皆さんは長石(フェルスパー)という鉱物のことをどれ位ご存知でしょうか。
長石は一つの鉱物を表す名前ではなく、ある鉱物種のグループ名で、フェルスパーグループなどと呼ばれることもあります。
ルビーやエメラルドのような他の鉱物とは少し異なる、独特な扱われ方をすることも多く、とても奥が深い種類です。
何かと混乱されがちな長石の世界を、出来る限り分かりやすく説明できればと思います!
長石の代表ともいえる、ムーンストーンやサンストーンについてもご紹介しますので、良かったら参考にしてくださいね。
目次
長石(フェルスパー)とは?
長石(フェルスパー)は、20種類以上の鉱物が属するグループ名です。地殻の60%以上を占めるといわれ、地球上で最も多い火山岩の造岩鉱物としても知られています。
分類としては、アルミノ珪酸塩鉱物に属します。
長石が混乱されやすいのは、主成分となるものが3種類あり、それらの成分が混ざり合う比率によって、鉱物種が分けられているからではないかと思います。
少し噛み砕いてご説明すると、
長石(フェルスパー)は、カリウム、ナトリウム、カルシウムを主成分とした
●オーソクレース(カリウム長石:KAlSi3O8)
●アルバイト(ナトリウム長石:NaAlSi3O8)
●アノーサイト(カルシウム長石:CaAl2Si2O8)
という3つの端成分から成り、オーソクレース(カリウム)とアルバイト(ナトリウム)、アルバイト(ナトリウム)とアノーサイト(カルシウム)はそれぞれ溶け合います。
この複数の成分が溶け合ってできる鉱物を固溶体と呼びます。
オーソクレース(カリウム)とアルバイト(ナトリウム)の固溶体はアルカリ長石グループ(カリ長石グループ)、アルバイト(ナトリウム)とアノーサイト(カルシウム)の固溶体は斜長石グループ(プラジオクレース)と大きく二つに分類され、更に生成温度や成分比率の違いなどによって、細かく種類が分けられます。
表にすると、こんな感じです。
アルカリ長石(カリ長石)グループと斜長石グループ(プラジオクレース)、それぞれの特徴についても見てみましょう。
アルカリ長石グループ
アルカリ長石グループは、カリウムを主成分とするオーソクレース(正長石)とナトリウムを主成分とするアルバイト(曹長石)の固溶体系列です。
このグループに属するものは、カリウムかナトリウム、またはその両方を含んでいます。
アルカリ長石グループは、主にオーソクレース、マイクロクリン、サニディン、アノーソクレース、アルバイトの5種類に分類されます。
オーソクレース、マイクロクリン、サニディンは生成温度が異なると考えられおり、いずれもカリウムの含有の方が多いことからカリ長石と呼ばれることもあります。
アルカリ長石グループの鉱物は単斜晶系と三斜晶系があります。オーソクレースとサニディンは単斜晶系、マイクロクリン、アノーソクレース、アルバイトは三斜晶系です。
斜長石グループ(プラジオクレース)
斜長石グループ(プラジオクレース)は、ナトリウムを主成分とするアルバイト(曹長石)とカルシウムを主成分とするアノーサイト(灰長石)の固溶体系列です。
このグループに属するものは、ナトリウムかカルシウム、またはその両方を含みます。
共通する端成分である、アルバイト(ナトリウム長石)は、アルカリ長石グループと斜長石グループの両方に属します。
斜長石グループに属する鉱物は、成分比率によって、アルバイト、オリゴクレース、アンデシン、ラブラドライト、バイトウナイト、アノーサイトの6種類に主に分類されます。
斜長石グループに分類されるものは全て三斜晶系です。アルカリ長石には見られない集片双晶を作ることも特徴的です。
アルカリ長石グループに属するもの
画像:サニディン
前述したように、アルカリ長石には、以下の5種類の鉱物が属しています。
●オーソクレース(正長石):KAlSi3O8
●マイクロクリン(微斜長石):KAlSi3O8
●サニディン(玻璃長石):(K,Na)AlSi3O8
●アノーソクレース(曹微斜長石):(Na,K)AlSi3O8
●アルバイト(曹長石):NaAlSi3O8
この中から、代表的な3種類についてご紹介します。
オーソクレース(正長石)
オーソクレースは透明〜半透明で、カラーレス、淡いイエロー、ホワイト、グレー、レッド、オレンジなどを呈します。
和名は正長石(せいちょうせき)です。
結晶は単斜晶系で、柱状や双晶、塊状で産することもあります。
二面が直角に交差するように割れる劈開の性質をもつため、ギリシャ語で真っ直ぐな割れを意味する「Orthos」と「Klassis」という言葉に由来し、Orthoclase(オーソクレース)と名付けられたといわれています。
脆い性質から加工が難しいとされ、コレクター用にカットされたものが稀に流通する程度です。
低温で形成され結晶が秩序化したものが稀に見られ、それらはアデュラリア(氷長石)と呼ばれます。スイス、マダガスカルなどで見つかっています。
オーソクレースの主な産地は、スリランカ、ミャンマー、マダガスカル、ドイツなどです。
