赤い宝石という印象が強いガーネットですが、実は殆どの色が揃っているといわれるほどカラーバリエーションが豊富な宝石です。
その中で近年人気も知名度も上がっているといわれているのがグリーンのガーネット。
以前別の記事でもお話しましたが、ガーネットはとても奥の深い、面白い特徴をもった宝石です。
カラーだけではなく種類も豊富なため、グリーンのガーネットも一つではありません。
そんな奥深いガーネットの世界と一度見たら虜になりそうな魅力あるグリーンのガーネットについてご紹介しましょう。
目次
グリーンのガーネットとは
画像:デマントイドガーネット
ガーネットと聞くと、真っ先に赤い石を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
私もそうでした。母が持っていた指輪の、少し暗めの赤い石。
しかし大人になって宝石店巡りが趣味になり、そこではじめてガーネットには様々な色があることを知りました。
ガーネットとは「ガーネット一族」を総称した名前で、いわばグループ名のようなもの。化学成分は16種類もあって、組み合わせによって色や性質が多様化するのだそうです。
大きく分けると、アルミニウムガーネットと、カルシウムガーネットの二系統あり、アルミニウムガーネットはレッドやオレンジ系の色合いを、カルシウムガーネットはグリーンやイエロー、褐色系の色合いを呈するものがそれぞれ多いといわれています。
つまり、グリーンのガーネットは主にカルシウムガーネットに属するということですね。
さらに、カルシウムガーネットは「グロッシュラー」「アンドラダイト」「ウバロバイト」という主に3つの種類に分けられます。
グロッシュラーガーネットとアンドラダイトガーネットにはグリーン以外の色もありますが、いずれもグリーンを呈するものが希少性も人気も高く、ガーネット全体においても同じです。
グリーンのグロッシュラーガーネットは、「ツァボライト」、アンドラダイトのグリーンは、「デマントイドガーネット」とそれぞれ呼ばれます。
画像:左-ツァボライト 右-デマントイドガーネット
ちなみに、同じカルシウムガーネットに属するウバロバイトも美しいグリーンを呈しますが、小さい粒状の結晶で発見されることが多く、カットが施されたルースやジュエリーとして見かけることは殆どありません。
また、グリーンのガーネットを鑑別するときは、成分や屈折率などによってツァボライト、デマントイドガーネット、グリーンガーネットの3種類に分けられることが多いそうです。
鑑別書にグリーンガーネットと書いてあるものは、ツァボライトでもデマントイドガーネットでもウバロバイトでもなく、それ以外のグリーンのガーネットであるということですね。
では、宝石やジュエリーとしても出回り、希少価値、人気ともに高い2つのグリーンガーネット、「ツァボライト」と「デマントイドガーネット」について、少し掘り下げてご紹介していきましょう!
ツァボライトについて
タンザニアとケニアにまたがって広がっている「ツァボ国立公園」で採掘されたことから、ティファニー社が1974年に命名したツァボライト。
まるでエメラルドのような美しさと、希少価値の高さから注目されています。
ツァボライトの特徴と産地、歴史などについてご紹介しましょう。
ツァボライトの特徴
ツァボライトは、先ほども触れたように、カルシウムガーネットの中の「グロッシュラーガーネット」に分類されています。
正式名称は、グリーングロッシュラーガーネットだそうです。
グロッシュラーの部分を省略して、グリーンガーネットと呼ばれることもあるそうですが、前述した、鑑別書でグリーンガーネットと記載されるものとは異なります。
グロッシュラーにはカラーレス、褐色、グリーンなどがあって、不純物がない場合はカラーレスになり、微量の元素が混じると色がつくと考えられています。
エメラルドと同じ元素であるクロムとバナジウムが含まれていて、イエロー味がなくグリーンに発色したものがツァボライトです。
ツァボライトのグリーンは、エメラルドと同じ元素なんですね~。
初めてツァボライトを見た時は、高品質のエメラルドかと思いましたよ。明るいグリーンで照りが良く、まさにエメラルドグリーンに輝いていました☆
中にはバイカラーのものもあります。
ちなみに、イエローやオレンジ、褐色系のグロッシュラーガーネットはヘソナイト、カラーレスのものはリューコガーネット、ミントグリーンのものはミントガーネットと呼ばれます。
ツァボライトの産地
ツァボライトが最初に発見されたのは、タンザニア北東部のマニヤラ地域とムコマジ国立公園の中間だったといわれています。
その次に発見されたのが、タンザニアとケニアにまたがって広がっているツァボ国立公園です。
グロッシュラーガーネットは、スリランカ、メキシコ、マダガスカル、イタリア、カナダ、ケニア、タンザニアなどで産出されていますが、グリーンが美しいツァボライトは、タンザニアとケニアの一部でしか採掘されないといわれています。
