明るく澄んだカリブ海の水面を思わせるブルーの宝石ラリマー。
琥珀(アンバー)やコンクパールと共に、カリブ海の三大宝石の一つとしても知られています。
ラリマーの表面に浮かぶ模様を眺めていると、さざ波の音が聞こえてくるよう。
そんな南国の海を切り取ったようなラリマーですが、希少性や人気の高さからか偽物も多く出回っているといいます。
ラリマーの偽物とはどんなもので、 見分け方はあるのでしょうか。とても気になります!
ラリマーの歴史や価値、そして偽物の種類や見分け方などについてお話しましょう。
目次
ラリマーとは?
ラリマーは、明るいブルーの地色に、白い波のような模様を呈している宝石です。
鉱物名はペクトライト。ブルー~ブルーグリーンのペクトライトの中で白い模様を見せるものが主にラリマーと呼ばれています。
ペクトライトの多くは白色ですが、淡いイエローや褐色、ブルー~グリーン、ごく稀にピンクのものが見つかることもあるといいます。
ピンクを発色するものはマンガンの影響と考えられているそうですよ。
かつてペクトライトは、宝石品質のものが少なく、鉱物としてあまり目立っていなかったようですが、ドミニカ共和国で傑出して美しいブルーペクトライト(ラリマー)が見つかったことで注目されるようになったといわれています。
鉱物としての基本情報
英名 | Pectolite(ペクトライト) Larimar(ラリマー)※別名 |
和名 | ソーダ珪灰石(そーだけいかいせき) |
鉱物名 | ペクトライト |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 三斜晶系 |
化学組成 | NaCa2Si3O8(OH) |
モース硬度 | 4.5 – 5 |
比重 | 2.74 – 2.90 |
屈折率 | 1.59 – 1.64 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
ラリマーの大きな特徴としては、何と言っても鮮やかで明るいブルーの色と白い模様でしょう。
この独特なブルーの色合いは、微量の銅の作用によるもの。
ペクトライトに銅が入り込むこと自体、とても珍しいそうですよ。
ラリマーは母岩の空洞を埋めるような形で結晶することが多く、原石の状態で白い部分が生じます。
母岩の中でブドウ状の粒が形成され、それが段々大きくなって母岩の空洞を満たしていくのだとか。
それをカットすると、特徴的な白い波のような模様が現れ、まるで明るい南国の海をさざ波ごと切り取ったかのような宝石になるのです。
色
ラリマーの色は、バリエーション豊かなブルーです。
明るいターコイズブルー、薄いブルー、深いブルー、ブルーグリーンなど、まさにカリブ海のイメージです。
中にはグリーンに近い色もあります。
実は最初に見つかったものは、かなりグリーン寄りのブルーだったそうで、一般的に知られるラリマーのイメージとは少し異なる感じだったそうですよ。
ブルーのラリマーも希少ですが、グリーンがかったラリマーは更に珍しいのだそう。
ラリマーには、たまにレッドやブラウンなどが混じることもあります。
まるでチョコミントのように見えるルースもあり、それは母岩が混じった状態でカットされたもの、という話を聞いたことがありますよ。
産地
ラリマーの主な産地はカリブ海の島国ドミニカ共和国です。
同じくカリブ海に浮かぶバハマ諸島でも採れるらしいですね。
カリブ海といえば、海や空が美しいことで知られています。
そこで産する宝石がカリブの海や空がそのまま宝石になったような色合いであることに、地球の神秘を感じずにはいられませんよね。
ラリマーが最初に発見されたのは、先に触れた通り、ドミニカ共和国です。それ以来ずっとラリマーの主要産出国であり続けています。
ドミニカ共和国はカリブ海に浮かぶ島の中で2番目に大きいイスパニョーラ島の3分の2を占める国です。ちなみに残り3分の1はハイチ共和国です。
チェコなどでもブルーのペクトライトが採れるそうですが、ドミニカ産のような美しいものは少ないのだそうですよ。
ペクトライト自体は、イギリス、アメリカ、カナダなど世界の広い地域で見つかっています。日本でも見つかったことがあるといいます。
原石の形
ペクトライトの結晶は三斜晶系です。結晶軸が3本で、どれも長さが異なるのだそう。
ペクトライトは、玄武岩の気孔や空洞の中で形成されています。
自然結晶は長い板状とのことですが、多くの場合針状結晶体が放射状に集合したり、ブドウ状になったりしているそう。
細い針状結晶体が緻密に集合しているラリマーの場合、カボションカットを施すとキャッツアイ効果が現れることがあります。少しボーっとした光の筋が青いボディに浮かぶのだとか。
