海を思わせる色合いの宝石、アクアマリン。
その優しい色合いから季節を問わずつけることができ、ファッションに合わせやすいのも魅力の一つです。
日本やアメリカ、イギリスなどでは3月の誕生石に選定され、広く親しまれている宝石でもありますね。
採掘されるサイズも様々で、小さいものから10ct以上の大粒のものまで、中には数kgにもなる原石が採れることもあります。
世界中にファンがいるアクアマリンとはどんな宝石なのかその特徴や色、意味、石言葉、言い伝え、価値などをご紹介いたします。
目次
アクアマリンとは?
アクアマリンは覗き込むだけで波の音が聞こえてくるような淡く瑞々しい青色が特徴。
古くから産出され、長い歴史をもつ宝石です。
鉱物としての基本情報
英名 | Aquamarine(アクアマリン) |
和名 | 藍柱石(らんちゅうせき)、藍玉(らんぎょく)など |
鉱物名 | ベリル |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 六方晶系 |
化学組成 | Be3Al2Si6O18 |
モース硬度 | 7.5 – 8 |
比重 | 2.6 – 2.9 |
屈折率 | 1.57 – 1.59 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
アクアマリンの特徴はなんと言っても海水を思わせる瑞々しい色合い。
例え10ctを超えるような大ぶりなサイズであっても気品を感じさせます。
屈折率は1.57 – 1.59でダイヤモンドやルビーなど有名宝石の中ではやや低めです。
宝石は一般的に屈折率が高い方が強く輝く傾向にあるといわれますが、私自身、これまで多くのアクアマリンを取り扱ってきましたが、輝きも華やかさも決して他の宝石に負けていないように見えます。
恐らく透明度が高いものが多く、淡いブルーの地色が光を良く通して見えるからではないかと思っています。
明るい場所でもとても美しいのですが、アクアマリンの真骨頂は暗い場所での輝きです。
暗い部屋で間接照明にあたった時、アクアマリンの色はより濃く見え、深海を思い起こさせるような、ミステリアスな色となります。
深海の中からステンドグラスのように光を反射するさまは非常に妖艶で、これもアクアマリンの魅力の一つだと思います。
色
アクアマリンはベリルという鉱物の一種で、微量の鉄(Fe)が混ざることで独特の淡いブルーの色合いを呈すると考えられています。
海水青色とも呼ばれる、海の水のような色合いで、一般的に薄い水色のものが多い印象です。
実際には、カラーレスに近いものからグレー味やグリーン味を帯びたものもあり、並べてみると個性が見えて面白いですよ。
産地
美しいアクアマリンが多く採れるのはブラジルで、大粒で傷の少ないものが多いといわれています。
パキスタンやアフガニスタンも有名な産地で、ブラジル産に近い良質で大ぶりのものが見つかることもあります。
他にはザンビア、マダガスカル、ナイジェリア、モザンビークなど世界各国で採掘されています。
特にナイジェリアは1983年、モザンビークは1991年から採掘が始まった比較的新しい産地で、色の濃いものが産出される傾向にあるそうです。
原石の形
産出された時のアクアマリンは写真のような六角柱の形をしており、これを六方晶系といいます。
本当に自然が作り出したものなの?と思うぐらい整った形をした原石はとっても神秘的。そのまま飾るだけでも見応えがありますよ。
また、空洞部を形成しやすいペグマタイト(巨晶花崗岩)の中で成長するため大ぶりの結晶となりやすく、大ぶりのジュエリーや彫刻で使用されることもあります。
名前の意味
アクアマリンはラテン語の「Aqua(水)」と「Marinus(海の)」の組み合わせです。
およそ2000年前にローマ人によって名付けられたといわれています。
やはり先人たちもこの美しい宝石を見て海をイメージしたのでしょう。
アクアマリンを見て今も昔も変わらない印象をもつのは、私たちにとって海が特別な場所だからかもしれませんね。
石言葉
石言葉はアクアマリンの色と透明度から連想されていて、「聡明」「沈着」という意味が込められています。
また「幸福」も石言葉で、幸運をもたらす石ともいわれています。
心が落ち着いてくるような淡いブルーにこの石言葉はピッタリですね。
誕生石
誕生石は最初から全て決まっていた訳ではなく、歴史の中で徐々に当てはめられていきました。
