褐色系の落ち着いた色合いをもつスモーキークォーツ。
その名のとおり、クォーツ(石英)の一種です。
モリオンやカンゴームと呼ばれる似たような見た目をもつ宝石もありますが3つの違いは何でしょうか。
今回は、スモーキークォーツの特徴や歴史、モリオン、カンゴームとの違いと見分け方などについて学んでみましょう!
目次
スモーキークォーツとは?
スモーキークォーツは、淡褐色からブラウンのクォーツ(石英)です。
くすんだ煙のような色をしており、結晶は透明からほぼ不透明までさまざまです。
鉱物としての基本情報
英名 | Smoky Quartz(スモーキークォーツ) |
和名 | 煙水晶 |
鉱物名 | クォーツ |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 六方晶系/三方晶系 |
化学組成 | SiO2 |
モース硬度 | 7 |
比重 | 2.65 – 2.7 |
屈折率 | 1.54 – 1.55 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
くすんだ褐色が特徴的なスモーキークォーツは、硬度が7で靭性も高く、比較的取り扱いしやすい宝石です。
古来からジュエリーや装飾品に多く加工され、スコットランドでは民族衣装キルトに合わせる装飾品として、古代ローマではカメオやインタリオの彫刻を施して印章として使用するなど世界各地で広く愛されてきた宝石です。
ビーズやカボション、ファセットなど、あらゆるカットが施されます。
大きい結晶で産出されることも多いため、手頃な価格で大きいものを手に入れやすいことも特徴の一つですね。
色
ライトブラウン、グレイッシュブラウン、ブラウニッシュブラック。
スモーキークォーツよりもブラックが強いものはモリオン、黄褐色から黒褐色はカンゴームと呼ばれることが多いですが、この3つの違いについては後ほど詳しくご説明しますね!
スモーキークォーツの色は、わずかなアルミニウムを含むクオーツの結晶が、花崗岩に含まれる放射性鉱物の影響を受けて着色されると考えられています。
産地
スコットランド、ブラジル、マダガスカル、オーストラリア、アメリカ、スイスなど。
原石の形
スモーキークォーツの原石は、花崗岩ペグマタイト中にある、晶洞(空洞内)や火成岩と変成岩を横切る石英脈などで産出されるといわれています。
堆積岩や変成岩の割れ目に生成することもあるそうです。
結晶は三方晶系や六方晶系をしており、柱状や双晶、塊状で見つかっています。
結晶面はガラス光沢が見られ、断口は貝殻状から不平坦状、劈開はありません。
名前の意味
スコットランドのカンゴーム山脈では古来から黒褐色のクォーツを産出しており、このクォーツは産地にちなみカンゴームと呼ばれていました。
その中で明るくて黄灰色をしたクォーツをスモーキークォーツと呼ぶようになったそうです。
このスモーキークォーツという名前は、1837年にJ.S.Danaによって宝石業界に広められたと伝わり、その色合いが煙を連想させることから名付けられたといわれているようです。
和名はスモーク=煙から煙水晶と呼ばれています。
なお、カンゴームで採れる真っ黒なクォーツモリオン(Morion)という名は、古代ローマの博物学者大プリニウスがモーモリオンと命名したことが由来であるとか、フランス語の moreau(黒)に因むなど、様々な説が伝わっています。
ちなみにモリオンは、和名では黒水晶と呼ばれています。
スモーキークォーツの歴史・言い伝え
スモーキークォーツは、スコットランドの国石に選定されています。
この土地で紀元前300年頃から採掘されてきたと伝わり、スコットランドの人々に広く愛されてきた歴史があるからかもしれません。
その昔、イギリス諸島を支配していたケルト人たちが、スコットランドのカンゴーム山脈で茶灰色のクォーツを採掘していたといいます。
彼らはこの場所で採れる黒褐色の結晶を「カンゴーム」、ダークブラウン~ブラックのクォーツを「モリオン」と呼び分けていたそうです。
そしてこれらをジュエリーやスコットランドの民族衣装「キルト」に合わせる装飾品などに加工しました。
ショルダーブローチ、キルトのピン、靴下に差し込むソックナイフ「スキャンドゥ」などが代表的で、そのデザインは現代にも継承されています。