また、ペクトライトは完全な劈開の性質があるので、原石もスパッと綺麗に割ることができます。
その断面はガラス光沢をもちます。
グレーの母岩と水色のラリマーのコントラストがとても麗しく、目を惹きますよ。
名前の意味
ラリマーという名前は、最初に発見されたドミニカ共和国パオル村の住民であり、宝石商でもあったミゲル・メンデスによって名付けられたといわれています。
彼はドミニカ共和国で採れたブルーペクトライトに、自分の娘の愛称である「Lari(ラリ)」と、スペイン語で海という意味の「mar(マール)」を組み合わせて「Larimar(ラリマー)」と名付けました。
ラリマーは元々商品名として名付けられたもので、現在も鑑別書の宝石名はペクトライト(またはブルーペクトライト)で、備考欄に「別名、ラリマーと呼ばれています」などと記載されることが多いようです。
当初は、ドミニカ共和国で採れたものだけをラリマーと呼んでいたそうですが、ラリマーは産地特定ができないこともあり、現在は産地に関わらず、白い模様のあるブルーペクトライトは全てラリマーと呼ばれています。
ラリマーの他に「ステフィラ(Stefilla)の石」「ドルフィン(イルカ)の石」「アトランティスの石」という呼び名もあるそうです。
ちなみに、ペクトライトの語源はギリシャ語の「pektos」で、「凝結した」「よく接着した」「固結した」という意味なのだそう。
微細な針状結晶が放射状に集合し、緻密な塊のような鉱物であることから、そう名付けられたといわれています。
ラリマーの歴史
ラリマーの歴史は1916年、ドミニカ共和国のバラホナ州教区の神父が発見したことから始まったと伝わります。
神父は採掘許可を申請しましたが、当時はペクトライトという鉱物があまり知られていなかったこともあってか、却下されてしまったそう。
次にラリマーが注目されたのは1974年になってから。
ラリマーの名付け親である宝石商ミゲル・メンデスと北米のボランティア団体が、バラホナ州の沿海からつながる海岸で再発見した、とか、地質学者ノーマン・ライリングが南部のパオル村でいくつかのブルーペクトライトを再発見した、などの説があります。
そして1985年、アメリカの宝石商が「カリブ海の宝石」として売り出したことから大きく注目を浴び、人気が高まったといわれています。
ラリマーが見つかった場所
ラリマーが見つかった場所は、沿岸の沖積層だったそうです。沖積層とは、氷河期以降に堆積したもので、最も新しい地層なのだとか。
調査の結果、ラリマーはバオルコ川の上流から海に流れ着いたということが判明しました。
川の上流にある地域の地層を調査するとラリマーの鉱脈が見つかり、ロス・ツパデリョス鉱山での採掘がスタートすることとなりました。
宝石商ミゲル・メンデスと鉱山がある土地の一部を所有するルイス・ヴェガが採掘会社を設立し、商標名をラリマールとしたのだそう。
現在は、ラリマーの採掘権はドミニカ共和国政府の管轄下にあり、メンデスとヴェガの会社は販売には関わっていないそうです。
その後ラリマーはドミニカ共和国の国石にも指定されるほど、国を代表する宝石となったのです。
ラリマーの偽物
ラリマーは偽物が多く出回っていることでも知られています。
産地が限られており、希少性が高い上に人気があるためかもしれません。
ラリマーの偽物として見かけるものは、大まかに
●ガラス ●プラスチック ●別の鉱物を染色したもの ●全く違う宝石 |
などが挙げられます。
分かりやすいものから、本物そっくりでプロの業者も騙されてしまうものまで、実に様々な偽物が存在しています。
では、もう少し掘り下げて見てみましょう。
プラスチック
ラリマーの偽物として、染色したプラスチックというものがあります。
天然ラリマーに似せて白い波模様まで再現されているそうですよ。
ただ、プラスチックと本物の鉱物を見分ける方法はあるといいます。後ほどまとめてご紹介しますね。
ヘミモルファイト
高品質のラリマーと見た目がそっくりな、ヘミモルファイトという宝石が上質なラリマーとして売られていることもあると聞きます。
ヘミモルファイトの主な特徴は下記の通りです。
●モース硬度5 ●ガラス光沢 ●二方向に割れる「劈開」の性質 ●表面にラリマーと同じような模様を見せる |
ラリマーとヘミモルファイトは、性質的に似ている部分が多く、表面にラリマーに似た白い模様を見せるブルーのヘミモルファイトがラリマーの偽物として出回っているということです。
ただ、驚くことに、市場価値はヘミモルファイトの方が高いそうですよ!
