宝石は、美しさを引き出すために様々な人工処理が施されています。
宝石に施される様々な処理のうちの一つ、照射処理ってご存知でしょうか。
私は初めて照射処理という言葉を聞いた時「何を照射するの?なんだか怖い」と思ってしまったことを覚えています。
しかし中には一般的に照射処理を施される宝石もあると聞きます。
それはどんな宝石なのか、そして価値はどうなるのかなど知りたくなりました。
照射処理について学び、宝石への理解を深めましょう。
目次
照射処理ってどんな処理?
まず最初に、照射処理とは一体どんな処理をすることなのでしょうか。
それは宝石を放射線に晒すことで、1970年代から始まったといわれています。
放射線に晒した宝石を身につけても、人体に影響はないのでしょうか。
それだけ聞くとちょっと心配になってしまいますよね・・・。
でも心配ご無用ですよ!
きちんと管理された施設で照射し、残留した放射能が除去されるまで保管され、完全に安全性が確保されてから研磨などに出されるんだそうです。
それに調べてみたら、大地や空気中、太陽光にも微量の放射線があることを知りました。
食品からも、私たち人間からも、少量ですが放射線は出ているのだそうです。
放射線を恐ろしいものと思い込んでいた私ですが、自分からも発していたとは!
自然界や私たちの普段の生活にも放射線が存在していることと、照射処理が管理された環境で行われていることを知って、私は少し照射処理を施した宝石への偏見が取り除かれた気がします。
宝石に照射処理を施す理由
ではなぜ、宝石に照射処理を施す必要があるのでしょうか。
それは、宝石の色を変えたり美しくしたりするために行うのだそうですよ。
元々宝石の中には放射線が当たることで色が変わるものもあるといいます。
調べてみると、放射線の照射によって原子の配列が変わって色が変わるのだとか!
難しすぎてちょっとピンときませんが・・・。
鉱物に色がつく要素は幾つかあり、例えば、微量元素によるもの、結晶構造の格子欠陥によるもの、内包物によるもの、そして自然界の放射線物質や放射線によるものなどです。
先ほども触れた通り、放射線は自然界に普通に存在しているのですが、それが鉱物の着色にも深く関係していたのです!
知らなかった~。
照射処理が施された宝石は全て価値が下がるの?
照射処理を施した宝石は、価値が下がってしまうのでしょうか。
結論からいえば、価値がそのまま保たれるものと、価値が下がってしまうものに分かれます。
宝石の鑑別書に「通常、照射処理が行われています」と記載されているようなものは、照射処理の有無で価値が変わることは殆どないようです。
自然界で放射線の照射を受けているものも多いからです。
照射が自然のものでも、人工的なものでも、鉱物に及ぼす作用は同じで、変化する過程も同じ。
科学的な区別が困難な場合も多いそうです。
では、一般的に照射処理が施されているのはどんな宝石でしょうか。
詳しく見てみましょう。
一般的に照射処理が施される宝石とは
一般的に照射処理が施されるといわれる宝石からご紹介しましょう。
幾つかありますが、代表的な例として、ブルートパーズ、スモーキークォーツ、モルガナイト、ルベライト、レモンクォーツなどを紹介したいと思います。
これらの宝石は、照射の有無による価値の変化は殆どないといわれています。
ブルートパーズ
色彩豊かなトパーズの中でも人気の高いブルートパーズ。
しかし色の濃いブルートパーズが産出されることはとても珍しく、現在流通しているものは殆どがカラーレスのトパーズに照射処理を施すことでブルーに発色させたものだといいます。
私はスリランカで、未処理のブルートパーズと照射処理したブルートパーズを並べて見比べたことがあります。
未処理のブルートパーズは色が淡く、何となく優しく柔らかな印象でした。
それに対して照射処理したトパーズの色の鮮やかなこと!
透明度が高く澄み切ったブルー、そして照りがすごくてとにかくキラッキラでしたよ。
ブルートパーズは、照射処理と加熱処理と組み合わせることで、濃淡の異なる色合いを作り出すことができるのだとか。
一つは明るく澄んだ空の色で、この色のブルートパーズはどの宝石店にもあり、当時のスリランカでは一番人気だということでした。
そして、ロンドンブルーと呼ばれる落ち着いた紺色のもの。
照射後は黒味を帯びていますが、加熱処理することで取り除かれ、粋な感じのブルーになるそうです。
スモーキークォーツ
スモーキークォーツも一般的に照射処理が施されているといいます。
クォーツは自然界でも放射線照射を受けることがあり、それによってブラックやブラウンなどに発色するのだそうです。
放射線を浴びる時間が長くなるほど、ブラックに近いブラウンに変化するのだとか。
未処理のままでも美しいスモーキークォーツは産出量が減っているとのこと。
現在流通しているスモーキークォーツの多くは、ロッククリスタル(カラーレスのクォーツ)に照射処理を施してブラウンにしたものなのだそうです。
私も直径が2.5㎝ほどのスモーキークォーツのルースを持っていますよ。
不注意で大理石の床に落としてしまって、一つの角が少し欠けてしまいましたが、コーヒーのようなスモーキーな色が気に入っており、陳列棚に置いて楽しんでいます。
モルガナイト
桜色やサーモンピンクが愛らしいモルガナイトも、一般的に照射処理が施されています。
オレンジ色やイエローが混じったベリルに照射処理を施すと、美しいピンク色が引き出されるそうです。
現在流通しているピンクの美しいモルガナイトは、照射処理されているものが多いのだそう。
照射処理が自然のものなのか人工のものなのか、現在のところ、区別が困難だといいます。
モルガナイトはエメラルドやアクアマリンと同じベリルの仲間で、ピンクベリルと呼ばれることもあるそうです。
アメリカの資本家で宝石愛好家の J.P. Morgan 氏に因んで名づけられたといわれています。
ルベライト
ルベライトは、濃いピンク~レッドの華やかな色合いが印象的なトルマリンです。
ルベライトも一般的に照射処理が施されているそうですよ。
そしてこちらも自然の照射なのか人工のものか、区別が困難な宝石の一つでもあります。
ルベライトは、長い間ルビーと混同されていたという歴史もあります。
14世紀後半にチェコで作られた、大きなサファイアと赤い宝石があしらわれている豪華なクラウンがあります。
ずっとルビーだと思われていたその赤い宝石が実はルベライトだと判明し話題になりました。
本当にルビーのような美しさ!
