スフェーンはダイヤモンドよりも強いファイアが魅力的で、コレクターを中心に人気の高い宝石です。
光の中でギラギラと輝く姿は本当に美しく、思わず見とれてしまうことも多々あります。
一般的にはまだそれ程知名度が高くないとされるスフェーンですが、一体どんな宝石なのでしょうか。
スフェーンの特徴や産地、名前の意味、人気の理由、価値、お手入れ方法などを調べてみました!
目次
スフェーンとは?
カルシウムとチタンを含有する珪酸塩鉱物であるスフェーン。
ダイヤモンドにも負けない強いファイアを放つことが大きな特徴です。
鉱物としての基本情報
英名 | Sphene(スフェーン) |
和名 | 楔石(くさびいし)、チタン石 |
鉱物名 | スフェーン、チタナイト |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 単斜晶系 |
化学組成 | CaTiSiO5 |
モース硬度 | 5 – 5.5 |
比重 | 3.45 – 3.60 |
屈折率 | 1.84 - 2.11 |
光沢 | ガラス光沢~油脂光沢 |
特徴
強いファイアが魅力的なスフェーンですが、見る角度によって異なる色に見える、多色性が強いことでも知られています。
光の中で角度を変えると、ファイアと多色性が同時に見える瞬間があり、何とも魅惑的な印象を与えます。
結晶は、透明~半透明、市場で多く見かけるのはイエロー~グリーンとオレンジ~褐色の色合いのものです。
複屈折も大きいため、ダブリングと呼ばれる現象が見られるのも特徴の一つです。
ダブリングとは、文字が書かれたものの上に置いた時に下の文字が二重に見えたり、ファセット稜線が二重に見える現象を指します。
スフェーンを写真に撮った時、ブレたように見えるのもこのダブリングが原因です。
モース硬度が5 – 5.5と比較的低い上に、特定方向からの衝撃に弱い劈開が2方向に明瞭にあります。
加工がしにくいことからジュエリーとして出回るものより、ファセットカットが施されたルース(裸石)の状態で出回るものの方が多い宝石です。
色
イエロー~グリーンやオレンジ~褐色系の印象が強いスフェーンですが、他にもグレー、レッド、ピンクなど様々な色合いをもちます。
前述したとおり、強い多色性をもつことも特徴の一つで、中には褐色やイエローグリーン、イエローなどの3色が見られるものもあります。
イエローや褐色味を帯びたグリーンのスフェーンは、少量の鉄を含むことで発色すると考えられています。
色によって含まれる微量元素は異なり、様々な色を発色します。
マンガンを含むレッドのものはグリーノバイト(Greenovite)、イットリウムやセリウムなどを含有することでピンク色に発色するものはカイルハウアイト(Keilhauite)と呼ばれます。
また、異なるグリーンを呈する、クロムスフェーンとバナジウムスフェーンというものもあります。
この2つについては違いも含め、後ほど詳しくご説明しますね。
産地
産地は比較的多いですが、宝石品質のものが見つかることは少ないといわれています。
宝石品質のものが産出されるといわれるのは、マダガスカル、メキシコ、パキスタン、ロシア、ミャンマーなどが主です。
他にもオーストリア、カナダ、イタリア、スイス、ノルウェー、ドイツ、ブラジル、アメリカ合衆国、インド、アフガニスタンなどで産出され、日本で見つかることもあるそうです。
原石の形
スフェーンは、シリカを豊富に含む火成岩やペグマタイト、変成岩である大理石や片麻岩、片岩中に副成分鉱物として生成すると考えられています。
結晶は単斜晶系でくさび形をしているのが特徴です。
中には、塊状や柱状、薄板状の集合体で見つかるものもあるといいます。
多くの結晶が、くさび形の平らな面に平行した双晶を見せます。
一般的に、インクルージョンを多く含んでいるといわれ、断口は貝殻状、明瞭な劈開があります。
処理について
スフェーンの色は加熱処理によってレッドやオレンジに変化させることも可能だという報告もあるようですが、今のところ何らかの処理が施されたものは市場に多く出回っていない様子です。
名前の意味
前述のとおり、スフェーンの結晶は特徴的なくさび形をしています。
このことから、ギリシャ語でくさびという意味をもつ「Sphenos」という言葉に由来して、Spheneと名付けられたといわれています。
チタナイト(Titanite)と呼ばれることもあります。
このチタナイトとスフェーン、鉱物名をチタナイト、宝石名をスフェーンと呼び分けられることもあるようですが、鑑別書の鉱物名の欄にスフェーンと記載されることもありますので、年々明確な違いはなくなっているのかもしれません。
チタナイトの名前の由来は、チタンを含有することからといわれています。
和名は「くさび石」、「チタン石」です。
スフェーンが人気の理由
冒頭にて、スフェーンはコレクターを中心に人気が高い宝石とお伝えしました。
どんなところがコレクター心をくすぐるのでしょうか。
スフェーンが人気な理由を推測してみました!
