「合成ダイヤモンド」と聞いて、皆さんはどの様なイメージをもたれるでしょうか?
合成ダイヤモンドは、人工ダイヤモンド、Labo-Grown Diamond (ラボ グロウン ダイヤモンド)、Labo-Created Diamond(ラボ クリエィテッド ダイヤモンド)等とも呼ばれています。
近年、宝石市場で一般的に見られる様にもなった「合成ダイヤモンド」。
その生産量、流通量は近年ますます増加し、合成ダイヤモンドを見分ける知識の必要性も増してきたように思います。
合成ダイヤモンドの特徴、天然ダイヤモンドとの違い、価格などについて、分かりやすくご紹介していきたいと思います!
目次
合成ダイヤモンドについて
近頃では、天然ダイヤモンドに負けず劣らずの美しい色や高いクラリティ、そして大粒の合成ダイヤモンドが宝石市場に出回るようになりました。
合成ダイヤモンドとは、研究室や工場などで人工的に作られたダイヤモンドの事です。
キュービックジルコニア(CZ)やモアッサナイトといったダイヤモンドに似せた人造石や模造石とは異なります。
それらとの大きな違いは、合成ダイヤモンドは化学・物理的な性質は天然ダイヤモンドと基本的に同じというところにあります。
つまり、合成ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドが数億年などの長い時間をかけて地中で成長するのと同じ環境を人工的な方法で数週間という短期間で施し作られたものなのです。
大きさはメレと呼ばれる小さなものから、近年では3ct以上の大粒のものまで流通しており、10ctもの大きなルースを作り出す事さえ可能になったといいます。
色は、無色(カラーレス)のものから、黄色、赤、ピンク、青など天然ダイヤモンドには少ない色のものまで作られており、天然では極めて稀な、最高カラーグレードDカラーの合成ダイヤモンドも生産されています。
合成ダイヤモンドは悪い?
天然の稀少なダイヤモンドを手に入れられないから人工的に作って需要を補う、という考えから、天然ダイヤモンドより安く気軽に手に入れられるのであれば、合成ダイヤモンドも悪くない気がします。
また、工業用などに使われる場合も天然石には限りがありますから、有用だと思います。
つまり、合成ダイヤモンドが”合成ダイヤモンド”と明記され、適正価格で売られていれば特に問題ないと思うのです。
しかし天然ダイヤモンドの中に混ざり、”天然ダイヤモンド”として適正価格よりも高い値段で市場に出てしまったらいかがでしょうか。
1万円の価値である商品が10万円で売られていて、しかも天然と信じて買わされてしまったら・・
知った時のショックは相当な気がします。
当然誰でもそんなこと嫌ですよね、怒りますよね、いえ・・あってはならない大問題だと思います。
こういった被害者をできる限り出さないように、GIA等の宝石研究機関は日夜合成ダイヤモンドに関する研究を重ねているのです。
合成ダイヤモンドは何処で生産されているの?
現在、合成ダイヤモンドはアメリカ合衆国、イスラエル、日本などの世界各地で生産されているといわれています。
その中で特に大きな生産高を誇るのが「中国」です。
その生産高は年間120億カラットという、とてつもない量だともいわれています。
世界の天然ダイヤモンドの採掘量が7,000カラットですから、まさに桁違いですね。
日本国内でも、住友電工をはじめとする企業によって生産されているといいます。
合成ダイヤモンドのタイプ
CVD- and HPHT-grown synthetic diamonds occur in a variety of colors depending on the growth conditions and post-growth treatments. While their final faceted appearances may be similar, the crystals produced from the two techniques are usually quite different.
天然ダイヤモンドは、4つのタイプ(タイプⅠa、タイプⅠb、タイプⅡa、タイプⅡb)に分類されます。
では合成ダイヤモンドはどうでしょうか?
