虹色の光がとても印象的な宝石、ラブラドライトをご存知でしょうか。
その不思議な輝きは、海や宇宙、オーロラにも例えられるほど素晴らしいものです。
中には思わず同じ宝石!?と驚いてしまう程、見た目が異なる種類もあって、その奥深さには舌を巻いてしまうほど。
幾つもの顔をもつ宝石、ラブラドライトの魅力についてお話しましょう。
目次
ラブラドライトとは?
ラブラドライトは長石(フェルスパー)グループに属する鉱物です。
長石(フェルスパー)グループは、カリウムとナトリウムを主成分とするアルカリ長石グループとナトリウムとカルシウムを主成分とする斜長石グループ(プラジオクレース)の大きく2つに分けられます。
カリウムは正長石(オーソクレース)、ナトリウムは曹長石(アルバイト)、カルシウムは灰長石(アノーサイト)を端鉱物にもち、正長石と曹長石、曹長石と灰長石の成分はそれぞれ混ざり合い固溶体鉱物を作ります。
混ざり合う成分の比率によって鉱物種が分けられ、アルカリ長石グループには主に5種類、斜長石グループ(プラジオクレース)には主に6種類が属します。
図で表すと下記の通りです。
ラブラドライトは、斜長石グループに属し、上の表で見ると、斜長石グループの丁度中間辺りに位置しているのがお分かりになると思います。
これはラブラドライトが曹長石(アルバイト)と灰長石(アノーサイト)の中間付近の組成を持っていることを意味し、割合は大体50:50から30:70(曹長石:灰長石)位までとされています。
それでは、ラブラドライトについて、もう少し詳しく見ていきましょう!
鉱物としての基本情報
英名 | Labradorite(ラブラドライト) |
和名 | 曹灰長石(そうかいちょうせき) |
鉱物名 | フェルスパー |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 三斜晶系 |
化学組成 | (NaAlSi3O8)(CaAl2Si2O8) |
モース硬度 | 6 – 6.5 |
比重 | 2.69 – 2.72 |
屈折率 | 1.56 – 1.57 |
光沢 | ガラス光沢 |
ラブラドライトの和名は曹灰長石です。
ラブラドライトが曹長石と灰長石の固溶体であるということが、この和名からも見て取れますね!
他にもラブラドル長石と呼ばれることもあるようですよ。
ラブラドライトの化学組成を見ると長くて複雑に見えますが、NaAlSi3O8が曹長石をCaAl2Si2O8が灰長石を表しているそうです。
書籍によっては、(NaAlSi3O8)50-30(CaAl2Si2O8)50-70などと数字が併記されているものもあり、これは、曹長石が50-30%、灰長石が50-70%という意味を示しているといいます。興味深いです!
特徴
ラブラドライトの特徴のひとつに、不思議な光学効果をもつということがあります。
光学効果のない種類もありますが、個人的には、ラブラドライトの魅力は特有の光を現すことにあるのではないかと思っています。
鉱物がもつ光学効果には遊色効果、シラー効果、スター効果(アステリズム)、キャッツアイ効果(シャトヤンシー)など色々ありますが、ラブラドライトの光学効果はラブラドライト特有のものと考えられ、ラブラドレッセンスと呼ばれます。
またラブラドライトは、冒頭でもお伝えしたとおり、一見同じ鉱物とは思えない程見た目が違うものもあり、実に表情豊かで種類の多い宝石です。
色
ラブラドライトというと、不透明でダークな地色にブルーや虹色の閃光をあらわす鉱物という印象が強いかもしれません。
しかし実際は、カラーレス、ホワイト、ブルー、イエロー、オレンジ、ピンク、レッドなど多くの色合いをもち、透明度の高いものもあります。
ラブラドレッセンスが見られるものは、地色がブルーグレーやブラック、グレー、濃いブルーなどダークな色合いで不透明なものが多い傾向にありますが、透明度の高いものの中にも現れるものはあります。
ラブラドライトがこんなにカラフルだったなんて、正直意外でした!
産地
ラブラドライトはどこで産出されるのでしょうか。
1770年にカナダで発見され、その後、ロシアやフィンランドでも採掘されるようになったそうですよ。
他にも、マダガスカル、オーストラリア、ノルウェー、アメリカ、メキシコ、インド、ウクライナなどでも採れるようです。
ラブラドライトの産地は全ての大陸に点在しており、世界各地で採掘されているという印象をもちました。
異なる大陸、異なる状況下で生成されるから、このようにバラエティに富んだ種類が存在するのでしょうか。
原石の形
ラブラドライトは、玄武岩、斑れい岩、閃緑岩などの火山岩や変成岩に生成されるといわれています。
本来はテーブルの形に似た「卓状」で結晶するそうなのですが、実際にその形で産出されることはあまりなく、多くは塊状や小さな結晶の集合体で見つかるといいます。
その他、粒状、双晶、板状結晶で見つかることもあり、サイズは微小なものから、1メートル以上あるものまで幅広くあるそうです。
ラブラドライトは、原石の状態から虹色の閃光を放つことも珍しくないそうです。
とても幻想的な感じがしますね!