マイクロクリン(微斜長石)
画像:アマゾナイト
マイクロクリンは透明〜不透明で、カラーレス、ホワイト、イエロー、レッド、ピンク、グリーン、ブルー、グレーなど多くの色合いをもちます。
和名は微斜長石(びしゃちょうせき)です。
マイクロクリンの中でブルーグリーン~グリーンを呈するものをアマゾナイトと呼んでいます。アマゾナイトは、表面に白い格子状の線を見せるという特徴もあります。
結晶は三斜晶系で、主に短柱状もしくは板状で産することが多く、多重双晶を成すものも多いようです。
古くから産出されていたといわれ、主にカボションカットやビーズに研磨されることが多いです。
アマゾナイトという名前は南米のアマゾン川に由来するといわれていますが、この地では産出されず、ブラジルでもアマゾン川からは離れた地域で主に見つかるといいます。
主な産地はロシア、アメリカ、イタリア、カナダ、マダガスカル、ブラジルなどです。
サニディン(玻璃長石)
画像:トラカイトの岩石に生成したサニディンの結晶
サニディンは主に透明~半透明で、カラーレスやホワイトのものが多いとされますが、グレーやグリーン味のあるイエローが見つかったこともあります。
和名は玻璃長石(はりちょうせき)です。
結晶は単斜晶系で、通常は短柱状をしていますが、粒状や割れ目が多い塊状で産することもあるといいます。
高温のマグマが急冷団結したもので、オーソクレースよりもナトリウムを多く含んでいます。
サニディンの結晶の多くは、板状を成すため、ギリシャ語で「板」を意味する「sanis」に由来しSanidine(サ二ディン)と名付けられたといわれています。
主な産地は、ドイツ、フランス、イタリア、メキシコ、カナダ、アメリカなど。
日本でも和歌山県などで産出されるといわれているそうですよ!
斜長石グループに属するもの
画像:アノーサイト
斜長石グループに属するのは、以下の6種類です。
●アルバイト(曹長石):NaAlSi3O8
●オリゴクレース(灰曹長石):(Na,Ca)(Al,Si)AlSi2O8
●アンデシン(中性長石):(NaAlSi3O8)70-50(CaAl2Si2O8)30-50
●ラブラドライト(曹灰長石):(NaAlSi3O8)50-30(CaAl2Si2O8)50-70
●バイトウナイト(亜灰長石):(NaAlSi3O8)30-10(CaAl2Si2O8)70-90
●アノーサイト(灰長石):CaAl2Si2O8
アルバイト(曹長石)
画像:アルバイトムーンストーン(ペリステライト)
アルバイトは造岩鉱物を代表するもので、地質学上でも重要な存在とされています。前述した通り、アルカリ長石グループと斜長石グループの両方に属します。
アルバイトは主に半透明で、カラーレス~ホワイトをしています。ラテン語で「白」を意味する「albus」という言葉からAlbite(アルバイト)と名付けられたといわれています。
その他に、ピンク、グリーン、乳白色なども発見されています。
和名は曹長石(そうちょうせき)です。
結晶は通常板状をしていますが、塊状や粒状で産したり双晶を見せることもあります。劈開が完全にあり、割れやすいという特徴をもちます。
主な産地は、ブラジル、アメリカなどです。
オリゴクレース(灰曹長石)
オリゴクレースは、カラーレス、ホワイト、ライトグリーンが多いといわれますが、他にも、グレー、ライトイエロー、褐色などを呈します。
和名は灰曹長石(かいそうちょうせき)です。
結晶は通常粒状や塊状をしていますが、板状や双晶を見せることもあります。
Oligoclase(オリゴクレース)という名前は、ギリシャ語で「小さな割れ」という意味の「Oligos and kasein」を由来とします。劈開が主成分であるアルバイトほど完璧でないというのが理由だそうです。
1826年にAugust Breithaupt氏によって命名されたといわれていますが、一節によると、発見当初は、見た目がスポジュメンに似ていることから「ソーダ・スポジュメン」と呼ばれていたという記録もあるようです。
主な産地は、フィンランド、ポルトガル、アメリカ、タンザニア、インドなどです。
アンデシン(中性長石)
アンデシンは、斜長石グループの中で中間あたりの組成をもちます。
透明〜半透明で、亜ガラス光沢から真珠光沢を見せ、色はグレー、ホワイト、カラーレス、レッド、グリーン、淡いイエロー、オレンジなどが見つかっています。
和名は中性長石(ちゅうせいちょうせき)です。
結晶は三斜晶系で集片双晶や他の形の双晶を見せます。 塊状や結晶粒子として、岩石中に埋もれた形で産することもあります。
南米のアンデス山脈で発見されたことから、Andesine(アンデシン)と名付けられたと伝わっています。
主な産地は、モンゴル、オーストラリア、コロンビア、フランス、イタリア、ドイツなどです。日本で採れることもあるといわれています。
ラブラドライト(曹灰長石)
ラブラドライトも斜長石グループで中間あたりの組成をもちます。アンデシンとラブラドライトの中間体にあたるアンデシンラブラドライトも市場でよく目にしますね。
