みなさんは、「ローズカットダイヤモンド」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?
「薔薇(バラ)の形をしたダイヤモンド・・?」
そうです。
ローズカットは、「薔薇のつぼみ」を思わせる形状からその名が付いたといわれるカット方法です。
アンティークジュエリーなどでもよく見かけるカットですね。
今回はローズカットについて、他のカットとの違い、歴史、ローズカットダイヤモンドならではの魅力など、分かりやすくご紹介していきたいと思います!
目次
ローズカットはどんなカット?
冒頭でお話したように、ローズカットは「薔薇のつぼみ」を思わせるような形状をしているカットです。
ダイヤモンドカットの代名詞ともいえる、ラウンドブリリアントカットなどとは異なり、ある種独特な形をしています。
ラウンドブリリアントカットを始めとする多くのカットは、下の図のようにガードルの上にクラウン、下にパビリオンと呼ばれる部分があります。
しかしローズカットはこのようなクラウンとパビリオンという構造ではなく、クラウンのみで構成されています。
そのため、パビリオンの先にあるキューレットもありません。
違いを見やすくするために二つを写真で並べてみましょう。左がラウンドブリリアントカット、右がローズカットです。
お分かり頂けますでしょうか。
ローズカットは、底は平ら、上はドーム状の形をしているのです。
ドーム状の高さは様々です。
こちらの画像をご覧ください。
一つ一つの面(ファセット)が三角形をしていますね!
この三角形のファセットで構成されていることも、ローズカットの大きな特徴です。
三角形のファセットが、光を反射してダイヤモンドや宝石を輝かせるのです。
ダイヤモンドのカットと種類
ダイヤモンドのカット全体についても少しお話しましょう。よくご存知という方は飛ばしてくださいね。
ダイヤモンドは採掘された時点では、「原石」と呼ばれる状態です。
ダイヤモンドの原石というと、まだ表には出ていないがたぐい稀なる才能や美しさを秘めた人物を指す言葉として使われることもありますよね。
実際のダイヤモンドの原石も、そのままではそれほど美しく輝きません。
カットを施すことにより、その秘めた輝きやきらめきなどを最大限に引き出すことができるのです。
ダイヤモンドの輝きは3つの要素:ブリリアンス【輝き】、シンチレーション【鏡面反射】、ディスパーション【光の分散】から成り立ちます。
この3要素をバランスよく、上手に引き出すカットを施せるかどうかで輝き方が変わってくるのです。
またカットされたファセット一つ一つの角度によっても、輝きは大きく変わります。
どんなに品質が高いダイヤモンドでも、カットが下手だったり適した形に施されないと、輝きも美しさも十分に現れず、宝石としての価値を下げてしまう可能性さえあります。
それ程、ダイヤモンドの輝きと美しさを引き出すためにカットはとても重要なのです。
カットの種類
ここで簡単にダイヤモンドのカットの種類についてもご説明しましょう。
ダイヤモンドのカットの種類は、大きく分けると、ブリリアントカット、ステップカット、ミックスドカットとその他のカットの4つに分類されます。
どの形にカットするかを決めるには原石の形状なども関係するといいます。
希少な宝石ですから、なるべくカラット(重さ)を損なわないようにカットすることが前提にあります。
できる限り目減りが生じないよう、原石の形を考慮したカットが選ばれることが多いという訳ですね。
ブリリアントカット
先程ご説明したように、ガードルの上にクラウン、下にパビリオンと呼ばれる部分で構成されています。
ブリリアントカットの中に入った光は中で反射して外に出ることから、外側に強く輝いて見えるといわれています。
ダイヤモンドのカットとして、最もポピュラーなラウンドブリリアントカットを筆頭に、
マーキース、ペアーシェイプ、ハートシェイプ、オーバル、プリンセスカットなどがブリリアントカットの代表格といえます。
ステップカット
