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今、目の前に赤い石があったとします。
あなたは、この石が何だと思いますか?
ルビー?いや、スピネルか。いやいや、ガーネット、もしかしてただのガラスかも・・・?。
肉眼で見ただけでは、その石が何であるかハッキリは分かりませんよね。
もちろん鑑定士や宝石商のように専門知識があったり、普段見慣れている方であれば、ある程度の予測はつくかもしれませんが、それでも確証まではもちにくいと思います。
そのために存在するのが、宝石鑑別です。
宝石がもつ性質を調べるために鑑別器具や専門機材で検査して、その宝石が何であるかを判別します。
宝石を鑑別する専門家や鑑別機関ではどのような器具を使い、どのように鑑別しているのでしょうか。
今回は、宝石を鑑別する際に欠かせない、鑑別器具や機材についてお伝えしていきます。
目次
宝石の鑑別について
宝石の鑑別は、その石がどの鉱物であるかを特定し、天然か合成かや、人工処理が施されているか否かなどを確認することです。
ダイヤモンド鑑定のように宝石をグレーディング分けするものではありません。
鑑別する際には、まずは石の外観を観察し、内包物などの特徴を発見し、光の屈折率、多色性、比重、蛍光性などを検査します。
これらの検査結果をもとに、宝石名(鉱物名)、天然か合成か、ガラスやプラスチックなど人造石ではないか、人工処理が施されているかなどを特定します。
宝石の鑑別は、まず最初に1人の宝石鑑定士が検査を行い結果を出し、その後別の鑑定士が検査を行い、鑑別結果を確認することが一般的です。
鑑別に必要な機材について
宝石を鑑別する際には、まず肉眼で見てからルーペで宝石の内部や全体を詳しく観察します。
ルーペで内包物を確認することである程度特定できる宝石もあるそうですが、詳しく調べてより正確な鑑別をすることが重要です。
宝石は、それぞれが異なる性質や個性をもちます。
多色性を確認するためには「二色鏡」、同じ色の石と区別するための「チェルシーカラーフィルター」、宝石の蛍光性を調べる「紫外線蛍光検査器」、宝石がもつ光の屈折率を確かめる「屈折計」、さらに光の屈折が単屈折性か複屈折性を調べる「偏光器」などがあります。
ルーペで確認できない内包物やキズなどを確認するためには、より大きく拡大できる「顕微鏡」を用います。
さらに詳しく鑑別するために、「フーリエ変換型赤外分光光度計(FT-IR)」で赤外吸収スペクトルを調査することもあります。
以下の項目で、それぞれの鑑別器具や機材の用途や使い方をご紹介していきます。
①ルーペ(Loupe)
必須の鑑別器具として知られている、小型拡大鏡です。
宝石をまず最初に肉眼で見て、その次にルーペで拡大して、宝石の内包物や表面特徴などの詳細を観察します。
ルーペの拡大率は様々なものがありますが、10倍(10×)に拡大できるルーペが最も一般的です。
ルーペを上手く使いこなすには、ある程度の練習と経験が必要ですが、宝石の内部がはっきり見える明るい照明が重要となります。
ルーペはポケットに入る小型拡大鏡なので、買い付けの際にもサッと取り出して使うことが出来ます。
鑑定の際にも、専門機器を使用する前にルーペで内包物などの特徴を確認することで、宝石をある程度特定することが出来ます。
ルーペの使い方
- ルーペを開けます。
- ハンドル部分に人差し指を入れ、親指と残りの指でルーペを挟んで持ちます。
- 親指を頬に当てて、ルーペを目の前で固定します。
- もう片方の手で宝石を挟んだピンセットを縦に持ち、ルーペの前に持ってきてフォーカスを合わせます。
ルーペで鑑定する際には背筋を伸ばし、宝石に外部の光が入りやすいような姿勢がベストです。
頭と手をぐらぐら動かさないように、固定しましょう。
ルーペを持った手と宝石を挟んだピンセットを持つ手をくっつけるようにすると、不要な動きを避けることができます。
一般的に両目を開いた状態で鑑定しますが、特に決まりはなく、片目を閉じる人もいるようです。
但し、宝石商は、特に海外買い付けする際など、片目を閉じてしまうと手元が見えにくくなり、手元の宝石や荷物を盗まれる恐れがあるため、両目を開いた状態で使用することが多いそう。
色々あるのですね。。。
②二色鏡(Dichroscope)
多色性を確認することで、宝石を特定する鑑別器具です。
写真の二色鏡は「ロンドン・ダイクロスコープ(London Dichroscope)」と呼ばれる鑑定機材で、英国宝石学協会(Gem-A)が開発した二色鏡です。
