エドワーディアン・ジュエリーの特徴とは|デザイン、スタイル、流行など

エドワーディアンジュエリー

1901年にヴィクトリア女王が崩御すると、新国王エドワード7世による新たな時代が始まりました

ヴィクトリア朝は、女王の影響でモーニングジュエリーが流行したり、機械による大量生産による、ジュエリーの大衆化が進んだ時代でした。

時代が変わると、贅沢を愛するエドワード7世と妻アレクサンドラ王妃による華やかなライフスタイルに注目が集まり、高品質の素材と高度な職人技術による繊細で優雅なデザインが求められるようになりました

「カルティエ」がプラチナを用いた繊細なデザインを考案し、ジュエリー界に革命を起こしたのもこの時代です。

エドワーディアンのジュエリーに良く見られるデザインや素材、モチーフなどについてお伝えしていきます

▼アンティークジュエリー全般的なお話はこちらの記事を参考に

アンティークジュエリー

アンティークジュエリーの世界!

※画像は全てイメージです。異なる時代のものが含まれている場合もございます。

エドワーディアンとは

エドワード7世

エドワーディアンとはイギリスで国王エドワード7世が治世した時代を指し、その時代におけるジュエリーやファッション、建築様式などをいいます

エドワード7世の在位期間は1901年から1910年ですが、「エドワーディアン」と呼ばれるスタイルは、1890年頃から1920年頃にかけて作られたものを指すことが多いようです。

ヨーロッパでは19世紀後半から第一次世界大戦が始まるまでをフランス語で「ベル・エポック(良き時代)」と呼びますが、それと大体同じ頃です。

フランスを中心に巻き起こった芸術運動、アール・ヌーヴォーとも時代が重なります

エドワード7世の戴冠式は、世界中の王族や貴族が出席した華やかな式典だったといいます。

即位後もエドワード7世はアレクサンドラ王妃と優雅なライフスタイルを築き上げ、世界各国の上流階級の人々と交流を深めていきました。

この時代、上流階級の人々にとって、ジュエリーは裕福であることを示すステータスシンボルでした

そして宝石商は、顧客のために新たな素材や技法に挑戦しながら、伝統的なモチーフに繊細なラインを取り入れ、可能な限り美しく洗練されたデザインのジュエリーを多く生み出したのです。

エドワーディアン・ジュエリーの特徴

エドワーディアン 社交界

エドワーディアン・ジュエリーは流れるような軽やかなデザインと、高度な職人技術による細部のディテールにこだわった作りが特徴的です

エドワード7世が開く華やかなパーティに出席するため、貴族や上流階級の人々は、豪華なドレスを美しく引き立てるジュエリーを求めるようになります。

彼らは大量生産された安価で低品質のジュエリーに鼻をならし、高級素材と職人の手作業による優美で贅沢なジュエリーを好んで身につけました

ティアラやソートワール(※)といった、目を惹くアイテムに注目が集まり、指輪やブローチなど他のアイテムも、大振りなデザインのものが好まれる傾向にあったといいます。

ジュエリー素材としてのプラチナの台頭により、レースやリボンといった、緻密な加工技術を要するモチーフや、複雑な細工を施したジュエリーなども多く作られました

※先端が腰まで達するような長いネックレスのこと

カルティエの台頭と「ガーランド様式」

カルティエ

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エドワーディアンを代表するジュエラーとして知られるのが、フランスの高級宝飾店「カルティエ」です。

創業者の孫ルイ・カルティエ(1875-1942年)が取り入れた新たな素材とスタイルは、エドワーディアン・ジュエリーに多大な影響を与えました。

エドワード7世がカルティエのことを「王の宝石商、宝石商の王(Jeweller of kings, king of jewellers)」と讃えたというのは、あまりにも有名なお話です。

ルイ・カルティエ

「カルティエ」は、1847年にルイ=フランソワ・カルティエ(1819-1904年)がパリで創業した宝石店です。

その伝統は現代まで続き、世界に名だたる有名ブランドの一つとして、今も不動の人気を誇ります。

カルティエの名をより広く知らしめ、その地位を確固たるものにしたのが、創業者の孫にあたる、ルイ・カルティエです

ルイ・カルティエは、1898年にメゾンの経営に加わると、1904年にはエドワード7世の任命により英国王室御用達ジュエラーとなりました。

薄く細く伸ばしやすいプラチナの性質に注目し、初めてジュエリーに使用したことでも知られます。

18世紀の建築に用いられた透かし細工などの装飾美術や、リボン、レース編みなどをモチーフに、プラチナとダイヤモンドを使って、洗練されたスタイルのジュエリーを次々と完成させました