虹色の閃光(ラブラドレッセンス)を放つラブラドライトは、地殻深部で生成した古い岩石に生成することが多いそうですよ。
劈開は完全で、その面上にラブラドレッセンスが見られることもあるそうです。
名前の意味
ラブラドライトという名前は、発見された地名が由来となっているといいます。
先ほども触れた通り、ラブラドライトは1770年にカナダで発見されました。
カナダのラブラドル半島で発見されたことから、ラブラドライトと名付けられたといわれています。
実は本来のラブラドライトはイエローで光学効果をもたないものなのだそうです。
しかし、カナダで最初に発見されたものが虹色の閃光が美しい鉱物で、本来の光学効果をもたないものが後から発見されたため、当初はそちらが新種と思われていた、という逸話があります。
後に鉱物学が発達して、虹色に光るものの方が変種と判明したそうです。
先にイエローのラブラドライトが見つかっていたら、名前も違っていたかもしれませんね~。
ラブラドレッセンスは何故現れる?
ラブラドライト特有の光学効果であるラブラドレッセンス。
ラブラドールの光、という意味なのだそうですよ。
ラブラドレッセンスは、ラブラドライトの結晶と光が相互に作用し、光が回折して発生すると考えられています。
細かく説明すると、曹長石(アルバイト)と灰長石(アノーサイト)の薄い層が積み重なっていく間に、金属鉱物であるマグネタイトやヘマタイトが薄く繰り返して発達し、それらの層への光の干渉によって虹色の光学効果が生じるのだそうです。
層の厚さや屈折率の違いによって、ラブラドレッセンスとして現れる光の色が違うのだそうですよ。
様々な条件が絶妙に重なって、あの美しい虹色のラブラドレッセンスが出現するんですね~。
ラブラドライトの種類
固溶体鉱物である長石の仲間は実に多様で、その一つであるラブラドライトもまた、様々な種類があります。
透明なもの、不透明なもの、光学効果のあるものとないもの。
地色も光学効果の色も出方も様々です。
このように多彩な表情をもつラブラドライトの中から、今回はスペクトロライト、ホワイトラブラドライト、オレゴンサンストーンについてご紹介しましょう。
スペクトロライト
主にフィンランドのユレマ地方で採れる、鮮やかで美しいラブラドレッセンスを示す高品質なラブラドライトのことを特別にスペクトロライトと呼びます。
鑑別書には、備考欄に別名として表記されることが多いようです。
スペクトロライトとは分光石という意味なのだそう。
分光石とは、分光器のようにプリズムやスペクトルを生じさせる石、という意味なのかな?と想像してしまいました。
スペクトロライトは強いブルーやグリーン、ゴールドなどをはじめ、様々な色がまるでオーロラのように煌めく、とても鮮やかな宝石です。
ホワイトラブラドライト
ホワイトラブラドライトは、地色がカラーレス~ホワイトのラブラドライトのことを指します。
カラーレス~ホワイトの地色の中にブルーや虹色などのラブラドレッセンスをあらわします。
虹色の光を現すものはレインボームーンストーンとして、ブルーの光を現すものはブルームーンストーンとして流通することもあります。
現在、レインボームーンストーンとして流通しているものは、ラブラドライトかアンデシンラブラドライトであることが多いとされます。
画像:左-ホワイトラブラドライト 右-アンデシンラブラドライト
先程の表で見ると、ラブラドライトの隣りにあるのがアンデシンで、ラブラドライトよりも曹長石の割合が少し多い鉱物です。
このアンデシンとラブラドライトの中間にあるものがアンデシンラブラドライトです。
ホワイトラブラドライトとアンデシンラブラドライトは成分がよく似た鉱物であるため、似たような効果が見られるという訳ですね。
※フェルスパーグループの識別については、鑑別機関および時代によって見解が異なる場合があります。
オレゴンサンストーン
コレクターを中心に人気が高いオレゴンサンストーン。これもラブラドライトの一種なのですよ。
オレゴンサンストーンはいわゆるコマーシャルネームで、アメリカのオレゴン州で採れることからそう呼ばれています。
鑑別書の宝石名にはラブラドライト、鉱物名にはフェルスパーと表記されます。
オレゴンサンストーンも光学効果が有名な宝石ですが、他のラブラドライトとは異なる効果を見せます。
オレゴンサンストーンは、光を当てると中でインクルージョンがキラキラと輝く、アベンチュレッセンスと呼ばれる光学効果をもちます。
効果としては、サンストーンやアベンチュリンクォーツなどと同じなのですが、オレゴンサンストーンの場合、銅のインクルージョンによるものというところが、他とは異なる部分です。
中にはアベンチュレッセンスを現さないものもあり、色も、カラーレス、グリーン、オレンジ、ベージュ、レッドと様々なことから、色々集めたくなる、コレクター泣かせの宝石ともいえます。
コレクターの間では、オレゴンサンストーンのアベンチュレッセンスをシラーと呼んだりもするそうですよ。
見た目も光学効果も大きく違うのに、オレゴンサンストーンもラブラドライトの一種だなんて、本当に奥が深い世界ですよね~。
ラブラドライトに施される処理について
宝石には、様々な人工処理が施されることがありますが、ラブラドライトの場合はどうなのでしょうか。