ステップカットもガードルがあり、上にクラウン、下にパビリオンという構成です。
ブリリアントカットと違うのはガードルと平行になる様に階段状にファセットが並んでいることです。
ブリリアントカットが光の反射で生まれる輝きを楽しむカットとするならば、ステップカットは透明感を楽しむカットといえるような気がします。
ステップカットのステップは、日本語で段という意味です。
エメラルドカット、スクエアカット、バゲットカットなどが代表的なスクエアカットです。
画像のように盾(たて)の様なものや、台形のステップカットもあります。
ミックスドカット
ミックスドカットは、ブリリアントカットとステップカットを組み合わせたカットで、クラウンとパビリオンで異なるカットが施されているものを指します。
例えば、クラウン側がブリリアントカット、パビリオン側がステップカットになっているような感じです。その逆もあります。
その他のカット
ブリリアントカットやステップカットの様なクラウン+パビリオンという構造ではないカットです。
ローズカットやドロップ形の「ブリオレットカット」などがココに分類されます。
近年のカット技術の進展によってレーザーでダイヤモンドに穴を開けることが可能になり、ブリオレットカットのダイヤモンドは穴を開けワイヤーやチェーンを直接通したデザインのジュエリーを作ることも可能になりました。
カットの形で楽しみ方が変わるのも宝石の楽しみ方の一つだと思います。
ローズカットの魅力とデメリット
現在のモダンブリリアントカット、とりわけラウンドブリリアンカットは、ダイヤモンドのもつ輝きを最大限に引き出せるよう屈折率や反射が計算しつくされたカットです。
「キラキラとした輝き」では、ローズカットはラウンドブリリアントカットに負けてしまいます。
しかしローズカットダイヤモンドにしかない、独特の魅力もあります。
ローズカットの魅力
ローズカットはラウンドブリリアントカットのように、虹色に輝くファイアを放つことはありませんが、朝露を頂いた薔薇の蕾のような、みずみずしく清らかな輝きをもっているように思います。
例えば、穏やかに流れる川の水面に太陽の光が当たってキラキラと光っているような風景は思い浮かぶでしょうか。
ローズカットにはそんな穏やかで心休まるような煌めきを感じます。
かつて、ヨーロッパの貴族たちがロウソクの揺れる火に照らされるローズカットダイヤモンドの輝きを楽しんだように、たまには、ロウソクや白熱灯のオレンジ色の光の中でローズカットを見てみるのも違った趣が楽しめるかもしれません。
内に秘めた美しさを感じさせつつも控えめで可憐、そしてどことなく清楚な印象を与えるローズカット。
それがローズカットの一番の魅力ではないかと思います。
デメリット
ローズカットには残念ながらデメリットもあります。
一つは、「底から光が抜けてしまう」ために、輝きが最大限に活かされないことです。
これを補うために、多くのローズカットダイヤモンドの底にはホイル(箔)がはられていました。
底から出て行こうとする光を、ホイルで反射させて輝きを増すという細工ですね。
もう一つは、ファセット面が少ないため反射が少なく、ダイヤモンドに含まれるインクルージョン(内包物)や色が目立ちやすいということです。
つまり、ラウンドブリリアントカットは、ファセットが58面に付いていることで、反射によってインクルージョンが目立ちにくくなるというメリットがあります。
その点、光を取り込めないローズカットダイヤモンドはごまかしがききにくいということになるのです。
しかし、逆に言えば、ローズカットが施されるダイヤモンドは、目立ったインクルージョンのない、透明度の高いものが多いともいえるかもしれません。
ローズカットの歴史
ダイヤモンドをカットする技術は一朝一夕にできたものではなく、長い歴史の中で試行錯誤の末進化してきました。
ご存じの方も多いと思いますが、ダイヤモンドは地球上で一番硬い宝石といわれています。
硬度の高いダイヤモンドを研磨すること自体、初めは難しかったかもしれません。