プラチナ・ジュエリーのパイオニアであり、ルイ・カルティエなくして、エドワーディアンジュエリーは語れないというくらい、重要な人物です。

「ガーランド様式」とは

そのルイ・カルティエが確立したスタイルとして知られるのが、「ガーランド様式」です。

ガーランドとは元々「花輪」や「花冠」を意味する言葉で、現代では一般的に『花や葉っぱなどを紐やワイヤーなどで繋いで作ったオーナメント」のことを指します。

クリスマスリースなどもガーランドの一種ですね。

『花綱模様』や『花綱装飾』とも言い、美術や建築の世界では古代からよく使われている様式です。

これをジュエリーに取り入れ、プラチナの性質を上手く活用し、繊細かつ優美な曲線を見事に再現したスタイルが、後に「ガーランド様式」と呼ばれるようになりました

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ルイ・カルティエによる「プラチナ」と「ガーランド様式」という革新的なアイデアは、当時のジュエリー業界に新旋風を巻き起こしました。革命をもたらしたと言っても過言ではないでしょう。

プラチナにダイヤモンドやパールを施すような、白を基調としたジュエリーが流行することになった、火付け役とも言えます

この流行スタイルは、第一次世界大戦開戦の1914年まで続いたといわれています。

エドワーディアン・ジュエリーの素材

アンティークジュエリー

エドワーディアンは、プラチナを使用した「ガーランド様式」の大流行とともに、「デビアス統合鉱山会社」の創立により、ダイヤモンドの供給・需要が高まった時代でもあります