とても貴重だということがわかりますね。
ツァボライトの歴史
ツァボライトにはある人物による、深い物語があるのをご存知でしょうか。
発見されたのは1969年のコト。
赤いガーネットが数千年前から使われていたことと比べると、ツァボライトはかなり新しいということになりますね。
地質調査のためスコットランドからやってきた地質学者キャンベル・ブリッジス博士が、タンザニア北東部で偶然見つけたことが最初だといわれています。
残念ながらタンザニア政府から採掘権を得ることができなかったため、タンザニアでの採掘は断念し、ケニア側で調査を続け、再び発見します。
ケニア政府から採掘権を得ることに成功し、採掘を開始した博士。
アメリカ市場にも紹介したところ注目を集め、1974年にティファニー社がツァボライトと名付け大々的に販売したことで、人気と知名度を確立したということです。
しかしその後博士は不幸な死を遂げ、事業も一時的に止まってしまったといわれています。
ツァボライトにはこんな物語があったのですね~。
私がタンザニアで暮らしていた時、
『タンザニア全土に様々な宝石の鉱脈が眠っていて、あまり調査がされていない南部の土地をアメリカや中国の富豪が二束三文で買い取り、こっそり宝石を採掘して大儲けしているらしい』
という噂をよく耳にしました。
実際にそれを目にしたり、所有者に出会ったことはないのであくまでも噂ですが、タンザニアの土地はとても広大で未開地も多く、宝石が地下に眠っていても不思議ではないな、と思いましたよ。
隣のモザンビークやマダガスカルでも良質の宝石が沢山採れますしね。
タンザニアで今後もまた新しい宝石が発見されるかもしれませんよ。注目です!
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デマントイドガーネットについて
深いグリーンが美しく輝くデマントイドガーネット。
1853年にロシアで発見された時は、その美しさからグリーンカラーのダイヤモンドと思われていたそうですよ。
そのため、オランダ語で「ダイヤモンド」の意味である「Demant(デマント)」にちなみ、デマントイドガーネットと名付けられたのだとか。
ダイヤモンドのような輝きをもつグリーンのガーネット、デマントイドガーネットについても少し詳しくお話しましょう。
デマントイドガーネットの特徴
カルシウムガーネットの中の「アンドラダイト」に分類されるデマントイドガーネット。
イエローのアンドラダイトはトパースに似ているのでトパゾライト、ブラックのものはメラナイト、そしてグリーンのものをデマントイドと呼びます。
アンドラダイトガーネットはダイヤモンドよりも光の分散が高いといわれています。
ダイヤモンドは光の分散によってファイアと呼ばれる虹色の煌きが見られ、それも人気のひとつなのですが、デマントイドガーネットもカットによってはファイアを見ることができるのですよ!
それから、まるで馬の尻尾のような「ホーステール」と呼ばれるインクルージョンがあることもデマントイドガーネットの大きな特徴です。
インクルージョンが嫌われる宝石が多い中、デマントイドガーネットはホーステールの場所や形状によっては価値を大きく高めるという珍しい宝石なのです。
またキャッツアイ効果をもつものもあり、それらはデマントイドキャッツアイ(またはデマントイドガーネットキャッツアイ)と呼ばれます。
次にデマントイドガーネットの原石のお話をしましょう。
デマントイドガーネットの原石には起源が2つあると考えられており、それぞれ特徴は次の通りです。
特 徴 / 起 源 | 蛇紋岩起源 | スカルン(石灰岩・苦灰岩)起源 |
色 | 深みのある濃い緑 | 明るく薄めのグリーン |
インクルージョン | ホーステール | カルサイト結晶 |
光の分散 | 弱い | 強い |
デマントイドガーネットの産地
デマントイドガーネットの産地として最も有名なのはロシアですが、他にもイタリア、イラン、パキスタン、マダガスカル、ナミビアなどでも採掘されるといいます。
少量ですがアメリカ、メキシコ、韓国、トルコなどで見つかったこともあるそうですよ。
デマントイドガーネットは、前述したように、原石の起源が2つあるせいか、産地によって性質や特徴に違いが出るといわれています。
例えば、ロシア産は濃いグリーンで、先程お話したホーステールインクルージョンが入っているものが多いとされます。最高品質のものも多くがロシア産です。
一方、ナミビアやマダガスカル産のデマントイドガーネットは、クロムよりも鉄の含有量が多く、イエローグリーンになるものが多いのだそうです。
ホーステールインクルージョンはありませんが、ファイアが強いものが多いようです。機会があれば見比べてみたいですね!
