エンスタタイトという宝石をご存知でしょうか。
宝石としてはあまり出回っていないように思いますが、宝石品質のエンスタタイトはとても綺麗なんですよ。
どれくらい価値のある宝石なのでしょうね。
エンスタタイトという名前はギリシャ語と関係しているらしいですが、どんな意味があるのか名前の由来も気になります。
とても珍しい宝石、エンスタタイトについてお話しましょう。
目次
エンスタタイトとは?
エンスタタイトは輝石の仲間で、マグネシウムと鉄と珪酸からできた鉱物です。
輝石は多くの変成岩や火成岩に含まれていて、地球上の多くの岩石を作っている造岩鉱物の一つです。
とても沢山の種類がある輝石ですが、実はエンスタタイトは輝石の中であまり珍しくない存在なのだそう。
翡翠も輝石の一種なんですよ。エンスタタイトと翡翠とは、遠い親戚という関係になるかもしれませんね。
それでは、もう少し掘り下げて、鉱物の基本情報から順番に見ていきましょう。
鉱物としての基本情報
英名 | Enstatite(エンスタタイト) |
和名 | 頑火輝石(がんかきせき) |
鉱物名 | エンスタタイト |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 斜方晶系 |
化学組成 | Mg2Si2O6 |
モース硬度 | 5 – 6 |
比重 | 3.1 – 3.9 |
屈折率 | 1.65 – 1.68 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
輝石の中ではそれ程珍しくないとされるエンスタタイトですが、透明度の高い宝石品質のものが見つかることは多くないといいます。
更に、モース硬度が5 – 6と高くない上に、2方向に完全な劈開があるため、カットなど加工が難しい宝石でもあります。
そのため、市場で見かけることが少ないという訳ですね。
しかし中には、繊維状の構造が見えるもの、キャッツアイ効果が出るもの、針状のインクルージョンが虹色に光るものなど特徴や見た目が異なる種類もあり、なかなか奥が深い宝石といえます。
また、エンスタタイトは、融点が高く、耐火性をもつという特徴があり、工業用に利用されることも多いようですよ。
色
エンスタタイトは、カラーレス、ライトイエロー、ライトグリーン、グリーン、イエロー、褐色、グレー、ブラックなどが見つかっています。
微量のクロムによってグリーンになり、鉄の含有量が増えると褐色やブラックになるとのこと。
クロムエンスタタイトと呼ばれる、エメラルドグリーンの美しい結晶もあるそうですよ。
薄いグリーンのエンスタタイトは若草のように優しくフレッシュな感じの、赤褐色のエンスタタイトには深みのある輝きを楽しむことができます。
産地
エンスタタイトは、シリカに乏しい火成岩から産出されることが多いとのこと。
広範囲に分布しているそうですが、宝石品質のエンスタタイトが採れる場所は限られているといいます。
高品質でファセット向きのエンスタタイトは、インドやミャンマー、スリランカ、アメリカなどで見つかることが多いといわれています。
特にアメリカのアリゾナ州では、カラーレス、ライトグリーン、褐色などの質の高いエンスタタイトが採れることもあるそうですよ。
表面に虹色の光が見えるイリデッセンスを示すものは、カナダで採れることが多いといいます。
また、エンスタタイトは隕石に含まれていることもあるのだとか。
宇宙にも存在しているなんて、エンスタタイトがとても特別に思えてきました。
名前の意味
エンスタタイトの名前の意味について見てみましょう。
エンスタタイトはギリシャ語のenstatesに由来して名付けられたといわれています。
enstatesには「反対」「対抗勢力」「対抗者」などの意味があるのだとか。
前述したとおり、エンスタタイトは融点が高く耐熱性をもつという性質があります。
炎に対抗する性質があるというところから、この名が付けられたのだそうですよ。
和名の「頑火輝石」にも「頑なに火に対抗する」という意味が含まれているようです。
エンスタタイトの原石の形
エンスタタイトは、主に塊状の集合体、葉片状、粒状、繊維状などで産出され、時に短柱状や針状で産することもあります。
岩石の石基に小さな針状結晶がびっしりと付いていたり、繊維状の結晶が平行に集合したり、単結晶だったり、様々な形状があるようです。
エンスタタイトは塩基性または超塩基性の火成岩(斑レイ岩、粗粒玄武岩、橄欖岩、ノーライト)の中で生成するといわれています。
フェロシライト(鉄珪輝石)との間に固溶体系列を作ることも特徴です。
資源鉱物としてのエンスタタイト
前述したように、融点が高く、耐火性をもつエンスタタイトは、資源鉱物としても広く活用されています。