折り畳み出来るルーペに似た見た目で、ポケットに入る便利な携帯サイズです。
二色鏡の使い方
多色性を確認するには透過光が必要です。
写真の様に携帯用の「LEDフラット・ライト」の上に宝石を置き、二色鏡で上から見ると、宝石の多色性を確認することが出来ます。
宝石の二色性は、その宝石を特定の方向から見ることで確認することが出来ますので、二色鏡を使用する際には、あらゆる角度から宝石を観察することが必要です。
宝石を違う角度に変えて置き、二色鏡を上下に動かして観察しましょう。
③チェルシーカラーフィルター(Chelsea Colour Filter)
深いレッドとイエローグリーンの波長を透過させるフィルターによる、宝石の鑑別器具です。
フィルターを透して宝石を見ることで、同じ色の石を区別します。
チェルシーカラーフィルターは折り畳み出来る小さな鑑別器具で、ルーペや二色鏡に似た見た目をしています。
こちらも携帯できる薄型なので、持ち運びに便利で使い方も簡単です。
鑑別する際には、ペンライトなどの強い照明の下に宝石を置いてフィルターに透かしましょう。
チェルシーカラーフィルターは、元々エメラルドを見分けるために開発されたもので、主にグリーンの石を区別することに使用されてきました。
この他、レッドとブルーの色石を見分けることにも使用されますが、全ての色石に対応する訳ではありません。
例えば、グリーンの宝石があるとします。
チェルシーカラーフィルターを通してこの宝石を見た時、クロムを含むエメラルドであればレッドに見えます。
しかし、クロムを含まないグリーンの宝石やガラスなどは、フィルターを透してもグリーンのままです。
ただし、クロムを含む合成エメラルドも赤く見え、バナジウムを含むザンビア産エメラルドはグリーンに見えるので注意が必要です。
この他、クロムを含むルビーや翡翠の最高品質琅玕 (ろうかん)も、フィルターを透すとレッドに見えます。
合成スピネルやガラスは茶色がかったグレーやブルーに見えます。
ほとんどのサファイアやアクアマリンはグリーンやグレーがかったグリーンに見えるため、偽物と区別する目安になります。
※チェルシーカラーフィルターは補助検査のため、これだけで判断することはありません。
チェルシーカラーフィルターの使い方
チェルシーカラーフィルターを使用する際には、白い背景の上に宝石を置き、白色光を当てます。
フィルターを出来るだけ目に近づけて、フィルターを透過した際の宝石の色を観察するのがベストです。
④顕微鏡(Microscope)
ルーペで確認できない宝石の特徴を観察する、宝石用の顕微鏡です。
2つのレンズを搭載し、焦点を合わせながら宝石の内部を詳しく観察できます。
宝石用の鑑別機材として、より宝石が見やすいようにデザインされています。
顕微鏡の使い方
まず最初に、顕微鏡に搭載されたピンセットに宝石を挟みます。
次に、暗視野照明と明視野照明で宝石に光を当てます。
場合によっては上部照明も使用します。
レンズに両眼を当てて覗いたら焦点を合わせ、宝石を観察していきます。
中には、ターンテーブルが回転したり、照明の明るさを調整できるなど、便利な性能を搭載した顕微鏡も製造されています。
⑤屈折計(Refractometer)
光は宝石の内部を通過する時に屈折します。
この屈折する角度のことを屈折率と呼び、宝石によって屈折率は異なります。
屈折計は光が宝石の内部で反射するという別の現象を利用して屈折率の特定をする機材です。
検査の際は屈折率が高い特別なガラステーブルに宝石を乗せます。
ガラスより硬度が高い宝石が多いため、ガラステーブルを傷つけないように注意が必要です。
屈折計の使い方
- 検査ガラスのテーブルに屈折液をごく微量落とします。
- 指で宝石(テーブル面が下)を掴み、テーブルの上にそっと置きます。
- レンズを覗いたら、指で宝石をゆっくりと回します。
- レンズの中に見える屈折率を読み取ります。
⑥偏向器(Polariscope)
偏光器は偏光性や干渉像を観察するために使用します
偏光性を観察すると、その宝石が等方性(単屈折)なのか異方性(複屈折)なのか、または多結晶質なのかが分かります。
干渉像も鉱物がもつ特徴の一つで、偏光器を通して見た時、例えば、クォーツにはブルズアイと呼ばれる特徴的な模様が見られます。
大きい結晶であれば肉眼で見られるものもあるようですが、一般的には偏向器で観察します。
中には合成スピネルに見られるタビー消光という現象も観察できます。