合成ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドに見られる4つのタイプのうちの3つ、タイプⅠb、タイプⅡa、タイプⅡbのいずれかに属します。
3つとも、天然ダイヤモンドには非常に稀にしか見られないタイプです。
簡単にこの3つのタイプを説明すると・・
●タイプⅠb(不純物である窒素が孤立して存在している。イエローダイヤモンドがこれに当たる。)
●タイプⅡa(窒素ほぼナシ。炭素のみ。最高カラーグレードのDカラーになる事が多い。)
●タイプⅡb(窒素ナシ。炭素の中にボロン(ホウ素)が含まれている。ブルーダイヤモンドがこれに当たる。)
逆に、ほとんど(95~98%)の天然ダイヤモンドはタイプⅠaに属すといわれています。
タイプⅠaダイヤモンドとは、ダイヤモンドに混ざっている不純物である窒素(N)が2つ1組またはそれ以上の集合体という形でたくさん含まれているダイヤモンドの事です。
自然にダイヤモンドが形成されるのにかかる、途方もなく長い年月の中で、窒素が自然にその様な形態になるのであり、短期間で育成される合成ダイヤモンドではそうはならないのだそうです。
したがって、タイプⅠa=天然ダイヤモンド、それ以外のタイプ=合成ダイヤモンドの可能性有と判断する事ができるのです。
▶ダイヤモンドのタイプについてはコチラを参考に
合成ダイヤモンド製造法
合成ダイヤモンドには、HPHT(高温高圧)法とCVD(化学蒸着)法という2種類の製造方法があります。
HPHT法
HPHT法は、天然ダイヤモンドが育成する環境、”非常に高温で高圧な環境”を小さなカプセルの中に作り出し、その中にダイヤモンドの粉末と溶融金属フラックスを入れて合成ダイヤモンドを作る方法です。
カプセル内に、数週間から1ヶ月ほど入れておくだけで合成ダイヤモンドの結晶が生まれます。
HPHT法による合成ダイヤモンド製造は、大規模な設備を必要とします。
天然ダイヤモンド結晶は、美しい八面体でできていますが、HPHT法による合成ダイヤモンド結晶は、八面体+立方体という天然には見られない形状をしているといいます。
HPHT合成ダイヤモンドのほとんどはタイプⅠbだといわれています。
美しいイエローダイヤモンドの山を見たら・・・合成の可能性が高いかもしれません。
CVD法
CVD法は、チェンバー内でダイヤモンドの結晶にメタンなどの炭素ガスを吹きつけて成長させる方法です。
クラリティが高く、インクルージョンがほとんど含まれない結晶を数週間ほどで育成させる事ができます。
大規模な設備が必要とされるHPHT法と比べると、小規模でも製造が可能です。
そのため、多くの新規参入企業はCVD法で合成ダイヤモンドを産出しているといいます。
CVD法による合成ダイヤモンドのほとんどは、タイプⅡaに属しています。
また、黄色、ピンク、ブルーの合成ダイヤモンドも、チェンバー内に窒素やホウ素を入れる事で製造できるそうです。
合成ダイヤモンドの歴史
1797年、Tennant Smithsonがダイヤモンドが炭素であるという事を発見しました。
1890年頃から、世界中で合成ダイヤモンドの製造が試されるようになったそうですが、当初はまだ再現性が低く、失敗も多かったそうです。
GE社による生産
そんな中1941年、アメリカ合衆国のGE社(General Electric)など数社が合同で合成ダイヤモンドの製造を開始したといわれています。
第二次世界大戦のため一時は研究が中断されたそうですが、1954年、GE社がHPHT法によって再現性の高い合成ダイヤモンドの製造に成功しました。
しかしその頃のものはまだ非常に小さく、宝石としての価値も低いものだったそうです。
ダイヤモンドは宝石としての価値が求められるだけではなく、硬い鉱物という特性のため、ダイヤモンドカッターなどに見られる工業的な用途、医療的用途にも求められます。
この頃からGE社によって工業、産業、医療分野に使われる合成ダイヤモンドの生産が本格的に始まったといわれています。
そして1970年、GE社によって、ファセットカットが可能な宝石用途の合成ダイヤモンドが初めて生み出されます。
CVD法による製造
CVD法による合成ダイヤモンドの製造も1950年頃に始まり、1968年に製造が成功したと記録されています。(旧ソビエト連邦とイギリスの合同生産)
日本での合成ダイヤモンド製造
日本では、1985年、住友電工がHPHT法による高品質な合成ダイヤモンドの結晶生産を始めたといわれています。
しかし、この頃住友電工の高品質な合成ダイヤモンドを何者かが一般流通させてしまったそうです。
それまで合成ダイヤモンドは宝石市場に流通していなかったため、GIAなども混乱したといいます。
21世紀に入ると、さらに様々な企業が合成ダイヤモンドの製造に参入します。
ついにデビアス社が新規参入
合成ダイヤモンドに対して、デビアス社は当初否定的であったといわれています。
しかしついに2018年、デビアス社が合成ダイヤモンド(Light Box)の販売を開始します。
この事が世界の合成ダイヤモンド市場に多大な影響を与えたといいます。
現在も、多くのメーカーがより大きな結晶、より高いクラリティ、より美しい色の合成ダイヤモンド製造を目指し、研究と改良が積み重ねられています。
価格推移
宝石としての合成ダイヤモンドは、販売当初、生産コストが高すぎるなどの理由から、天然ダイヤモンドの2倍の価格で販売されていました。
ところが近年、多くの企業が参入し、生産コストはどんどん下がり、今や天然ダイヤモンドの5分の1~10分の1程度の価格で合成ダイヤモンドが販売されるようになりました。
さらに2018年以降、合成ダイヤモンドの価格が大幅に下がったといわれますが、それは、「デビアス社(※)」の市場参入によるものだと考えられています。
前述したとおり、デビアス社は2018年に合成ダイヤモンドの販売を開始しました。
デビアス社が他メーカーより低価格で高品質な合成ダイヤモンドを販売したため、全体の相場も下がったのだそうです。
※「デビアス社」は、1881年に設立され、ダイヤモンドの採掘、流通、販売を一括し、かつては天然ダイヤモンドの相場を事実上独占・支配していました。
つまり、世界に流通している天然ダイヤモンドのほとんど全てがデビアス社のものだったという事です。
現在は、デビアス社の天然ダイヤモンド市場支配力はぐっと弱まり、デビアス社を通さないダイヤモンドも一般的になっているようです。
デビアスの合成ダイヤモンドは何が違うの?