アメリカでは1912年に宝石商組合(ジュエラー・オブ・アメリカ)によって初めて誕生石が選定されました。
その後1952年にアメリカ小売商組合などによって改定。これが現在の誕生石の元となっています。
日本で最初に公的に発表されたのは1958年。全国宝石卸商協同組合によるものです。
長い間、3月の誕生石はアクアマリンと珊瑚の2つでしたが、2021年12月に同じく全国宝石卸商協同組合より改訂が発表され、アイオライト、ブラッドストーンが加わりました。
アクアマリンの仲間
アクアマリンという名前は宝石名で、鉱物名は、前述した通り、ベリルといいます。
ベリルは元々はカラーレスで、そこに着色元素が入ることで色が変わり、宝石名も変化します。
ベリルの主な色合いと宝石名は以下の通りです。
【主なベリル】
●グリーン :エメラルド
●ブルー :アクアマリン
●ピンク :モルガナイト
●レッド :レッドベリル
●カラーレス :ゴーシェナイト
●イエローグリーン:ヘリオドール
四大貴石の一つとして有名なエメラルドも実はアクアマリンと同じベリルに属します。一見同じ鉱物のようには見えないですよね。
しかし宝石名は異なっても鉱物学的には同じため、上記の宝石たちは皆兄弟のような関係にあります。
同じ鉱物でも色合いによって印象が変わることも宝石の魅力の一つではないかと思います。
アクアマリンの種類
淡いブルーからブルーグリーンのものが多いアクアマリンですが、同じアクアマリンの中でも一見見た目が異なるものが存在します。
幾つかご紹介しましょう。
サンタマリアアクアマリン
かつてブラジルのサンタマリア鉱山で濃いブルーのアクアマリンが産出されたことがありました。
それらは「サンタマリアアクアマリン」と呼ばれ、とても人気が出ました。
しかし間もなくして鉱山は枯渇し、現在ではほとんど産出されないといわれています。
その後モザンビークなどで同様の色相のアクアマリンが産出されるようになりました。
「サンタマリア・アフリカーナ」として流通していたこともあったようですが、現在では産地に関わらず濃いブルーのアクアマリンは「サンタマリアアクアマリン」と呼ばれています。
アクアマリンキャッツアイ
アクアマリンキャッツアイは、光を当てるとシャトーヤンシー(キャッツアイ効果)と呼ばれる猫目のような光の筋が浮き上がるものをいいます。
これはアクアマリンの中にチューブインクルージョンと呼ばれる内包物が入っているためです。
アクアマリンキャッツアイをルーペなどでよく見ると、細い線の様に見えるチューブインクルージョンが真っ直ぐ何本も入っているのが見えることがあります。
これがキャッツアイ効果を生み出す正体です。
美しい髪に光が当たると、髪に光の輪っかが浮き上がることがありますよね。
聞いた話によると、キャッツアイ効果もそれと同じで、特定のインクルージョンが入っている宝石に光を当てることで起こるとても不思議な現象なんですよ。
アクアマリンキャッツアイの半透明なブルーは非常に優しい印象を受けます。
しかし光を当てるとキャッツアイが浮き上がり、私たちを驚かせてくれるとてもユニークな宝石です。
アクアマリンの歴史・言い伝え
アクアマリンにはやはり海にまつわる言い伝えが多く残っています。
もともとアクアマリンは海の精の宝物で、それが浜辺に打ち上げられて石になったというお話は現代でも語り継がれる伝説です。
海のイメージから航海や海難防止の守護石といわれ、多くの船乗りたちにお守りとして愛用されてきたというのも有名な話ですよね。
また、暗い照明下でより深い色合いや輝きを放つことから社交界で高い人気を博し、夜の宝石の女王と呼ばれていたこともあります。
イブニングドレスに合うような華やかなジュエリーへと仕立て上げられ、女性たちの胸元できっとキラキラと美しく輝いていたことでしょう。
アクアマリンに施される処理について
アクアマリンは市場に出回っているほとんどのものに加熱処理が行われているといいます。
加熱処理をする理由は色の調整で、グリーン味のあるアクアマリンの色を変化させ海水青色にするためです。
一般的に行われていることと、鑑別で自然加熱か人工加熱かの判断が難しいことなどから、鑑別書には、「通常、加熱が行われています」などと書かれます。
加熱処理の有無によって価値が下がることはありません。
アクアマリンの偽物について
アクアマリンの偽物として多いのは、合成スピネル、ガラス、ダブレット(張り合わせ)などです。