しかしその頃は照射処理の技術がなかったとすると未処理のルベライトなのでしょうね!
レモンクォーツ
レモンクォーツは淡いイエローのクォーツ(水晶)です。
クォーツに硫黄が含まれることでイエローに発色しているそうですよ。
レモンクォーツに傷をつけると硫黄の臭いがしてくる・・・なんていう逸話もあるほどです。
しかし現在市場で流通しているレモンクォーツの殆どは褐色のクォーツなどに照射処理を施したものなのだそうです。
照射処理によりレモン色を楽しむことができるのですよ。
イエロー系の水晶は、他にシトリンがあります。
レモンクォーツはオレンジ寄りのシトリンに比べグリーン寄りのイエローで、並べると色相が異なることが分かって面白いですよ。
レモンクォーツの色は、完熟前の新鮮なレモンを思わせる、爽やかなジューシーさがありますよね。
照射処理により価値が下がる宝石とは
照射処理によって価値が下がる宝石もあります。
ただ、だからと言って、価値が著しく下がる訳ではありませんよ。
では、その代表的なものであるファンシーカラーダイヤモンドついても簡単にご紹介しましょう。
ファンシーカラーダイヤモンド
ダイヤモンドには様々な色があり、カラーレス以外のものは総称してファンシーカラーダイヤモンドと呼ばれています。
ダイヤモンドは従来、イエローやブラウン味のある結晶が多く、完全なカラーレスのものや逆に濃い色合いをもつものは珍しいとされます。
色や濃さ、大きさによっては数千万円~数億円の値が付くこともあるのです。
褐色のダイヤモンドに照射処理を施すと色が変わって、ファンシーカラーダイヤモンドになると判明したことに、私たちは感謝しなければなりませんよね。
決して手が届かないファンシーカラーダイヤモンドのお値段がぐっと下がったのですから。
褐色のダイヤモンドが、照射と加熱処理によって、ピンクやレッド、ブルー、グリーン、イエロー、オレンジなど様々な色に生まれ変わるなんて、夢のある話ですよね。
照射処理が施されたファンシーカラーダイヤモンドは、トリートメントダイヤモンドとして分類されています。
未処理で美しいものに比べれば、価値は下がるものの、色によっては数十万円以上の値がつくものもあります。
何千万や何億円もする濃い色合いのファンシーカラーダイヤモンドと似たような色合いのものを身の丈に合った価格で手に入れられると思えば、十分に価値があるように思います。
特にアイスブルー、ピンク、グリーンなどは人気も高く、近年価格が上昇しているといわれています。
ダイヤモンドの鑑別書には、処理についても明記されていますので、気になる方は確認してみて下さい。
照射処理が施された宝石の耐久性とお手入れ方法
照射処理を受けた宝石の中には、太陽光に長時間さらし続けると色が褪せるものがあるのだそうです。
そういえば、スリランカでブルートパーズを見せてもらった時、
「そのうち色が薄くなっちゃうかも知れないから、気を付けてね」
と宝石店の店員さんから言われたのを思い出しました。
厳密には、照射処理の後に加熱処理も合わせて行っているものは、逆に退色しにくくなるなど色々あるようで、照射処理石=退色しやすいと一概には言い切れないそうです。
ただ、処理内容がそこまで細かく分かることは少ないため、念のため直射日光が当たり続けるような場所での保管は避けた方が安心だと思います。
個人的には、宝石箱などフタが付いた入れ物に保管し光が当たらないようにするのがベストではないかと思っています。
また高温で色が変わるものもあるそうです。
クリーニングする際は、中性洗剤を溶かしたぬるま湯の中でそっと洗い、柔らかい布で優しく拭きましょう。
最後に
照射処理についてお話ししましたが、いかがでしたか?
放射線を宝石に照射するなんて怖い!宝石への冒涜!と考えていた私ですが、よくよく調べると、自然界で起きていることを人工的に処理しただけのことでした。
照射処理について誤解していたと分かって安心しました。
一般的に照射処理が施される宝石は、照射の有無で価値が変わらないことも分かりましたね。
誤解して欲しくないのは、宝石に処理を施すこと自体が悪いのではありません。
宝石の美しさを引き出すための工夫なのですから。
しかし、人工的な処理が行われた宝石を無処理だと言って販売することは許されません。
宝石を購入する時は鑑別書を見るなどして、処理の有無もしっかり確認しましょうね。
カラッツ編集部 監修