デマントイドガーネットの歴史
デマントイドガーネットが発見されたのは1853年、場所はロシアのウラル山脈。村に住む少年が、グリーンに光るガラスのような石を見つけたそうです。
グリーンダイヤモンドに似た輝きをもったその石は、後にデマントイドガーネットと名付けられました。
1875年頃からロシア宮廷のジュエリーに使われるようになり、ロシアの王侯貴族たちに愛され、多くのジュエリーが作られました。
やがてヨーロッパにも伝わり、イギリス王室の宝飾品に用いられることもあったそうです。
ところがロシア革命が起き、その結果鉱山の採掘が完全にストップ。デマントイドガーネットは一時期「幻の宝石」となってしまったそうです。
その後、1996年にナミビアで、2008年にはマダガスカルで新たに採掘が始まり、ロシアでも2002年になってから採掘が再開されました。
しかしその数は年々減り、現在はホーステールインクルージョンがあって深い緑を呈している高品質のデマントイドガーネットは、ますます希少価値が高まっている状況だといわれています。
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▼デマントイドガーネットについてもっと詳しく知りたい方は下記記事も
ツァボライトとデマントイドガーネットの違いについて
では次に、グリーンに輝くガーネットとしてともに人気のツァボライトとデマントイドガーネット。
この二つの違いを見比べてみましょう。
ツァボライト | デマントイド | |
モース硬度 | 7 – 7.5 | 6.5 – 7 |
屈 折 率 | 1.69 – 1.75 | 1.85 – 1.89 |
分 散 | 0.027 | 0.057 |
発色要因 | クロムとバナジウム | クロム |
モース硬度を見ると、ツァボライトの方が硬いのですね。
屈折率も分散度もデマントイドガーネットの方が高いため、輝きが強いということでしょうか。
発色要因の違いが色の違いかもしれませんね。
他に、前述したデマントイドガーネットの特徴であるホーステールインクルージョンはツァボライトには見られないそうです。
画像:左-ツァボライト 右-デマントイドガーネット
実は昔、スリランカの宝石店でこの二つを並べて見たことがあるんですよ。
その時の印象では、ツァボライトは明度が高くてキラキラしていて、デマントイドガーネットは深みのあるグリーンで引き込まれるような魅力がありました。
宝石店の人からは、貴重なロシア産ということで、デマントイドガーネットの方をお勧めされました。
が、その時私は結局どちらも選ばず、カラーチェンジガーネットを買ったのでした。
今となってはデマントイドガーネットも買っておけばよかったと後悔しています。
ツァボライトもデマントイドガーネットも、様々な色相があり状態も違います。色々見て、ぜひお気に入りを探してみて下さいね。
グリーンのガーネットの価値基準と市場価格
画像:左-ツァボライト 右-デマントイドガーネット
では、この2つのグリーンガーネットの価値基準や市場価格などはどのような感じなのでしょうか。簡単にご紹介しましょう!
価値基準
いずれも色が濃く鮮やかなもの程価値高く扱われます。
透明度が高く、カットが美しい、カラットの大きいものも評価の対象になります。
但し、デマントイドガーネットの場合は、ホーステールインクルージョンの有無や産地も価値に影響します。
ホーステールインクルージョンが入っているもの程価値が上がり、その位置やバランスが良いものはより高く評価されます。
産地別の価値としては、ロシア産のものに最高品質のものが多いとされ、価格が上がる傾向にあります。
ホーステールインクルージョンがバランス良く入っているものもロシア産に多いといいます。
つまり、デマントイドガーネットの最高品質とは、ロシア産でホーステールインクルージョンが美しく入った色鮮やかなものといえるでしょう。
全般的に、デマントイドガーネットの方が価値高く扱われますが、ツァボライトもガーネットの中では価値高く、デマントイドガーネットの次くらいに評価の高い種類です。
市場価格
いずれもルースであれば、クォリティによっては一万円以下でも探せます。
ツァボライトの場合、トップクォリティで2ct以上するものは、ルースで数十万円以上、デマントイドガーネットは、ホーステールインクルージョンが美しく入ったトップクォリティのロシア産のものはルースだけでも百万円以上するものもあります。
最後に
画像:デマントイドガーネット
いかがでしたか。
ツァボライトもデマントイドガーネットも、その背景や歴史などを知ると、より魅力的に感じてしまいますよね。
どちらも希少価値が高く、採掘量も減ってきているので、ますます価値が上がる可能性もありますね!
素敵な宝石に巡り合えますように。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版発行 ほか