合成スピネルは人工的に作ったスピネルという別の宝石です。
人工物なので大量に作ることができ、値段も天然スピネルよりもずっと安価。
それがアクアマリンなど他の宝石として混在していることもあるというのです。
ガラスは多くの宝石の偽物として古くから世に出回ってきました。
わざとアクアマリンに似せて作られたものもあります。
ダブレットは、二つの宝石を張り合わせて一つの宝石に見立てます。
人工素材同士を張り合わせたものもあれば、ガラスなど人工素材と本物の宝石、本物の宝石同士を張り合わせたものもあります。
合成石も人造石もダブレットなどの模造も、消費者に分かりやすく表記して販売している分には問題ありません。
しかし中にはわざと分かりにくくしたり、事実を隠して販売している悪徳業者もいますので、注意が必要です。
アクアマリンの価値基準と市場価格
アクアマリンを購入する場合、何を基準に選べば良いのでしょうか。
宝石を購入する基準として好みもとても重要なポイントです。
しかし、一般的な価値基準と市場価格を知っておくと、特に初心者の方は探す時の指針にしやすいと思いますので、良かったら参考にしてみてくださいね。
価値基準
宝石は一般的に、色味、透明度、カラット(重さ)、カットによって価値基準が決まっています。
中でも、アクアマリンのような色石にとって最も重要なのは、色。
鮮やかで色の濃いものほど、価値高く扱われます。
更に、アクアマリンの場合、グリーン味やグレー味が濃いものより、純粋なブルーに近い程評価が上がります。
そのため、色が濃く、ブルー味の強いサンタマリアアクアマリンはアクアマリンの中で最も価値高く扱われるということですね。
透明度は高ければ高いほど良く、カラットは重ければ重いほど評価されます。
アクアマリンは様々なカットを施されていますが、正面から見た時に左右がバランス良く整っているかどうかも評価ポイントになります。
美しいカットほど高評価となるため、著名な研磨職人によるものや複雑なカットが施されているものなども高価格になる傾向にあります。
市場価格
アクアマリンはルース(裸石)であれば大きさやクオリティによって1万円以下で購入できます。
しかし高品質になるとカラットによっては数万円以上となり、さらにサンタマリアアクアマリンであれば、1ct以下であっても10万円以上するものもあります。
ジュエリーの場合、宝石の価格に地金、脇石、工賃などの価格がプラスされます。
さらに有名ブランドなどの場合は、付加価値により価格が上がります。
どこで買える?
アクアマリンは比較的流通量が多いため、取り扱っているお店もたくさんあります。
ルースでもジュエリーでも探しやすいと思いますので、色々なお店を見て、比較検討しながら探すと良いと思いますよ。
サンタマリアアクアマリンについては、希少性が上がることから取り扱っているお店は減ります。
それでもオンラインショップやミネラルショーなどのイベントで見かけることは多いため、こちらも比較検討が可能だと思います。
アクアマリンのお手入れ方法
アクアマリンはモース硬度が7.5- 8と高く、どんなジュエリーにしても使いやすい宝石です。
長く美しさを保つために、身につけた後は柔らかいクロスで拭いて、指紋や皮脂汚れなどを落としてあげてくださいね。
時間に余裕がある時や汚れが目立つ時は、ぬるま湯に中性洗剤や石鹸を溶かして、柔らかい歯ブラシで磨いてみてください。
裏側の汚れも取れて輝きを取り戻しますよ。
最後に
アクアマリンは海を結晶化させたような瑞々しさと、ジュエリーにとして楽しめるだけの硬度を持った宝石です。
どの宝石もそうですが、天然石は一つとして同じものはありません。
ぜひあなたにふさわしいアクアマリンを見つけてあげてくださいね。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『起源がわかる宝石大全』
著者:諏訪恭一、門馬綱一、西本昌司、宮脇律郎/発行:ナツメ社
◆『決定版 宝石』
著者:諏訪恭一/発行:世界文化社
◆『鉱物・宝石の科学事典』
編集:日本鉱物科学会/編集協力:宝石学会(日本)
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか
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