あくまでも推測ではありますが、良かったらご参考下さい☆
ダイヤモンドより強いファイア
スフェーン最大の魅力は、なんといってもその豪華な輝きではないかと思います。
特に色の濃いものはエネルギッシュな煌めきを放ち、圧巻の美しさがあります。
これは、スフェーンがダイヤモンド(0.044)よりも高い光の分散率(0.051)をもつためで、ファセットカットが施されたスフェーンを光で照らしてみると、眩しいほどに強いファイア(分散光)を発します。
ブリリアントカットなどファセット面の多いカットを施す程、美しいファイアを確認することができます。
ファセット面から光を分散することで、ダイヤモンドにも負けない強い輝きを見せるのです。
多色性
前述したとおり、スフェーンはその強い多色性のため、1石の中にイエロー、イエローグリーン、褐色などの3色が見えることもあります。
ただしスフェーンはファイアも強いため、そのまま見ても多色性を確認するのが難しい場合があります。
その場合は光の当て方を変えたり、光の中で結晶をコロコロと動かして角度を変えてみましょう。
そうすることで、ファイアと色の移り変わりの両方を楽しむことができますよ。
クロムスフェーンとバナジウムスフェーン
スフェーンの中には、グリーンを呈するものもあります。
スフェーンのグリーンは主にバナジウムを含有することからと考えられていますが、稀にクロムを多く含むことで鮮やかで濃いグリーンを呈するものもあります。
そのため、バナジウムを多く含むものをバナジウムスフェーン、クロムを多く含むものをクロムスフェーンと呼んで分類されています。
両者ともにグリーンですが、具体的にはどう違うのでしょうか。簡単にご紹介しましょう。
バナジウムスフェーン
グリーンを呈するスフェーンの多くは、バナジウムを含むバナジウムスフェーンであるといわれています。
明るいイエローグリーンのものが多いといいます。
中には微量のクロムを含有し、暗めのグリーンを発色するものもあるようです。
クロムスフェーン
クロムを多く含むことでグリーンを発色するといわれるのがクロムスフェーンです。
主に深くて鮮やかなグリーンを発色すると考えられ、バナジウムスフェーンよりも価値高く扱われます。
特にメキシコのバハ・カリフォルニアで産するクロムスフェーンは高品質のエメラルドに似た色をしているものが多いといわれ、高い評価を得ています。
クロムスフェーンは他にも、ロシアやインド、ブラジルなどでも発見されています。
一般的には、お話したとおり、バナジウムスフェーンは明るいイエローグリーン、クロムスフェーンは深くて鮮やかなグリーンのものが多いといわれていますが、中にはよく似た色合いのものもあり、見た目だけで区別することは難しいとされています。
バナジウムスフェーンかクロムスフェーンかを明確に知るためには鑑別機関で専門の機材を使って調べてみないと分からないようです。
スフェーンの偽物について
宝石の偽物は、合成石や模造石、他の宝石を偽ったものなど色々ありますが、現在のところ、スフェーンの偽物を見かけたことはあまりないという印象です。
ただし、販売側が意図せずにガラスなどが混在してしまう可能性はあるそうですので、念のため注意するようにしてくださいね。
ファイアの強いキュービックジルコニアや、色の似ているジルコンなどと間違われることもあるそうです。
海外では地質学や顔料、放射線廃棄物などの研究目的で、スフェーンの合成石を製造したと報告されています。
ただ、これらがジュエリーとして出回っている様子は今のところないとのことです。
スフェーンの市場価格と価値基準
スフェーンを購入する前に、価値基準や市場価格などをある程度把握しておくと、選ぶ時の指針になると思います。
色や透明感、カットを評価する基準から相場、どこで入手できるのかなどを以下でお伝えしていきます。
価値基準
スフェーンは、他の色石同様、色が濃いほど価値が高くなります。
クロムスフェーンなど濃いグリーンのものはより高い価値をつけられます。
イエロー、オレンジ、グリーンを呈するトーンの明るいものも人気があります。
ファイアの強さや美しさ、透明度の高さも評価の対象です。
カラット数も大きいほど価値が上がり、特に5カラット以上のものは希少なため、高い値が付けられるといいます。
市場価格
スフェーンはクオリティや大きさによっては、数千円~入手することが可能です。
1ctを超えると価格は数万円以上になり、さらに高品質でカラット数が大きいものは数十万円を超える場合もあります。
どこで買える?
ルースの取扱いが多いお店であれば、比較的取り扱っているところは多い印象です。
実店舗やオンラインショップのほか、ミネラルショーなどの展示会で見かけることもあります。
ジュエリー加工したものも増えている気がします。
ルースを主に販売しているお店でセミオーダーやフルオーダーを受けてくれるところもありますので、自分好みのルースを購入して、オリジナルで製作することも可能だと思います。
ご興味のある方は色々探してみて下さいね☆
スフェーンのお手入れ方法
スフェーンはモース硬度が低い上に脆い性質をもつため、強い衝撃を与えるとキズが付いたり、最悪の場合割れたりする可能性があります。
特にリングなどで身につける場合は、ぶつけたり落としたりしないように十分に注意が必要です。
着用する際は、お化粧や香水、ヘアスプレーなどを全てつけ終わった後にした方が安心です。
高温や汗、酸などにも弱いため、高温になりやすい場所に放置することは避け、スポーツをする際など汗をかきやすい状況では外した方が良いと思います。
日常的なクリーニングは柔らかい布で拭き取るだけで充分ですが、汚れが目立ってきたら中性洗剤を溶かしたぬるま湯に入れ、柔らかい歯ブラシなどで優しく洗います。
泡をキレイに流したら柔らかい布でしっかりと水分を拭き取りましょう。
超音波洗浄機などに入れると破損するおそれがあるので、絶対に避けるようにしてくださいね。
保管する場合には、個別の袋や箱に入れて直射日光と湿気を避けた場所に置くことをオススメします。
最後に
眩しい輝きを放つスフェーンは見ているだけで元気が出る、そんな魅力もあるように思います。
色やカットの違いで、ファイアの出方や多色性なども変わってくると思いますので、色々揃えてみても楽しいかもしれませんね。
太陽の中で輝く姿も格別で、とても美しい宝石スフェーン。
もしどこかで出会うことがあれば、その美しいファイアをぜひ楽しんでみて下さいね☆
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『パワーストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか