしたような見た目は、柱状の結晶を輪切りにして研磨されることでこのようになるそうです。
ご紹介した以外の色もあり、例えばイエロートルマリンやオレンジトルマリン、そして紫色をしたパープルトルマリンなど。
パープルトルマリンはシベライトと呼ばれることもあります。
珍しい種類のトルマリン
成分や見た目が異なることから、別の種類として扱われるものもありますのでご紹介しましょう。
クロムトルマリン
クロムが含まれているトルマリンをクロムトルマリンと呼びます。
多くはグリーンを有するといわれますが、グリーントルマリンよりも彩度が高く、色が濃いものが多いように思います。
グリーンの発色要因は、微量のバナジウム、クロム、またはその両方の影響と考えられています。
最大5ct程度の比較的大きいサイズで採れるものも多いため、大きいサイズが採れることの少ない、エメラルドやツァボライトの代替品として扱われることも多いのだそうです。
深い色合いのものも多く多色性をもつため、方向によっては殆ど黒に見えることもあるのだとか。
中には、光源を変えると色が変わる、カラーチェンジ効果をもつものもあります。
トルマリンキャッツアイ
棒状のチューブインクルージョン が内包されていることで猫の目のように一筋の光が浮かぶキャッツアイ効果をもつトルマリンキャッツアイもあります。
内包物があることで光が浮かぶので、透明度は低く半透明なのが特徴です。
また、2色が楽しめるバイカラーキャッツアイも存在するそうです。
トルマリンは本当に種類豊かな宝石ですね!
内包物としてのトルマリン
トルマリンはしばしば他の鉱物の中に 内包物 として存在することもありますので、こちらも代表的なものをご紹介しますね。
トルマリンインクォーツ
「トルマリンクォーツ」や「トルマリネイテッドクォーツ」とも呼ばれる、クォーツの中にトルマリンが内包されたものです。
多くはクリアなクォーツの中に棒状のトルマリンが内包されています。
トルマリンインクォーツの中に含まれるものはショールトルマリンであることが最も多く、次に多いのがドラバイトだといわれています。
インディゴクォーツ
クォーツの中にインディゴライトトルマリンが含まれる場合もあり、それらはインディゴクォーツと呼ばれます。
数としては多くないそうですが、バランス良く入っているものはサファイアのようにも見えるとか。
どんなに美しいのか、一度見てみたいものです。
トルマリンインペリドット
ペリドットの中に含まれているものは、トルマリンインペリドットと呼ばれます。
オリーブグリーンのペリドットの中に褐色の針状のトルマリンが内包されています。
何とも神秘的ですね!
トルマリンの中で最も価値が高いのは?
トルマリンの中で最も価値高く扱われるのは、パライバトルマリンです。
次にインディゴライト、そしてルベライトと続きます。
全てのトルマリンに共通して言えることですが、色が濃く鮮やかで透明感が高いもの程、価値高く扱われます。
その他、カットやカラット(大きさ)などを考慮し価値が決まります。
トルマリンのお手入れ方法
硬度は高めですが、強くぶつけたり擦ったりすると表面にキズがつく恐れがありますので注意は必要です。
硬度が異なる宝石と一緒に保管すると、傷つけたり、逆に傷つけられたりする可能性がありますので、小袋に入れるなど分けて保管した方が安心です。
身につけた後に柔らかい布で拭いてからしまうよう習慣付けると美しさをキープしやすいです。
汚れが目立つ際は、中性洗剤や石鹸を溶かしたぬるま湯の中で柔らかいブラシなどで洗ったり、アルコールティッシュなどでサッと拭いてあげてもキレイになりますよ。
一般的には超音波洗浄機の使用も問題ないですが、処理によってはダメなものもあります。また、キズやインクルージョンが多いものにも念のため使わない方が良いでしょう。
最後に
さまざまな色合いと豊富な種類で、古くから人々を魅了してきたトルマリン。
カラーレス(ホワイト)、ブラック以外は一般的に角度を変えると別の色に見える二色性をあらわすといわれていますので、色んな形で色を楽しめる宝石ともいえますね。
珍しいカットのものも多いため、色でも形でもコレクションするのが楽しい宝石ではないかと思います。
その証拠に、濃いピンクが美しいルベライトトルマリンや、ネオンカラーのパライバトルマリンなど、コレクターたちに愛され続けている種類も多いですよね。
ジュエリーにも向いていますので日常使いで楽しめるのも魅力的です。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版発行
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『鉱物・宝石のしくみ』
監修:宮脇律郎/発行:新星出版社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社