宝石には様々なインクルージョン(内包物)があります。
宝石の透明度や外観を損ね、価値を下げる要因になるものもありますが、それだけではありません。
宝石によっては、インクルージョンがあることで魅力が増し、価値が高まるものもあるのです。
昔の私はインクルージョンなんてないほうが良い!と思っていたのですが、最近見方が変わりハマりそうな自分がいます。
インクルージョンにはその宝石の歴史や育った環境が分かるものもあり、知れば知るほど奥が深い世界だからです。
そこで今回は、インクルージョンが魅力的な宝石を10種類と番外編をご紹介いたしましょう。
目次
インクルージョンとは
インクルージョンとは、宝石に含まれている様々な内包物のことです。
宝石のインクルージョンは、生成の仕方も色も形も多様性に富んでいます。宝石に及ぼす効果も様々です。
大きさも、肉眼ではっきりと見えるものから、顕微鏡でしか確認できないような微細なものまで多々あり、それぞれに個性もあります。
鉱物が生成する過程で、別の鉱物が入り込んだり、気泡ができたり破裂したりして、多種多様なインクルージョンが作られるのです。
中にはオイルや水などの液体が入る場合もあります。
またインクルージョンは、天然石だけに限らず、合成石などにも特有のものが見られることがあります。
産地によって異なるインクルージョンが見られる宝石もあるため、鑑別において真贋や産地、人工処理の有無を見極めるための大事な要素にもなります。
暗い色味のインクルージョンなどは、宝石の透明度や外観を損ねるという理由から価値を下げる要因となってしまうものもありますが、それだけではありません。
インクルージョンが美しく現れることで価値が上がる宝石や、コレクターを中心に人気が高まっている宝石などもあるのです。
それでは、魅力的なインクルージョンをもつ宝石を順番にご紹介していきましょう。
サンストーン
最初にご紹介するのは、まるで太陽のような煌めきが美しいサンストーンです。
和名は「日長石」。
長石グループに属し、地色がオレンジ~レッドで、光を当てるとキラキラ光るアベンチュレッセンス(アベンチュリン効果)をもつものをサンストーンと呼びます。
サンストーンのインクルージョンは、ヘマタイト(赤鉄鉱)やゲーサイト(針鉄鉱)、レピドクロサイト(鱗鉄鋼)などの鉱物であることが多いようです。
それらのインクルージョンは平らで反射性があるので、まるでラメが入っているかのようなキラキラとした独特の輝き(アベンチュレッセンス)が生じるのだそうです。
インクルージョンとなっている鉱物の種類によって、アベンチュレッセンスがレッドやオレンジ、グリーンなどに光って見えます。
サンストーンは、アベンチュリン長石と呼ばれることもあるようです。
サンストーンの中には、虹色の格子(ラティス)状の模様が出るレインボーラティスサンストーンや、レピドクロサイト(鱗鉄鉱)の内包物が大きく目立つスパングル・サンストーンなどもあります。
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アイオライトサンストーン
アイオライトはスミレ色が印象的な宝石です。
名前もギリシャ語の「ion」(すみれ色)と「lithos」(石)を組み合わせたものといわれ、和名も菫青石です。
アイオライトの中にもインクルージョンが光を反射して、夜空の星のようにキラキラと光る、アベンチュレッセンスをもつものがあります。
そのようなアイオライトには「アイオライトサンストーン」や「アベンチュリン・アイオライト」というコマーシャルネームが付けられています。
アイオライトサンストーンのインクルージョンは、レピドクロサイト(鱗鉄鋼)などが板状になったものだと考えられています。
青く澄んだアイオライトの中でインクルージョンが煌めく様子は、虜になってしまいそうな魅力に溢れています。
また、インクルージョンが赤みがかって見えるものもあり、それらは「ブラッドショットアイオライト」と呼ばれます。
実は、アイオライトサンストーンもブラッドショットアイオライトも含まれるインクルージョンは同じレピドクロサイトであることが多く、レピドクロサイトの入り方で見え方が異なるのだそうです。
中には、ブラッドショットとサンストーンが同時に見える、「ブラッドショットアイオライトサンストーン」なんてものもあるそうです。(舌を噛みそうですが・・)
いずれも、コレクターの間で話題になっている人気の宝石だそうですよ。私も、星が煌めく夜空のようなアイオライトサンストーンが欲しいなぁ~と思っています。
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アベンチュリンクォーツ
アベンチュリンクォーツは、砂金がちりばめられたような宝石で、アベンチュレッセンスを示すクォーツを指します。
和名もそのままズバリ、「砂金水晶」「砂金石英」です。
実はアベンチュリンクォーツという名前は、1700年頃にイタリアで偶然できたキラキラと輝くガラスが発祥だといわれています。
「偶然に」という意味のイタリア語をもとに「アベンチュリノ(アベンチュリンのガラス)」「ゴールド・アベンチュリンガラス(茶金石)」と名付けられたそのガラス。現在は「ゴールドストーン」とも呼ばれています。
その後、自然界にも似たような見た目をもつ鉱物があると着目されたのがアベンチュリンクォーツで、そのガラスに因んで名付けられたという面白い経緯をもちます。
インクルージョンが光を反射して起こる光学効果「アベンチュレッセンス」も、このアベンチュリンガラスが名前の由来になっているそうですよ。
アベンチュリンクォーツは、含まれる鉱物によって色が変わり、レッドやグレーはヘマタイト(赤鉄鉱)やゲーサイト(針鉄鉱)で、フックサイト(クロム雲母)が含まれると、グリーンに見えるのだそうです。
本来のアベンチュリンクォーツは希少性が高く、現在市場でアベンチュリンクォーツとして出回っているものの多くはグリーンクォーツァイトであることが多いようです。
ティンカーベルクォーツ
ティンカーベルクォーツは、カラーレスのクォーツの中に花吹雪のようなインクルージョンが舞っているかのような華やかな印象をもつ宝石です。
ピンクファイアークォーツと呼ばれることもありますね。
ピーターパンに登場する妖精ティンカーベルの名前が付けられるなんて、なんだかとてもメルヘンチックですよねぇ~。
その独特のインクルージョンは、まるでティンカーベルが振りまく魔法の粉のような、マジカルな輝きを放っています。魔法の粉を浴びて信じる心があると、空が飛べるようになるんですよね~。
ティンカーベルクォーツのインクルージョンは、コーベライト(銅藍)だと考えられていることから、コーベライト・イン・クォーツと呼ばれることもあるそうです。
ただ、中にはコーベライト(銅藍)ではなくヘマタイト(赤鉄鉱)ではないか?という説もあるようで、明確には解明されていないのかもしれません。
ティンカーベルクォーツは比較的新しい宝石で、市場に流通しはじめたのは2005年ごろといわれています。
流通量が少ないにも関わらず、注目度が高いせいか、カラーレスのクォーツに比べ高めの値段で流通しているそうです。
こんな可愛い名前の宝石、ピーターパンファンでなくても思わず欲しくなってしまいますよね!
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オレゴンサンストーン
メタリックなラメが入った宝石!という印象深いオレゴンサンストーン。
長石の一種であるラブラドライトに属し、主にアメリカ・オレゴン州で産出されます。
長石に属する宝石であるため、最初に紹介したサンストーンと同じではないかと思われる方もいるかもしれませんが、若干異なります。
先にお伝えした通り、サンストーンと呼ばれる条件は、地色がオレンジ~レッドでアベンチュレッセンスを示す長石です。
オレゴンサンストーンの地色はオレンジやレッド以外にもグリーン、ブルー、イエロー、ピンクベージュ系などがあり、アベンチュレッセンスも示すものと示さないものがあります。
サンストーンの条件に当てはまるものはサンストーンと呼べなくもないのですが、全般的にサンストーンとしてよりオレゴンサンストーンとして出回るものの方が多い印象です。
また、サンストーンのインクルージョンがレピドクロサイト、ヘマタイト、ゲーサイトであることが多いのに対し、オレゴンサンストーンの場合は、銅によるものが多いといわれています。
その煌めきには様々な表情があり、インクルージョンの大きさや量、入り方で違う印象になります。
大きめの銅が散りばめられているものや、微細な銅が天の川のような帯状で出現しているもの、結晶全体をインクルージョンが覆っているものもあります。
オレゴンサンストーンのアベンチュレッセンスは、コレクターの間でシラーとも呼ばれているそうですよ。
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デュモルチェライトインクォーツ
デュモルチェライトインクォーツを見ると、まるで雪の女王の世界に紛れ込んだような気がします。
ブルーの花や雪の結晶が氷の中に閉じ込められているようと表現されることも多く、とても神秘的な雰囲気を放ちます。
デュモルチェライトインクォーツは、デュモルチェライトという鉱物がクォーツに内包されていることからデュモルチェライトインクォーツといいます。
ちなみに、デュモルチェライトは、この石を発見されたフランスの古生物学者であるE・デュモルティエ氏に由来して名付けられたといわれています。
ブルーの印象が強いデュモルチェライトですが、ピンクやパープルに近い色もあるそうですよ。
ピンクのデュモルチェライトインクォーツは可愛らしくて華やかだろうなぁ、と思わず想像してしまいました。
デュモルチェライト自体は宝石品質のものが少なく、あまり注目されていなかったのですが、デュモルチェライトインクォーツとして市場に出るようになってからは、コレクターを中心に人気が上昇しているのだそうです。
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デンドリティッククォーツ
木の枝や草が水晶に閉じ込められたかのように見えるデンドリティッククォーツはとても不思議な宝石です。
草木の化石が水晶に閉じ込められているのかな?と思いきや、実はそうではなく、金属鉱物のコロイド粒子によるものなのだそうですよ。
金属イオンが水に溶けて石の割れ目から侵入し、微細な粒(コロイド粒子)となって沈殿していき、やがて草や樹木のような模様になっていくそうです。
様々な条件が偶然に重なってできる植物のような模様は、色も形も出現場所も、一つ一つ異なります。
このように別の鉱物の中に草や樹木のような模様として入り込んだものをデンドライトと呼び、デンドライトがクォーツに入ったものをデンドリティッククォーツと呼ぶということです。
デンドライトの色は、マンガンによってブラックに、鉄によってブラウン系に発色するといいます。
カラーレスのクォーツ以外にも内包することがあるそうで、アメジストやシトリンの中に見られたり、他にも、アゲートやジャスパー、オパールなどで発見されることもあるそうです。
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モスアゲート
モスアゲートは、石の中に苔が生えているように見える宝石です。
前述のデンドリティッククォーツに少し似ている気もしますが、同じではありません。
古代のヨーロッパでは、モスアゲートには本物の藻が閉じ込められていると考えられていたそうです。私もてっきり藻が入り込んでいると思っていました。
ところが、藻のように見えるインクルージョンは鉱物なのです。
モスアゲートに含まれるインクルージョンはクローライト(緑泥石)または、鉄やマンガンの酸化物や水酸化物などだといわれています。
アゲートが生成していく過程で、それらの鉱物が入り込み、苔や藻のような模様が作られると考えられています。
モスアゲートの歴史は古く、紀元前2世紀頃のスコットランドが始まりではないかといわれています。モスアゲートが使われている民族品などもあるそうですよ。
また、古代ヨーロッパの農耕民族の間では繁栄のお守りとして大切にされていたという言い伝えもあるようです。
オイルインクォーツ
オイルインクォーツは、その名の通りオイルが入ったクォーツです。
何のオイルかと思ったら、その正体は石油。
石油が産出される国々で採れることが多いとのことです。
このオイルは、ブラックライトを当てるとブルーに光るという蛍光性があって、実に幻想的な雰囲気を感じることができますよ。
石油は、太古の海にいたプランクトンの死骸が堆積し一定の条件を満たした環境下で生成される、という話を聞いた事があります。
従って、オイルインクォーツには太古の海のロマンが凝縮されていると言っても過言ではないかもしれません。
オイルの中に気泡が混じっているものもあります。つまり、太古の地球の空気が入っているということですよね!
石を動かすと、オイルと共に空気の玉が揺れる楽しさがあります。
オイルインクォーツを持つと、はるか昔の地球を手のひらに載せているような、不思議な感覚になってしまうことでしょう。
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ガーデンクォーツ
まるで庭園や海の底を空から見下ろしているかのようなガーデンクォーツ。
それは草木が茂る箱庭とも、カラフルな海藻が漂う海底のようだとも言われていて、とても不思議な光景がクォーツの中に広がっています。
私は色とりどりの水草を育てている水槽を上から見たかのようなガーデンクォーツを手に取ったことがありますよ。水草としか思えませんでした。
しかしこれらは全て、クォーツに含まれるインクルージョンによって作られた景色なのです。
全体的にインクルージョンが発達して、植物でいっぱいになっている庭のような結晶があったり、一部だけに入ってカラーレスの部分との対比が美しいものもあります。
クォーツが生成される過程で、様々な鉱物が入り込んだりして、二つと同じもののない不思議な模様の宝石が出来上がるのです。
微量元素の種類や生成する環境によって、インクルージョンの色や形、場所などが変わります。
インクルージョンの不思議さや面白さがギュッとつまった宝石ですね!
番外編:ロシア産デマントイドガーネット
インクルージョンの美しい宝石の番外編として、ロシア産デマントイドガーネットをご紹介しましょう。
ガーネットグループの中で希少性が高く、最も価値が高いとされているのがこのデマントイドガーネットです。
デマントイドガーネットの大きな特徴は、ホーステールと呼ばれるインクルージョンです。
馬の尻尾に例えられる、細かい毛のようなインクルージョンが入ることで、デマントイドガーネットの価値を高めるのです。
ホーステールインクルージョンは、石の中心部から放射状に広がったり、一部分に刷毛で描いたような形で入ったり、個体によって様々です。
ホーステールインクルージョンが美しく入るものとしては、ロシア産が最も有名で、最高品質のデマントイドガーネットが多いのもロシア産といわれています。
私は15年以上前にスリランカで、放射状のホーステールインクルージョンが見事に入ったロシア産デマントイドガーネットを見たことがあります。
その時は何も知らなかったので、手に入る金額だったにも関わらず「インクルージョンのある宝石は嫌だ!」と、普通のグリーンガーネットを買ったのですが。。
今となって思えば、希少性の高さから考えると、ロシア産デマントイドガーネットの方を買うべきだったかも・・と少し後悔しています。
こんな風に後悔しないで済むように、宝石に関する知識を色々身に着けたいなぁ、と思っています。
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最後に
インクルージョンが美しい宝石10選と番外編をお送りしましたが、いかがでしたでしょうか。
キラキラ光ったり、不思議な模様を作ったりしていて、どれも特有の美しさがあります。
ご紹介した宝石以外にも、インクルージョンが魅力的な宝石はあります。
例えば、ルチルクォーツ(ルチルレイテッドクォーツ)、トルマリンインクォーツ、ギラライトインクォーツ、アマゾナイトインクォーツ、デンドリティックオパールなどで、それぞれに個性的で美しく、人気があるのも頷けます。
天然宝石はどれもオンリーワンです。特にインクルージョンが美しい宝石は個性が強く、それぞれが唯一無二の存在といって良いでしょう。
ずっとインクルージョンは悪いもの!と思っていた私ですが、インクルージョンの美しい宝石がこんなにも沢山あることを知り、インクルージョンに対する考え方がガラリと変わりました。
インクルージョンも宝石の一部なんだと、愛おしく思えるようになったんですよ~。
これからもインクルージョンの世界を探求し、勉強していきたいと考えています。
カラッツ編集部 監修