今のところ、人工処理が施されたラブラドライトやオレゴンサンストーンが広く出回っている様子はあまりないようです。
しかし、世界は広いため、全くないと断言まではできないのが現実です。
もしかしたら含浸処理や着色処理が施されたものもあるかも知れません。
ラブラドライトを買う時は、処理などをきちんと開示しているお店を利用した方が良いでしょう。
ラブラドライトの偽物について
ラブラドライトは今のところ、偽物はあまりないという印象です。
合成石が出回っている様子もありませんし、他の宝石などをラブラドライトと偽って販売していることもあまり見かけません。
合成石や模造石も理解して手に入れる分には、その宝石や雰囲気をより手軽に楽しむという点で悪いことではありません。
問題は、偽って売る、つまり消費者を騙して買わせるという点です。
偽物と気が付かずに購入してしまわないよう、購入する前にお店をきちんと調べることも大切だと思います。
ラブラドライトの価値基準と市場価格
ラブラドライトを買う時に、どんな点に注意したらよいでしょうか。
まずは、価値の高いラブラドライトはどのような状態のものなのか、価値基準を見てみましょう。
それから、市場価格や売っている場所などについても簡単にご紹介しますね。
価値基準
まずは価値基準ですが、不透明のラブラドライトは、ラブラドレッセンスが鮮やかに美しく現れるものほど、価値が高くなるようです。
ラブラドレッセンスの色は、レッドが見えると価値が上がるそうですよ。レッドの次に価値が上がる色はピンクなのだそうです。
ホワイトラブラドライトは、ラブラドレッセンスが美しいということの他に、透明度が高いものにも価値が認められる傾向にあります。
また、ラブラドライトは、クラックが多いという特徴があるため、全般的にクラックの少ないものも評価が上がります。
つまり、赤やピンクが見える鮮やかなラブラドレッセンスのあるラブラドライトで、クラックが少なくて、そしてカラットの大きいものほど価値が高まる傾向にあるということですね。
ちなみに、オレゴンサンストーンの場合は、オレンジ系、ブルー系、グリーン系の地色が人気が高く、アベンチュレッセンスが美しく現れると価値が上がるようです。
市場価格
ラブラドライトの市場価格は、クォリティや種類によって幅があります。
不透明のラブラドライトでルースであれば、一万円以下で販売されていることも多いようです。
ラブラドレッセンスがとても美しく現れるスペクトロライトなど、高品質で大きいカラットのものだと、数万円や数十万円の価格がつくものもあります。
レインボームーンストーンやブルームーンストーンとして販売されているホワイトラブラドライトも、クォリティによっては一万円以下で見つけることができます。
ラブラドレッセンスが美しく、カラットも大きい、トップクォリティのレインボームーンストーンは、数十万円以上するものもあるそうですよ。
オレゴンサンストーンの場合もクォリティや色合いなどによりますが、ルースで五千円前後~数万円位のものが比較的多い価格帯ではないかと思います。
私はレッドとピンクが入ったスペクトロライトが欲しいな~と思いました!
どこで買える?
ラブラドライトやオレゴンサンストーンはどこで買えるのでしょうか。
宝石のルースを数多く取り扱っているお店であれば、出会う確率が多いでしょう。
各地で開催されているミネラルショーでも見かけることができそうです。
最近ではオンラインショップも増え、取り扱い店舗は多い印象です。
思ったよりは手に入れやすいのかもしれません。
ジュエリー加工したものも見かけますので、気になる方は探してみると良いと思います。
ラブラドライトに限ったことではありませんが、先ほども触れたように、販売している宝石の情報をきちんと開示しているお店で購入することをお勧めいたします。
素敵なラブラドライトに出会えますように!
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ラブラドライトのお手入れ方法
ラブラドライトは劈開が完全で、加えて圧迫に弱くて脆いという性質があります。
また、先ほどお伝えした通り、クラックが多いという特徴もありますので、取り扱いには注意しましょう。
汚れがひどい場合は、ぬるま湯で優しく洗うこともできます。その際は柔らかい布でそっと水滴を拭き取りましょう。
他の宝石類や硬い金属などにぶつかると欠けたり割れたりするかもしれませんので、小分けしたり宝石箱などに入れて保管することをオススメします。
最後に
ラブラドライトがもつ幾つもの顔をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
特有のラブラドレッセンスという光学効果をもつ結晶が多いことやラブラドレッセンスが鉱物の層と光の作用で出現することも知りました。
主にフィンランドで採掘される鮮やかなラブラドレッセンスのあるものは、スペクトロライトと呼ばれ価値高く扱われます。
レインボームーンストーンやオレゴンサンストーンという見た目が大きく異なるものも仲間だということが分かりましたね。
ラブラドライトって、実に多種多様で奥が深い鉱物ですね!
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか
◆『蛍光鉱物&光る宝石 ビジュアルガイド』
著者:山川倫央/発行:誠文堂新光社