Photo by : Faiz Zaki / Shutterstock.com
デビアス社の合成ダイヤモンドは、”Light Box”という名で2018年から流通しています。
その生産高は年間50万カラットに及ぶといわれています。
先述の通り、それまでの合成ダイヤモンド相場を大きく崩すほどの低価格設定により、世界の合成ダイヤモンド相場もぐっと下がりました。
天然ダイヤモンドでは終焉していたデビアス社の相場支配、もしかすると、今後合成ダイヤモンド市場がデビアス社によって独占されていく・・・ということもあるかもしれませんね。
デビアスの合成ダイヤモンドの製造方法
デビアス社の合成ダイヤモンドは、CVD法によるものです。
天然ダイヤモンドには非常に稀にしか見られない、タイプⅡaに属しています。
最高カラーグレード”D”カラーの合成ダイヤモンドを多く生産しているという事ですね。
無色のDカラー合成ダイヤモンドだけではなく、合成ブルーダイヤモンド(CVD法+照射によって製造)、合成ピンクダイヤモンド(CVD法+照射+加熱処理)といった合成カラーダイヤモンドも生産しています。
ロゴ
デビアス社の合成ダイヤモンドは、顕微鏡で観察すると、画像の様にレーザー刻印された”ロゴ”が見られます。
このロゴは、肉眼では見る事ができません。
このロゴがデビアス社の合成ダイヤモンド”Light Box”であるという、身分証明書(ID)の様な役目を果たしています。
合成ダイヤモンドの見分け方
全ての合成ダイヤモンドに、デビアス社製のようなロゴやレーザーインスクリプション(識別番号がガードルにレーザー刻印されているもの)がある訳ではありません。
しかし合成ダイヤモンドの生産技術の進展にともない、合成ダイヤモンドを見分ける知識・データ・技術も進歩してきました。
天然ダイヤモンドは数百万~数十億年という途方も無い年月をかけて160km以上にもなる地表深くで形成されたものが火山の噴火によって地表に現れたものです。
対して合成ダイヤモンドは、研究室や工場で数週間という比較にならないほど短い成長期間で育成されます。
この成長環境、成長期間の大きな違いが両者に違いを生み出します。
そういった違いを見分けることによって見極めていきます。
宝石鑑定の道具によって見分ける
合成ダイヤモンドは、顕微鏡、紫外線蛍光灯(特に短波紫外線)、偏光器、屈折計といった、一般的な宝石鑑定道具を使ってある程度は見分けることができます。
顕微鏡
フラックス金属片というインクルージョン(内包物)が見られた場合は、合成ダイヤモンドだと断定できます。
フラックス金属片は、合成ダイヤモンドの育成環境(溶融金属フラックスの中にダイヤモンド粉末を溶解させる)に依るもので、天然ダイヤモンドには見られないインクルージョンです。
紫外線蛍光灯
短波紫外線に当てると、天然ダイヤモンドとは異なる蛍光色(オレンジ・赤・黄・黄緑・緑)を示し、そのパターンも独特で、十字型(HPHT法の場合)や線状(CVD合成法の場合)を確認できるものがあります。
紫外線のスイッチをオフにしても光り続ける、燐光(りんこう)を見せるケースもあります。
※蛍光色を示さない合成ダイヤモンドもあります。
その他の特徴
HPHT法による合成ダイヤモンドは、幾何学的なカラーゾーニングを見せる事が多く、反対にCVD法による合成ダイヤモンドは、色合いが均一です。
最新機器GIA iD100TMを使って見分ける
また、GIA iD100TMという合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドを判別する特殊な検査装置もあります。
検査対象のダイヤモンドが合成か、天然かをわずか2秒で見破る事ができる優れものです!
宝石研究の世界的権威でもあるGIAが生み出した最新鋭の検査装置です。
最後に・・
筆者がダイヤモンド鑑定士として米国のラボラトリーで勤務していた頃(2003年頃~)、ラボに鑑定依頼でやってくる合成ダイヤモンドは、とても小さな黄色いものばかりでした。
合成ダイヤモンドが宝石市場にこれほど多く、一般的に見られるようになるまでいかに短期間であったか・・この記事を書きながら驚いています。
見た目の美しさやクラリティも高く、価格は天然ダイヤモンドのわずか5分の1~10分の1・・
では、同じ色や質の天然ダイヤモンドを求める理由は、一体どこにあるのでしょう・・?
それは、”希少性”や、”ロマン”ではないかと思います。
同じ姿をしていても、片方は気の遠くなるほどの時間と自然環境の偶然が重なってできた天然ダイヤモンド。
もう片方は数週間で大量に工場生産された、合成ダイヤモンド。
見た目は同じでも本質的には大きく違います。
しかし、両者が混在したり、悪用されることなく、公正に取引される上では、共に必要とされ、愛される価値があるものだと思います。
合成ダイヤモンドだからといって毛嫌いすることはなく、両者の特長をよく知って、うまく活用するのが賢いダイヤモンドとの付き合い方なのかもしれません。
カラッツ編集部 監修