『宝石の裏側』の著者、内藤幹弘氏は「現在販売されている宝石の9割は整形美人」というショックな言葉を著書内でつづられています。
「整形美人は言い過ぎだろ(怒)」とつい感情的に反応してしまうのは、もしかしたら女性の私のサガなのかもしれません。
あくまで私の感覚ですが、宝石における処理というのはいわば「お化粧」のようなもの。
確かにノーメイクのナチュラル美人を求める気持ちは分からないでもないですが、石だって自然から生まれたのだからお化粧の一つや二つしたって良いじゃないかと思います。
大切なことはバランス感。
その宝石にどんな処理がされているかを事前にきちんと知ることができ、価値も含め全てを納得した上で購入できるかどうかです。
そんな人々の心をもてあそぶ、宝石の「処理」について知っておきましょう。
目次
「天然?」「天然じゃない?」宝石に施される人的処理に対する考え方
まず、誤解してほしくないのは処理がされているからといって、天然石でなくなるわけではないということ。
ましてや処理石=偽物なんかではありません。
そもそも、「天然石」とは「自然によって形成された石」ということを指します。
よって「天然石ではない石」とは人の手によって作られた石、すなわち人工石(人造石)、合成石などを指し、人間で例えると「ロボット」や「アンドロイド」「クローン」といった世界です。
分かりやすいところで言うと、キュービックジルコニアなどですね。
宝石の「処理」というのは天然か天然じゃないかとは全く関係がないのです。
宝石の処理には大きく分けると2種類ある
宝石に施される処理には、「買う際に注意が必要なもの」と「そうではないもの」の2つに大きく区分できると思います。
処理はお化粧のようなものと先ほど書きましたが、中には宝石としての価値が著しく下がり価値がほぼゼロに近くなるケースもあります。
これは明らかに前者の「注意が必要な処理」と言えます。
一方で、例えば鑑別書やソーティングで「通常、○○が行われています」と記載される場合があります。
これは読んで字のごとく「一般的にこういう処理が行われていますよ」という意味なので、「その処理が理由で価値が落ちることはない」とも読み替えられます。
これは専門的な検査を行えなかったり、「検出限界」という「科学的には処理の有無を確認できない」時に書かれる用語です。
あまり細かいことは知らなくても多分大丈夫で、「通常〜」と書いてあればそんなに気にせず大丈夫、というのが石を買う側にとっては一番のポイントだと個人的には思います。
私もいつもそうやって買っています。
宝石の処理一覧
同じ処理であっても、石によって価値に影響があるかないかは異なります。
つまり一概に「この処理はダメ!」ということは言えないのです。
なので代表的な処理についてご紹介しながら、対象となる宝石についてもまとめてみましたので良かったら参考にしてください。
加熱処理
加熱処理は処理の中でも最も歴史が古くメジャーなものです。
宝石には地熱の影響で生み出されたものが多く、その自然環境を人工的に再現しようという狙いから始まりました。
加熱処理が行われる代表的な宝石は下記の通りです。
- サファイア
- ルビー
- タンザナイト
- アクアマリン
- シトリン
- ジルコン
- パライバトルマリン
- ブルートルマリン
- グリーントルマリン
- ピンクトパーズ
- ブラウントパーズ
例えば、コランダム(サファイア、ルビー)の場合、95%を超えるものが加熱処理を施されているといわれています。
つまり、ほとんど全てが加熱処理をされているということなので、加熱だからといって価値が下がることはなく、逆に非加熱は希少なので価値がぐぐっと上がります。
コランダム(サファイア、ルビー)の場合は高温加熱すると痕跡が残ります。
中に含まれる有色元素の酸化チタンが内部拡散を起こし色が濃く変化するためです。
つまりコランダムは「加熱処理かどうかを見分けられる」石といえます。
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一方コランダム(サファイア、ルビー)以外の石、例えばタンザナイトやシトリンには人工的な加熱処理によって生まれる特徴のようなものがないため、科学的な検査でその区別をつけることが難しい石です。
そのためこういった石については先ほどの「通常、加熱が〜」という文言が鑑別書に書かれることになります。
この場合、加熱処理しているかどうかを確かめる術がないので、価値が上がったり下がったりすることはないという訳ですね。
含浸処理
エメラルドやレッドベリルのようにインクルージョンやクラックが宿命とされる宝石には、通常的に含浸処理が行われています。
例えば、エメラルドの場合、その特徴ともいえるクラックや傷を目立たなくして透明度を上げるために、一般的に透明材(オイルや樹脂)が注入されています。
