※画像は全てイメージです。異なる時代のものが含まれている場合もございます。
アンティークジュエリーと一口に言っても、作られた時代によって異なる部分も多く、全く同じではありません。
例えば、使用されている貴金属や宝石などにもそれぞれの時代が映し出されていますし、モチーフなども流行とともに移り変わっています。
デザインも同様で、歴史や時代背景とともに変化してきました。
こちらでは現在アンティークジュエリーとして主に流通している、ジョージアンからアールデコまでの、各時代の特徴とデザイン傾向についてご紹介したいと思います!
アンティークジュエリー全般的なお話が知りたい方はこちらの記事で!
目次
ジョージアン(1714年~1837年)の特徴
イギリスのハノーヴァー朝で国王に即位したジョージ1世~4世とウィリアム4世の時代に、イギリスで生まれた芸術や文化を「ジョージアン」と呼んでいます。
宝石の石留めは裏側を閉じたクローズドセッティングが主流で、宝石の下にホイルを敷いて色や輝きを向上させたものも一般的だったとされます。
特徴的なスタイルとデザインの傾向
金細工
ジョージアンは金細工師の技術が最も発達した時代で、職人の手作業による繊細なジュエリーが特徴的です。
代表的な技法は、レポゼとカンティーユです。
<レポゼ>
金属をハンマーで叩いて打ち出し、モチーフの一部が浮き彫って見えるものです。
<カンティーユ>
金の細い線を巻いて繋ぎ合わせ繊細なモチーフに仕上げたもので、刺繍から着想を得た「フィリグリー技法」に見た目が似ています。
ホールマークの刻印は1900年代までなかったため、当時の貴金属には刻印が押されていません。
センチメンタルジュエリー
ジュエリーに愛する人への想いが込められたものです。
<ヘアジュエリー>
ブローチの裏側などに大切な人や故人の髪の毛を入れ込んだものです。
<ラヴァーズアイ>
愛する人の瞳の肖像画をブローチなどにしたものです。大切な人の肖像画のミニチュアを入れたものも流行ったといいます。
<リガード(Regard)ジュエリー>
ルビー(Ruby)、エメラルド(Emerald)、ガーネット(Garnet)、アメジスト(Amethyst)、ルビー(Ruby)、ダイヤモンド(Diamond)を配し、これらの頭文字を並べて「Regard(敬意、好意)」の想いを込めたものです。
ペンデローク
リボン型のトップから、つゆ型モチーフを吊り下げたイヤリングです。
華やかなシャンデリアスタイルに、ダイヤモンドを配したものが代表的です。
リヴィエールネックレス
大きくカットされた宝石を連ねたネックレスです。
リヴィエールとは河の輝きという意味で、ダイヤモンドや色石などを連ねた大胆で豪華なデザインです。
パリューレ
宝石やテーマに合わせて作られたジュエリーのセットです。
ネックレス、ティアラ、イヤリングなど、合計16個のジュエリーを含むものが多かったようです。
シャトレーン
実用性とファッション性を兼ね備えたフック付きのジュエリーです。
小さなハサミや時計、文房具、メガネなどといった日用品がぶら下げられるような仕様になっています。
ポケットの付いた服やハンドバッグが一般的ではなかった時代に人々は、日用品をベルトに付けたフックからぶら下げていました。
そのため、シャトレーンのようにそれらを格好良く一つにまとめられるジュエリーが重宝されたのです。
ベルリンアイアン
1813年、プロイセン王はナポレオンとの戦いに向けた軍事費調達のために、貴金属を国に提供するよう市民に要請します。
それらの市民に対し、代わりに与えられた鉄のジュエリーがベルリンアイアンで、「Gold gab ich fur eisen.」(私は鉄のために金を渡した)と刻印されています。
ベルリンアイアンはサンドキャスト(砂で型を取る技法)が施され、ラッカーで黒く仕上げられています。
主に美術館などでしか見られないため、大変高い価値が付けられています。
モチーフ
1706年から1814年にポンペイ遺跡の発掘が行われたことから、ローレルの葉やギリシャの鍵といった古代ギリシャ・ローマのモチーフやカメオが流行します。
1798年のナポレオンのエジプト遠征を記念し、ピラミッドなど古代エジプトのモチーフも流行しました。
この他、花、リボン、枝葉、羽毛、鳥、虫など自然を題材にしたモチーフも人気がありました。
素材と宝石
宝石のセッティング部分にはシルバーを、地金には18K以上のイエローゴールド、スチール、鉄、ピンチベック(銅と亜鉛の合金)などが主流でした。
宝石はダイヤモンド、ルビー、サファイア、ガーネット、パールなどが人気でした。
色石はカボションやティアドロップにカットされ、ダイヤモンドはローズカット、オールドマインカット、テーブルカットなどが施されました。
ジョージアンジュエリーについては別記事でも詳しくご紹介しています!
ヴィクトリアン・初期 ロマンティック時代(1837年-1860年)の特徴
ヴィクトリア女王が18歳の若さで即位し、64年にわたる新しい時代が始まります。
若い女王と夫アルバート公の愛の物語は、ジュエリーのデザインにも影響を与えました。
産業革命が起こり、工場が次々と建設されたことから、ジュエリーも大量生産されるようになります。
1848年にアメリカでゴールド・ラッシュが始まる以前は金が不足していたことから、純度の低い金が主に使用されていました。
特徴的なスタイルとデザインの傾向
スライドチェーン
縄状になったロングチェーンのネックレスで、スライダーを付けることでロングネックレスを2重にして装うことも出来ました。
ジランドールイヤリング(Girandole Earrings)
何石もの宝石を連ねて吊り下げた、シャンデリア風のイヤリングです。
ラウンドシェイプの宝石から3石のペアシェイプの宝石がぶら下がるデザインで、豪華な揺れと輝きが特徴的です。
その他
ジョージアンに引き続き、リガードリング、カメオ、シャトレーン、ヘアジュエリー、レポゼ、カンティーユなどが主流でした。
モチーフ
ヴィクトリア女王がアルバート公から、蛇の頭にエメラルドを配した婚約指輪を受け取ったことから、永遠の愛を象徴する蛇モチーフが流行しました。
この他にも、目、手、ハート、錨、矢、クローバー、十字架、ガーター、葉、ラブノット(結び目)などが用いられました。
素材と宝石
ホワイトゴールド以外の18k~22kのゴールド、ロールドゴールド、ピンチベック、カットスチール、アルミニウムなど。
宝石は、ダイヤモンド、エメラルド、クリソベリル、アメシスト、クォーツ、トパーズ、ガーネット、マラカイト、カルセドニー、ターコイズ、アンバー、シードパール、アイボリー、べっ甲、コーラル(珊瑚)、ラーバ(溶岩)など。
ヴィクトリアン・中期 グランド時代(1861年₋1885年)の特徴
1861年にヴィクトリア女王最愛の夫アルバート公が他界します。
夫の死を悲しんだ女王は、その後ずっと黒い衣装とジュエリーに身を包んだことから、モーニングジュエリーが流行しました。
※モーニング=喪に服す
1867年には南アフリカでダイヤモンド鉱山が発見され、ダイヤモンドがジュエリーにより多く使用されます。
また、戦地に赴いた男性の代わりに女性が外で働く機会が増え、女性が社会に出始めた時代でもありました。
特徴的なスタイルとデザインの傾向
エトラスカンスタイル
イタリアでは、古代エトルリアの遺跡の発掘が始まり、それをきっかけに、古代エトルリアの金細工技法である粒金や撚り(より)を取り入れたジュエリーが流行します。
モーニングジュエリー
ヴィクトリア女王が喪に服すために装ったことから流行したスタイルです。
特に多かったのはジェットを素材としたジュエリーです。
メモリアルジュエリー
大切な人の名前や2人の記念日が、リングの表面やモチーフの裏面などに刻み込まれています。
マイクロモザイク
イタリアで制作された、小さなガラスなどを埋め込んで絵画や風景画などに仕上げたジュエリーです。
その他
この時期に人々はピアスを着けるようになり、大ぶりのネックレスやペンダント、ティアラ、べっ甲の櫛、長細いピンなどが人気でした。
バングルタイプのブレスレット、ロケットなども流行しました。
また、ヘアジュエリーなども前の時代から引き続き人気がありました。
モチーフ
モーニングジュエリーには、翼のある天使、雲、墓場で泣いている人、骨壺、しだれ柳などのシンボルが用いられました。
古代エジプト、ギリシャ、ローマから着想を得たモチーフも人気でした。
一般的に流行したモチーフは、どんぐり、蜂、鳥、鐘、十字架、三日月、星、ハート、モノグラム、幾何学模様などです。
素材と宝石
9K、12K、15Kゴールド、ロールドゴールド、シルバー、スティ―ルなど。
宝石はダイヤモンド、アメシスト、ガーネット、ジェット、オニキス、ルビー、サファイア、パール、オパール、ターコイズ、カボションカットのガーネット「カーバンクル」も人気でした。
この他、アイボリー、コーラル、べっ甲、ボグオーク、ゴールドストーンも使用されました。
ヴィクトリアン・後期 耽美主義時代(1885年₋1901年)の特徴
ほとんどのジュエリーが機械で大量生産された時期です。
女性のライフスタイルがより大きく変化し、軽やかで小さなデザインが好まれるようになります。
ヴィクトリア女王は1901年に崩御するまで、亡き夫アルバート公の喪に服しました。
特徴的なスタイルとデザインの傾向
ミズパジュエリー
ヘブライ語で「2人が離れていても神が見守っている」という意味の「MIZPAH」との言葉が刻まれたデザインです。
ドッグカラー
エドワード7世の妻アレクサンドラ王妃が幼少の頃の首の手術跡を隠すために装った、太いチョーカーです。
犬の首輪のように太いことから、「ドッグカラー」と呼ばれました。
王妃から影響を受けた上流階級の女性達を中心に、チョーカーやドッグカラーが好んで付けられました。
ダイヤモンドのソリティアリング
1886年にはティファニー社の創業者ルイス・コンフォート・ティファニーが、「ティファニーセッティング」と呼ばれるダイヤモンドのソリティアリングを考案、婚約指輪として流行します。
その他
古代エジプトやエトラスカン・スタイルが引き続き流行した他、スポーツや東洋をテーマにしたデザインも人気でした。
モチーフ
動物の頭、星、フクロウ、樽、弓、三日月、樫の木、三つ葉などが人気でした。
この他、四葉のクローバー、ホースシュー、結び目、ウィッシュボーンといったラッキーモチーフなども流行しました。
素材と宝石
ゴールド、ロールドゴールド、シルバー、酸化シルバー、プラチナなど。
宝石は、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、クリソベリル、トパーズ、エメラルド、アクアマリン、クォーツ、アメシスト、クリソプレーズ、ペリドット、ターコイズ、オパール、ムーンストーン、黒ガラスなどです。
ヴィクトリアンジュエリーについては別記事でも詳しくご紹介しています!
アール・ヌーヴォー(1890年~1910年)の特徴
アール・ヌーヴォーとは、1890年頃~1910年頃にフランスを中心にヨーロッパで開花した国際的な芸術運動です。
日本文化が世界に広がり始めたこともあり、アール・ヌーヴォーのデザインには、日本芸術からの影響を広く見ることが出来ます。
植物や動物、女性の姿や流れるような曲線のモチーフに、淡い色のエナメルが特徴的です。
特徴的なスタイルとデザインの傾向
アール・ヌーヴォーは、花や鳥、虫、蛇、トカゲなど自然界にあるものを、柔らかなフォルムで描いたデザインが特徴的です。
前述したように、日本の芸術作品が世界に広がり、ジュエリーにも日本文化からの影響が表れています。
エナメル技法
当時のジュエリーには、プリカジュール、クロワゾネ、バスタイユなどといったエナメル技法が用いられました。
そのため、アール・ヌーヴォーのアンティーク・ジュエリーは、エナメルの状態が価値に大きく影響します。
ルネ・ラリック
アール・ヌーヴォーを代表するアーティストの1人といえば、フランスのガラス工芸家ルネ・ラリックです。
ラリックが制作したジュエリーは1900年のパリ万博で一躍有名になり、後にガラス工芸の道を歩みます。
女性の姿や昆虫をモチーフにした繊細なラインと、エナメルによる美しい色使いが特徴的です。
モチーフ
アール・ヌーヴォーのジュエリーは、絵画や動物、自然、女性の姿などをモチーフにしています。
モチーフには、淡い色のエナメルを用いた、高度で繊細なエナメル技法が施されています。
素材と宝石
金属は、ゴールド、シルバー、プラチナなどが使用されました。
宝石はクリソベリル、デマントイドガーネット、アンバー、トルマリン、マラカイト、オパール、ムーンストーン、べっ甲のほか、プラスチックやガラスも用いられています。
アール・ヌーヴォーのジュエリーについては別記事でも詳しくご紹介しています!
エドワーディアン(1901年~1915年)の特徴
イギリスでエドワード7世が治世した時代を「エドワーディアン」と呼び、この時代に作られたジュエリーをエドワーディアンジュエリーと呼びます。
イギリスだけではなく、フランス、イタリア、アメリカなどで制作されたジュエリーが含まれることもあります。
フランスでは、アール・ヌーヴォーからエドワーディアンにかけてはベル・エポック時代(1890年~1915年)と呼ばれていました。
プラチナ素材が主流となり、ダイヤモンドを配した繊細で軽やかなデザインが流行しました。
特徴的なスタイルとデザインの傾向
ガーランド様式
この時期には、カルティエが考案した「ガーランド様式」が大流行します。
線のように細く加工出来て耐久性も高いプラチナの特性を利用した、レース編みのような繊細なデザインです。
ネックレス
ドレープ状の「フェストゥーン」、ペンダントの下に宝石を吊り下げた「ラヴァリエ」、ロープ状で端にタッセルが付いた「ソートワール」などが人気でした。
モチーフ
ガーランド様式のモチーフには花綱や葉の輪といった自然や植物を題材にし、ダイヤモンドやパールを配したものが一般的でした。
一般的なモチーフとして、リボン、星、三日月、花、三つ葉のクローバー、ホースシュー、ウィッシュボーン、スポーツをテーマにしたものなどが流行りました。
素材と宝石
貴金属はプラチナの他、ゴールド、シルバーが主流で、日本のエナメル技法も使用されました。
デザインは軽やかで繊細なものが好まれ、ダイヤモンドをメインに配し、カラーストーンは脇石として配されるのが一般的でした。
宝石は、ルビー、サファイア、エメラルド、アクアマリン、アメシスト、ガーネット、ペリドット、ムーンストーン、オパール、パールなどが使用されています。
アールデコ(1920年代~1930年代)の特徴
アールデコは、柔らかな曲線が特徴的なアール・ヌーヴォーに相反するものとして流行したデザインです。
アールデコという名前は、1925年に開催したパリ万国博覧会(Exposition Internationale des Arts Decoratifs et Industrials Modernes)に由来します。
第一次世界大戦後に女性達がより活発に社会へ進出し、産業での機械化やテクノロジーが急激な進化を遂げました。
そんな時代を象徴する、モダンなフォルムを取り入れたのがアール・デコです。
特徴的なスタイルとデザインの傾向
モダンなスタイル
アールデコ様式は、有機的なアール・ヌーヴォーとは対称的なデザインとして誕生しました。
直線や円など無機質なフォルムが特徴的な、近代的なデザインです。
第一次世界大戦後、「過去を忘れて今を生きよう」がモットーとなった欧米では、ジュエリーにもそんな思いが反映されたのです。
女性がより独り立ちし、モダンなスタイルを求めたこともデザインに現れています。
幾何学模様
アールデコのジュエリーは、キュービズムやフォービズムといった現代美術運動からの影響も受けています。
そのため、多くの宝飾店が建築家など別分野のデザイナーと共同してジュエリーを制作しました。
デザインは直線やジグザク、円形による幾何学模様や対照的なものが代表的です。
大胆な色のコントラスト
アールデコのジュエリーは、淡い色調のアール・ヌーヴォーや色石が少なかったエドワーディアンのジュエリーに相反する、はっきりした色使いが印象的です。
モチーフに敷き詰めたダイヤモンドと大ぶりのカラーストーンによる色の大胆なコントラストや、カボションカットの色石などを連ねた画期的な色使いが特徴的です。
古代エジプト
1922年11月にツタンカーメン王の墓が発見され、古代エジプトを題材にしたジュエリーが流行しました。
ツタンカーメン王やスカラベ、ピラミッドを用いたデザインや、古代エジプトで使用されたラピスラズリ、カーネリアン、カルセドニーなどの人気が高まりました。
世界の芸術からの影響
この時期には、アジアを始めとする世界中の芸術や文化から着想を得たデザインが用いられていきます。
中国や日本の伝統と文化、マヤ文明や南米先住民時代の建造物などもデザインに取り入られました。
ペルシャのカーペットや植物、イスラム美術のモザイクアート、ルビー、サファイア、エメラルド配したインドのジュエリーなどもデザインに大きな影響を与えています。
モチーフ
古代エジプトのモチーフでは、ツタンカーメン、ピラミッド、スカラベ、蓮の花、猫、ファルコンなど。
中国のパゴダ(仏塔)、龍、漢字などをモチーフに、コーラル、ジェイド、パール、エナメル、ラッカーなどが使用されました。
この他、南米先住民時代のピラミッドや階段、ペルシャのカーペット、植物、花、イスラム美術のモザイクアートに代表される幾何学模様やアラベスク装飾など。
アフリカの仮面や、木やメタルで作られた大ぶりのネックレスやバングルも取り入られました。
素材と宝石
素材はプラチナ、ゴールド、シルバーなどが使用されました。
宝石は、ダイヤモンド、ロッククリスタル、ルビー、エメラルド、オニキス、ジェイド、ラピスラズリ、アイボリー、シルバー、ガラス、プラスチックなどです。
最後に
アンティークジュエリーのデザインは、その時代の社会的背景や歴史と共に変化してきました。
デザインはもちろん、宝石のカットやセッティング、貴金属の加工法などもその時代独自の特徴が表れています。
古いものほど流通量が少なく希少性が高くなりますが、残念なことに市場ではアンティークジュエリーの模造品も出回っているようです。
購入する際には信頼できるお店を選び、出来るだけお店の方の説明を良く聞いてから選ぶようにして下さいね。
※画像は全てイメージです。異なる時代のものが含まれている場合もございます。
カラッツ編集部 監修