恐らく多くの研磨職人達を大いに悩ませ、うならせてきたのではないでしょうか。
ローズカットダイヤモンドもまた、そんな試行錯誤の繰り返しだった宝石加工技術の歴史の中で生み出されました。
ローズカットの誕生
1500年代にローズカットは生み出されたといわれています。
ダイヤモンドのシンチレーション(鏡面反射)を活かすカットとして生まれたのだとか。
ダイヤモンドの原石は八面体やマクルと呼ばれる平らな結晶体の形で採掘されることが多いといいます。
ローズカットダイヤモンドはその特徴からマクルの平たい形から加工されることも多いと聞きます。
画像:左-マクル 右-八面体
三角形のファセットが12個の12面から、16面、24面、32面と数が増えるほど、ダイヤモンドの輝きも増します。
まるで水面を思い起こさせる、みずみずしい表面・・
ローズカットが生まれた時代、照明は電気ではなくロウソクでした。
揺らめくロウソクの炎に照らし出されるローズカットダイヤモンドは、当時主流だった他のカットにはない輝きを生み出し、当時の人々を魅了しました。
そうして貴族たちを中心に人気を博したローズカットダイヤモンドは、社交界で長く愛でられることになったといわれています。
またローズカットは、ダイヤモンドだけでなくガーネットなど別の宝石に施されることもあったようです。
その後、ローズカットを元にブリリアントカットが考え出されます。
18世紀に生まれたといわれるのが、ブリリアントカットの原型ともいえるオールドマインカットです。(上の画像)
クッションの様な形をしているのがお分かりになるでしょうか。
ダイヤモンドの屈折率や反射をより活かせる形へと大きく進歩したのがこのカットだといわれています。
ダイヤモンドの輝きと煌めきを効率よく発揮させるカットとして、オールドマインカットは画期的な発明でした。
そして19世紀に入り、電灯が発明されたことでさらに時代は大きく移り変わります。
ダイヤモンドのカットも、ロウソクの炎よりも電灯の下でより美しく輝くブリリアントカットが主流になっていったのです。
しかしだからといってローズカットが消えてしまった訳ではありません。
ブリリアントカットの登場後も大きな原石をカットする際に出た端石や、形が適した原石をローズカットにすることはあります。
また、ダイヤモンド以外の宝石に施されることもあり、今でも人気がありますね。
ローズカットダイヤモンドジュエリーの魅力
筆者はかつてニューヨークの47丁目にある宝石研究所で、ダイヤモンド鑑定士として働いていました。
研究所近くにはオークションで有名な、サザビーズやクリスティーズがあり、何度か訪れる機会もありました。
そこでは、アンティークジュエリーなども多数展示販売されており、ローズカットダイヤモンドのジュエリーに出会うこともありました。
ローズカットダイヤモンドを見た時、まず感じたこと・・それは「ひかえめで可愛らしく、懐かしい」という印象でした。
クラシックなデザインのジュエリーにローズカットダイヤモンドはとても良く似合うと思います。
どこか懐かしいような・・ノスタルジックな雰囲気は、ローズカットダイヤモンドのジュエリーがもつ、独特の魅力ではないでしょうか。
そんなローズカットダイヤモンドのジュエリーには熱狂的なファンも多く、オークションやアンティーク市場でも人気があり、世界中に沢山のコレクターがいるのではないかと思います。
最後に・・
今回ローズカットダイヤモンドについて色々調べるなかで感じたこと、それは
「ダイヤモンドの秘める輝きをもっと引き出したい・・」
という、先人たちの強い情熱、果てしなき美の追究、試行錯誤や研究の積み重ねといった、途方もない努力の数々が少しですが垣間見えた気がしたことです。
ロウソクではなく電灯の下であっても、その控えめな輝きは十分に魅力を発していると個人的には思います。ローズカットダイヤモンドだからこその魅力もありますよね。
ローズカットダイヤモンドのもつ独特の魅力をお楽しみいただければと思います・・!
カラッツ編集部 監修