ラリマーより高いものをわざわざ偽物として売るなんて、とても矛盾していますよね。
しかもヘミモルファイトは原石の状態で流通していることが多く、ルースが市場に出回ること自体珍しいとか。
高品質のラリマーだと思って購入したらより希少なヘミモルファイトだった、なんてことが実際に起きているようです。
考え方次第の部分もありますが、ラリマーが欲しいのに知らずに他の宝石を購入してしまったら、結果的にもし得をしたとしても、やはりちょっと複雑な気持ちになるのは確かでしょう。
セラミック材料で作られたもの
米国のGIAサイトでこんなレポートを発見しました。
セラミック材料で作られたラリマーの偽物がインドで売られていた、というのです。
それを売っていた人によると、中国で作られた物だとのこと。
セラミック材料のラリマーを顕微鏡で調べると、白いガス泡と小さな青い斑点が見られたそうです。
そして、本物と比べると屈折率がかなり低かったそうですよ。
その他の模造石
ラリマーの模造石は他にもあります。
ガラスのほか、アラゴナイトやクォーツを青く染色したものなども多いようです。
アラゴナイトは一般的に、イエローや褐色のものが多い印象でしたが、色々調べてみたところ、ラリマーにそっくりなブルーアラゴナイトも多数ヒットしました。
ラリマー同様に微量の銅の作用で青く発色しているブルーアラゴナイトもあるようですが、染色したものも多く出回っているといいます。
クォーツもブルーを始め、様々な色に染色されているものが流通しています。
染色したことが明記されているものもありましたが、明記されていないケースもあり、中には、ラリマーなど他の宝石として販売されていることもあるそうですので注意しましょう。
ラリマーの偽物の見分け方
ラリマーの偽物を見分けるには、どのような方法があるのでしょうか。
巧妙に作られたものはプロの業者でも判別するのが難しい状態なのだそう。
知らずに模造品を仕入れてしまうケースもあるそうですよ。
最終的には鑑別機関できちんと調べてもらった方が確実ですが、私たちにもできる判別方法もあるそうです。簡単にご紹介しましょう。
見た目による判別
はずは見た目による判別方法です。
本物のラリマーは不透明な宝石です。石を太陽などにかざした時、光線が石を通過しないものが多いです。(光の強さや個体によっては、青色部分が光を通す場合もあります。)
また、ラリマーには特徴的な白い模様が不規則に現れていますが、あまりに規則的に整った模様であれば、偽物を疑っても良いかもしれません。
触感による判断
次に触って判断する方法を見てみましょう。
鉱物は触れると冷たく感じるのに対し、プラスチックやガラスなどは触れると温かく感じます。つまり、触感の違いですね。
ただこれは、鉱物を触り慣れていたり、触り比べたことがないと、分かりづらい部分もあると思います。慣れていない方は参考程度に覚えておいて下さいね。
ラリマーの価値基準と市場価格
どのようなラリマーに高い価値が認められているのでしょうか。
ラリマーの価値基準や市場価格、買える場所などもご紹介しましょう。
価値基準
品質の高いラリマーとは、地色が濃く鮮やかで透明度があること。
そして白い模様がハッキリしていること。
ヒビが入っていることが多いので、ヒビが少ないものも品質が高いと評価されるようです。
ラリマーの色合いは様々ですが、グリーンがかったものよりは、海のようなブルーや明るいターコイズブルーのものの方が高い価値が認められる傾向にあります。
市場価格
ラリマーはクォリティやサイズによって価格の幅があります。
ルースの色がグリーンがかっていたり暗いブルーのもの、白い模様がはっきりしないものなどは、1万円以下で探すことが可能でしょう。
明るいブルーで、模様がバランス良く入っており、かつサイズの大きい高品質のものは数十万円以上するものもあるそうですよ。
ジュエリーにセットされたラリマーは、地金の種類や重さにもよりますが、数万円から数十万円の価格になるでしょう。
どこで買える?
ラリマーはどこで買えるのでしょうか。
パワーストーンとして人気が高いためか、取り扱っているお店は多いようです。
実店舗でもオンラインショップでもよく見かける気がします。
アクセサリーもバリエーション豊かに出回っていて、心惹かれてしまいます。
但し、先程お伝えしたように、ラリマーには偽物が多いという現状がありますので、注意が必要です。
ラリマーのお手入れ方法
ラリマーは硬度が4.5~5と低い上に、劈開性があり、衝撃を与えるとヒビが入ったり割れたりする恐れがあります。
産地であるドミニカ共和国をはじめカリブの国々でお土産品として人気で、ジュエリー加工されて売られることも多いようですが、取り扱いには注意が必要です。
保管の際も他の宝石とぶつかることでキズが付く恐れもありますので、気を付けてください。
日常的なお手入れとしては、柔らかい布で優しく拭き取るだけで充分です。
汚れが目立ってきたら、温めの石鹸水で優しく洗って下さい。
洗浄機を使うことはやめましょう。
最後に
カリブ海の宝石ラリマーについて紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
思わず自分の娘の名前を付けてしまうほど、魅力的な宝石であることがわかりました。
ラリマーはとても人気が高く需要があるためか、偽物が多く出回っている現状がありましたね。
宝石業者さえ騙されてしまうものがあることに、驚きました。
偽物の見分け方として見た目や触感による判別方法を紹介しましたが、やはり確実なのは専門の機関に判別してもらうことです。
私もいつか、カリブ海の明るい海のような本物のラリマーを手にしたいな、と思っています。
素敵なラリマーに出会えますように!
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか
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◆https://www.gia.edu/