ラブラドライトというと、不透明でグレーやブルーなど暗い色合いのものが多い印象ですが、実は透明度の高いカラーレスやホワイトのものもあります。
その他、イエロー、オレンジ、ピンク、レッドなども見つかっています。
和名は曹灰長石(そうかいちょうせき)です。
結晶は三斜晶系で、主に塊状や小さな結晶の集合体として産出されますが、稀に卓状で生成することもあるそうです。
ラブラドライトは、ラブラドレッセンスと呼ばれる、光を当てると表面に虹色の閃光が現れるという光学効果をもちます。劈開が見られる面では青色の閃光を見せるのが特徴です。
ラブラドライトという名前は、1770年にカナダのラブラドル半島で発見されたことを由来とします。
主な産地は、フィンランド、ロシア、マダガスカル、オーストラリア、インド、メキシコなどで、特にフィンランドは上質の結晶を産することでも知られます。
ムーンストーンとサンストーン
画像:左-ムーンストーン 右-サンストーン
ムーンストーンもサンストーンも実は特定の鉱物を指す名前ではありません。
両者とも、長石(フェルスパー)に属する鉱物の中である条件を満たしたものに与えられる宝石名です。
それぞれの条件とは、
- ムーンストーン・・・長石の中でアデュラレッセンスを見せるもの
- サンストーン・・・長石の中で地色がオレンジ~レッドのアベンチュレッセンスを見せるもの
それではそれぞれについてもう少し詳しくご説明しましょう。
ムーンストーン
先程お伝えしたとおり、ムーンストーン(月長石)は、長石に属する鉱物の内、アデュラレッセンス(シラーやシーンと呼ばれることもあります)を見せるものに与えられる宝石名です。
主にオーソクレース種が多いといわれています。
このような光学効果は、結晶が生成する際、オーソクレースとアルバイトの薄い層が分離し交互に重なることにより起こると考えられています。
光がこの層の間を通過する時に散乱し、その結果、青色の閃光となって現れるのです。
中には同時にキャッツアイ効果やスター効果を示すものもあります。
アデュラレッセンスがもたらすムーンストーン特有の光は、確かに神秘的な雰囲気を醸し出し、多くの神話が生まれたことも納得せざるを得ない感がありますね。
サンストーン
長石の中でレッド~オレンジの地色をもち、アベンチュレッセンスを示すものです。
アベンチュリン効果とも呼ばれるこの現象は、結晶の成長過程で、板状の微細な内包物を多く取り込むことに起因するのだそうです。
結晶を通過した光がこれらの内包物に反射し、グリッターのような煌めきを見せるのです。
レッド、オレンジ、褐色の煌めきは、ヘマタイト(赤鉄鉱)、ゲーサイト(針鉄鉱)や銅、グリーンの煌めきは雲母によるものと考えられているそうですよ。
また、アメリカ・オレゴン州で産出されるラブラドライトは、銅の含有によりアベンチュレッセンスを示すといわれ、メタリックな輝きからコレクターを中心に人気が高まっています。
中にはアベンチュレッセンスを示さないものもあり、かつ、地色もカラーレスやグリーンなど、サンストーンの定義に当てはまらないものも多いことから、主にオレゴンサンストーンとして流通しています。
長石(フェルスパー)の中で価値の高い種類はどれ?
画像:オレゴンサンストーン
長石(フェルスパー)の中で価値高く扱われるものの一つとして、前述したオレゴンサンストーンがあげられます。
需要の高まりと共に価格も上昇し、現在のところ長石の中で最も注目されている宝石と言っても良いと思います。
特に透明度が高く強い赤色を示し、アベンチュレッセンスを見せるものやブルー系やグリーン系のものが好まれており、価値が上がる傾向にあるようです。
また、長石の中で最も希少価値が高いとされるのは、スリランカ産のブルームーンストーンではないかといわれています。
現在は鉱山が枯渇し、市場に出回ることが滅多にないため、見つかった場合には高値で取引される可能性が高いのだそうです。
最後に
長石は、地球上の地殻の大部分を占めるだけでなく、月や隕石の中にも存在しているといわれます。
長石はどうもややこしい…というイメージがずっとありましたが、今回色々調べてみて、アルカリ長石グループと斜長石グループの2つに分けるところから始めてみたら、意外と理解しやすかったように思います。
ムーンストーンとサンストーンもある条件を満たした長石に付けられる宝石名であることが分かりました。
何かと奥が深いですが、宝石としての魅力も多岐に渡る長石(フェルスパー)。今後ますます注目していきたいと思います!
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『起源がわかる宝石大全』
著者:諏訪恭一、門馬綱一、西本昌司、宮脇律郎/発行:ナツメ社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 岩石と鉱物』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか