ダークレッドの印象深いガーネットですが、実はカラーバリエーションが豊富な宝石で、レッド以外にもオレンジ、ピンク、イエロー、褐色など多くの色合いをもちます。
そして、中でも人気、価値ともに高いのが、グリーンのガーネット。
グリーンのガーネットの中にはティファニーが名付けたことで知られるツァボライトともう一つ、デマントイドガーネットと呼ばれるものがあります。
ロシアの皇帝を始めとした多くの王族貴族を夢中にさせたというデマントイドガーネット。一体どのような魅力があるのでしょうか?
宝石好きの心を惹いて止まない、デマントイドガーネットの特徴や歴史、価値基準、お手入れ方法などについてお伝えしていきたいと思います。
目次
デマントイドガーネットとは?
鮮やかなグリーンが美しいデマントイドガーネット。
ガーネットグループの中で最も価値高く扱われる宝石です。
ロシアのウラル山脈で発見されて以来ロシア皇帝に愛され、王族らがまとう宮廷ジュエリーにも多く用いられてきました。
その後、ヨーロッパへ渡り、19世紀末のベル・エポック時代にアール・ヌーヴォー様式のジュエリーに多く使用されたことでも知られています。
鉱物としての基本情報
英名 | Demantoid garnet(デマントイドガーネット) |
和名 | 翠柘榴石(すいざくろいし) |
分類 | ケイ酸塩鉱物 |
結晶系 | 等軸晶系 |
化学組成 | Ca3Fe2(SiO4)3 |
モース硬度 | 6.5 – 7 |
比重 | 3.82 - 3.85 |
屈折率 | 1.85 - 1.89 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
似た化学組成をもつ等軸晶系の鉱物のグループ名であるガーネット。
ガーネットグループは、大きく分けるとアルミニウム系ガーネットとカルシウム系ガーネットの二つに分けられます。
デマントイドガーネットは、カルシウム系ガーネットの一つであるアンドラダイトガーネットの中で、鮮やかなグリーンを呈するものに付けられた名前です。
アンドラダイトガーネットは、色などによって異なる名前で呼ばれ、他にトパゾライト(イエロー)、メラナイト(ブラック)、レインボーガーネット(イリデッセンス効果を見せるもの)などがあります。
デマントイドガーネットは、高い屈折率と分散率をもち、強い輝きを放つことも特徴です。
また、結晶内部にホーステール(馬の尻尾)と呼ばれる、特徴的なインクルージョンを含んでいることがあり、これらには大変高い価値が付けられています。
ホーステールは古来から幸福の象徴といわれていたこともあり、ロシアやヨーロッパの王侯貴族たちに大変好まれました。
色
デマントイドガーネットの色は、彩度の高い濃いグリーンです。
発色要因は、主にクロムを含むことに起因すると考えられています。
純粋なグリーンのものからイエロー味を帯びたものまであり、結晶によって色の濃淡も様々です。
産地
最初の発見地であるロシアのウラル山脈は、現在も主要産地の一つとして知られています。
イラン、パキスタン、イタリアでも産する他、1996年以降はナミビアとマダガスカルが重要な産地と考えられています。
この他にも採掘量は少量ですが、アゼルバイジャン、コンゴ共和国、韓国、スリランカ、カナダ、アメリカ、メキシコなどでも発見されています。
名前の意味
デマントイドガーネットという名前は、1878年にフィンランドの鉱物学者の提案によって名付けられたといわれています。
オランダ語でダイヤモンドを意味する「Demant(デマント)」という言葉を由来とします。
原石が発見された当初、鮮やかなグリーンと強い輝きがグリーンダイヤモンドのようだと思われたことから、このように名付けられたと伝わります。
和名では「翠柘榴石(すいざくろいし)」と呼ばれています。
同じくグリーンの宝石「翡翠」の翠(グリーンを意味する)から用いられたという説などがあるようです。
柘榴石とは、ガーネットの和名ですね。
ちなみに、欧米ではデマントイドの流通名として「シベリアン・エメラルド」「シベリアン・クリソライト」「ウラル・クリソライト」といった呼び方をする場合があるそうです。
これらは、古来からペリドットやクリソベリルを含むイエローグリーン系の石を「クリソライト」と呼んでいたことが由来のようです。
デマントイドガーネットの原石の形と生成される場所
デマントイドガーネットの原石は蛇紋岩(サーペンティン)中やスカルン地帯に生成しますが、それぞれの起源によって原石の特徴が異なるといわれています。
まず、蛇紋岩起源によるものは特徴的なホーステールインクルージョンを含み、濃くて深いグリーンを呈する傾向があります。
最初に発見されたロシアのウラル山脈のBobrovka河の支流では、周辺にある蛇紋岩中の第一鉱床から見つかったといわれています。
その後の採掘により、蛇紋岩化したクリソタイルの中からも良質な原石が発見されました。
熱水鉱床の一種であるスカルン鉱床を起源とするものはクロムよりも鉄を多く含んでおり、ファイアが強く薄くて明るいグリーンを呈する傾向があるとされます。
カルサイト結晶を内包し、ホーステールインクルージョンは一般的に含まないそうです。
ナミビアでは、石灰岩が高温高圧の影響で変成作用を受けた大理石とドロマイトの中からも見つかっています。
ホーステールインクルージョン
前述したとおり、デマントイドガーネットは、産地によって「ホーステール」と呼ばれる特徴的なインクルージョンを含む場合があります。
結晶内部で針状結晶が放射状に広がる姿が、馬の尻尾の毛に似ていることから、こう呼ばれるようになったといわれています。
中心から放射状に広がる針状結晶は、1993年にギュベリン博士によって、蛇紋岩グループに属する繊維状鉱物クリソタイルであることが発表されました。
ロシア産の中には、ダイオプサイドの針状インクルージョンを含んだものもあるそうです。
また、稀にホーステールの中心部にスピネルグループの鉱物クロマイトを含むことがあるといいます。
スピネルグループ特有の八面体結晶で見られることもあるそうですよ。
前項でお伝えしたように、ホーステールインクルージョンは蛇紋岩で生成した結晶に主に内包されます。
ロシア産に多く見られることで知られていますが、全てのロシア産結晶に含まれるわけではありませんし、ロシア産特有の特徴ということでもありません。
その他の産地、例えば、イラン産やイタリア産の結晶内に発見されたこともあります。
デマントイドガーネットの歴史
1853年、ロシアの中央にあるウラル山脈のニジニ・タギル地域にある村で、鮮やかなグリーンの原石が発見されました。
川の支流周辺の蛇紋岩中の第一鉱床で発見されたこの原石は当初、イエローグリーン系宝石の総称であるクリソライトとして扱われていましたが、1878年、デマントイドと名付けられました。
その後シセルツク地域でも二つの第一鉱床が発見され、1875年頃からロシア革命が終わる1920年頃まで、デマントイドガーネットは、ロシア皇帝や貴族に深く愛されたといいます。
また、ロシア王室御用達の宝石商だったファベルジェにより豪華なジュエリーも作られました。
その後デマントイドガーネットの美しさはイギリス王室やヨーロッパ全体に広がり、エドワーディアンには、ヨーロッパでも多くのジュエリーが製作されます。
一方、アメリカではティファニー社がデマントイドガーネットのジュエリー制作に力を入れ、同社の宝石学者クンツ博士は、「まるでエメラルドのグリーンのようだ」と絶賛したといいいます。
しかし、1917年のロシア革命によってロマノフ王朝が崩壊すると、デマントイドガーネットの採掘は完全に止まってしまいます。
2002年になって、アメリカとロシアの企業の共同により、シセルツク地域の再開発が始まりました。
鉱山は半年程で閉山され、この間に採掘された原石の内、宝石品質のものは殆どが小粒だったといいますが、中には上質で1ctを超えるものもあり、それらは大変高い価値が付けられています。
長い間ロシアが主要産地でしたが、1990年代以降はナミビアやマダガスカル、その他の国でも発見されています。
デマントイドガーネットに施される処理について
デマントイドガーネットは、元々濃いグリーンをしており、加熱処理などが必要ないという見解が多く、現在のところ、人工処理を施されたものが流通している様子はあまりないです。
ガーネット全般的に見ても、人工処理が施される様子はあまりないといえます。
デマントイドガーネットの偽物について
今のところ、デマントイドガーネットの合成石や他の宝石などを偽って販売しているのを見かけたことはあまりないという印象です。
ただし場合によっては、グリーンのガラスやYAG(人工ガーネット)などがロットの中に混ざってしまい、知らずに販売されているケースは考えられますので、注意して下さい。
デマントイドガーネットの価値基準と市場価格
デマントイドガーネットを購入する前に価値基準や大体の相場を学んでおくと、どんなものを選べば良いかポイントが見えやすくなりますよね。
デマントイドガーネットは、品質によっては非常に高値で取引されるものもあります。
ある程度正しい知識を身につけて、好みと予算に見合うものを探しやすくすることも大切だと思います。
それでは、デマントイドガーネットの価値基準と市場価格、どこで買えるのかなどを簡単にご説明していきましょう。
価値基準
デマントイドガーネットを評価する場合には、まず発色が最も重要です。
純粋なグリーンの発色で、鮮やかで濃い色であるほど高く評価され、イエロー味や褐色を帯びていると、その分評価が低くなります。
インクルージョンや傷などがなく、透明度が高いものも価値も上がります。
ただし、特徴的なホーステールインクルージョンを含んでいる場合は別で、ないものよりも高い価値が付けられます。
ホーステールインクルージョンは、ホーステールの形状や位置によって価値が異なり、波のようなうねりを描くもの、ゴールドの輝きを見せるもの、繊維の多いものなどはコレクターにも大変人気です。
また、デマントイドガーネットは多くが小粒で産出されます。
10ct以上のものは非常に稀で、カットされたルースでは大抵が1ct以下といわれますので、カラットが大きいほど価値も高くなります。
ロシア産に高品質のものが多いことから、他の産地のものよりも高く評価されることが多いです。
更にカットの美しさなども評価した上で、全体の価値が決められます。
市場価格
デマントイドガーネットは、ホーステールインクルージョンがあるか否かで価値が大きく異なります。
ホーステールを含まないルースであれば、品質によっては1万円以下で探すことも可能です。
一方、ホーステールを含むものになると、小さくても数万円以上のものが増えます。
さらにトップクォリティでホーステールインクルージョンを含む、ロシア産となると、ルースのみでも百万円以上となるものもあります。
どこで買える?
デマントイドガーネットは、ルースの取り扱いが多いお店なら比較的簡単に見つけられるようです。
ジュエリーとして販売されることは、あまり多くないと思いますが、全くない訳ではありませんので、興味がある方は探してみると良いと思います。
先にもお伝えした通り、ホーステールインクルージョンが入ったトップクォリティのロシア産などは、高額のものも多いです。
購入される際には、信頼のおける鑑別機関の鑑別書が付属しているか、またはオプションで付けてもらえるお店で購入することをオススメします。
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デマントイドガーネットのお手入れ方法
デマントイドガーネットはモース硬度が6.5-7と比較的硬い宝石ですが、ダイヤモンドやルビーなどより硬度の高い宝石によって傷がつく恐れがあります。
また、落としたりぶつけたりなど、強い衝撃を与えないなどの注意も必要です。
普段のお手入れは、使用後に柔らかい布で拭き取るだけで十分です。
汚れが目立つようでしたら、柔らかい歯ブラシなどを使い、石鹸や中性洗剤を薄めたぬるま湯の中で洗うとキレイになります。
泡をしっかり流したら、乾いた布できちんと水分を拭き取ります。
超音波クリーナーに入れると破損する恐れがあるので、絶対に使用しないでくださいね。
高温・高熱に長時間晒すことは避け、保管する際には個別の袋や箱に入れて、湿気の少ない場所に置くとより安心です。
最後に
デマントイドガーネットの原石は小粒が多く、1ct以上のものは滅多に見つからないといわれています。
しかし過去には、ロシアのウラル山脈で252.5ct(50.5g)という驚くほどの巨大なサイズが発見されたとの報告もあります。
ティファニー社の宝石学者だったクンツ博士はデマントイドガーネットの大ファンで、入手できる原石はすべて購入していたというウワサもあったようですよ。
多くの魅力と歴史的逸話をもったデマントイドガーネット、今後ますます注目していきたい宝石です。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社 ほか
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◆https://www.gia.edu/
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