ダイヤモンドの流通量が増えたことに加え、プラチナとダイヤモンドの相性の良さも手伝って、白を基調としたデザインが流行しました。

特に上流社会で優雅なジュエリーが好まれたことから、ステータスシンボルとなる高級素材の需要が高まりました。

プラチナ

光沢感のある白く美しい輝きを放つプラチナ。

プラチナはしなやかで粘り強い上に、薄く長く伸ばしやすいという性質をもち、いわば、曲線を作りやすい素材といえます。

こうした特性を上手く活用し、レース編みや花、リボンなどの繊細なモチーフの加工を可能にした結果、「ガーランド様式」という大流行を生み出しました。

また、プラチナを使用した“ミルグレイン”という新たな装飾技法が考案されたのもこの時代といわれています。

ミルグレインとは、丸い玉を形成するもので、宝石を囲んだりジュエリーの縁に施されたりします。

日本では主に「ミル打ち」と呼ばれ、現代でも多く取り入れられている技法ですね。

同時にプラチナは、当時女性の間で流行したパステルカラーを引き立てる素材としても好まれました。

プラチナについてもっと詳しく知りたい方は

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ダイヤモンド

1888年に「De Beers Consolidated Mines Limited(デビアス統合鉱山会社)」が創立したことでダイヤモンドの流通量が増えました。

ダイヤモンドが以前よりも手頃な価格で入手できるようになり、ジュエリーにも多く用いられるようになりました。

ダイヤモンドのカット技術も向上し、さまざまな種類のカットが誕生。

ひとつのジュエリーに異なるカットのダイヤモンドがセッティングされることも一般的になり、より深くダイヤモンドの輝きを楽しめるようになりました。

パール

この時代において、パールはダイヤモンドよりも高い価値がある宝石でした。

パールをつけることはステータスシンボルであり、大きさや品質の良さも必須条件とされていたそうです。

当時流行した白を基調とするデザインに最適であり、多くのジュエリーではパールがダイヤモンドとともにセッティングされています。

ペースト

ペーストは鉛ガラスをカットしたもので、ダイヤモンドや宝石の代用品として親しまれました。

本物のダイヤモンドよりも入手しやすい価格であったため、特に中流階級の人々が好んで身につけていたようです。

安価でありながら、しっかりとした加工技術により、欠けたり壊れたりしにくかったこともペーストが人気だった理由かもしれないそうです。

エドワーディアン・ジュエリーに流行したアイテムとスタイル

エドワーディアン 女性

エドワーディアン・ジュエリーは、バッキンガム宮殿で開催された華やかなイベントをイメージさせる、豪華で煌びやかなスタイルが主流でした。

女性が貴婦人らしくあることが求められた時代でもあり、上品な女性を表現するためか、白を基調としたジュエリーが流行しました。

指輪はプラチナに大きなダイヤモンドを配し、周囲に小さな宝石をあしらったり、フィリグリー(※)を施すデザインが一般的でした。

ファッションのトレンドの転換期でもあり、襟ぐりが深いデザインが流行したことから、首元を装飾するネックレスやイヤリングが重要な位置を占めるようになります。

※フィリグリーとは、金属細工の一種で、主に細く長い糸状に延ばした金や銀などの貴金属を巻いたり編んだり捻ったり、金属ビーズと組み合わせたりしながら模様を作り、溶接する技法です。透かし細工ともいいます。

ヘアバンド

エドワード7世が宮殿で開催した豪華なパーティの影響により、華やかなヘッドピースが流行しました。

ダイヤモンドやパールを配したフィリグリーのティアラ細いリボンに羽根飾りをつけたヘアバンドなどが人気でした。

チョーカー

ネックラインが深いファッションの流行により、ネックレスが重要な役割を果たすようになります。

エドワード7世の妻アレクサンドラ王妃は、子供の頃から首に小さな傷がありました。王妃はこの傷を隠すため、首にぴたりと巻き付けるチョーカーを常に身に付けていたといいます。

やがてこのチョーカーは「ドッグカラー(犬の首輪)」と呼ばれ、社交界の女性達の間で大流行しました。
パールを連ねたものや、リボンにブローチや宝石を配したデザインなど、華やかでゴージャスなものも登場します。

ロングネックレス

パールを連ねたロングネックレスを、ウェストラインまで長くかけて着用するのも流行しました。

パールやビーズを束ねたロングネックレスの端にタッセルをつけた“ソートワール”は、首の周囲に何重にも巻き付けて着用されました。

ブレスレット

ブレスレットは、単独でつける軽やかなデザインが主流でした。

ゴールドのチェーンに宝石を配したものや、バングルなどが流行しました。

リング

婚約指輪の定番デザインとなる、プラチナにダイヤモンドを配したリングが誕生したのもこの時代といわれています。

当時は、周囲にミルグレインやフィリグリーなどの複雑な技法を施すのが流行しました。

サフラジェット・ジュエリー

参政権運動を支持する女性たちの間で流行したジュエリーを、サフラジェット・ジュエリーと呼びます。

シンプルな幾何学模様のシルバーやゴールドのブレスレットに、「Votes (投票の複数形)」との言葉が刻まれたものが一般的でした。参政権運動のジュエリーは、運動に賛同する友人や家族へのプレゼントとして贈られることが多かったようです。

エドワーディアン・ジュエリーのモチーフ

エドワーディアン・ジュエリーのモチーフは、リボンや花綱、レース編みといった伝統的で複雑なディテールにこだわったものが流行します。

月桂樹の花輪や蝶結び、弓、タッセル、リースのほか、ブローチには丸形や菱形も用いられました。

ジュエリーにプラチナが用いられるようになった影響を受けて、柔らかな曲線や繊細さが求められるモチーフが好んで取り入れられるようになったのかもしれません。

最後に

アンティークジュエリー

王族や貴族が、ファッションリーダーとして世に広く影響を与えた最後の時代ともいわれるエドワーディアン。

エドワーディアンは、アンティークジュエリーの歴史の中でも、最も革新的で豪華なデザインと素材が流行した時代といえるでしょう。

しかし1914年に第一次世界大戦が勃発すると同時に、優雅なパーティは影を潜め、やがてシンプルで洗練されたデザインによる「アール・デコ」の時代へと移り変わっていきます。

エドワード7世の在位期間は10年足らずと短期間でしたが、ジュエリーの歴史にとっては重要な変化がもたらされた時代だったと思います。

エドワーディアン・ジュエリーには、長かったヴィクトリア時代の幕が閉じ、第一次世界大戦が始まるまでの短くとも華やかな時代風景が反映されているように見えます。

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【時代別】アンティークジュエリーの特徴とデザイン傾向

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カラッツ編集部 監修