偏光器の使い方
部屋を暗くし、2枚の偏光フィルターの間に宝石を置き検査を行います。
インクルージョンや石の暗さによっては観察しづらいものもあるので注意深く観察することが必要です。
⑦紫外線蛍光検査器(Shortwave and Longwave UV Lamp)
ダイヤモンドや色石がもつ、蛍光性という性質を確認する鑑別機材です。
宝石に紫外線短波と長波を当てて、蛍光するかどうかを確認します。
紫外線蛍光検査器の使い方
検査器の中に宝石を置き、スイッチを入れて紫外線を照射します。
宝石によって蛍光色は様々ですが、蛍光性をもつ宝石は暗闇で輝きます。
紫外線は目を傷めるので、この鑑別機材を使用する際には、紫外線をカットするための専用の眼鏡やゴーグルを必ず着用して、目を保護しましょう。
⑧フーリエ変換型赤外分光光度計(FT-IR)(INFRARED SPECTROSCOPY)
宝石に赤外線を照射することで、赤外吸収スペクトルを調べる鑑別機材です。
まず、宝石に赤外線を当てると、結晶を構成する分子が光のエネルギーを吸収して、振動が変化します。
この変化をグラフにすると、宝石によって特有の波形が現れるのです。
このグラフは、宝石に照射した赤外線の波数と、赤外線を透過した宝石の赤外吸収スペクトルの波数を、波の形をした「y-xグラフ」で表します。
すると、宝石特有の波形を見ることが出来るのです。
「フーリエ変換型赤外分光光度計」は、宝石に照射した赤外線から得た波形をフーリエ変換という周波数で解析し、吸収スペクトルを調べる鑑別機材です。
短時間で測定できる上、波数を分解する性能も高いという、優れた機材です。
赤外吸収スペクトルの分析では、微小な含浸物質の存在を検出することが出来ます。
そのため、樹脂含浸ジェダイトの判別に大いに役立ったそうです。
他にもオイル含浸エメラルドやダイヤモンドのタイプ別の判別など、幅広く使用されています。
その他の鑑別器具
ピンセット
宝石をルーペで見る時や鑑別機材に置く際など、宝石を挟むために使用します。
ピンセットを使用することで、宝石に汚れや指紋を残さず、キレイな状態で見ることが出来ますよね。
宝石用のピンセットは一般用のものとは少し異なります。
宝石を傷つけないように柔らかいシリコンやゴム加工が施されたものや、宝石を固定できるロック式、先端が丸くなった真珠用や宝飾品用など、種類が大変豊富です。
ピンセットで宝石を挟んでルーペで見る時には、正しい持ち方と姿勢を知っておくと、より上手に宝石を観察することができますよ。
ペンライト
ペンのような形をした小型照明で、ポケットに入る便利な携帯タイプです。
宝石にペンライトの光を当てることで、内包物や輝きなどをより詳しく観察することが可能になります。
キャッツアイ効果やスター効果、多色性、変色性などの特殊効果を確認する際にも、大変便利です。
白色の光(蛍光灯色)が出るものとオレンジ色の光(白熱灯色)が出るものがあります。
主に使うことが多いのは白色ライトの方ですが、宝石の変色効果を見るためにはオレンジ色の光が出るペンライトも併用します。
ペンライトは、ルーペで宝石を見る時に照らすほか、チェルシーカラーフィルターや屈折計の光源としても使用できます。
宝石を見るのに適しているのは、電球光タイプです。
LEDライトは太陽光に近いため、ジュエリーを観察するのに向いています。
ペンライトによっては、電球光とLEDの切り替え可能なタイプも出ています。
ブラックライト
紫外線を照射することで、宝石がもつ蛍光性を確認する鑑別器具です。
ポケットに入る携帯サイズが一般的ですが、卓上に置けるスタンド型も販売されています。
蛍光性をもつハイアライト、スキャポライト、フローライトなどの宝石は、暗い場所でブラックライトを照らすことで、ネオン色に輝きます。
この他、ダイヤモンドや、ルビーも、石によって蛍光するものが見られます。
紫外線は目を傷めるので、ブラックライトの光を絶対に覗き込まないようにして下さいね。
使用する際には、紫外線をカットする専用の保護メガネやゴーグルなどを着用した方が安心です。
最後に
宝石を鑑別する鑑別器具や機材は、一般の方も入手することが可能です。
携帯できるルーペや二色鏡、チェルシーカラーフィルターなどは、使い方もそれほど難しくないので、お持ちの宝石を観察するのにもオススメです。
専門の鑑別器具はオンラインショップなどでも購入可能ですが、使い勝手は様々なので、口コミや評価なども参考にするとより探しやすいと思います。
カラッツ編集部 監修