高温の炉や窯などの内側に使われることもあるそうですよ。
エンスタタイトの融点は1400℃といわれていますが、陶磁器を焼成する窯は大体800℃から1200℃位で熱するといいますので、エンスタタイトは充分耐えることができるのですね。
それからエンスタタイトは、煮炊きする時に用いる竈の内側に使われることもあるそうですよ。
実は私たちの身近にある鉱物だったのですね。
エンスタタイトの仲間
画像:ブロンザイト
エンスタタイトにはいくつか仲間がいます。
ここでエンスタタイトの仲間としてご紹介したいのは、ブロンザイト、エンスタタイト・コンドライト、菊寿石の3つです。
それぞれどのような鉱物で、エンスタタイトとどう関係しているのか、一つ一つ見ていきましょう。
ブロンザイト
前述したとおり、エンスタタイトはフェロシライト(鉄珪輝石)との間に固溶体系列を作ります。
マグネシウムが多いとエンスタタイトになり、鉄が多いとフェロシライトになります。
かつては、その成分比率によって6種類に分けられていたそうで、ブロンザイトもその一つ。
ブロンザイトは、マグネシウムを主成分とし、鉄が10~30%入っているものを指し、主にイエローグリーンや黄褐色を呈します。
和名は「古銅輝石」です。
ブロンザイトは銅のような色であることが、和名からもわかりますね。
エンスタタイト・コンドライト
エンスタタイト・コンドライトは、宇宙からやってきた鉱物です。
そう、隕石に含まれているエンスタタイトのことなのです。
コンドライトとは、コンドリュールという球粒状の構造をもつ石質隕石の一種なのだそう。
コンドライトにはいくつか種類がありますが、その中でエンスタタイトが含まれているものがエンスタタイト・コンドライトと呼ばれているのです。
いつか博物館などで隕石を見る機会があったら、エンスタタイト・コンドライトなのかどうか確かめてみようと思いました。
菊寿石
菊寿石とは、菊の花のような結晶が見られる石のことです。
エンスタタイトと菊寿石とは、どのような関係があるのでしょうか。
実は菊の花のような模様は、エンスタタイトの針状結晶が母岩の中で放射状に伸びたものなのだそうです。
エンスタタイトの針状結晶はホワイトやグレー、ゴールドなど。黒っぽい母岩に良く映えますね。
「菊のご紋」と言い表す人もいるほど、煌びやかで美しい菊寿石もあるそうですよ。
日本でも産出されており、愛好家の目を楽しませています。
ちなみに、似たような見た目の鉱物に菊花石がありますが、成分も生成過程も全く違う別の鉱物です。
エンスタタイトの価値基準と買える場所
どのようなエンスタタイトに高い価値が認められているのでしょうか。
まず、透明度が高く色が濃いこと。
イエローやグリーン、赤みを帯びたオレンジなど、鮮やかな色のエンスタタイトに価値が認められる傾向にあります。
透明度の高いカラーレスのエンスタタイトも貴重ですよ。
前述したように、宝石品質のエンスタタイトは珍しいため、あまり多く市場に出回っていない印象です。
針状のインクルージョンが光に反射するものなども希少価値があります。
エンスタタイトはどこで買える?
では、エンスタタイトはどこで買えるのでしょうか。
ジュエリー加工されることがあまりないせいか、ジュエリーショップでは見かけない印象です。
ミネラルショーでは、エンスタタイトの原石やカットが施されたルースを取り扱っているお店を見つけることもできるようです。
レアストーンの取り扱いが多いオンラインショップでも見かけることがあります。
カラッツSTOREで取り扱うこともありますので、良かったらチェックしてみて下さいね。
▽カラッツSTOREのエンスタタイトはコチラ▽ |
最後に
宇宙にも存在している宝石、エンスタタイトについてお話しました。
隕石に含まれているなんて、なんだか壮大なイメージのある宝石ですよね。
エンスタタイトの和名は頑火輝石。
英名も和名も、耐火性があるというエンスタタイトの性質が名前の由来になっていましたね。
宝石質のエンスタタイトはとても貴重です。
エンスタタイトとの素敵な出会いがありますように。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『起源がわかる宝石大全』
著者:諏訪恭一、門馬綱一、西本昌司、宮脇律郎/発行:ナツメ社
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 岩石と鉱物』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『パワーストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社 ほか