古来には悪夢を払う護符とされ、古代ローマではカメオやインタリオを施した印章に加工したものをリングなどにして大切に身に着けていたとも伝わります。
不眠症の治療に用いられていたこともあるそうですよ。
スモーキークォーツの石言葉
スモーキークォーツの石言葉は、「責任感」「くじけない心」です。
古代の時代には悪夢を追い払う石とされ、勝利や種族繁栄をもたらすと信じられていたと伝わります。
スモーキークォーツとモリオン、カンゴームの違いと見分け方
スモーキークォーツとよく似たモリオンとカンゴーム、この3つの違いと見分け方についてご説明しましょう。
これらの簡単な見分け方は色の濃さと、光に当てた時の色味の違いです。
では、それぞれの色の特徴について詳しくご説明しますね。
スモーキークォーツ
パッと見て黒さがなく、グレー、ブラウン、イエローブラウンをしています。
スモーキークォーツは光に当てると透けて、くすんだ褐色に見えます。
モリオン
不透明でブラックの色合いをもつものです。
光を当てても透けず光をほとんど通さないものを指します。
カンゴーム
黄褐色から黒褐色をしており、スモーキークォーツよりも色は濃い目です。
わずかに光を通し、光に透かすとブラウンに見えます。
稀に結晶が光を通さなくても、小さくカットしたルースが光を通す場合があり、その場合はカンゴームと評価されることもあるそうですよ。
ただ、現在AGL(日本の鑑別団体協議会)加盟の鑑別機関ではカンゴームという名称は鑑別書には記載しない傾向にあるそうです。
スモーキークォーツに施される処理について
市場に流通しているスモーキークォーツは、一般的に照射処理が施されているといわれており、カラーレスのクォーツに照射処理を施しスモーキークォーツとして販売されているものも多いそうです。
逆に濃い色合いのスモーキークォーツに加熱処理を施して色を薄くすることもあり、加熱処理で黄色にしたものがシトリンとして販売される場合もあると聞きます。
スモーキークォーツの偽物
天然のモリオンは産出量が少なく希少なため、ダークな色合いのスモーキークォーツやカンゴームをモリオンとして販売している場合があるといいます。
モリオンは光を通過しないことで見分けが付くので、間違わないように注意しましょう。
スモーキークォーツの価値基準と市場価格
価値基準
スモーキークォーツは一般的に流通量が多いこともあってか、クォーツの中でも特にお手頃な価格のものが多い印象です。
一般的に、インクルージョンやキズなどがなく透明感が高いもの程高く評価されます。
色は薄すぎず濃すぎず、石全体に均一に広がっているのが理想的です。
黒いモリオンは希少なため、スモーキークォーツの5倍ほどの価値が付けられることも多いと聞きます。
市場価格と買える場所
スモーキークォーツは、前述したとおり、流通量が多いため、比較的お手頃価格なものが多いです。
数千円前後で販売されているものもよく見かけます。
200ct前後ある巨大なものや特殊カットが施されたもの、著名なカット職人やデザイナーが手掛けたものとなると数千万円以上するものもあります。
取り扱い店舗は多い印象ですので、ルースでもジュエリーでも原石でも色々なお店を覗いて比較した上で購入すると満足できる買い物がしやすいかもしれませんね。
最後に
くすんだ褐色が魅力的なスモーキークォーツ。
カンゴームとモリオンとの見分け方は、色の濃さと光にかざした時に光を通すかどうかで見分けることが出来ることもお分かり頂けたかと思います。
スモーキークォーツはかつてトパーズと間違われていたこともあり、海外では多面体にカットしたスモーキークォーツを、スモーキー・トパーズ・クォーツやスモーキートパーズと呼んで販売していることもあったといわれています。
しかしこれらはいわゆるフォルスネーム、誤称ですので、トパーズと勘違いして購入しないよう注意してくださいね。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
<主な参考書籍>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『パワーストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社