無処理のエメラルドは10万個に1つ程度しかないといわれるほど希少で、含浸処理が施されていないものの方が少ないため、「含浸処理が原因で価値が下がる」といったことはありません。
ただし、一般的にノンオイルエメラルドと呼ばれる無処理のエメラルドはその希少性の高さから価値が上がり、高値で取引されることも多いです。
鑑別書には「透明剤の含浸が行われています。」「通常、透明剤の含浸が行われています。」という記載が入ります。
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一方、含浸は含浸でも「価値が著しく下がる」含浸処理もあります。
代表的なのが鉛ガラス含浸処理です。
鉛ガラスなどを含浸する処理で、ルビーやサファイアに見られることが多いです。
価値としてはガラスとほぼ同じ、すなわち宝石としての価値は殆どなくなるので覚えておきましょう。
鑑別書やソーティングがもしついていたら、「鉛ガラスの含浸処理が行われています」と明記されています。
石の部分の原価はほぼないと思っても良い程ですので、買うときはかなり注意された方が良いかと思います。
もし含浸処理ルビーであることが明記されていて、価格も含めて全て納得できるものであれば良いですが、説明が分かりにくかったりソーティングや鑑別書の画像が見にくいなど怪しい点がある場合は、事前にお店に確認した方が良いと思います。
ワックス加工
表面のざらつきや光沢感を改善するために、「ワックス加工」という処理を行う場合もあります。
代表的なものは翡翠(ヒスイ)です。
これも通常的に行われているもので石の価値を左右するものではありません。鑑別書やソーティングには「通常、ワックス加工が行われています。」と記載されます。
照射処理
照射処理というのは宝石に放射線を照射する処理のこと。コバルト照射とも呼ばれています。宝石の色を美しく変化させることができます。
照射処理は宝石の種類によってはほぼ全てに行われているケースもあります。この場合は照射処理と書いているからといって価値が下がることはありません。
通常、照射処理が行われている宝石で代表的なものは下記の通りです。
- ピンクトルマリン
- レッドトルマリン
- ブルートパーズ
- モルガナイト
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一方で照射処理によって価値が大きく変わる宝石もあります。それは
- ダイヤモンド
です。
照射処理を施されたダイヤモンドは、大変に鮮やかなブルーやグリーン、レッドなどのカラーダイヤモンドとなります。
これらは「トリートメントダイヤモンド」と鑑別書では明記されます。
上の写真はトリートメントのブルーダイヤモンドですが、もしもこれが未処理のブルーダイヤモンドだったら1ctで10億円くらいになります。
一般的な処理済みのブルーダイヤモンドですと1ctで10万円くらいです。
つまりこの間の比較ですと1万倍の差がありますが、含浸ルビーと違って「価値がゼロになる」ということはありません。
また、「トリートメントダイヤモンド」であることを明記して販売されているものを、きちんと理解した上で購入することは全く問題ありません。
身の丈に合った価格で手に入るトリートメントダイヤモンドを理解した上で購入し、自分なりに楽しめば良いと思います。
ただし、資産価値は低くなりますので、資産としてダイヤモンドを購入したい方は天然未処理のものを選ぶようにしてくださいね。
ベリリウム拡散加熱処理
加熱処理の一種ですが、ベリリウムを表面に拡散する処理です。
有名なのがパパラチアサファイアで、安価な処理で色味を非常に鮮やかにすることができます。
ただし、パパラチアサファイアの場合は、ベリリウム拡散処理が施された場合はパパラチアサファイアとは認められません。
すなわちパパラチアサファイアとしての価値はほぼないと考えて良いでしょう。
「拡散処理のパパラチアサファイアです」と”ベリリウム”の部分を曖昧にして売られることもあるので注意してください。
▼パパラチアサファイアのベリリウム拡散加熱処理についてもっと詳しく知りたい方は
レーザードリル処理
ダイヤモンドの黒いインクルージョンまで穴をあけ、酸で漂白して目立たなくする処理です。
これも未処理のダイヤモンドと比較すると明らかに価値が低くなります。
最後に
本日は処理について書いてみました。
処理が全て問題があり、宝石の価値を下げるものばかりではないこと、お分かり頂けたでしょうか。
一番大切なことは、処理をされているかどうかではなく、その宝石にどんな処理がされているかをきちんと説明してくれる業者から、適正価値も含め全てを納得した上で購入できるかどうかだと思います。
正しい知識を付けて、素敵な宝石を賢く手に入れて下さいね。
カラッツ編集部 監修